2022年05月31日

ストーリー・オブ・フィルム 111 の映画旅行(原題:The Story of Film : A New Generation)

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監督&ナレーション:マイク・カズンズ『オーソン・ウェルズの目』(2018) 

本作で監督とナレーションを務めているマーク・カズンズは北アイルランドのベルファスト生まれ。エディンバラを拠点に活動するドキュメンタリー監督であり作家。発案から20年、観た作品は16000本。そのうち2010年から2021年までに製作された111作品をジャンル問わず選び、映画愛と知識で紐解いていく。

20年で16000本!年に800本とは!この映画のために、最近10年分の中から111作品選ぶのはさらに大変なはずです。シネジャスタッフになって1年に数百本観るだけでも結構大変なのですが、毎週作品紹介を書くために見直すことが多々あり(おまけによくラストを忘れてしまう)オンライン試写なのがとてもありがたいです。
マイク・カズンズ監督は日本映画が大好きだそうです。選んでいると似たようなものばかりになりがちですが、こちらでは広範囲にわたって様々なジャンルからとり上げられています。きっと記憶力もいいのでしょう。未見の作品の解説やヒントを聞くと、後で観たくなること必至。鑑賞済みでも印象に残る場面は人によって違いますしね。未見の作品と、その見どころをメモするのも楽しいです。
公式サイトには映画クイズが11問、どうぞお試しください。(白)


マーク・カズンズ監督は2011年に「ストーリー・オブ・フィルム」という全15章・全編900分以上にも及ぶドキュメンタリーのTVシリーズを制作。19世紀末の映画草創期から2000年代に至る映画120年の歴史を数多くの名監督、名優へのインタビューや膨大な数の映画の印象的なシーンを引用し、映画史を新しい視点で紐解きました。
本作はその続きともいえる作品。まずは『ジョーカー』と『アナと雪の女王』に共通点があると監督は伝えます。「えっ、どこに共通点がある?」と思ったら、ぜひご覧ください。監督が見つけた意外なキーワードに驚くはず。その後も「映画言語の拡張」、「我々は何を探ってきたのか」という二部構成で映画を検証していきます。
圧倒的にアメリカの作品が多いのですが、幅広く世界各国の作品が登場します。もちろん日本の作品も。さて、日本からは何が取り上げられたのか。今、日本で話題のあの監督の作品といったらわかるでしょうか。(堀)


2021年/イギリス/カラー/ビスタ/167分/5.1ch/
配給:JAIHO
公式サイト:https://storyoffilm-japan.com/ 
Twitter:@JaihoTheatre

★2022年6月10日(金)新宿シネマカリテ他、全国順次ロードショー!

posted by shiraishi at 22:28| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年05月29日

歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡  原題:Nomad : In the Footsteps of Bruce Chatwin

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監督・脚本・ナレーション:ヴェルナー・ヘルツォーク
出演:ヴェルナー・ヘルツォーク、ブルース・チャトウィン、エリザベス・チャトウィン、ニコラス・シェイクスピア

イギリスの伝説の紀行作家ブルース・チャトウィン(1940-1989)。
本作は、チャトウィンの没後30年、彼と親交のあったドイツの巨匠ヴェルナー・ヘルツォークが、チャトウィンの歩いた世界を辿るドキュメンタリー。
チャトウィンとゆかりのあった人々へのインタビューを交えながら、8章にわたって、ヘルツォーク監督自身のナレーションで綴られる。
第1章 ブロントサウルスの皮
第2章 魂の風景
第3章 歌とソングライン
第4章 放浪者という選択
第5章 世界の果てへの
第6章 チャトウィンのリュックサック
第7章 「コブラ・ヴェルデ」
第8章 本は閉じられた

幼い頃、祖母の家に飾られていた“ブロントサウルス”の毛皮に魅せられ先史時代や人類史に関心を抱いたチャトウィン。サザビーズの美術鑑定士や、サンディタイムズ紙でジャーナリストとして成功を収めても飽き足りず、最終的に選んだのは、旅をしながら小説を書く人生。南米を旅し、1978年に「パタゴニア」で作家デビュー。 その後、アボリジニの神話に魅せられ、中央オーストラリアへ。当時は不治の病だったHIVに感染し、死が近づいたアボリジニが生を受けた地に帰還するように、自らの死に方を探りながら「ソングライン」を書きあげました。
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ヴェルナー・ヘルツォークは、1983年にメルボルンでチャトウィンと出会い、神話を心の旅とする彼を同志と感じ、親交が始まったのだそうです。
そのヘルツォークが自ら歩いて誘ってくれるチャトウィンの世界。人は大自然の中で、ほんとに小さな存在。だからこそ、いつかは迎える死にどう向き合って、自分らしく生きるかを模索することの大切さを教えてくれたような気がします。

本作は、54年の歴史に幕を下ろす岩波ホールで上映される最後の映画となります。
ジョージア映画祭の折に、何度も予告編を観て、これは大きな画面で観なければとそそられました。チャトウィンの観た、圧倒的な光景を岩波ホールで味わっていただければと思います。(咲)


『歩いて見た世界ブルース・チャトウィンの足跡』は、まさに私のツボの映画でした。
子供の頃から南米やアフリカ、動植物などに興味があったのですが、1970年に登山を始めた私にとって、ブルース・チャトウィンが初めて書いた『パタゴニア』(78)の頃は、一番山に行っていた時期なので、この本の情報を全然知らないということはないはずなのに、ブルース・チャトウィンという名前に記憶がありません。しかも世界のあちこちを放浪して本を書いた方で、パタゴニア、 アボリジニなど、興味の対象が似通っているのに、この映画で初めて彼のことを知りました。
冒頭にパタゴニア氷河が出てきましたが、私も2019年に行ってきました。氷河はたくさんあったので、どの氷河かはわかりませんでしたが、ドローンで上から氷河を撮った映像を初めてみました。氷河の上はあんな風に見えるのだなと、最初から映像に引き込まれました。私はピースボートの世界一周ツアーで2018年末~2019年4月初めまでの日程で行き南米を回ったのですが、2019年2月20日に訪ねたその時は、世界で一番南端の都市はアルゼンチンのウシュアイアでした。この映画を見て調べてみたら、2019年3月にチリのナバリノ島の都市プエルト・ウィリアムズが町から市になり、最南端の都市になったようなので、ヴェルナー・ヘツツォーク監督はその後に行ったのだなと思いました(笑)。
私自身はチャールズ・ダーウィンの「ビーグル号航海記」を中学校の頃に読んだのもひとつのきっかけで、世界を旅してみたいという夢を持ちました。このウシュアイアとナバリノ島の間を通っているのがビーグル水道で、かつてダーウィンはビーグル号でここを通ったのです。それでここにもぜひ行ってみたかったのです。この映画で、ここのことも出てきました。そして、ウシュアイアの博物館で原住民の写真を見ましたが、ヘツツォーク監督はプエルト・ウィリアムズの博物館で見たようなので、こちらにも博物館があるのだと思いました。
また、「歌とソングライン」では、アボリジニに始まるソングラインのことが語られていましたが、オーストラリアの先住民に受け継がれる“ソングライン”という思想/信仰に基づいたドキュメンタリー『大海原のソングライン』で、かつて同じ言葉や音楽で繋がっていた島々の歌を もう一度集結させる壮大な音楽プロジェクトが描かれていました。と、語りたいことがいっぱいあるので、あとはスタッフ日記の方に書こうと思います(暁)。



◆特集上映「ヴェルナー・ヘルツォーク・レトロスペクティブー極地への旅」
岩波ホールで6月4日より上映されているヴェルナー・ヘルツォーク監督作品『歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡』に関連して、異郷・辺境を旅してきた巨匠ヘルツォーク監督の日本未公開作品を含む計6作品の特集上映が行われます。

開催日時:7月13日(水)~7月18日(月・祝) 
     連日16:30から 岩波ホールにて

上映作品:
『ウォダベ 太陽の牧夫たち』
『彫刻家シュタイナーの大いなる陶酔』
『ガッシャーブルーム 輝ける山』
『生の証明』
『闇と沈黙の国』
『スフリエール』(30分)
詳細:https://www.iwanami-hall.com/topics/news/5253


2019年/イギリス=スコットランド=フランス/85分/ドキュメンタリー
配給:サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/brucechatwin
★2022年6月4日(土)~2022年7月29日(金)岩波ホールほか全国にて順次公開

posted by sakiko at 03:31| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年05月15日

シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~(原題:Military Wives)

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監督:ピーター・カッタネオ  
出演:クリスティン・スコット・トーマス、シャロン・ホーガン

愛する人を戦地に送り出し、最悪の知らせが届くことを恐れながらイギリス軍基地に暮らす軍人の妻たち。大佐の妻ケイト(クリスティン・スコット・トーマス)は、そんな女性たちを元気づけ、共に苦難を乗り越えるための努力を惜しまないが、その熱意は空回りするばかり。そんな中、何気なく始めた“合唱”に、多くの女性達が笑顔を見せ始める。女性達のまとめ役リサ(シャロン・ホーガン)も、かつて慣れ親しんだキーボード・ピアノをガレージから引っ張り出し、積極的に関わり始める。
しかし、ケイトとリサは方針の違いで衝突を繰り返し、集ったメンバーたちも、美しい声を持っているのに人前で歌えなかったり、合唱を楽しむあまり音程を無視して歌ったりと、心も歌声もてんでバラバラ。担当将校も耳を覆う有り様だったが、心情を吐露するように共に歌い続けるうちに、同じ気持ちを持つ仲間として互いを認めていく。心が一つになっていくにつれ、次第に美しい歌声を響かせるようになった合唱団のもとに、ある日、毎年大規模に行われる戦没者追悼イベントのステージへの招待状が届く。思いがけない大舞台に浮足立つ妻たちだったが、そんな彼女たちの元に舞い込んだのは、恐れていた最悪の知らせだった。

イギリス軍基地で愛する人の帰りを待つ女性たちが合唱団を結成した実話をベースにして生まれたフィクションです。監督や脚本家たちが合唱団の女性たちに丁寧な取材をして物語を紡いでいきました。脚本家は女性ですが、それは監督が “主人公たちが女性なので制作にあたっては女性の視点が入った方がいい”と考えたから。脚本家の2人が合唱団の女性たちと仲良くなって様々なエピソードを聞き出し、作品に反映しているそうです。女性の軍人が同性婚パートナーと一緒に基地に住んでいることに驚きました。イギリスでも多くはないけれど、起こりうる話とのこと。多様なキャラクターが描かれています。
劇中で合唱団がシンディ・ローパーの「タイム・アフター・タイム」、ティアーズ・フォー・フィアーズの「シャウト」など、80年代のヒット曲を歌います。懐かしくなって思わず一緒に歌ってしまいそうになること必至!
合唱団の女性たちのパートナーはアフガニスタンに派兵された設定ですが、ウクライナで現実に起きていることを思うと複雑な気持ちになります。しかし本作が伝えようとするテーマは大切な人を想う仲間たちと互いに支え合って苦難を乗り越える絆。自分を表現する場所があると人はこんなにも強くなれるのだと教えられました。(堀)


原題は、Military Wives(軍人の妻たち)。
任地に送り出したら、もしかしたら、二度と会えないかもしれない・・・ 夫が任地から無事帰ってくることを祈りながら、同じ立場の妻たちが寄り添って歌う姿に、世界各地にいる軍人の妻たちの気持ちに思いを馳せました。夫とやりとりした手紙の中から選んだ言葉を紡いで作った曲が、切なかったです。
同じ立場だった妻たちですが、その後、悲報を受け取る妻もいれば、重傷を負ってでも帰還した夫を迎える妻もいます。それが、軍人の妻の運命とはいえ、お互い、どう接したらいいのか複雑な思いでしょう。
それにしても、戦争のない世界はいつになったら実現するのでしょう・・・(咲)


イギリス軍の基地からアフガニスタンの戦地への従軍と最初に出てきて、アメリカに追随し、アフガニスタンを土足で踏み荒らし、結局はタリバンが支配するようになってしまったアフガニスタンのことを思うと、イギリス軍の銃後を描いた映画なんて「これはイギリスのプロパガンダ映画か」と、最初はムッとしたものの、敵味方関係なく、パートナーを戦地に送り出すということは、「愛する人を失うかもしれない」という意味では、どちらも同じ感情をいだくということだと思いながら観た。
基地という小さなコミュニティの中で暮らし、大切な人を想う気持ちを仲間たちと分かち合い、支え合って乗り越えていく女性たちの絆。「合唱」という表現方法をみつけ、歌う喜びを知っていく彼女たちの表情の変化。最初はなかなかかみ合わず聴くに堪えない歌だったけど、だんだんにうまくなる合唱に引き込まれる。そして彼女たちは自信をもってゆく。最後には、実際に戦地から届いた手紙から歌が作られ、彼女たちの心情が伝わり、悲しみや喜びを織り込んだ作品に仕上がった(暁)。

2019年/イギリス/英語/上映時間:112分/スコープ/5.1ch/
配給:キノフィルムズ
© MILITARY WIVES CHOIR FILM LTD 2019
公式サイト:https://singasong-movie.jp/
★2022年5月20日(金)より全国順次公開
posted by ほりきみき at 10:58| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年05月01日

オードリー・ヘプバーン(原題:Audrey)

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監督・脚本:ヘレナ・コーン
音楽:アレックス・ソマーズ
出演:オードリー・ヘプバーン、ショーン・ヘプバーン・ファーラー、エマ・キャサリン・ヘプバーン、リチャード・ドレイファス、ピーター・ボクダノヴィッチほか

オードリー・ヘプバーン(1929年5月4日ベルギー生まれ~1993年1月20日スイスの自宅で逝去)は『ローマの休日』(1953)のアン王女役に大抜擢、24歳の初の主演作でアカデミー賞主演女優賞受賞。以来ハリウッドの黄金期に活躍し、「永遠の妖精」と呼ばれ、世界中で愛され称賛を浴びることになった。俳優のメル・ファーラーと結婚し、ショーンを授かったが離婚。イタリア人精神科医アンドレア・マリオ・ドッティと再婚しルカを出産したが離婚。それぞれ10数年の結婚生活だった。1980年からオランダ人俳優ロバート・ウォルダースと同居し、亡くなるまで幸せに暮らした。幼い頃に父と別れ、戦争中の厳しい生活も耐え抜いたオードリー・ヘプバーンのドキュメンタリーはこれが初。生い立ちから出演作のエピソード、多くの友人知人、そして実の息子や孫の率直なコメントが紹介されている。

スターとはこの人!と言いたくなる美貌とスタイル。本人はみじんも思っていなかった、らしい。あんなに素敵なのに。最初の結婚は一回り上のメル・ファーラーだったので、父親と早くに離れたからかしらと推測したら、2度目は10歳年下のお医者さん。それぞれの相手との息子を一人ずつ出産するまでに流産を繰り返したそうなので、なんとしても子どもと家族がほしい人だったのかなと思います。映画界が放っておかないのも身体のためによくなかったでしょう。彼女の愛情深さは、後年ユニセフの親善大使となり、病をおして世界中の子どもを訪ね歩いたことにも表れています。
映画関係者が彼女を賞賛することばが続き、もう一度作品を見直したくなりました。息子のショーンや孫のエマがオードリーについて話すシーンには、あまりにも有名な人の血をひいているのも重いだろうなぁとつい考えてしまいます。面影も探してしまいますしね。亡くなってもうすぐ30年になります。ジバンシィのドレスを着こなすオードリー・ヘプバーン、まっすぐな視線、笑顔の弾ける彼女にスクリーンで再会しましょう。(白)


オードリー・ヘプバーンの生い立ちからスクリーンデビューのきっかけ、出演作での撮影エピソード、2度の結婚と破局、その後、ユニセフ国際親善大使として世界中を飛び回ったことをテンポよく描いています。『ローマの休日』以前の端役で出演した作品のアーカイブは本作でしか見られない貴重な映像でしょう。『ティファニーで朝食を』のエピソードは改めて作品を見たくなること必至です。
女優としての側面も映し出しますが、私生活のパートが多いのがこの作品の特徴でもあります。オードリーは元々、女優志望ではなく、バレリーナを目指していました。スクリーンデビューもしかし第二次世界大戦がオードリーに大きな影響を及ぼし、その夢を諦めることに。父親の裏切りも彼女にとってトラウマになったよう。辛い過去を乗り越えようとしたオードリーの踏ん張りが映画での華やかな成功に繋がったのかもしれません。(堀)


2020年/イギリス/カラー、モノクロ/ビスタ/100分
配給:STAR CHANNEL MOVIES
(C)2020 Salon Audrey Limited. ALL RIGHTS RESERVED.
https://audrey-cinema.com/
★2022年5月6日(金)TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国公開
posted by shiraishi at 16:29| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月29日

不都合な理想の夫婦(原題:The Nest) 

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監督・脚本:ショーン・ダーキン
出演:ジュード・ロウ、キャリー・クーン

1986年。NYで貿易商を営む英国人のローリーは、米国人の妻アリソンと、息子と娘の四人で幸せに暮らしていた。満ち足りた生活を送っているように思えたが、大金を稼ぐ夢を追って、好景気に沸くロンドンへの移住を妻に提案する。かつての上司が経営する商社に舞い戻ったローリーは、その才能を周囲から評価され、復帰を歓迎される。プライベートではロンドン郊外に豪邸を借り、息子を名門校に編入させ、妻には広大な敷地を用意。それはまるで、アメリカン・ドリームを体現した勝者の凱旋のようだった。しかし、ある日、アリソンは馬小屋の工事が進んでいないことに気付く。業者に問い合わせると、支払いが滞っており、更には驚くべきことに新生活のために用意をしていた貯金が底を突いている事を知ってしまうのだった・・。

虚栄心しかないようなローリー。ロンドンでの仕事ぶりは見ているだけでも痛くなる。NYでは成功したかのように話しているが、それもはったりだったのかもしれない。一緒に働く仲間や仕事相手にとって、ローリーの一方的な会話は苦痛でしかなかっただろう。
では家庭におけるローリーはどうだったのか。ロンドンの郊外に豪邸を借り、息子を名門校に入れ、妻には毛皮を贈る。恐らくNYでも同じようなことをしていたことだろう。アリソンもローリーの野心に夢を掛け、セレブな生活を享受していたに違いない。ただ、NYから馴染みのないロンドンに引っ越してしまったから、大きな出費が重なり、綻びが大きくなった。妻子も初めての土地で馴染み切れない。すべてが裏目に出てしまった。「住むところを与え、暴力もふるわない」といったローリーに対して、「そんな事は父親として最低限やることだ」と答えたタクシーの運転手のカッコよさが心に残る。経済的、精神的安定が家族には必要。そのうえでどれだけ愛情を注げるかを父親は求められるのだ。
一家は崩壊に向かっていくように見える。流れに任せて壊してしまうのは簡単だ。しかしショーン・ダーキン監督は家族の在り方に踏み込んでいく。必死に支えようとした妻ではなく、思いっきり反抗していた娘が鍵になって再生の糸口を見つけていけるのではないかと思わせる物語を紡ぎ、逃げずに向き合うことの大切さを説く。夫婦の在り方は夫婦それぞれ。家族もまた然り。(堀)


野心に燃え、「いい話がある、大金が手に入る」と夢を抱くのはいいけれど、家族やまわりの人も巻き込んで、結局、夢破れて大ぼらで終わってしまう男・・・ こういう人、私の知ってる人にもいたいたと! ジュード・ロウが危うい熱血漢を実に上手く演じている。
『The Nest』という原題が示す通り、ローリーは自分の巣である家族のためを思ってこそ、夢を膨らませるのでしょう。それが空回りしてしまう悲しさ。お金だけが幸せをもたらすのではないことをじんわり感じさせてくれる物語。(咲)


2019年/イギリス/英語/107分/カラー/ビスタ/5.1ch
配給:キノシネマ 
©Nest Film Productions Limited/Spectrum Movie Canada Inc. 2019
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/thenest
★2022年4月29日(金)より kino cinéma横浜みなとみらい・立川髙島屋S.C.館・天神 ほか全国順次公開
posted by ほりきみき at 13:01| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする