2023年02月18日
エンパイア・オブ・ライト (原題:Empire of Light)
監督・脚本:サム・メンデス
撮影:ロジャー・ディーキンス
音楽:トレント・レズナー アティカス・ロス
出演:オリヴィア・コールマン(ヒラリー)、マイケル・ウォード(スティーヴン)、コリン・ファース(ドナルド・エリス)、トビー・ジョーンズ(ノーマン)、トム・ブルック(ネイル)、ターニャ・ムーディ(デリア)
1980年イギリス、静かな海辺の町マーゲイトにエンパイア劇場がある。マネージャーとして働くヒラリーは、かつて人間関係で傷ついて今も癒えてはいない。黒人青年のスティーヴンは、建築を学ぶはずが叶わずにスタッフとして働くことになった。明るくて好奇心旺盛な彼はすぐに同僚たちと打ち解け、ヒラリーも少しずつ心を開いていく。
大晦日の夜、一人屋上で新年を迎える予定だったヒラリーのところに、スティーヴンが加わった。前向きなスティーヴンと親しくなるにつれ、支配人との不毛な関係を断ち切る勇気がわいてくる。
サム・メンデス監督がコロナのロックダウン中に、自分の関わった映画と映画館について考えるうちに生まれた脚本。映画愛あふれる脚本に素晴らしいスタッフ、監督の脳内であて書きしていたというオリヴィア・コールマン、新鋭のマイケル・ウォード、名優コリン・ファースやトビー・ジョーンズといったキャストが集まりました。
ヒラリーは傷つきやすく、孤独な女性ですが、そんな彼女を映画館のスタッフたちは暖かく見守っています。若いスティーヴンも屈託なく彼女を受け入れ、彼女に学びます。映写室で映画のあれこれを技師に教わるシーンは、まるでもう一つの『ニュー・シネマ・パラダイス』。壁にはたくさんの名画名優の写真がありました。
初めて恋した少女のようにヒラリーが輝いていくのは、とてもほほえましいのですが、そう簡単には進みません。
失業率が高く、人種問題の暴動も勃発した時代が背景です。古く美しい劇場でささやかな人生の悲喜こもごもが語られています。静謐な撮影、情感に満ちた音楽に彩られたひとときをお楽しみください。(白)
2022年/イギリス・アメリカ合作/カラー/シネスコ/115分
配給:ディズニー
(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
https://www.searchlightpictures.jp/movies/empireoflight
★2023年2月23日(木・祝)ロードショー
2023年01月22日
イニシェリン島の精霊(原題:The Banshees of Inisherin)
監督・脚本:マーティン・マクドナー
撮影:ベン・デイビス
音楽:カーター・バーウェル
出演:コリン・ファレル(パードリック)、ブレンダン・グリーソン(コルム)、ケリー・コンドン(シボーン)、バリー・コーガン(ドミニク)
1923年、アイルランドの孤島、イニシェリン島。島民全員が顔見知りのこの平和な小さい島で、気のいい男パードリックは長年友情を育んできたはずだった友人コルムに突然の絶縁を告げられる。急な出来事に動揺を隠せないパードリックだったが、理由はわからない。賢明な妹シボーンや風変わりな隣人ドミニクの力も借りて事態を好転させようとするが、ついにコルムから「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と恐ろしい宣言をされる。美しい海と空に囲まれた穏やかなこの島に、死を知らせると言い伝えられる“精霊”が降り立つ。その先には誰もが想像しえなかった衝撃的な結末が待っていた…。
マクドナー監督とメインキャストのコリン・ファレル、ブレンダン・グリーソンはベルギーを舞台に展開した『ヒットマンズ・レクイエム』(08)以来、14年ぶりの再タッグ。今回マクドナー監督はコメディを作ったらしいのですが、そうわかりやすくありませんでした。イギリスのコメディってダークすぎて今までも笑えなかったのですが、今回も。
一方的に絶縁を告げたコルムが、納得できずに声をかけてくるパードリックに「自分の指を切る」というところで、「???」。男女ならば振られた男か女が「別れるなら死ぬ」と脅かしたり、大切な相手のために自分が引く、となったりかなぁと思いますが、違いました。みんなの関心を集め、引くに引けない2人の行く先は、ここまでやるかというところまで。兄のパードリックを心配する聡明な妹と、横暴な警官と息子ドミニクのドラマもはさみます。
このアイルランドの島からは、遠くない本土での紛争の爆発音が聞こえ、煙も見えています。島の風景の中、透き通った声の民謡らしい歌が流れ、人の営みの悲しさと滑稽さが浮かび上がる余韻の残る作品でした。(白)
☆第80回ゴールデングローブ賞受賞
ミュージカル/コメディ部門 作品賞、主演男優賞(コリン・ファレル)、脚本賞(マーティン・マクドナー)と最多3部門受賞
☆第76回英国アカデミー賞ノミネート
作品賞、英国作品賞、監督賞 マーティン・マクドナー、主演男優賞 コリン・ファレル、助演男優賞 ブレンダン・グリーソン、助演男優賞 バリー・コーガン、助演女優賞 ケリー・コンドン、脚本賞 マーティン・マクドナー、作曲賞 カーター・バーウェル、編集賞 ミッケル・E.G.ニールセンの<主要9部門10ノミネート>
2022年/イギリス・アメリカ・アイルランド合作/カラー/シネスコ/109分
配給:ディズニー
(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
https://www.searchlightpictures.jp/movies/bansheesofinisherin
★2023年1月27日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
2022年12月30日
ドリーム・ホース(原題:Dream Horse)
監督:ユーロス・リン
脚本:ニール・マッケイ
撮影:エリック・アレクサンダー・ウィルソン
音楽:ベンジャミン・ウッドゲイツ
出演:トニ・コレット(ジャン・ヴォークス)、ダミアン・ルイス(ハワード・ディヴィス)、オーウェン・ティール(ブライアン・ヴォークス)
ウェールズの小さな村に住んでいる主婦のジャンは、パート仕事のかたわら年取った両親の世話もしている。夫は無気力でジャンはこんな毎日に飽き飽きしていた。たまたまクラブで共同で馬主になれるという話を聞いて興味津々。競走馬を育てたいと村の人々に話を持ち掛ける。詳しいハワードを指南役に、馬主組合を結成した。血統の良い牝馬を購入、生まれた仔馬に「ドリームアライアンス(夢の同盟)」と名付けた。
生きがいを見つけたジャンは、表情も明るくなり充実した日々を過ごします。ひがな一日ソファで寝転んでいた夫も馬の世話を手伝うようになりました。自分の育てた馬がレースに出るようになったら、それはそれは楽しみで我が子のことのように嬉しいはず。ジャンと馬主組合を作った村人たちは、馬と一緒に夢も手にしました。投資したからには、配当もあってほしいですよね。ポスターのみんなの顔が物語っていますが、まあこれから先は劇場でご覧ください。山あり谷ありが常ですよ。
馬主になって競走馬を育てるというのは、よほどのお金持ちかと思っていました。この映画を観て資金を出し合い共同馬主となることもできるんだと初めて知りました。日本でも一口馬主(詳細はこちら)という制度があるそうです。(白)
決して儲けようと思わず、「胸の高鳴り(ウェールズ語でホウィル)」を求めて馬主になったジャンたち。馬主になれば、レースの日、馬主専用のバーで、お酒片手にオードブルをつまみながら観戦できるという特権があって、皆で着飾って競馬場に赴くのも楽しみです。 ウェールズ最高のレースである「ウェルシュ・ナショナル」では、ウェールズ国歌を歌って盛り上がります。
英国ではマイノリティーで、控えめで、おとなしいといわれるウェールズの人たちが、自分の馬が走るのを熱く見守る姿にじ~んとさせられました。映画の最後に、本作のモデルになった本物のジャンたちが出てきますので、お見逃しなく! (咲)
2020年/イギリス/カラー/シネスコ/113分
配給:ショウゲート
(C)2020 DREAM HORSE FILMS LIMITED AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION
https://cinerack.jp/dream/
★2023年1月6日(金)ロードショー
2022年12月11日
トゥモロー・モーニング 原題:Tomorrow Morning
監督:ニック・ウィンストン
脚本・音楽:ローレンス・マーク・ワイス
出演:サマンサ・バークス、ラミン・カリムルー、ジョーン・コリンズ、ハリエット・ソープ
夕暮れ時のロンドン。淡いピンク色の空に映えるタワーブリッジを背景に、10年前の結婚した時の、熱い気持ちを思い出す二人。明日の朝には、離婚調停を控えている。
小説家を夢見ていたビルは、小説は諦めたが、広告業界でコピーライターとして敏腕を奮い、画家を目指していたキャサリンも現代アートの新星として注目を浴びている。結婚式前夜に妊娠が判明し、二人の喜びのもとに生まれてきた息子のザックも10歳になった。順風満帆だったはずの二人なのに、どこでボタンを掛け違えたのだろうか。結婚前夜に佇んでいたテムズ川沿いの同じ場所で、10年前を振り返る二人・・・
もとは、英国の音楽家ローレンス・マーク・ワイスが脚本・音楽を手掛け2006年にロンドンで生まれたミュージカル。舞台はひとつのセットで、二組の男女が、「結婚前夜」と「離婚前夜」の心情を吐露するものだった。オリジナルの初演も演出したニック・ウィンストン監督が、映画化。息子ザックや、まわりの人物も登場させ、舞台とは違うものに仕立てている。
明日からは違う人生を歩み始める二人。いろいろなことが夕暮れの美しい風景の中で脳裏に蘇ってきます。このまま別れてしまうの?と、見ているこちらも切なくなりました。
ビルを演じたラミン・カリムルーが、イラン人で、おぉ~これは!と。革命直前の1978年にテヘランで生まれ、その後、家族でイタリアに移住。3歳の時にはカナダへ。クルーズ船のパフォーマーとして活動ののち、英国を拠点にミュージカル俳優として活動を始め、2002年「レ・ミゼラブル」のフイイ役でウエストエンド・デビュー。ウエストエンド史上最年少の28歳で「オペラ座の怪人」の主役ファントムに抜擢されています。
キャサリン役のサマンサ・バークスも、2010年ミュージカル「レ・ミゼラブル」のエポニーヌ役でウエストエンド・デビューし、ウエストエンド版「アナと雪の女王」でエルサ役など、有名ミュージカルのヒロインを多数演じています。世界最高峰のミュージカル・スター二人の夢の映画初競演です。
ちなみに、お父さん役のオミード・ジャリリもイラン出身でアメリカなどで活躍するコメディアン。ちゃんと血筋、合わせてました。お父さんの出番は少なくて残念でしたが!(咲)
2022年/イギリス/英語/105分
日本語字幕:石田泰子
後援:ブリティッシュ・カウンシル
配給:セテラ・インターナショナル
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/tomorrowmorning/
★2022年12月16日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、シネスイッチ銀座ほか全国公開
2022年12月03日
MEN 同じ顔の男たち(原題:MEN)
監督・脚本:アレックス・ガーランド
撮影:ロブ・ハーディ
音楽:ベン・サリスベリー ジェフ・バロウ
出演:ジェシー・バックリー(ハーパー)、ロリー・キニア(ジェフリー)、パーパ・エッシードゥ(ジェームズ)、ゲイル・ランキン(ライリー)
ハーパーはかつては愛し合った夫が、キレやすく暴力的になったことに恐怖を抱いて別れ話を切り出す。変わるからと懇願するのに耳を貸さず、「別れるなら死ぬ」というのも、ただの脅しと思っていた。ところが死にゆく夫を見てしまい、罪の意識に苛まれる。心の傷をいやすために田舎のカントリーハウスに滞在することにした。
オーナーのジェフリーはハーパーを歓迎し、豊かな自然の中の豪華なハウスにハーパーも重荷を下ろす感覚になる。休みを満喫しようと街や森を散策するが、誰かに後をつけられている気がしてならない。忘れたい夫の死もフラッシュバックし、不穏な空気は次第にハーパーを包み込んでくる。
『ミッドサマー』『ヘレディタリー/継承』を送り出した制作会社A24の新作。アレックス・ガーランド監督は『エクス・マキナ』で第88回アカデミー賞®で脚本賞にノミネート、視覚効果賞を受賞しています。こちらは同じくスリラーではあるものの、CGを駆使した未来都市と真逆のイギリスの緑豊かな田舎が舞台です。
ポスターのリンゴの木は、ハーパーが最初にカントリーハウスに足を踏み入れたときに、手を伸ばしてもぎ取って齧ったもの。アダムとイブの禁断の木の実や、白雪姫の毒リンゴが浮かびます。想像通り何かが始まるんですね、これが。
慣れない家に一人というのは安らげない気がして、一人旅が好きな私でも御免こうむりたいです。ハーパーにはなんでも打ち明けられるライリーという親友がいるので、彼女が一緒だったら心強いのに。
会う人会う人が、オーナーのジェフリーと同じ顔というのも奇妙というより、怖い。ハーパーを追い詰めていったのは妄想なのか、夫の恨みつらみが招いたものなのか、はたまた事実なのか。
正視できないものも登場しますが、撮影は美しく、ここぞというときに流れる音楽がまた多様。(白)
自宅で夫が死ぬ瞬間を見てしまったハーパーは車で4時間かかる田舎のカントリーハウスに逃れるのですが、(白)さんも書いている通り、こんな広いところにたった一人では、かえって怖くて落ち着けません。逃避したつもりが、周りには変な男ばかり現れるし、夫のことがいろいろ蘇ってきます。イングランドの田舎の美しい風景と裏腹に、凄いものをみてしまったという物語でした。
イギリスには行ったことがないのですが、いつかコッツウォルズのマナーハウスに泊まってみたいと思っていました。本作の撮影地は、Gloucestershire(イングランド南西部にある行政区域)とエンドロールにありました。映画の中で、警察に場所を知らせるのに「cotson」村と、ハーパーが叫んでいるのですが、架空の名前。Withingtonというところで2021年4月から5月にかけて,撮影されたらしいです。
かつての荘園の邸宅がマナーハウスだと思っていたのですが、今回、「カントリーハウス」と言っているので、どう違うの?と検索してみました。
貴族が自分たちの領地である「荘園」の中に作らせていた城が、マナーハウス。その後、15世紀頃から貴族がロンドンに別邸(タウンハウス)を建て、荘園の本邸(マナーハウス)がカントリーハウスと呼ばれるようになったそうです。そして、貴族より持っている土地が少ない「ジェントリー」や「スクワイアー」階級の邸宅が、マナーハウスと称されるようになったのだとか。
また、ハーパーの自宅はロンドンのテムズ川に面しているのですが、見えているのはロンドン橋だと思ったら、「タワーブリッジ」(テムズ川に架かる跳開橋)でした。よく名前を間違えられると書いてありました。
怖い場面もありますが、英国の美しい風景を楽しみたい方はぜひご覧ください。(咲)
2022年/イギリス/カラー/シネスコ/100分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
https://happinet-phantom.com/men/
★2022年12月9日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開