2025年10月05日
ホーリー・カウ 原題:Vingt dieux 英題: Holy Cow
監督:ルイーズ・クルヴォワジエ
/脚本:ルイーズ・クルヴォワジエ、テオ・アバディ
撮影:エリオ・バレゾー
編集:サラ・グロセ
音響:フランソワ・アブデルヌール
美術:エラ・クルヴォワジエ
音楽:リンダ・クルヴォワジエ、シャルリ・クルヴォワジエ
出演:クレマン・ファヴォー 、ルナ・ガレ、マティス・ベルナール、ディミトリ・ボードリ、マイウェン・バルテレミ、アルマン・サンセ・リシャール、リュカ・マリリエ、イザベル・クラジョー
父が死んだ。残されたのは、行き詰ったチーズ工房と幼い妹。
フランス、コンテチーズの故郷ジュラ地方。18歳の青年トトンヌは、仲間と酒を飲み、パーティに明け暮れ気ままに過ごしていた。村祭りの帰り道、チーズ職人だった父親が交通事故で突然亡くなってしまう。ひとりで7 歳の妹クレールの面倒を見なければいけなくなる。生活のため父のトラクターを売り払い、清掃員としてチーズ工場で働き始めるが、因縁のある青年と騒ぎを起こし、すぐにクビになってしまう。そんな折、チーズのコンテストの賞金が3万ユーロと知り、金を工面してトラクターを買い戻し、伝統的な製法で最高のコンテチーズを作ることを決意する・・・
監督のルイーズ・クルヴォワジエは、本作の舞台であるジュラ地方で育ち、リヨンの映画学校La CinéFabriqueでの卒業制作がカンヌの若手育成部門 “シネフォンダシオン” でグランプリを獲得した注目の女性監督。2024年のカンヌ国際映画祭を皮切りに、夭折の天才ジャン・ヴィゴにちなみ若手監督に授与されるジャン・ヴィゴ賞、フランスのアカデミー賞と言われるセザール賞など数々の映画祭を席巻。
トトンヌは、ナンパや喧嘩に明け暮れる、どうしようもない青年。父親の急逝で、妹の世話をしなければいけなくなって、その自覚はあって、賞金を狙ってチーズを作ろうと決意します。いいチーズには、いい牛乳が必要と知って、評判の牛を飼っている女性のもとを訪れるようになるのですが、隙あれば、牛乳を盗もうという魂胆。いい牛乳を使ったからといって、すぐにいいチーズが作れるはずもないのですが、そこに気づくまでには、もう少し時間がかかりそう。ダメ青年の成長物語。まだ途上ですが。
原題「Vingt dieux」は、「なんてこった、マジかよ」の意味を持つ慣用句。「Holy Cow」は、その英訳。トトンヌが、「Vingt dieux」と叫ぶ場面にご注目を! (咲)
2024年カンヌ国際映画祭〈ある視点〉部門ユース賞受賞作
2024/フランス/92分/フランス語/カラー/2.39 : 1/5.1ch
日本語字幕:橋本裕充
提供:キングレコード
配給・宣伝:ALFAZBET
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
公式サイト:https://alfazbetmovie.com/holycow/
★2025年10月10日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開
2025年09月19日
ファンファーレ!ふたつの音(原題:En fanfare)
監督:エマニュエル・クールコル
脚本:エマニュエル・クールコル、イレーネ・ミュスカリ
撮影:マクサンス・ルモニエ
音楽:ミシェル・ペトロッサン
出演:バンジャマン・ラヴェルネ(ティボ)、ピエール・ロタン(ジミー)、サラ・スコ(サブリナ)
世界的指揮者のティボは、ある日突然、白血病と診断される。骨髄移植のためのドナーを探す中で、自分が養子であること、そして生き別れた弟ジミーの存在を知った。彼が住むのは、かつては炭鉱で栄えながら時代の趨勢とともにさびれつつある街。ジミーは学食で働きながら、小さな吹奏楽団でトロンボーンを吹いていた。突然現れた"兄”に驚き、病気のことは心配するが、自分と全く違う環境で育った兄への想いは複雑だ。
ティボは兄弟には音楽という共通項があったことに安堵する。一緒に行動するうちにジミーの才能に気づき、自分のためでなく弟を応援しようと決意する──。
病を得たことから、それまで全く知らなかった自分の背景、記憶にない弟がいることを知ったティボ。今回は指揮者役のバンジャマン・ラヴェルネは『デリシュ!』『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』 にも出演、助演で控えめですが大事な役どころでした。
ピエール・ロタンは5月公開の『秋が来るとき』で親友の息子ヴァンサン役、こちらはなかなか印象的でした。エマニュエル・クールコル監督とは『アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台』(22)以来のタッグ。ピアノの経験はあってもトロンボーンは初めてで、早くから特訓を重ねたそうです。
2人は別々に送られた養子先で育ち、その場所でティボはエリートに、ジミーはブルーカラーとなりました。率直で気のいいジミーですが、育った場所で生まれた格差に困惑してしまうのも最もです。けれども映画はその対立ではなく、音楽を通して兄弟が失われた年月を埋めて行く様子を描きます。本国で大ヒットして観客の涙をおおいに誘った作品。小さな街の楽団がティボの指導で、輝きを増していくのも見届けてください。帰りには「ラベル」の曲が身体の中で渦巻きそうです。(白)
2024年/フランス/カラー/103分
配給:松竹
(C)2024 – AGAT Films & Cie – France 2 Cinema
https://movies.shochiku.co.jp/enfanfare/
★2025年9月19日(金)ほか全国ロードショー/カラー/分
ミシェル・ルグラン 世界を変えた映画音楽家(原題:IL ÉTAIT UNE FOIS MICHEL LEGRAND)
監督・脚本:デヴィッド・ヘルツォーク・デシテス
脚本:ウィリー・デュハフオーグ
撮影:ニコラス・ボーシャン リヤド・カイラット スタン・オリンガー
音響:テオドール・セラルド
音楽:デヴィッド・ヘルツォーク・デシテス ミシェル・ルグラン
出演:ミシェル・ルグラン、アニエス・ヴァルダ、ジャック・ドゥミ、カトリーヌ・ドヌーヴ、バンジャマン・ルグラン、クロード・ルルーシュ バーブラ・ストライサンド、クインシー・ジョーンズ 、ナナ・ムスクーリ
フランスが生んだ偉大なジャズ・ミュージシャンであり、唯一無二の作曲家ミシェル・ルグランのドキュメンタリー。精力的に多種多彩な音楽を作り、発表し、その傍らテレビにも出演。演奏し、歌い、指揮をとり、多忙な中でも妥協を許さない厳しい仕事ぶりも見ることができる。
ジャック・ドゥミ監督とタッグを組んだ『シェルブールの雨傘』、『ロシュフォールの恋人たち』をはじめ、ジャン=リュック・ゴダールの『女と男のいる舗道』(62)、アニエス・ヴァルダの『5時から7時までのクレオ』(62)、ノーマン・ジュイソンの『華麗なる賭け』(68)、クロード・ルルーシュの『レ・ミゼラブル』(95)、バーブラ・ストライサンドの『愛のイエントル』(83)など、ルグランが携わった30作以上の名場面が次々と紹介される。
監督は晩年のルグランに密着し、2018年12月にフィルハーモニー・ド・パリで行われた“人生最後となった公演の舞台裏にもせまる。支えられて登壇した彼は、この公演を最後に翌年1月26日に87歳で永眠。
残された映像から発掘された若き日のミシェル・ルグラン本人の取材映像が見られます。家族、友人、仕事仲間へのインタビューではルグランのひととなりが想像できます。後半では監督を信頼し、全て自由に撮影することを許されたおかげで、カメラを気にもしない素のルグランが映像として残りました。
仕事の上では妥協を一切許さない現場での緊張感、ポンポンと飛び出す容赦のない言葉、観ているだけでも胃が縮む思いです。日々重ねられた努力が天賦の才能をさらに磨いているので、ぐうの音も出ません。かと思うと、一転ショーマンのようなお茶目な顔も見えて、この人の中には少年がいるのだと思えます。芸術家の皆様には共通でしょうか。
映画の名場面に流れる曲は耳に馴染んだ懐かしいものばかり。当時は俳優にばかり気をとられて映画音楽を気にしたのはずっと後のこと。あれも?これも?と楽しい驚きでした。(白)
2024年/フランス/カラー/109分/5.1ch/1.85:1
配給:アンプラグド
©-MACT PRODUCTIONS-LE SOUS-MARIN PRODUCTIONS-INA-PANTHEON FILM-2024
https://unpfilm.com/legrand
★2025年9月19日(金)ほか全国ロードショー
2025年08月31日
タンゴの後で 原題:Maria 英題:Being Maria
監督・脚本:ジェシカ・パルー
原作:「あなたの名はマリア・シュナイダー ―「悲劇の女優」の素顔」(早川書房・刊)
出演:アナマリア・ヴァルトロメイ、マット・ディロン、ジュゼッペ・マッジョ、イヴァン・アタル、マリー・ジラン
撮影現場での問題について声を上げた最初の女性の一人、
マリア・シュナイダーの波乱に満ちた人生
ベルナルド・ベルトルッチ監督の代表作の一つと称される映画『ラストタンゴ・イン・パリ』(1972年)。大胆な性描写と心理描写が大きな反響を呼んだこの作品の陰には、ひとりの女性の怒りと葛藤があった。
19歳の若手女優マリア・シュナイダーは新進気鋭の監督ベルナルド・ベルトルッチと出会い、『ラストタンゴ・イン・パリ』で一夜にしてトップスターに駆け上がる。
しかし、48歳のマーロン・ブランドとの過激な性描写シーンは彼女に苛烈なトラウマを与え、その後の人生に大きな影を落としていく・・・。
監督のジェシカ・パルーは、ベルナルド・ベルトルッチ監督作『ドリーマーズ』(2003)でインターンとして彼との仕事を経験。マリアのいとこであるヴァネッサ・シュナイダーが記した「あなたの名はマリア・シュナイダー:「悲劇の女優」の素顔」に出会い、マリアの視点で彼女の人生を映画化。
今なお世界中で問題とされるエンターテインメント業界における権力勾配、搾取について鋭い視線を投げかけた問題作。
マリア・シュナイダーについて
1952年、フランス・パリ出身。名優ダニエル・ジェランを父に持ち、モデルを経て1969年に映画デビュー。19歳でベルナルド・ベルトルッチ監督の『ラストタンゴ・イン・パリ』(1972)に主演し、マーロン・ブランドと共演。その過激な性描写は彼女のキャリアと人生に深い傷を残し、以後、性的イメージが付きまとい、彼女はそのイメージに苦しむことになる。
1970年代後半、ドラッグ依存と深刻な精神的苦悩に苦しみながらも、『さすらいの二人』(1974)、『危険なめぐり逢い』(1975)、『夜よ、さようなら』(1979)などに出演。またバイセクシュアルであることを公表し、女性監督の育成や表現の多様性を提唱する活動も行った。人生最晩年はスイスやパリで静かに暮らし、2011年2月3日、58歳で乳がんの合併症により亡くなった。彼女の葬儀では旧友であるブリジット・バルドーからの弔辞をアラン・ドロンが読み上げた。その生涯は、権力と芸術の狭間で傷ついた女性の象徴として後に従妹ヴァネッサ・シュナイダーによる伝記「あなたの名はマリア・シュナイダー ―「悲劇の女優」の素顔」 (早川書房・刊)や、本作『タンゴの後で』により彼女の名誉の回復、そして再評価が進んでいる。
問題の過激な性描写シーンについて、ジェシカ・パルー監督は撮影現場で使用されたオリジナル脚本にアクセスすることに成功。そのシーンは脚本には「暴力的な仕草」とだけ記されていて、撮影当日、スクリプト・スーパーバイザーが欄外に撮影中に加えられた要素を記録していました。
ベルトルッチ監督は即興演出を好み、後のインタビューで「マリアの本物の涙、本物の屈辱がほしかった」と語っているとのこと。マリアは事前に撮影でどんなことが起こるか知らされていなかったのです。マリア自身、フランスや海外メディアのインタビューで、屈辱的な経験をしたことを語っているのに、誰も耳を傾けていなかったことにも、ジェシカ・パルー監督は気づきました。
この数年のMeToo運動で、セクハラを受けたことを告白するうねりがありますが、1970年代当時、声をあげても、それは我慢すべきことと押しつぶされてきました。それどころか、撮影現場で目の前で暴力的なことが起こっても、名監督や名優を前にして、誰も何も言わなかったことが本作では描かれています。
映画の現場で、理不尽な思いをするようなことが起こらないことを願う監督の思いをずっしり感じた一作でした。(咲)
2024年/フランス/フランス語/102分/カラー/5.1ch/PG-12
日本語字幕:岩辺いずみ
協力:CHANEL
配給:トランスフォーマー
公式サイト:https://transformer.co.jp/m/afterthetango
★2025年9月5日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開
2025年08月27日
パトリックとクジラ 6000日の絆(原題:Patrick and the Whale)
監督:マーク・フレッチャー
撮影:ルパート・マーリー
出演:パトリック・ダイクストラ、ドローレス(マッコウクジラ)、キャンオープナーと赤ちゃんホープ(マッコウクジラ)他
パトリックは高校生のころ、博物館で大きなシロナガスクジラのレプリカを見て圧倒された。恐竜よりも大きい、地球における最大の動物という説明文を読んで、いつか海に出てこのクジラと泳ぐことを人生の目標の一つに加えた。まず弁護士として働きながら投資もして、着々と準備しつつ調査も重ね、8.9年後スリランカでシロナガスクジラに出逢う。
当初はカメラも持たず、ただ一緒に泳ぐことを楽しんでいたが、カメラを携えていくようになってから彼の貴重な映像は評判を呼ぶ。2019年ドミニカで遭った好奇心旺盛なメスのクジラに翌年も再会したことから映画の企画が動き出した。
ここにも海とクジラに魅入られた人がいました。その情熱は行き当たりばったりでなく、長いスパンで考えられ実行されていました。高給取りの弁護士となって資金を作り、クジラを探して世界中の海に出かけます。偶然を期待するのでなく、出逢うための調査や研究も怠りなく進めています。クジラたちと出逢って愛情がますます深まっていくのが、言葉のはしばしに伺えました。
若いクジラたちが座礁して砂浜に累々と横たわる死体を見た彼は、クジラたちを助けるためにその原因を突き止めたくなります。彼らの生活をもっと知るためにカメラを装着することを思いつきますが、クシラの反応を見逃がさず彼らのストレスを思いやります。クジラの群れの結びつきの強さを知ると、それにひきかえ人間は・・・とため息が出ます。
チラシ画像は眠っているシロナガスクジラです。頭を上に立って眠るんですね。眠るときは右と左の脳が交代で休むのだとか。この姿も呼吸や外敵への警戒など意味があるのでしょう。クジラは哺乳類なので、肺呼吸です。深海へも行くマッコウクジラは1時間ほど潜水できるそうです。いろいろ興味がかきたてられました。「海」と言う文字には「母」が入っています。その文字の成り立ちのように、生き物はみな海からやってきて、遺伝子に刷り込まれているのかも。(白)
「クジラと一緒に出来るだけ長く過ごしたい」という少年時代の夢を実現させたパトリックの物語に、心を癒されました。
家が裕福でなかったパトリックは、夢の実現のために、弁護士という高給な職業を選びますが、誰しもにできることではありません。8年間、激務に耐えて、晴れて、クジラを追いかける日々。馴染みのクジラの群れに囲まれた時には、まるで親族の一員として迎えられたようと喜びます。
マッコウクジラには、子クジラの餌を探しに行くとき、ほかのクジラに我が子を託していく習性があるのですが、親しくなったメスのマッコウクジラ、キャンオープナーからは、ついにその赤ちゃん・ホープを託されます。ベビーシッターになったと歓喜するパトリック。
絆の強いクジラは、一匹が捕まると助けようとして集まってきて、次々に捕まってしまうのだそうです。そんな習性を利用して捕鯨しているとしたら・・・とちょっと悲しくなりました。保護のために、規制していると信じていますが。
それにしてもクジラの世界は奥深い! (咲)
2022年/オーストリア/カラー/72分
配給:キングレコード
(C)Terra Mater Studios GmbH 2023
https://patw6000.com/
★2025年8月29日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国公開


