2021年09月17日

クーリエ 最高機密の運び屋(原題:The Courier)

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監督:ドミニク・クック
脚本/製作総指揮:トム・オコナー
撮影:ショーン・ボビットBSC
音楽:アベル・コジェニオウスキ
出演:ベネディクト・カンバーバッチ(グレヴィル・ウィン)、メラーブ・ニニッゼ(オレグ・ペンコフスキー/アレックス)、レイチェル・ブロズナハン(エミリー・ドノヴァン/ヘレン)、ジェシー・バックリー(シーラ)、アンガス・ライト(ディッキー・フランクス/ジェームス)

1962年10月、アメリカとソ連の対立は頂点に達し、キューバ危機が勃発。アメリカの目と鼻の先にあるキューバに、ソ連がミサイル基地を作っているという情報が入ってきたのだった。もし実際にミサイルが発射されたなら、アメリカはすぐに報復し、世界中を巻き込んだ核戦争が起きてしまう。なんとしても正確な情報を手に入れなければならない。
英国人のグレヴィル・ウィンは、東欧へ機械や部品を売るセールスマン。彼ならば疑われることなく、商用だとソ連の往復ができる。英国の情報組織MI6に見込まれ、スパイの経験など一切ないにも関わらず「クーリエ(運び屋)」をすることになってしまった。モスクワへと飛んだ彼は、国に背いたGRU(ソ連軍参謀本部情報総局)の高官オレグ・ペンコフスキーとの接触を重ね、機密情報を西側へと運び続けるが……。

スパイ活動など縁のないセールスマンに「国家機密」を運ばせたというのが史実だとは!声をかけられたウィンは固辞するのだが、”核戦争になったら妻や息子のアンドリューがどうなるか。これを止められる機会があったのに、とあなたは後悔する”と諭されます。彼の情報を全て知ったうえで具体的に数字もあげて未来の話をします。これを断れる人はいないでしょう。
冒頭にソ連でスパイ活動が露見した男が銃殺されるシーンがありました。ペンコフスキー大佐もそれを見ています。裏切者の運命はわかっています。それでも祖国の機密をアメリカへ渡し続けた心中はいかばかり。
互いに信頼し合い、命がけの任務を遂行し、国や立場を越えた友情を築いたアレックスとウィンの2人。説得力を持った俳優の好演が真実味を倍加させました。ウィンの前半後半の体型や表情の激変を身を挺して演じきったカンバーバッチに驚くこと必至です。当時を再現した美術や衣裳、カメラワーク、温かみを配した色調、すみずみまで注意を払って作られた本作は緊張感を最後まで持続させます。
中にアレックスとウィンがモスクワでボリショイバレエ「シンデレラ」を鑑賞、お返しにとウィンがロンドンで接待するシーンがあります。映画館にはプレスリーの『ガール!ガール!ガール!』の看板があがっています。チャビー・チェッカーの「Let's Twist Again 」(世界中でカバーされたヒット曲)が流れ、アレックスとウィンが笑顔でツイストを踊っていました。ウィンの家での食事シーンでは、子どもの率直な質問にアレックスが答えます。どうぞ聞き逃さないで。
日本は1956年の経済白書では「もはや戦後ではない」と戦後復興の先を突き進み、東西冷戦当時の池田内閣は「所得倍層計画」を掲げていました。大人も冷戦を心底心配していたのかどうか、私の記憶にはほとんどありません。庶民は毎日を送るだけでいっぱいだったのではないでしょうか。東西だけでなく、世界中で起こる対立は政治の上でのこと、文化や人の交流は可能です。個人に目覚めてほしくないのは誰でしょう?(白)


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映画の中でケネディ大統領が演説するテレビ映像が映し出されて、小学生だった当時、ケネディ大統領に憧れたのを思い出しました。ケネディとフルシチョフが握手して、これで戦争にならないのねと子ども心に単純に思ったものでした。それが、1962年のキューバ危機回避の時のものだったかどうかはわからないのですが。
あの米ソ対立の時代に、こんな史実があったとは!と驚きました。 最後に映し出された本物のグレヴィル・ウィンの解放された時の姿に、国家にうまく利用された人の良さを感じました。カンバーバッチがまさに体現していて素晴らしいです。また、ソ連の高官がどんな気持ちで機密情報を流したのかと思いを馳せました。旧ソ連グルジア(現ジョージア)出身の俳優メラーブ・ニニッゼが好演でした。
それぞれの家族の姿も丁寧に描いていて、いずれもまさか夫がスパイ活動をしているとは思いもせず、平穏な暮らしを望んでいることに涙です。(咲)


2020年/イギリス、アメリカ合作/カラー/112分
配給:キノフィルムズ
(C)2020 IRONBARK, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
https://www.courier-movie.jp/
公式Twitter(@courierjp)https://twitter.com/courierjp
★2021年9月23日(木・祝)ロードショー

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2021年06月27日

スーパーノヴァ   原題:Supernova

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監督・脚本:ハリー・マックイーン
出演:コリン・ファース(『英国王のスピーチ』)、スタンリー・トゥッチ(『ラブリーボーン』)

イギリス人でピアニストのサム(コリン・ファース)とアメリカ人の作家タスカー(スタンリー・トゥッチ)は、パートナーとして人生を共に紡いできた。二人は古びたキャンピングカーで旅に出る。最初の目的地はイングランドの湖水地方。20年前、二人が出会った直後に訪れ、愛の告白をした思い出の場所だ。次の目的地はサムの実家。両親亡き後、姉の家族が暮らしている。タスカーは、サムに内緒で懐かしい友人たちを集める。歓談する中で、友人からタスカーがもう文章を書けないと嘆いていると聞かされ驚くサム。そうして、二人は旅の最終目的地であるサムの久しぶりのピアノリサイタルの会場に向かう・・・

実はタスカーは認知症で徐々に記憶を失うことを医師から告げられていて、愛する人のこともわからなくなるような醜態は見せたくないと、まだ記憶のあるうちにフェイドアウトしたいと思っていることが最初のほうで語られます。そんな思いを抱えながら、思い出の地に旅に出たのです。
どんなに愛し合っていても、いつかは死が二人を分かちます。愛する人に人生の終焉が迫っているとわかった時、どう対峙すればいいのでしょう。 寄り添う人のいない私は、さらに空しいですが、そろそろ終活を考えなければいけないことをずっしり感じさせられました。

タイトルの「スーパーノヴァ(超新星)」は、星の進化の最後に起こる巨大な爆発のこと。天文学に造詣の深いタスカーは望遠鏡持参で旅に出て、二人で夜空を見あげます。二人の愛の物語が壮大な宇宙を背景にしていることと共に、タスカーが人生の終焉を目前にして輝きを放つことも込めたタイトルのようです。
美しい湖水地方の風景の中で、人生の重みを考えさせられた映画ですが、二人の会話にはブラックユーモアもたっぷり。タスカーは、カーナビの口調がサッチャー元首相みたいで嫌だというのですが、サムはお構いなしにカーナビをつけます。サッチャーが首相時代、同性愛者を敵視し、教育現場で同性愛に触れることを禁じる法まで制定したことを思うと、実に意味深な会話です。(咲)


2020年/イギリス/カラー/ビスタ/5.1ch/95分
字幕翻訳:西村美須寿
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/supernova/
★2021年7月1日(木)TOHOシネマズ シャンテ他にて全国順次ロードショー.




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2021年06月13日

グリード ファストファッション帝国の真実   原題:Greed

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監督・脚本:マイケル・ウィンターボトム
製作:ダミアン・ジョーンズ
出演:スティーヴ・クーガン、アイラ・フィッシャー、シャーリー・ヘンダーソン、エイサ・バターフィールド

ギリシャ、ミコノス島。ファストファッションブランドの経営で財を成したリチャード・マクリディ卿(スティーヴ・クーガン)は、この陽光眩しい島で、自身の60歳の誕生日を盛大に祝おうと準備を進めている。イギリス当局から脱税や縫製工場の労働問題を追及されており、このパーティでかつての栄光を取り戻そうと目論んでいるのだ。紺碧の海を見晴らす丘に古代ローマの闘技場を模したセットを作らせ、檻にはライオンも待機させている。誕生日が近づき、元妻のサマンサ(アイラ・フィッシャー)が、思春期の息子フィン(エイサ・バターフィールド)とリアリティショーに出演中の娘リリー(ソフィ・クックソン)を連れてミコノス島にやってくる。リチャードの母親マーガレット(シャ―リー・ヘンダーソン)は、リチャードの自伝執筆のために雇われた作家ニック(デヴィッド・ミッチェル)に良い伝記を書くよう圧力を掛けている。だが、ニックは取材する中で、彼の商品が作られているスリランカの縫製工場の劣悪な労働環境と低賃金を知る。さらにパーティスタッフであるスリランカ出身のアマンダ(ディニタ・ゴーヒル)から、彼女の母親も搾取されたあげく非業の死を遂げたと聞き、ニックは憤りを覚える。
誕生日当日、船で次々にセレブな招待客がやってくる。中には、セレブのそっくりさんもいる・・・

浜辺でテントを張って暮らすシリア難民たちを、目障りだからと排除しようとしたり、円形闘技場の建設が進まないので、低賃金のブルガリア人でなく、倍出してもいいから優秀な人材を雇えなど、我儘放題のリチャード。
強欲に(greed)経費を抑えて富を築いた者と、搾取される者、虐げられた者の対比が強烈に描かれていて、最後には、実際のスリランカやミャンマーの縫製工場の様子が映し出されます。日本の某ファストファッション会社も、中国より安い賃金のバングラデシュに縫製工場を移したことを思い出しました。
弱者への眼差しは、さすが、『イン・ディス・ワールド』を作ったマイケル・ウィンターボトム監督ならではと思いました。
一方、炸裂するブラックユーモア。マクリディ卿を演じたスティーヴ・クーガン主演のグルメ取材シリーズ、『スティーヴとロブのグルメトリップ』(10)、『イタリアは呼んでいる』(14)、『スペインは呼んでいる』(17)も、マイケル・ウィンターボトム監督作品だったのですね。納得!
本作、おふざけが過ぎる感もあるのですが、最初と最後に掲げられる「融和あるのみ」という言葉に、監督の思いが集約されていると感じました。(咲)


2019年/イギリス/英語/カラー/シネスコ/5.1ch/104分
配給:ツイン
©2019 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION
公式サイト:http://greed-japan.com/
★2021年6月18日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開
posted by sakiko at 18:34| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月29日

幸せの答え合わせ  原題:Hope Gap

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監督:ウィリアム・ニコルソン
出演:アネット・ベニング、ビル・ナイ、ジョシュ・オコナー

イギリス南部の町シーフォード。海辺の白い崖の下に「ホープ・ギャップ」と呼ばれる入り江が広がる。グレース(アネット・ベニング)は、好きな詩を集めながら、今は家を出て独立した一人息子ジェイミー(ジョシュ・オコナー)が、「ホープ・ギャップ」を大好きだったことを思い出す。もうすぐ結婚29周年を迎える夫エドワード(ビル・ナイ)は高校で歴史を教えている。土曜日の午後、ジェイミーが久しぶりに帰ってくる。日曜の朝のミサには行かないという。エドワードも試験の採点があるから行かないという。グレースが一人で教会に行っている間に、エドワードは息子に「もう限界。家を出ていく。母親を支えてやってくれ」と頼む。教会から帰ってきたグレースは、夫から別れを告げられる。突然のことに驚くが、夫は準備していたスーツケースを携えて出ていってしまう・・・

順風満帆、幸せな日々だと思っていた妻。一方、ずっと妻とは合わないと我慢してきた夫。所詮、結婚するのは勘違いと勢い。一緒に暮らしてみたら、思い描いていたのとは違うということもあるでしょう。アネット・ベニングが、こんな女性と一緒に暮らしていたら、確かに疲れるというグレースを実に上手く演じています。夫が出ていったあとも毎日無言電話をかける陰湿さ。寂しさを埋めるために飼った犬にエド(エドワード)と名付けて、「死ね」と動作させるのには笑ってしまいました。
一緒にいて気楽な女性と出会ったからと出ていくなんて、勝手だ!と思う一方、一度きりの人生、好きにしたほうがいいとも思ってしまいます。
父が出て行ったあと、毎週、実家に帰ってくる息子が健気です。自分の恋もなかなかうまくいってないのに、せめて週末には母親と過ごさなければという孝行息子。「ホープ・ギャップ」に佇みながら、小さい頃、両親に手を繋がれて家路についたのを懐かしく思い出します。「母は幸せだったのか?」と自問するジェイミー。息子としては、幸せな時もあったに違いないと思いたいでしょう。
あと、本作で面白い!と思ったのが、宗教に対する母と息子の考え方の違い。
息子は、「この世は不平等。安心を得るために神と天国の物語を作り上げた」と、もう信仰を捨てています。一方、「神は存在する」と教会にいくのを欠かさない母。「自殺したら地獄行き」という教えも、しっかり信じていることが救い?(咲)


若い頃は魅力に感じたことも、歳を重ねると苦痛に思えてくることもあります。言葉に出して変化を求めた妻と、それが負担になって苦痛を感じるようになった夫。夫婦というのは本当に難しい。
本作は監督と脚本を手がけたウィリアム・ニコルソン自身の両親が30年の結婚生活の末に離婚したことをベースに脚本が書かれました。主人公は母のグレースですが、監督が投影されたと思われる息子の視点も入っています。親の離婚は幸せだったころが否定されてしまうような気持ちになり、大人になっていてもショックであることが作品から伝わってきました。
同じ木下グループの『ベル・エポックでもう一度』も高齢夫婦の仲違いをテーマにしていて、こちらも夫婦に息子1人と家族構成が同じ。本作の主人公グレースが機嫌を損ねるとテーブルを引っ繰り返していましたが、こちらは夫の荷物をまとめて追い出してしまう。妻が気の強い点でも似ていますが、夫婦の辿るその後の道筋はかなり違います。見比べてみるのもいいかもしれません。(堀)


長年暮らした夫婦が別れるというのがテーマの作品ですが、これはやはり男性監督が夫側の視点から描いていると思いました。いかにも、こんな女ならやっぱり嫌になるよなというような妻を描いています。でも彼女が、夫との関係の中で悩んだことは描かれていません。「愛されていると思っていたのに」としてしか描かれていません。彼女なりの悩みや、ここまでくるまでの夫との葛藤とかあったはずだと思うのですが。
この年代(60代以上?)の夫が、本を読んでいる、あるいは詩の制作をしている妻にお茶を入れてあげるなんていうシーンが描かれた作品はなかなかないですし、夫が食事の後の食器を洗っている間、妻は手伝うでもなくソファの上でだらっとしているみたいなシーンもあったし、とにかく夫は妻のためにかいがしく働いている。それに対して妻は感謝の言葉も表情もない。なんだかわざとらしいと感じてしまった。ま、これは観客に対して、「こんな妻なら、やっぱり夫は出ていきたいと思うわな」と思わせるための演出なんでしょうけど。これを夫がしていても観客はそうは思われないですからね。二人の間にたって、どちらの方にもつくわけにいかず、巻き込まれる息子。彼がいなければ、母はほんとに自殺でもしかねなかったかもしれない。それにしても女性から見ても、こんな人とは付き合いたくないなと思わせる女性像だったと思う。
私の家は逆で、父が母を一方的に支配しているような状況だった。「自分が養ってやっているんだから文句言うな」というような感じだった。今でいうDV夫だったので、中学の頃からずっと「なんで母はこんな父の支配に我慢しているんだろう。別れてしまえばいいのに」とずっと思っていた。母としてはずっと主婦として暮らしてきたし、自立して自分の収入で暮らしてはいけないだろうという思いがあったようだけど、ずっと我慢の人生だった。でも母に聞いた時に「幸せな時もあった」ということも言っていた。だから離婚せずいたのかもしれない。そんな母の姿を見てきたので、私は結婚はするまいと子供心に思ってしまった。そして就職して5年目くらいに私が家を出た。
そういう私から見て、この映画のテーマはわからなくはない。我慢して一緒に暮らすことはない。子供のことを考えて我慢することもないと思う。この映画の夫婦にも幸せな時はあったのだし、これまでの生活全部が不幸だったわけではないと思う。何度も出てきた海辺の白い崖のある砂浜の景色が印象的だった(暁)。


2018年/イギリス/英語/カラー/スコープサイズ/DCP/5.1ch/100分
字幕翻訳:川喜多綾子
配給:キノシネマ 提供:木下グループ 
© Immersiverse Limited 2018
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/hopegap
★2021年6月4日(金.) キノシネマ他、全国順次公開


posted by sakiko at 13:28| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月09日

ファーザー(原題:The Father)

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監督・原作:フロリアン・ゼレール
脚本:クリストファー・ハンプトン、フロリアン・ゼレール
撮影:ベン・スミサード
美術:ピーター・フランシス
出演:アンソニー・ホプキンス(アンソニー)、オリヴィア・コールマン(アン)、マーク・ゲイティス(男)、イモージェン・プーツ(ローラ)、ルーファス・シーウェル(ポール)、オリヴィア・ウィリアムズ(女)

81歳のアンソニーはロンドンで独り暮らしを送っている。健康だけれども記憶が薄れ始めてきた。父を案じる娘のアンが手配した介護人を拒否して追い返している。本人には言わないが、内心ではおおいに頼っているアンが恋人とパリで暮らすというのにショックを受けている。
それでは、アンソニーの自宅に現れ「アンと結婚して10年以上になる」と語る男は誰?恋人のポールはこんな顔だったろうか? アンソニーのもう一人の娘、最愛のルーシーはどこに消えたのだろう?現実と幻想がまじりあい、アンソニーの記憶は混沌としていく。

1937年12月31日生まれのアンソニー・ホプキンスが「同じ誕生日、同じ名前のアンソニー」として映画の中に存在しています。彼は認知症を患っている自分の状態を認められません。身体が動けるうちは一人で気ままに暮らしたい、とは誰もが思うことです。
父を心から案じるアンですが、自分の人生も大切にしたいと思っています。アンがどれだけ父を思おうと、アンソニーの口にのぼるのはお気に入りだった妹のルーシーのことばかりです。若い介護人ローラが、ルーシーに似ていると言って浮かれ、上機嫌の父を見守るアンの心情はいかばかりでしょう。
アンソニーの心の動きの通りに、幻想と現実の生活のシーンが交互に現れるので、最初は観客も混乱します。進むに従って「そういうことだったのか」と納得できます。認知症の方の脳内を「見える化」するとこうなるわけですね。
元は舞台劇。戯曲を手掛けたフロリアン・ゼレールが自ら初監督・共同脚本。ほぼ部屋の中だけで進み、登場人物も6人だけです。動きの少ないアンソニーを中心にしてカメラもあまり動きません。名優二人の競演と、背景になるアンソニーの部屋、アンの部屋の色合いが変わっていくのにもぜひご注目ください。日本でも橋爪功主演で2019年公演があったそうで、それも観たかったなぁ。
アンソニー・ホプキンスが、本年のアカデミー賞主演男優賞を最高齢で受賞しました。(白)


2020年/イギリス・フランス合作/カラー/シネスコ/97分
配給:ショウゲート 
(C)NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINE-@ ORANGE STUDIO 2020
https://thefather.jp/
★2021年5月14日(金)全国公開
posted by shiraishi at 16:31| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする