2025年02月02日

ヒプノシス レコードジャケットの美学(原題:Squaring the Circle: The Story of Hipgnosis)

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監督:アントン・コービン
出演:オーブリー・パウエル、ストーム・トーガソン(ヒプノシス)、ロジャー・ウォーターズ、デヴィッド・ギルモア、ニック・メイスン(ピンク・フロイド)、ジミー・ペイジ、ロバート・プラント(レッド・ツェッペリン)、ポール・マッカートニー、ピーター・ガブリエル、グレアム・グールドマン(10cc)、ノエル・ギャラガー(oasis)


1968年、イギリス。ストーム・トーガソンとオーブリー・“ポー”・パウエルが共同でデザイン・アート集団「ヒプノシス」を創立した。ケンブリッジでピンク・フロイドのメンバーと出会い、ジャケットやツアーポスターの制作を開始。後にピーター・クリストファーソンが加わり、1970年代を中心に、ピンク・フロイド、ジェネシス、レッド・ツェッペリン、ポール・マッカートニーら数々のアーティストのカバーアートを創作した。斬新・奇抜・洗練…あらゆる言葉が相応しいその独創的なデザインは、それまで宣伝用パッケージにすぎなかったアルバム・ジャケットを芸術の域に高めた。

そうそうたるアーティストのカバーアートを製作した2人。現在のようにパソコンを駆使したり、簡単に写真を合成したりはできず、写真撮影は現地で。予算を湯水のように使い、とてつもなく高くついても、出来が良くてアルバムが売れれば問題なし。ヒプノシスは業界の旗手となり、トップにのぼりつめ長く君臨しました。しかし、後にやってきた映像化の潮流に乗り遅れてしまい、倒産の憂き目も見ます。
プロのデザイナーの仕事の様子を見るのはとても面白く、次々とあふれ出すアイディアを形にしていくのに感心しきり。何もないところからモノが生まれていくのは、音楽も美術も同じ。歌った本人たちも自分たちのアルバムが、目に見えるアートとなって力強く発信されていくのは嬉しかったでしょう。
現在のように視聴させてもらえる設備もないころ、レコードジャケットを見て一目ぼれ、「ジャケ買い」をしたファンも多かったはず。音楽を聴くだけでなく、部屋の棚や壁に大切に飾っていたに違いない!かく言う私もそうやっておりました。高校の美術の時間にレコードジャケットをデザインする課題が出たこともありました。写真は使わず、ネイビーブルーの紙にポスターカラーで、曲名を大小様々な字体を使って書いたのを思い出しました。今は昔…。
このドキュメンタリーでは、2人の偉業についての賛美が寄せられています。ただ、この上ない良き相棒だった2人がある時点からかみ合わなくなり、たもとを分かつことになりました。先に逝ったストーム・トーガソンについて語るオーブリー・パウエルの表情が胸に残りました。(白)


1960年代から70年代にかけて、ラジオでよく洋楽を聴いていましたが、ピンク・フロイドやレッド・ツェッペリンの音楽は、なんとなくサイケデリックなイメージで、私の好みでないと思っていました。妹がレコードをよく買っていて、おそらく、ジャケットをみて、そう思ったはずなので、知らないうちに「ヒプノシスの作品」を目にしていたのかもしれません。でも、今回、本作に出てきた彼らの曲は、それほどとんがってなくて、意外と私好みの曲でした。
こだわって作ったジャケットには、肝心のミュージシャンの名前が、すごく小さいものもあって、逆にそれで興味を惹くという効果もあったのかも。それこそ、ジャケットそのものがアート! 「ヒプノシス」の二人の物語に、わくわくしました。
ネットもなくて、ミュージシャンの顔を知る機会も少なかった時代です。
1980年代に、香港のアラン・タムの歌に惹かれ、香港旅行に行く先輩に、「カセットでなく、レコードを買ってきて」とお願いしたのを思い出します。レコードの方が、写真が大きいからという理由でしたが、探すのも大変、持って帰るのも大変だと後から悟って、申し訳ないことをしたと思ったものです。(咲)



2022年/イギリス/カラー/101分
配給:ディスクユニオン
(C) BMG Rights Management (UK) Ltd and Hipgnosis Songs Fund Ltd 2022. All rights reserved.
https://www.hipgnosismovie.com/
★2025年2月7日(金)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー

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2025年01月17日

アーサーズ・ウィスキー(原題:Arthur's Whisky)

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監督:スティーブン・クックソン
脚本:アレクシス・ゼガーマン、
撮影:デビッド・マッキースティーブン・クックソン
音楽:デビッド・ニューマン
出演:ダイアン・キートン(リンダ)、パトリシア・ホッジ(ジョーン)、ルル(スーザン)、デヴィッド・ヘアウッド(ハル)、アディル・レイ(ジェームズ)、ローレンス・チェイニー、ボーイ・ジョージ

イギリス郊外、嵐の夜。アマチュア発明家アーサーは画期的な発明を完成させた途端、落雷で亡くなってしまう。彼の葬儀後、妻のジョーンは友人リンダとスーザンの手を借りて、アーサーの小屋の大掃除を始めた。ウイスキーのボトルを発見した3人は、リビングで老いた体を嘆きながらアーサーに向けて献杯しそのまま寝入ってしまう。翌朝目覚めてお互いを見て絶叫!!なんと若返っていた!アーサーが発明したのは、若返りのウイスキーだったのだ。
20代に戻った3人は、若くなった体でやりたいことリスト(バケットリスト)を作成する。しかし、効果には時間のリミットがあるのに気づいた。次はメイクやファッションも今風にきめて、クラブへ乗り込んだ。3人の“ガール”たちは久しぶりにダンスやお酒を楽しんだものの、飲み過ぎて大失敗。DJと強いお酒を飲み重ねたスーザンはソファで寝てしまい、翌朝元に戻ったスーザンの姿を見たDJは仰天。そそくさと逃げ出すスーザンだった。残り少なくなるウイスキーに3人はもっと有意義に使わなくてはと思う。

古今東西、長寿や若返りを望む人は多いもの。この映画では、70代の女性3人が棚ボタのように若返りウイスキーを手に入れてしまいました。初めのうち3人は大はしゃぎで、かつてやりたかったことを次々と試してみます。効き目の続く時間が限られていることに気づいてからは、使い方に慎重になります。この一連の3人の様子がとても面白いです。
自分だったら何をしよう?老体をだましだまし日々暮らしていると3人のセリフにいたく共感します。実際にはありえないでしょうが、楽しい妄想が拡がります。世の中なかなか落ち着かず、値上げラッシュでやりくりも厳しいこのごろですが、心をときほぐしてくれるこんな映画に出逢うとホッとします。(白)


2024年/イギリス/カラー/分
配給:AMGエンタテインメント
(C)AW Movie Production Ltd 2024
https://arthurswhisky.jp/
★2025年1月17日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開中
posted by shiraishi at 17:53| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月24日

Back to Black エイミーのすべて(原題:Back to Black)

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監督:サム・テイラー=ジョンソン
脚本:マット・グリーンハルシュ
製作:アリソン・オーウェン、デブラ・ヘイワード、ニッキー・ケンティッシュ・バーンズ
出演:マリサ・アベラ、ジャック・オコンネル(ブレイク)、エディ・マーサン(父ミッチ)、ジュリエット・コーワン(母ジャニス)、サム・ブキャナン、レスリー・マンヴィル(祖母シンシア)

10代のエイミーは、元ジャズ歌手だった祖母シンシアの血をひいたのか、幼いころから歌の才能を発揮していた。両親は別居中だったが、エイミーへの愛情は変わらず、歌手になりたいエイミーを応援している。
念願のデビューアルバム「フランク」は好評を得たものの、全米進出はまだ遠かった。パブで出会ったブレイクと恋に落ちるが、彼にはすでに恋人がいた。甘い日々は続かず、ブレイクは元カノのところへ戻ってしまう。エイミーは別れの辛さから薬物と飲酒を繰り返し、自分の失恋をアルバム「バック・トゥ・ブラック」で歌い上げ、世界的な大ヒットとなった。これを機にブレイクとよりを戻しひそかに結婚するが、スーパースターとなったエイミーは朝から晩までパパラッチにつきまとわれる。ブレイクとの関係も悪化し、摂食障害や依存症のためにリハビリ施設に入所する。その体験を歌ったアルバムもヒット、グラミー賞主要4部門を含む6部門にノミネートされるが・・・。

自分の喜びや悲しみを歌にして独特のハスキーな歌声で多くの人の心に届けたエイミー。名声を得ても、恋人を失ったエイミーは、薬物やアルコールに依存していきます。一途なために傷は深く、周囲の心配も助言も受け付けられません。
本作は俳優が演じていますが、過酷な日々を送ったエイミーの半生はドキュメンタリー『AMY エイミー』(2015)の映像にも残されています。才能がありながら若くして亡くなったミュージシャンはほかに何人もいます。エイミーは何年も前から「自分も彼らと同じ27歳で死ぬのではないか」と恐れていたそうです。有名人で、自分と同じシンガーだから余計記憶に刻まれたのでしょうが何の根拠もないようです。エイミーが常に抱いている不安がそう思わせたのでしょう。
私生活まで追い回すパパラッチの仕業もひどいですが、知りたがるほうもひどい。もう少しリハビリを続けていれば、酒におぼれなければと他人が思ってもせんないことです。ただただ、もったいない痛ましいとしか言いようがありません。(白)


2024 年/イギリス・フランス・アメリカ/英語/123 分/ビスタサイズ//PG12
配給:パルコ ユニバーサル映画/ 宣伝:若壮房
Ⓒ2024 Focus Features, LLC. All Rights Reserved.
https://btb-movie.com/
★2024年11月22日(金)より、TOHO シネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほか全国ロードショー中

posted by shiraishi at 12:30| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年10月10日

2 度目のはなればなれ  原題:The Great Escaper

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(C)2023 Pathe Movies. ALL RIGHTS RESERVED.


監督:オリバー・パーカー 
脚本:ウィリアム・アイヴォリー
出演:マイケル・ケイン、グレンダ・ジャクソン、ダニエル・ヴィタリス、ローラ・マーカス、ウィル・フレッチャー

2014年6月。イギリス、ブライトンの老人ホームで寄り添いながら人生最期の日々を過ごす老夫婦バーナードとレネ。退役軍人であるバーナードは、もうすぐ開かれるノルマンディ上陸作戦70年記念式典が気になるが、もう参加申込の締切は過ぎていた。どうしても参加したいと、バーナードは老人ホームを抜け出し、ドーバー海峡を越え、フランスのノルマンディへと向かう。彼が行方不明になったという警察のツイート(#The Great Escaper)をきっかけに、世界中で話題になる。
バーナードとレネのふたりが離れ離れになるのは、人生で2度目。 戦争から復員して、決して離れないと誓った男が、妻のもとを離れなければならなかった理由とは・・・

本作は89歳の退役軍人が6月ノルマンディ上陸作戦70年記念式典に参加するため、老人ホームを抜け出した実話を基にした作品。『ハンナとその姉妹』(87)『サイダーハウス・ルール』(00)で2度のオスカー受賞したマイケル・ケインが主演を務め、本作で引退することを表明しました。約70年にわたり180本以上の映画に出演してきた彼の、華麗なる俳優人生に幕を下ろす“引退作”となります。そして共演には、『恋する女たち』(69)『ウィークエンド・ラブ』(74)で2度のオスカー受賞したグレンダ・ジャクソン。全英公開を控えた2023年6月15日、87歳でこの世を去り、輝かしい女優人生に幕を閉じました。

ドーバー海峡を渡る船を降りると、アフガニスタンで地雷を踏んで片足になった若い黒人男性がボランティアで車椅子を押してくれます。その彼が戦場で受けた経験が今もトラウマとなっていると語ります。
バーナードは、式典の会場近くで70年前に同じビーチにいたというドイツ人と出会います。お互い複雑な思いがよぎったことでしょう。バーナードも友人も、胸に勲章をいくつもぶらさげていますが、心中、誇らしいものでもないような気がします。バーナードはせっかく手に入れた式典への参加券をドイツ人に譲ります。そして向かった先は・・・
無事、戻ったバーナードに、レネは「あなたは生き抜いて、私と結婚して、1秒も無駄にしていないわ」と声をかけます。
戦場でつらい思いをして帰還した人ほど、戦地でのことを語らず、ずっと胸に秘めているように思います。つらい気持ちを抱えたまま旅立った人がどれほど多くいることでしょう。戦争に喜び勇んで行った人などいないはず。世の中から戦争がなくなることを切に祈ります。(咲)


2023年/イギリス/英語/97分
字幕翻訳:戸田奈津子
配給:東和ピクチャーズ
公式サイト: https://hanarebanare.com/
★2024年10月11日(金) 全国ロードショー



posted by sakiko at 09:10| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年09月15日

ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー(原題:High & Low -John Galliano)

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監督・プロデューサー:ケヴィン・マクドナルド
出演:ジョン・ガリアーノ、ケイト・モス、シドニー・トレダノ、ナオミ・キャンベル、ペネロペ・クルス、シャーリーズ・セロン、アナ・ウィンター、エドワード・エニンフル、ベルナール・アルノー

2011年2月、ジョン・ガリアーノが反ユダヤ主義的暴言を吐く動画が拡散された。ヨッパライの世迷言では片づけられない、ひどい内容だった。クリスチャン・ディオールのデザイナーとしてファッション界で天才ともてはやされていた彼は逮捕、ディオール、自らの名を冠したブランドから解雇され、全てを失ってしまった。
『ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実』(1999)『モーリタニアン 黒塗りの記録』(2021)のケヴィン・マクドナルド監督は、ジョン・ガリアーノに何があったのか、彼の内面へとせまっていく。13年たって本人の口から語られるのは??

ブランド音痴の筆者でも知っているジバンシー、ディオールなどのハイ・ブランドで次々とショーを成功させ、トップに君臨していた人がなぜ?と誰しも思います。トップに上り詰めれば、維持しなければなりません。その重圧に加え、年に32回ものショーという超人的な仕事量。疲労は積み重なっていったでしょう。ジョン・ガリアーノの栄光の軌跡を示す貴重なアーカイブ映像、モデルや評論家など業界の人々のコメントも紹介されます。魅力的な人の波乱万丈の人生にはいくつものドラマがありました。
カメラの前のジョン・ガリアーノは絶頂期のギラギラとしたパワーは消え、長い旅路を歩いてきた穏やかな表情をうかべています。一人の人間の光と影、歓喜と苦悩、美しさと醜さ、聡明なのに愚かでもある…ケヴィン・マクドナルド監督は相反するものをとらえて提示し、観客にひとつの種を蒔きました。天才の栄枯盛衰を凡人の幸せを思いつつ、拝見。(白)


2023年/イギリス/カラー/116分
配給:キノフィルムズ
c 2023 KGB Films JG Ltd
https://jg-movie.com/
★2024年9月20日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラスト有楽町ほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 10:52| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする