2023年07月16日
古の王子と3つの花 原題:Le pharaon, le sauvage et la maitresse roses
監督・脚本:ミッシェル・オスロ(『キリクと魔女』『ディリリとパリの時間旅行』)
声の出演:オスカー・ルサージュクレール・ ドゥ・ラリュドゥカン(コメディー・フランセーズ) アイッサ・マイガ
エジプトからフランス・オーヴェルニュ、そしてトルコへ。古代・中世・18世紀のうっとりするような至福の旅。
第1話 ファラオ
クシュ王国の王子はナサルサとの結婚を認めてもらうため、エジプト遠征の旅に出て、神々に祈り祝福されながら戦わずして国々を降伏させ、上下エジプトを統一、最初の黒人ファラオとなり、無事ナサルサと結ばれる。
第2話 美しき野生児
中世フランスの酷薄な城主に追いやられた王子は、地下牢の囚人を逃がした罪で森に追放されるが、数年後美しき野生児として城主に立ち向かい、お金持ちから富を盗み貧しい人々に分け与え囚人の娘と結ばれる
第3話 バラの王女と揚げ菓子の王子
モロッコ王宮を追われた王子はバラの王女の国へと逃げ込み、雇われたお店の揚げ菓子を通じて国から出た事がない王女と出合い、2人は秘密の部屋で密会し、宮殿を抜け出し自分たちで生きていくことを決意する。
古代エジプトを象徴し、永遠の命を示すと言われる“蓮”。
フランス、オーベルニュ地方に自生し昔から薬として用いられてきた“ゲンチアナ”。
世界を代表する産地の一つで美しさと甘い香りで人々を魅了するトルコの“バラ”。
3つの花が、それぞれの王子の物語を彩ります。美しい絵に、うっとりしますが、幸せを掴むまでの道筋は決して安易なものではありません。 いばらの道だからこそ、得られるものも大きい・・・という教訓でしょうか。(咲)
2022年/フランス・ベルギー/カラー/1.89:1/5.1ch/83分
日本語字幕:橋本裕充
配給:チャイルド・フィルム
後援:フランス大使館、アンスティチュ・フランセ
公式サイト:https://child-film.com/inishie/
★2023年7月21日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
2023年07月09日
サントメール ある被告 原題:Saint Omer
監督:アリス・ディオップ
出演:カイジ・カガメ、ガスラジー・マランダ、ロバート・カンタレラ
セネガル系フランス人の若き女性作家ラマ。次の本のリサーチのため、フランス北部の町サントメールに赴き、ある裁判を傍聴する。被告は、生後15ヶ月の娘の殺人罪に問われた女性ロランス・コリー。セネガルで生まれ、フランスに留学し、完璧な美しいフランス語を話す。「娘を海辺に置き去りにしたのは、人生をシンプルにするため」と語り、さらに、「叔母から呪術をかけられた」と主張する。娘の父親は30歳以上も年の離れた白人男性リュック・デュモンテ。ロランスは、彼が自分を誰にも紹介せず、自分と子供を否定したと批難する。一方、デュモンテは「年寄りとの関係を恥じていると思って紹介しなかった」という。二人の主張は食い違う。
この日は閉廷になり、傍聴席にいたもう一人の黒人女性がラマに話しかけてきた。ロランスの母親だった。その後、ラマはロランスの母から「妊娠何か月?」と聞かれる。ラマは、一緒に暮らす彼にも、まだ妊娠したことを告げていなかった・・・
裁判官に「なぜ娘を殺した?」と問われ、「Je ne sais pas.(ジュヌセパ わかりません)」と、表情も変えずに答えるロランス。逆に、「理由を裁判で教えてほしい」といいます。
ロランスが自分のことを語る中で、小さい時から、母親からウォロフ語(セネガルの彼女たちの民族の言葉)で話すことを禁じられ、フランス語もセネガル訛りでないフランス語を心がけるように躾けられたとありました。そうしたことが、人間形成に何か影響があったのかも知れないと感じさせられました。
一方、裁判を傍聴していたラマは、「私は母親になれるの?」という思いにかられます。
本作は、セネガル系フランス人女性であるアリス・ディオップ監督が、2016年に傍聴した裁判をもとにしたもの。監督自身、混血児の母親で、当時、傍聴しにいくことを誰にもいえなかったとのこと。けれども、これは映画になるのではとプロデューサーたちには話したそうです。
実際の裁判記録をセリフに使用するという斬新な演出。撮影は、実際の法廷のひとつ隣の部屋に法廷のセットを作って撮影。緊張感溢れる裁判の場で、それぞれの立場の人の思いが細やかに描かれています。 かつてフランスの植民地であったセネガルの人々の立ち位置も考えさせられる作品でした。(咲)
◆アリス・ディオップ監督来日! 3 days トークイベント日程

7/14(fri.)18:30〜 Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
『サントメール ある被告』アフタートーク
ゲスト:小野正嗣(作家) 進行:矢田部吉彦(元東京国際映画祭プログラミング・ディレクター)
7/15(sat.)17:00〜 東京日仏学院 エスパス・イマージュ
『私たち』アフタートーク
7/16(sun.)18:30〜 Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
『サントメール ある被告』アフタートーク
進行:矢田部吉彦(元東京国際映画祭プログラミング・ディレクター)
ヴェネチア映画祭銀獅子賞(審査員大賞)&新人監督賞
2023年度アカデミー賞®国際長編映画部門 フランス代表
2022年/フランス/フランス語/123分/カラー/G
字幕:岩辺いずみ、字幕監修:金塚彩乃
配給:トランスフォーマー
公式サイト:https://www.transformer.co.jp/m/saintomer/
★2023年7月14日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開
2023年06月04日
プチ・ニコラ パリがくれた幸せ(原題:Le petit Nicolas: Qu'est-ce qu'on attend pour etre heureux?)
監督:アマンディーヌ・フルドン、バンジャマン・マスブル
原作:ルネ・ゴシニ、ジャン=ジャック・サンペ
脚本:アンヌ・ゴシニ、ミシェル・フェスレール
音楽:ルドヴィック・ブールス
声の出演:アラン・シャバ(ルネ・ゴシニ)、ローラン・ラフィット(ジャン=ジャック・サンペ)
日本語吹き替え版:堀内賢雄(ルネ・ゴシニ)、小野大輔(ジャン=ジャック・サンペ)、小市眞琴(ニコラ)、井上喜久子(ママ)、三上哲(パパ)
パリの街並みを望む小さなアトリエ。イラストレーターのサンペと作家のゴシニは、いたずら好きの男の子のキャラクター、ニコラに命を吹き込んでいた。大好きなママのおやつ、校庭での仲間達との喧嘩、先生お手上げの臨海学校の大騒ぎ・・・。ニコラを描きながら、望んでも得られなかった幸せな子供時代を追体験していくサンペ。また、ある悲劇を胸に秘めるゴシニは、物語に最高の楽しさを与えていった。児童書「プチ・ニコラ」の心躍らせる世界を創造しながら、激動の人生を思う二人。ニコラの存在は、そんな彼らの友情を永遠のものにしていく・・・。
フランスで50年以上も前に生み出されたキャラクター、二コラ。天真爛漫でいたずら好きな彼は優しい両親に愛され、学校では悪ふざけや喧嘩もしながら楽しく暮らしています。これはルネ・ゴシニ(1926年生まれ)とジャン=ジャック・サンペ(1932年生まれ)の2人が、自分たちの子供時代はこうあってほしかったと思いながら作っていったストーリーです。
フランス人なら誰もが知っている児童書の国民的スター、30カ国以上で翻訳出版され、日本でもシリーズ本が出ています。実写版の映画も2010年と2014年に上映されて、白いシャツに赤いベスト、青い半ズボンの二コラのファッションにフランス国旗!と思いましたっけ。
本作はゴシニとサンペの2人の背景と、ニコラのストーリーがうまく組み合わされたアニメーションです。サンペのペン先からニコラが生まれ、ゴシニとサンペのかけあいで、キャラクターの性格や動き、物語が動いていくようすが生き生きと表現されています。描き込みすぎないシンプルな絵柄、淡い色付け、配された美しい音楽に幸せな気分になります。二コラが長く愛され続けてきた要因はゴシニとサンペの深い友情によるものですが、ゴシニは1977年に51歳で急死してしまいます。親友を亡くして憔悴したサンペに思わず涙してしまいました。
それから40年余り経って送り出された本作、脚本にあたったアンヌ・ゴシニはルネ・ゴシニの実の娘です。さらに80代のサンペがグラフィッククリエイターとして参加、2022年アヌシー国際アニメーション映画祭で最高賞にあたるクリスタル賞を受賞しました。この受賞を見届けてサンペは89歳で永眠。親友と天国で再会したことでしょう。(白)
天真爛漫でいたずら好きのニコラを生み出したサンペとゴシニ。こんな風に幸せであってほしかったという子供時代をニコラに託したと知り、ちょっと切なくなりました。
サンペはシングル・マザーのもとに生まれ、幼少期養父母に育てられ、実の母と再び暮らすものの、アルコール依存症だった義父が家庭内で暴力をふるうなど、辛い子供時代を過ごしたとのこと。
一方、ポーランド出身のフランス系ユダヤ人のゴシニは、1928年、父の仕事のため、一家でアルゼンチンのブエノスアイレスに移住。パリに住む親族から、「パリはナチスの占領下。アルゼンチンに残れ」という手紙を受け取ります。親族たちはホロコーストの犠牲になってしまい、その悲しみがずっとゴシニの胸に残っていたのです。
そんな少年時代を送った二人が運命的に出会って作り上げたニコラというキャラクターが長年にわたって愛されていることに、じ~んとさせられました。(咲)
2022年/フランス/カラー/アニメーション/86分
配給:オープンセサミ、フルモテルモ
(C)2022 Onyx Films – Bidibul Productions – Rectangle Productions – Chapter 2
https://petit-nicolas.jp/
★2023年6月9日(金)ロードショー
2023年05月28日
苦い涙 原題:Peter von Kant
監督・脚本:フランソワ・オゾン
*ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの名作『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』を自由に翻案
出演:ドゥニ・メノーシェ(『悪なき殺人』『ジュリアン』)、イザベル・アジャーニ、ハリル・ガルビア、ステファン・クレポン、ハンナ・シグラ、アマンテ・オーディアール
1972年、西ドイツのケルン。著名な映画監督ピーター・フォン・カントはオフィスを兼ねた瀟洒なアパルトマンで、同居する若い助手のカールをこき使いながら暮らしている。恋人フランツに捨てられ落ち込んでいたところへ、大女優で親友のシドニーが、俳優志望の美しい青年アミールを連れてやってくる。一目でアミールに心を奪われたピーターは、カメラテストを経て、俳優として育てようと同居させる。9ヵ月後、ピーターの公私にわたる努力によって、アミールは映画界の新星として注目を集めるようになるが・・・
オゾン監督が敬愛するドイツの監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーが、1970年代西ドイツのアパルトマンを舞台にして描いた室内劇『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』を自由に翻案。女性同士の恋愛関係を男性同士に置き換え、ファッション・デザイナーだった主人公を映画監督に変え、さらにオゾン監督の美意識に基づいたアレンジを施したとのこと。元の作品を観ていないので、比較できないのですが、言葉はドイツ語とフランス語が混じり、愛に生きる人たちの姿からはフランスの香りが漂います。
偏執ともいえるピーターのアミールへの愛。破綻した前のフランツとの関係も、ピーターの偏愛がもたらしたものかと想像してしまいます。大柄なドゥニ・メノーシェ演じるピーターは強烈です。愛に生きる男を体現しています。美青年アミールを演じたハリル・ガルビアは、父親がチュニジア出身のダンサー。ピーターの愛を受け入れる振りをしながら、したたかに俳優の座を手にする様を魅力的に演じています。イザベル・アジャーニの美貌にも目を奪われましたが、本作でなんといっても印象に残ったのは、ステファン・クレポンが演じた助手のカール。ピーターからどんな命令をされても文句も言わずにこなし、アミールに言い寄るピーターのことも静かに見つめています。カールの複雑な思いが伝わる絶妙な演技でした。(咲)
2022年/フランス/フランス語・ドイツ語/スコープサイズ/5.1ch/85分
日本語字幕:手束紀子.
配給:セテラ・インターナショナル
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/nigainamida/
★2023年6月2日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
2023年05月27日
Rodeo ロデオ
監督・脚本:ローラ・キヴォロン
撮影:ラファエル・ヴェンデンブスッシュ
音楽:ケルマン・デユラン
出演:ジュリー・ルドリュー(ジュリア)、アントニア・ブレジ(オフェリー)、ヤニス・ラフキ(カイス)、コーディ・シュローダー(キリアン)、ルイ・ソットン(ベン)、ジュニア・コレイア(マネル)、ダブ・ンサマン(アブラ)
物語の主人公は、バイクにまたがるためにこの世に生を受けたジュリア。短気で独立心の強い彼女は、ある夏の日、技を操りながら公道を全速力で疾走する、”クロスビトゥーム”のバイカーたちに出会う。ある事件をきっかけに、彼らが組織する秘密結社の一員となった彼女は、男性的な集団のなかで、自身の存在を証明しようと努力する。しかし、彼らの要求は次第にエスカレートし、彼女は疑問を持ち始める。
バイクが好きで、疾走するために生まれてきたようなジュリア。だまし取ったバイクで機嫌よくかっ飛ばしていたら、”クロスビトゥーム”という暴走族に遭遇します。すっかり魅せられて仲間入りしますが、周りは男ばかり。ジュリアは女性としてではなく、技術と度胸のよさで居場所を作っていきます。いつも不機嫌そうなジュリアですが、バイクで走っているときだけは笑顔を見せます(ちょっと白川和子さん似)。
人気だというヤマハのオフロードバイクYZ450F は、新車なら100万円以上。重量も100㎏以上です。倒れたバイクを起こすこともできなそうな、細身のジュリアにまんまと乗り逃げされてしまったお金持ちが悔しそうでした。あ、これは監督が脚本に何年もかけたフィクションです。オーディションで発掘した俳優たちの演技が自然で、ドキュメンタリーにも見えてしまうくらい。
あれこれと指示を出すボスのドミノは、離れても家族に君臨し妻オフェリーと子どもを外にも出しません。バイク以外のエピソードは、ジュリアとオフェリーとのやりとりが唯一。オフェリーが夫の支配下に戻ってしまってジュリアが見せる表情をなんと解釈しよう。鮮烈なヒロインでした。(白)
2016年に製作した短編『ボルチモアから遠く離れて』で、ライダーたちの社会を描いた後、彼らのコミュニティの一員となったローラ・キヴォロン監督。バーヤという女性ライダーとの出会いが本作のきっかけとなったこと、その後、ジュリー・ルドリューとの出会いが主役ジュリアを生んだことなどが、公式サイトの監督インタビューに詳しく書かれています。
ローラ・キヴォロン監督は、ノンバイナリー(自分の性認識に男性か女性かという枠組みを当てはめない考え方)を公言。男性中心主義のコミュニテイの中で、自分の居場所を見出していくヒロインの姿を鮮やかに描き出しています。
夫ドミノが収監中のオフェリーを演じたアントニア・ブレジが、本作の共同脚本を務めているのですが、敢えて、オフェリーが夫に従い、実家のコルシカに帰るのも控えるというキャラクターにしたのが気になります。いまだに、そのような妻が多いことへの警鐘でしょうか。(咲)
ローラ・キヴォロン監督の長編デビュー作。
2022年の第75回カンヌ国際映画祭ある視点部門で「クー・ド・クール・デュ・ジュリー(審査員の心を射抜いた)賞」を受賞。
2022年/フランス/カラー/シネスコ/105分
配給:リアリーライクフィルムズ、MAP
(C) CG CINEMA/ ReallyLikeFilms
https://www.reallylikefilms.com/rodeo
★2023年6月2日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ロードショー