2020年04月04日

ようこそ、革命シネマへ   原題:Talking About Trees

yookoso kakumei.jpg

監督・撮影:スハイブ・ガスメルバリ
出演:イブラヒム・シャダッド、スレイマン・イブラヒム、エルタイブ・マフディ、マナル・アルヒロ、ハナ・アブデルラーマン・スレイマン

2015 年、スーダンの首都ハルツーム近郊。
駱駝が行き交い、砂が舞う中、映画上映会が開かれようとしていた。
主催者は、イブラヒム、スレイマン、マナル、エルタイブの4人。
1956年にスーダンが独立して間もない1960〜70 年代に海外で映画を学び、母国スーダンに戻って映画文化を根付かせようと活躍していた4人は、1989年に映画製作集団「スーダン・フィルム・グループ」 を設立する。同じ年、クーデターによりイスラーム急進派の独裁政権が誕生。言論の自由は奪われ、映画も発禁処分となる。ある者は政治犯として投獄され、ある者は国外へ亡命を余儀なくされた。
長い時を経て再会した4人。スーダンの映画産業は既に崩壊し、映画館も皆無。かつて映画文化があったことを記録に残し、スーダンの人たちに映画を見せたいと奔走する・・・

スハイブ・ガスメルバリ監督は、1979年スーダン生まれ。クーデター前の子どもの頃には両親に連れられ映画を観た記憶があるが、独裁政権になり映画は壊滅し、本も検閲され、文化的に枯渇した10代を過ごしたという。その後、エジプトで映画に出会い、フランスの大学で映画を学ぶ。そして、かつて「スーダン・フィルム・グループ」があったことを発見。特にイブラヒム・シャダッドの政治的な内容と芸術性が結実した作風に影響を受ける。
4人が行うハルツーム郊外での上映会で、砂嵐でスクリーンが飛ばされそうになっても、画面に釘付けになっている人たちを見て、本作の製作を決意したという。

冒頭、映画を上映しようとするのに、何度も停電する。
かつて、勤めていた商社では、ハルツームに駐在員事務所があって、私の所属部署で管轄していた。ある駐在員の方が、「刑期はあと1年」とおっしゃるので、「刑期ですか?」と問うと、「いや~日本の刑務所は停電も断水もないから、それよりひどいかな」と答えが返ってきた。停電や断水は日常茶飯事。自家発電を持ってないと、せっかく持っていった日本食も腐ってしまうと嘆く。別の駐在員の方は、赴任が決まった時に、「どんなに劣悪な環境でもお酒さえ飲めれば大丈夫」と言ってスーダンに赴いたのだが、それが1989年。赴任した直後にイスラーム急進派が政権を取って、お酒が飲めなくなってしまったことを思い出した。

こんなに環境が劣悪な上に、様々な自由を奪われている中で、映画館を復活させようという4人の老いた映画人たち・・・
本作は、映画を愛し、映画の持つ力を信じる人たちの物語。不屈の精神に胸が熱くなった。(咲)

2019年/フランス=スーダン=ドイツ=チャド=カタール/97分/DCP/カラー
配給:アニモプロデュース
公式サイト:http://animoproduce.co.jp/yokosokakumei/
★2020年4月6日 (月)ユーロスペースほか全国順次公開


posted by sakiko at 23:44| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月21日

最高の花婿 アンコール  原題:Qu'est-ce qu'on a encore fait au bon Dieu?

saikonohanamuko.jpg

監督: フィリップ・ドゥ・ショーヴロン
出演:クリスチャン・クラヴィエ、シャンタル・ロビー、メディ・サドゥアン、アリ・アビタン、フレデリック・チョウ

フランスはロワール地方で暮らす敬虔なカトリック教徒のクロードとマリーのヴェルヌイユ夫妻。4人の娘たちの結婚相手は、よりによって皆、外国人。婿たちの故国を知ろうと、コートジボワール、アルジェリア、中国、イスラエルを旅して自宅に戻ってきた。どこも最悪だったと嘆く二人。
一方、パリで暮らす婿たちもそれぞれに悩みを抱えていた。長女イザベルの夫で弁護士のラシッドは、アラブ人というだけでテロリスト扱い。次女オディルのユダヤ人の夫ダヴィドはハラール食の会社を立ち上げようとしているが、資金が集まらない。イスラエルへの移住を考えている。三女セゴレーヌの銀行家の夫シャオは、中国系を狙った犯罪の多発に怯えていた。四女ロールの夫シャルルは俳優だが、黒人には端役しかなく、ロールのインド転勤を機に、ボリウッド俳優を夢見ている・・・

4人の娘たちが異国の男たちと結婚するまでを描いた『最高の花婿』(2014年)から、4年。異文化の背景を持つ婿たちが、それぞれの事情で、故国に嫁を連れて帰ろうとする姿が描かれています。フランスはヨーロッパの中でも、民族や宗教の違う人と結婚する比率が高い国。異文化を許容する土壌を育んできたと思うのですが、昨今の自国優先で移民排斥をする傾向は、フランスにも及んでいるのでしょうか。
社会問題をコメディーに織り込んで考えさせてくれます。
ユダヤ人のダヴィドが、ユダヤに則ったコシェルではなく、イスラームに則したハラール食品の会社を立ち上げ、ヨーロッパだけでなくインドネシアにも販路を広げようとしますが、ユダヤ人がハラールを扱っても信用を得るのは難しいのでは? イスラエルに帰ろうという夫に従って、オディルはヘブライ語の教室に通っているのですが、ユダヤに改宗するには、あと3年かかるという言葉がありました。「アッラーのほかに神はなし、ムハンマドはその使徒なり」の一言で改宗できるイスラームのように簡単に改宗できないのですね。
また、本作では、コートジボワール出身のシャルルの妹の結婚も描かれています。相手はなんと女性! フランスでなら結婚できると、両親はじめ一族を呼ぶのですが、もちろんひと騒動起きます。
その他、チベット、パレスチナ、アルジェリアのビキニ革命と、各地のいろいろな問題も隠し味にしっかり盛り込んでいます。(咲)

2018年/フランス/98分/フランス語
配給:セテラ・インターナショナル
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/hanacore/
★2020年3月27日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA他全国順次公開




posted by sakiko at 22:03| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月07日

衝動 世界で唯一のダンサオーラ

syoudou.jpg

監督・脚本:エミリオ・ベルモンテ
出演:ロシオ・モリーナ、ホセ・アンヘル・カルモナ、エドアルド・トラシエラ、パブロ・マルティン・ジョーンズ、ラ・チャナ

ロシオ・モリーナは3歳でダンスに目覚め、恵まれているとはいえない体格をものともせず頂点に上り詰めた。彼女は自らを”ダンサオーラ””と呼び、その天才的なリズム感、驚異的な身体能力、天性の芸術的感性で異次元のステージを繰り広げる。スペイン芸術界最高の栄誉「スペイン国家舞踊賞」を26歳の若さで受賞。2018年にイギリスの舞台芸術の最高賞「ローレンス・オリヴィエ賞」ノミネート。伝統的なフラメンコをベースにしながら、革新的なスタイルでフラメンコの世界を押し広げ、世界的な評価を確立した。
カメラはパリ、エッフェル塔をのぞむシャイヨー国立舞踊劇場公演にいたるまで、新しいステージ創作に力を注ぐ彼女に密着する。(HPより)

エミリオ・ベルモンテ監督初の長編ドキュメンタリー。天才フラメンコダンサー、ロシオ・モリーナ。本作で初めて観る素顔のロシオは屈託のない明るく気さくな女性です。ひとたび踊り始めると表情は一変し、そのエネルギーは無尽蔵なの?と思うほどパワフルです。伝統的なフラメンコ、前衛、どちらの枠にもおさまりきれない独特なダンスは世界中で喝采をうけています。2018年に公開されたドキュメンタリー『ラ・チャナ』のラ・チャナも登場。
ライブ映像の『ロシオ・モリーナLIVE カイーダ・デル・シエロ』の緊急上映も決定。(白)


2017年/フランス・スペイン合作/カラー/85分
配給:トレノバ、gnome
https://impulso-film.com/
★2020年3月13日(金)より東劇ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 11:11| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月23日

レ・ミゼラブル(原題:Les miserables)

re.jpg

監督:ラジ・リ
脚本:ラジ・リ、ジョルダーノ・ジェデルリーニ アレクシス・マネンティ
撮影:ジュリアン・プパール
音楽:ピンク・ノイズ
出演:ダミアン・ボナール(ステファン)、アレクシス・マネンティ(クリス)、ジェブリル・ゾンガ(グワダ)、イッサ・ペリカ()、ジャンヌ・バリバール(警察署長)

パリ郊外のモンフェルメイユ。ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台でもあるこの街は、いまや移民や低所得者が多く住む危険な犯罪地域と化していた。犯罪防止班に新しく加わることになった警官のステファンは、仲間と共にパトロールをするうちに、複数のグループ同士が緊張関係にあることを察知する。親も手を焼くやんちゃな少年イッサが、ちょっとした悪戯心から事件をおこしてしまった。些細な出来事をきっかけに対立するグループを巻き込み、野火が広がるように大騒動となってしまった。事件解決へステファンたちも奮闘するのだが。

新鋭ラジ・リ監督は映画の舞台となったこのモンフェルメイユ出身で、現在も住んでいます。「本作で描かれているすべてが実際に起きたことに基づいています」とのことです。そうなのか。しかし、事件の大小を問わなければ日本で起きていてもおかしくありません。それほど世界中どこも、誰もが分断されて、憎しみの火種を抱えているのではと危惧してしまいます。
全く環境の違うところから転任してきたステファンは、権力をかさにいばりちらすクリスに閉口します。役職と自分の力を混同してしまっている危険人物です。警察の上司(女性の署長)になんとかしてほしいです。若いグワダもクリスに従っていますが、家で迎える母は、先ほど横柄に対応した住民と同じ民族衣装姿でした。
登場人物の外と内の顔を見せながら進んでいくストーリーは、徐々に緊迫していき、暗いエネルギーが爆発するラストは、息をするのも忘れるほどでした。殺傷能力がないからとゴム弾が威嚇に使われていましたが、ひどいです。自分が撃たれてみろってんだ、と思わず文句。ああ胸が痛かった…。
2019年の第72回カンヌ国際映画祭ではポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』とともにパルムドールを競い、審査員賞を受賞。前者のようなひねりなしの直球映画ですが、アカデミー賞ではこちらに一つ分けてほしかったなぁ。(白)


少年の軽はずみな行為が対立する大人の派閥や警察まで巻き込み一大事になってしまう。もしかすると少年にしてみたら、自分は被害者なのかもしれない。直接的には関係のない大人たちの解決を当事者の少年はどう捉えたのか。安直に丸く収めるのではなく、見る者の不安を掻き立てる。衝撃的なラストこそリアルな現実。このままじゃいけない。大人は子供に何を見せたらいいのだろうか。(堀)

少年イッサが街に来ていたサーカスからライオンの子を連れだしたことからギャングどうしの間でひと悶着。衝突を避けようと警察が介入した時に、誤ってイッサに発砲したのをドローンで撮影されていたことがわかり、警察は動画の流出を止めようと躍起になります。
ライオンの子を連れだしたのがイッサだと判明したのもSNSに投稿された写真。SNSにドローンといったツールが問題を起こしていくのも、今の社会を映し出しています。
「イスラームではライオンは強さの象徴。檻に入れてはいけない」と、モスクでイマームが発言をした場面があって、民族や宗教で考え方の違いがあることを感じさせてくれます。
冒頭、様々な顔の人たちが、フランス国旗を背負って、国歌ラ・マルセイエーズを歌いながら歓喜する姿が映し出されます。サッカーワールドカップ優勝の折の場面。移民や移民2世3世も、フランス人として一体感が持てる唯一の場面を最初に掲げたことに、ほかの時にもフランス人としてみてほしいという監督の思いを見て取りました。
黒人のベテラン警官グワダ、人種差別主義者の白人警官クリス、郊外を初めて担当するステファン、そして女性の警察署長。それぞれを体現した役者たちが素晴らしく、見応えのある作品。(咲)

2019年/フランス/カラー/シネスコ/104分
配給:東北新社、STAR CHANNEL MOVIES
(C)SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS
http://lesmiserables-movie.com/
★2020年2月28日(金)ロードショー




posted by shiraishi at 15:23| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月22日

母との約束、250通の手紙   原題:La promessa dell'alba


640.jpg



監督・脚本:エリック・バルビエ
共同脚本:マリー・エイナール
原作:ロマン・ガリ
出演:シャルロット・ゲインズブール、ピエール・ニネ、ディディエ・ブルドン、ジャン=ピエール・ダルッサン、キャサリン・マコーマックフィネガン・オールドフィールド、パウエル・ビュシャルスキー、ネモ・シフマン

ユダヤ系ポーランド人移民である母のニーナと2人で暮らしてきたロマンは、ニーナからフランス軍に入って勲章を授与された後に大使になり、作家としても活躍することを期待され続ける。重圧に苦しみながらも、ロマンは母の願いをかなえようと奮闘する。やがて軍に入った彼は母からの電話や手紙を支えにパイロットとして活躍し、さらに作家デビューも果たす。だがニーナの手紙には、その成功を喜ぶ様子はなかった。

ジーン・セバーグの夫であり映画監督にして外交官、衝撃的な拳銃自殺を遂げたフランスの国民的文豪ロマン・ガリの視点から綴られた伝記映画である。

稀代の熱演を見せるロマン・ガリ役のピエール・ニネ(『イヴ・サンローラン』『婚約者の友人』)より光彩を放ち、圧倒的な存在感を発揮するのは、母役のシャルロット・ゲンズブールだ。これほど強烈な母親像を表現されたら、通常は観客が退いてしまう。何しろポーランドの寒村で、
「息子は将来フランスの勲章を貰う!大使になるのよ!」

と触れまわり、
「お前はヒトラーを暗殺する使命がある!」
などと息子へ激を飛ばし、"妄想訓練"に励ませるのだ。

熱い激情的ユーモアを交えて観客を大笑いさせつつ、全てに規格外、常軌を逸したこの母親が息子へ伝え継いだ言葉。「小説を書き続けなさい」
戦地へ赴いた息子に送った250通の手紙に、どんな秘密が宿っていたのか...。ぜひ映画館で体感してほしい。年初にフランスから贈られた心沁み入る名作である。(幸)


320-139.jpg

息子の将来を信じてやまない母。期待を一身に背負う息子。傍から見ればただの親バカだが、母の叱咤激励を糧にすべてを成し遂げた息子が実在の人物と知って驚いた。よくもグレずに真っすぐ育ったものである。
母役シャルロット・ゲンズブールは自然に歳を重ねていき、いつの間にか老婆になっていた。その描写力は見事!(堀)


配給:松竹
2017年製作/131分/R15+/フランス・ベルギー合作
(C) 2017 - JERICO-PATHE PRODUCTION - TF1 FILMS PRODUCTION - NEXUS FACTORY - UMEDIA
公式サイト:https://250letters.jp/
★2020年1月31日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほかにてロードショー★
posted by yukie at 10:49| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする