2022年04月15日

ベルイマン島にて(原題:BERGMAN ISLAND) 

bergman-island.png

監督・脚本:ミア・ハンセン=ラブ
出演:ヴィッキー・クリープス、ティム・ロス、ミア・ワシコウスカ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー

映画監督カップルのクリス(ヴィッキー・クリープス)とトニー(ティム・ロス)は、アメリカからスウェーデンのフォーレ島へとやって来た。創作活動にも互いの関係にも停滞感を抱いていた二人は、敬愛するベルイマンが数々の傑作を撮ったこの島でひと夏暮らし、インスピレーションを得ようと考えたのだ。やがて島の魔力がクリスに作用し、彼女は自身の“1度目の出会いは早すぎて2度目は遅すぎた”ために実らなかった初恋を投影した脚本を書き始めるのだが──。

作品の舞台はイングマール・ベルイマンが晩年を過ごしたスウェーデンの孤島、フォーレ島。映画監督夫婦が娘を親に預けて滞在し、創作活動に勤しんでいる。夫は自分の名前でトークイベントの客が集まり、サインを求められるくらい名の知れた監督で、作品の構想に行き詰まった年下の妻に
「子どもじゃないんだから書けるだろ」
「書けないなら休んでみてもいいんじゃないか」と優しくアドバイスをする。
本人にはそのつもりはないのだけれど、歳上のできる男性にありがちな対応。愚痴を聞いてほしいだけの妻には上から目線の指示に聞こえてしまう。夫婦あるあるの話に共感する方は多いのでは。
フォーレ島ということで、前半はベルイマンの私生活や『ある結婚の風景』や『鏡の中にある如く』の撮影秘話などが語られる。ファンには垂涎ものだろう。
ちなみに夫婦が滞在した家の主寝室はベルイマンが『ある結婚の風景』を撮影した場所。この作品を見て離婚が激増したとか。主人公夫婦も気持ちのすれ違いが次第に大きくなっていく。ベルイマンの呪縛なのか、そう思うから離れていってしまうのか。ミア・ハンセン=ラブ監督のかつてのパートナーがオリビエ・アサイヤス監督で、2人は2009年に結婚し、娘が誕生したものの、2016年に離婚している。主人公は監督自身のことだとしたら…(堀)


2021年/フランス・ベルギー・ドイツ・スウェーデン/英語/113分/カラー/スコープ/5.1ch
配給:キノフィルムズ
© 2020 CG Cinéma - Neue Bioskop Film - Scope Pictures - Plattform Produktion - Arte France Cinéma
公式サイト:https://bergman-island.jp/
★2022年4月22日(金)より公開
posted by ほりきみき at 00:13| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月03日

ふたつの部屋、ふたりの暮らし   原題:Deux

futatunoheya.jpg
© PAPRIKA FILMS / TARANTULA / ARTÉMIS PRODUCTIONS - 2019

監督・脚本:フィリッポ・メネゲッティ
出演:バルバラ・スコヴァ、マルティーヌ・シュヴァリエ、レア・ドリュッケール、ミュリエル・ベナゼラフ、ジェローム・ヴァレンフラン

南仏モンペリエ。眺めのいいアパルトマンの最上階。向かい合う部屋に住む二人の女性、フランス人のマドレーヌとドイツ人のニナ。表向きには仲の良い隣人だが、実は二人は恋人同士。夫に虐待されていたマドレーヌは、旅先のローマでニナと知り合い愛し合うようになり、夫の亡きあと、子どもたちも独立し、隣人を装ってお互いの部屋を行き来して暮らしているのだ。二人の夢は、アパルトマンを売ったお金で、二人の出会ったローマで家を買って一緒に暮らすこと。だが、マドレーヌは娘たちにそのことをなかなか言えないでいた。そんなある日、マドレーヌが脳卒中で倒れる。数日後、退院するが口が聞けず、麻痺が残り車椅子生活になってしまう。娘アンヌが住み込みの介護士ミュリエルを雇う。ニナはマドレーヌを見舞いたいと訪ねるが、ミュリエルに邪険に断られる。ニナが合鍵で忍び込んだところをミュリエルに見つかってしまう。ニナは、マドレーヌに会いたいために、ミュリエルにある提案をする・・・

冒頭、古い石橋のかかる川のそばの森の中のベンチに、白と黒のドレスの二人の少女。烏の群れのカァカァと鳴く声がなんとも不気味で、一筋縄ではいかない物語を暗示しているかのよう。
ローマで二人で暮らすために、マドレーヌは娘にほんとのことを打ち明けようとするのですが、なかなか言えません。マドレーヌが倒れてから、娘は母がニナを愛していることを知ってしまいます。多様な性指向があるとわかっていても、身内となればすんなりと受け入れられないでしょう。結末はぜひ劇場で!
本作はフランスを舞台にしていますが、イタリアのフィリッポ・メネゲッティ監督による初長編作品。老いても愛に生きる女性たちの姿を静かな中にも力強く描き出しています。(咲)


LGBTQについて描いた作品はここ数年、ぐっと増えてきているけれど、70代女性カップルというのはかなり珍しいのではないでしょうか。しかし、性的指向に年齢は関係ないことを改めて気づかされました。
とはいえ、第三者の立場ならさらりと受け入れられることも家族となると大分違ってきます。そして、子どもからよりも親からのカミングアウトは受け入れにくいのかもしれません。親のそれを受け入れることは自分の存在そのものを否定することに繋がるのですから。マドレーヌの子どもたちの反応は至極当然と言えるでしょう。しかし、残り少ない人生だからこそ、一緒に生きたいというマドレーヌたちの気持ちも尊重してあげたい。
なかなか難しい問題に果敢にトライしたのはてっきり女性監督かと思ったところ、本作が長編監督デビューの男性で、脚本も共同で担当していました。しかし、女性の心の機微がしっかりと描かれていました。しかもサスペンスタッチな展開に最後までハラハラし、作品に引き込まれます。監督の次回作も楽しみです。(堀)


2019 年/フランス=ルクセンブルク=ベルギー/フランス語/95 分/カラー/2.39:1/5.1ch
字幕:齋藤敦子
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本、在日ルクセンブルク大公国大使館、ベルギー大使館
配給:ミモザフィルムズ
公式サイト:https://deux-movie.com/
★2022年4月8日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
posted by sakiko at 01:11| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年03月25日

TITANE チタン(原題:TITANE)

titane.jpg

監督・脚本:ジュリア・デュクルノー
撮影:ルーベン・インペンス
出演:ヴァンサン・ランドン、アガト・ルセル、ギャランス・マリリエール

幼い頃、交通事故により頭蓋骨にチタンプレートが埋め込まれたアレクシア。
彼女はそれ以来<車>に対し異常な執着心を抱き、危険な衝動に駆られるようになる。自らの犯した罪により行き場を失った彼女はある日、消防士のヴァンサンと出会う。10年前に息子が行方不明となり、今は孤独に生きる彼に引き取られ、ふたりは奇妙な共同生活を始める。だが、彼女は自らの体にある重大な秘密を抱えていた──

冒頭は父親が運転する車の中で、前の座席を蹴って叱られている子どものアレクシア。何度言ってもやめないので、思わず後ろを振り返り怒鳴った父親。車は追突して大破。アレクシアは大きな怪我を負います。この子の目が怖い~。事故の前から暴力的な感じがするのは不幸せなのかもしれない。母親はほんのちょっとしか登場せず、父親は娘と関わりたくないようす。アレクシアの暴力は過剰な自己防衛であるのか、自分を突き放さないヴァンサンにだけは次第に心を開いていきます。
車と女性というと、男性の好きなものでしょうが、この作品では男性の入る余地なく、アレクシアは車と情交しています。悔しい?こんなストーリー初めて見ました。監督の前作『RAW 〜少女のめざめ〜』も少女の肉体と精神が変容していくホラーでした。2本目の本作で、カンヌで受賞してしまうなんてこれから先の作品はどんなものが出てくるんでしょう。(白)

★第74回カンヌ国際映画祭[最高賞]パルムドール受賞

主人公のアレクシアを演じたアガト・ルセルはこれが長編映画デビューとのこと。驚いた。いきなりこんな振り切った役を演じられるとは! 車に絡むように踊る姿はエロティシズムにあふれている。しかも、その作品がパルム・ドールを受賞したという。アレクシアの気持ちに共感はできないけれど、痛みを感じていることはびんびんに伝わってきました。監督は本作が2作目。その唯一無二の才能に嫉妬してしまいそう。(堀)

2021年/フランス・ベルギー合作/カラー/シネスコ/110分
配給:ギャガ
© KAZAK PRODUCTIONS – FRAKAS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINEMA – VOO 2020
https://gaga.ne.jp/titane/
★2022年4月1日(金)新宿バルト9ほか全国公開

posted by shiraishi at 22:34| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アネット(原題:Annette)

anett.jpg

監督:レオス・カラックス
原案・音楽 :スパークス
歌詞:ロン・メイル ラッセル・メイル & LC
撮影:キャロリーヌ・シャンプティ
出演:アダム・ドライバー(ヘンリー)、マリオン・コティヤール(アン)、サイモン・ヘルバーグ(指揮者)

ロサンゼルス。 攻撃的なユーモアセンスをもったスタンダップ・コメディアンのヘンリーと、国際的に有名なオペラ歌手のアン。“美女と野人”とはやされる程にかけ離れた二人が恋に落ち、やがて世間から注目されるようになる。だが二人の間にミステリアスで非凡な才能をもったアネットが生まれたことで、彼らの人生は狂い始める。

ダーク・ファンタジー・ロック・オペラってどんなの?と試写に行きました。スパークスが録音を始めるのかスタンバイ中、カラックス監督が声をかけ、ここからスタート。娘とスパークスと一緒に外に出て、キャストたちが合流し物語に引き込む変わったオープニングです。
アンが人気のオペラ歌手、哀切な歌で薄幸のヒロインを演じます。辛辣なギャグで笑わせるヘンリーが「真実を言って殺されないのはこの仕事だけ」というのが、刺さります。
マリオン・コティヤールはエディット・ピアフを演じたことがありました。カイロ・レンも歌うとは!いやいやアダム・ドライバー、何でもやれるんですね。タイトルは娘の名前ですが、想定外の姿でした。愛憎濃い物語がめくるめく映像の中で展開し、嵐の船の場面では酔いそうなほどです。カメラマンはどこにいたのでしょう?
2人の娘をとり上げる産科医が古舘寛治さんでおもいがけない登場にびっくり。他にも日本人キャストがいますので、よく見ていて。主演の2人が繰り返し歌う「We Love Each Other So Much」が残ります。(白)


子どもが生まれることで夫婦の関係性が変わることがよくあります。この作品の主人公夫婦がまさにそれ! 妻は母になれましたが、夫は父になり切れない。そこに夫婦間の経済価格差も絡んでくるから問題はさらにややこしくなる。精神的に追い詰められていくヘンリーを演じきったアダム・ドライバーはさすがなのですが、それに負けずとも劣らなく素晴らしいのが、娘のアネットを演じたデヴィン・マクドウェル。5歳の幼い少女にもかかわらずアダム・ドライバーと堂々と渡り合っているのには驚きました。父親にしっかりと引導を渡していました。
また本作はロックオペラ形式で、音楽をスパークスが担当しています。洋楽に疎いので、この作品で初めてスパークスを知りましたが、ロン(キーボード)とラッセル(ボーカル)のメイル兄弟によって結成されたバンドです。スパークスが監督に20曲ほどのデモと『アネット』のアイデアを送ってきたことがそもそものきっかけとか。冒頭シーンに本人たちも登場。しかめっ面のロンが何とも言えずいい味を出しています。音楽もクセになる感じでしばらく頭から離れませんでした。(堀)


2020年/フランス・ドイツ・ベルギー・日本・メキシコ合作/カラー/シネスコ/140分
配給:ユーロスペース
(C)2020 CG Cinema International / Théo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinema / UGC Images / DETAiLFILM / Eurospace /
https://annette-film.com/
★2022年4月1日(金)ロードショー

posted by shiraishi at 21:57| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年03月19日

オートクチュール(原題:Haute couture)

kucyuru.jpg

監督・脚本:シルヴィー・オハヨン
撮影:ジョルジュ・ルシャプトワ
美術:マリー・シュミナル
衣装 :シャルロット・ブタイヨル
ディオール衣裳アドバイザー:ジュスティーヌ・ヴィヴィアン
出演:ナタリー・バイ(エステル)、リナ・クードリ(ジャド)、パスカル・アルビロ(カトリーヌ)、クロード・ペロン(アンドレ)、ソマヤ・ボークム(スアド)、アダム・ベッサ(アデル)、クロチルド・クロ(ミュミュ)

クリスチャン・ディオールのアトリエで責任者として働くエステルは、全てをささげてきたこの職場からもうじき去らねばならない。キャリア最後のコレクションを控えたある朝、弾き語りをする女の子を見ていてハンドバッグをひったくられてしまう。バッグを盗んだのは郊外の団地に住むジャドとスアド。移民2世の彼女たちにはまともな仕事もなく、金目のものを盗んでは小遣い稼ぎをしていた。バッグの中にユダヤの星のネックレスがあったことから、呪われないようにとスアドに勧められて返すことにする。
エステルを待ち伏せしてバッグを返したのが縁で、ジャドはエステルに誘われてアトリエを訪ねる。エステルにはジャドの指が美しいものを作るという直感があった。お針子の見習いになって初めて、ジャドは自分のしたいことを考える。エステルのアトリエはジャドにとって初めての大人社会、エステルに反発しながらも、技術のほか言葉遣いやマナーなどを身につけていく。

冒頭のジャドとスアドの盗みの手際の良さと、罪悪感のなさに驚きました。持ってる者から持たない者がちょっともらうだけ、という感じです。それでいて教会で祈りもすれば、ベッドで食べるかテレビを見るかだけの母親の面倒も見ます。詐病感ありありですが、ジャドの幼いころから親子の立場が逆転しているようです。
誇り高く厳格なエステルをナタリー・バイ。仕事にのめり込みすぎて娘が出ていってしまい孤独です。バスの若者との会話に口あんぐりでした。結構失礼です。自分より下と思った相手に何を言ってもいいわけ?品格はどこに? ジャドも気の強さでは負けていなくて、エステルに遠慮なく文句を言います。どこか似ている2人の周りには、とっても個性的な人たちがいて、きつい空気を和らげています。
窓からの光が美しいディオールのアトリエはセットですが、本物のお針子さんたちも出演しています。ふんだんに登場するデザイン画やドレスなども本物のディオール製。アトリエシーンの俳優さんたちは、撮影前にお裁縫の特訓をしたそうですが、そこは名女優のナタリー・バイ。ベテランの動きは、アドバイザーのジュスティーヌ・ヴィヴィアンお墨付きだったそうです。ジャドに意地悪をする先輩の「大変な人生」が何か気になります。お針子さんが首から下げているお裁縫道具を入れたポシェットが可愛くて便利そうで、作ってみようかな。(白)


普段は見ることがない世界的なブランドの世界。唯一無二のドレスを完成させるため、多くの人々が関わり、みなが細心の注意を払います。こんなに繊細な作業だとは知らず、びっくり。香水係という役割があるのですが、何をする人なのかは作品をご覧になってください。ファストファッションの製造現場との違いに唖然となります。価格の違いと言えばそれまでですが、働く者に対する待遇は意欲にも繋がります。そんな社会格差だけでなく、母と娘の確執、ヤングケアラーなど現代社会が抱えるさまざまな問題がディオールという華やかな世界を舞台にうまく織り込まれています。
ジャドを演じたリナ・クードリは『GAGARINE ガガーリン』『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』と今年になって出演作の公開が続きます。今後の成長が楽しみです。(堀)


2021年/フランス/カラー/シネスコ/100分
配給:クロックワークス、アルバトロス・フィルム
(C)2019 - LES FILMS DU 24 - LES PRODUCTIONS DU RENARD - LES PRODUCTIONS JOUROR
https://hautecouture-movie.com/
★2022年3月25日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、 Bunkamura ル・シネマほか全国公開

posted by shiraishi at 01:37| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする