2023年09月24日
ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇(原題:Jean Paul Gaultier: Freak and Chic)
監督・撮影:ヤン・レノレ
出演:ジャンポール・ゴルチエ、マドンナ、カトリーヌ・ドヌーブ、ロッシ・デ・パルマ、マリオン・コティヤール、ボグダノフ兄弟、アントワーヌ・ドゥ・コーヌほか
奇想天外でファンタスティックなデザインで有名なクチュリエ(男性デザイナー)、ジャンポール・ゴルチェ。彼の半生をミュージカル仕立てに、しかも自身のコレクションも同時に披露していく「ファッション・フリーク・ショー」。
その舞台裏に密着したのがこのドキュメンタリー。制作の進行と一緒に、これまでのゴルチェの足跡も明かされる。お絵描きが好きだった子供の頃、愛するおばあちゃん、恋人フランシス、巡り合った懐かしい人々が思い出とともに駆け巡る。
豪華絢爛な舞台の裏側を見せてもらえるのはいつも楽しみです。こちらでは、ゴルチェのデザインを元に、ベテランスタッフが経験と工夫を凝らして作り上げる衣装、キャストや音楽の選定、リハーサルを繰り返すたびに修正が加えられていく様子が見られます。ゴルチェ自身はいつもニコニコして、自分の好みをごり押しするのでなくスタッフと意見の交換をしてより良いものにする努力を惜しみません。
高いヒールの靴で踊るダンサーの足元がいつも気になっていましたが、今回体格の良いテディベア役のダンサーが怪我をしました。靴がぱっくりと割れています。いっそのこと裸足ではダメなんでしょうかね。
マドンナの奇抜な衣装はゴルチェによるものでした。舞台映えするので、多くのコンサートで使われているようです。今年春には東京でもこの「ファッション・フリーク・ショー」があったんですね。
ヒューマントラストシネマ渋谷にてゴルチエに関連する作品の中から『バッド・エデュケーション』と『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』の2作の特集上映が決定しました。合わせてご覧ください。(白)
2018年/フランス/カラー/シネスコ/96分
配給:キノフィルムズ
(C)CANAL+ / CAPA 2018
https://gaultier-movie.jp/
★2023年9月29日(金)ロードショー
2023年09月17日
ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト) 原題:Godard seul le cinéma 英題:Godard Cinema
監督:シリル・ルティ
出演:マーシャ・メリル、ティエリー・ジュス、アラン・ベルガラ、マリナ・ヴラディ、ロマン・グーピル、ダヴィッド・ファルー、ジュリー・デルピー、ダニエル・コーン=ベンディット、ジェラール・マルタン、ナタリー・バイ、ハンナ・シグラ、ドミニク・パイーニ
2022年9月13日、スイスで91年の生涯を閉じたジャン=リュック・ゴダール監督。1930年12月3日パリ生まれ。1950年代末から60年代のフランス映画界で革新的な映画運動、「ヌーヴェル・ヴァーグ」を先導し、常に独自のスタイルを開拓・探究しながら最前線を駆け抜けたシネマの巨人にして鬼才。自ら選択した安楽死だと伝えられた衝撃の死から1年。いま改めて振り返る20 世紀映画界の伝説であり永遠の反逆児、ジャン=リュック・ゴダールの人生とは?その伝説の陰に隠された、一人の「人間」としてのゴダールの知られざる素顔に迫るドキュメンタリー。
『勝手にしやがれ』(60)で長編デビュー。「映画の革命」と呼ばれ、世界の映画界に衝撃を与える。60年代はアンナ・カリーナとの蜜月から生まれた『女は女である』(61)、『女と男のいる舗道』(62)、『はなればなれに』(64)など、「カリーナ時代」と呼ばれる作品群を発表。65年にはヌーヴェル・ヴァーグの最高傑作と評される『気狂いピエロ』、67年に『中国女』を製作するが、五月革命以降は『ウイークエンド』(67)を最後に商業映画との決別を表明し、『ワン・プラス・ワン』(68)、『東風』(70)など作風はより前衛的で政治色の強いものになる。77年にスイス、レマン湖畔のロールに拠点を移し、『勝手に逃げろ/人生』(80)で商業映画に復帰。『パッション』(82)、『右側に気をつけろ』(87)をはじめとする劇映画のほかに実験的なビデオ作品も数多く製作した。その後は『ゴダールの映画史』(88-98)の製作に没頭。21世紀に入っても、『アワーミュージック』(04)、『ゴダール・ソシアリスム』(10)、3D映画『さらば、愛の言葉よ』(14)、『イメージの本』(18)などを発表。
あまりにも有名なゴダール。いくつかの映画のタイトルは知っているものの、あらためてフィルモグラフィーを見てみると、おそらく1本も観ていないことに気がつきました。食わず嫌いで、あえて観ようとしなかったのだと思うのですが、お恥ずかしい。
本作で、ゴダールを知る様々な人が語るのを聞いて、いかに彼が映画を芸術として高めようとしたかを感じました。さらにゴダール本人が語る場面もあり、「反逆児」「鬼才」のイメージはさらに強まりました。
2番目の妻であるアンナ・カリーナが、パリのパレスチナ専門の書店で働いていた政治活動家だと知り興味津々。彼女の影響を大きく受けた作品をぜひ観たいと思いました。(咲)
2022年/フランス/フランス語/105分/カラー・モノクロ/1.78 : 1/5.1ch
字幕:齋藤敦子
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
配給:ミモザフィルムズ
公式サイト:http://mimosafilms.com/godard/
★2023年9月22日(金)より新宿シネマカリテ、シネスイッチ銀座、ユーロスペース、アップリンク吉祥寺ほか全国ロードショー
2023年09月10日
私の大嫌いな弟へ 原題:Frère et sœur 英語題:Brother and Sister
監督:アルノー・デプレシャン(『そして僕は恋をする』『クリスマス・ストーリー』)
出演:マリオン・コティヤール(『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』『アネット』)、メルヴィル・プポー(『わたしはロランス』『それでも私は生きていく』)、ゴルシフテ・ファラハニ(『パターソン』)、パトリック・ティムシット(『歓楽通り』)
姉アリスは有名な舞台女優、弟ルイは詩人。アリスは演出家の夫との間に一人息子がいる。ルイは人里離れた山中で妻フォニアと暮らしている。二人は憎みあい、もう長い間顔も合わせていない。ずっと売れてなかった弟に栄光が訪れた時からだったかもしれない。そんな二人が両親の突然の事故によって会わなければならなくなる。二人がお互いを受け入れる日は来るのだろうか・・・
原題『Frère et sœur』は、単純に、弟と姉。同じ両親のもと、姉と弟として生まれ、小さいときには一緒に仲良く育ったのに、それぞれの道を歩み、何が原因かわからないけれど疎遠になってしまった・・・ 両親が亡くなり、久しぶりに顔を合わせた二人の、どこかぎこちない思い。ラスト、姉アリスが吹っ切れたように、飛んでいった場所に驚かされました。(とてもエキゾチックな国です。ぜひ劇場でご確認を!)
私にとっては、弟ルイのユダヤ人の妻役としてイラン出身のゴルシフテ・ファラハニが登場したのが、なにより嬉しかったのですが、デプレシャン監督は、フランス人の家族だけの話に閉じ込めないために、ゴルシフテのほかにも、ルーマニアのコスミナ・ストラタンを、アリスに憧れる女優の卵として起用しています。また、ルイの親友であるユダヤ人のズウィ役であるパトリック・ティムシットは、実際アルジェリア系ユダヤ人。美しいシナゴーグでのズウィとルイの場面が印象に残りました。(咲)
2022年/フランス/110分/シネマスコープ/5.1ch
字幕:磯尚太郎、字幕監修:松岡葉子
配給:ムヴィオラ
公式サイト:https://moviola.jp/brother_sister
★2023年9月15日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次ロードショー
★アルノー・デプレシャン監督来日&各地で新作登壇イベント★
■東京 Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
➀9月15日(金) 19:00の回 上映後
登壇者:アルノー・デプレシャン監督、大九明子さん(映画監督)
進行:金原由佳さん(映画ジャーナリスト)
②9月16日(土) 19:00の回 上映後
登壇者:アルノー・デプレシャン監督
*ご来場の皆様からの質問を承る予定です。
詳細:https://www.bunkamura.co.jp/topics/cinema/7778.html
■愛知 伏見ミリオン座
日時:9/18(月祝)10:45の回 上映後
詳細:https://eiga.starcat.co.jp/
■大阪 シネリーブル梅田
日時:9/18(月祝)14:00の回 上映後
詳細:https://ttcg.jp/cinelibre_umeda/
■京都 京都シネマ
日時:9/20(水)19:00の回 上映後
詳細:https://www.kyotocinema.jp/
■アルノー・デプレシャン監督レトロスペクティブ開催情報■
第5回映画批評月間 フランス映画の現在をめぐって スペシャルエディション アルノー・デプレシャンとともに
期間:9/8(金)〜9/29(金)
会場:東京日仏学院 エスパス・イマージュ
公式HP:https://www.institutfrancais.jp/tokyo/agenda/cinema20230908/
第45回ぴあフィルムフェスティバル アルノー・デプレシャン監督特集
期間:9/16(土)〜9/22(金)
会場:国立映画アーカイブ
公式HP:https://pff.jp/45th/lineup/arnaud-desplechin.html
ダンサー イン Paris(原題:En corps)
監督:セドリック・クラピッシュ
脚本:セドリック・クラピッシュ サンティアゴ・アミゴレーナ
撮影:アレクシ・カビルシーヌ
音楽:ホフェッシュ・シェクター
出演:マリオン・バルボー(エリーズ)、ホフェッシュ・シェクター(本人)、ドゥニ・ポダリデス(エリーズの父)、ミュリエル・ロバン(ジョジアーヌ)、ピオ・マルマイ(ロイック)、フランソワ・シヴィル(ヤン)
パリ・オペラ座で踊るエリーズは、エトワールになることを目標にしている。だが、夢の実現を目前にしながら、公演中に恋人の裏切りを目にしてジャンプの着地に失敗、足首を痛めてしまった。医師からこれまでのようには踊れなくなると告げられたエリーズは、新しい生き方を探さなくてはならない。バレエ一筋できた自分は他に何ができるだろうか。
早くにバレエをやめ、女優を目指しているサブリナに誘われ、ブリュターニュへと旅立った。才能あるアーティストが集まるレジデンスで、料理係のアシスタントを始める。そこでオーナーのジョジアーヌ、ホフェッシュ・シェクター率いるカンパニーの面々に出会った。コンテンポラリーダンスが生まれていくのを目撃し、心が動く。練習に誘われたエリーズはクラシックバレエとはまた違う、自分を解放する創造的なダンスに新たな喜びを見出していく。
エリーズを演じるマリオン・バルボーは実際にパリ・オペラ座の団員。クラシック作品だけではなく、オペラとバレエを一体化させた新しい試みにも参加しているそうです。ロイック役のピオ・マルロイは『おかえり、ブルゴーニュへ』で、マッサージでエリーズを癒すヤンのフランソワ・シヴィルは『パリのどこかで、あなたと』で、それぞれクラビッシュ監督とタッグ。クラビッシュ監督作品には、どれもあれこれ問題をかかえた人々が登場しますが、そのストーリーの進み方や解決の方法がいつも優しいのです。背景となるフランスの風景も行ってのんびりしたくなるようなところばかり。
フランス映画祭で監督に取材したことがありますが、ミニコミの私たちにもほんとに丁寧に接してくださって、お人柄が作品に出るのだなぁと思いましたっけ。(白)
2022年/フランス、ベルギー/カラー/シネスコ/118分
配給:アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル
(C)2022 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE STUDIOCANAL FRANCE 2 CINEMA Photo : EMMANUELLE JACOBSON ROQUES
https://www.dancerinparis.com/
★2023年9月15日(金)ロードショー
2023年08月13日
ソウルに帰る(原題:Return to Seoul)
監督・脚本:ダビ・シュー
撮影:トーマス・ファベル
出演:パク・ジミン(フレディ)、グカ・ハン(テナ)、オ・グァンロク(フレディの父)、キム・ソニョン(フレディの叔母)
韓国で生まれ、赤ん坊のときに養子縁組でフランスの両親に育てられたフレディは、来る予定のなかった韓国に初めてやってきた。泊まったゲストハウスで働くテナはフランス語が堪能で、言葉のわからないフレディを親身にサポートする。韓国の記憶が何もなく、言葉にも文化にもなじめないフレディだったが、テナの協力で、実の両親を探し始める。
フレディを育ててくれた養親は穏やかな人のようですが、彼女は反骨精神たっぷりで、人と違うことをするのが楽しそうです。怒りも納めることはしないで、爆発させます。そばにいると「ちょっと勘弁して」となりそうだけれど、正直なだけなんでしょう。
初めは生みの親を探す気はなかったのに、父に会い、会わないという母の返事を長いこと待ち続けます。過激なのに、繊細な部分も持ち合わせているフレディを演じたパク・ジミンは、俳優ではなく彫刻やインスタレーションを作るアーティストで、監督が出会って出演を願ったというのに驚きです。演技臭いところは一片もなく、てっきり女優さんだと思っていました。
朝鮮戦争の休止後、米軍兵士と韓国女性の間に生まれた子どもたちは、父が外国人だと韓国籍が取れませんでした。国も貧しく子どものための福祉政策もなかったことから、ハーフの子どもたちは養子縁組をしてアメリカへ渡ったそうです。それをきっかけに海外と養子縁組させる民間機関(アメリカ人のホルト氏が創設したホルト児童福祉会)などが中心となり、ヨーロッパの国も受け入れ先に加わりました。
血縁を重視する韓国内での養子縁組は少なく、戦後も長い間多くの子どもが海外へ送り出されました。詳しく調査確認しなかったために、受け入れ先で虐待に遭ったという負の側面も少なからず明らかになっているようです。そこまででなくとも、成長した子どもたちがフレディのように、自分のアイデンティティに悩むことはあるでしょう。生みの親は手放した罪悪感を一生背負い、わが子として長く育てた両親は、生みの親を探したいと言われたらやはり寂しいだろうと、複雑な思いに駆られます。(白)
『冬の小鳥』『はちみつ色のユン』『ブルー・バイユー』など、韓国での養子縁組を描いた映画は、ドキュメンタリーやドラマも含めていくつか日本で公開されてきた。朝鮮戦争(1950~53年)後の1960年代~70年代に、アメリカやフランス、ベルギーなど欧米諸国に養子として渡った子供たちは20万人ぐらいいるという。この映画は現代に近いから、その後も韓国から海外へと養子縁組で渡る子供は多いのだろうか。
主人公フレディは韓国の女性ぽくなく、フランス育ちというのもあり、まるでフランスの女性のような振る舞い。実は私は1996年、中国の北京語学学院に短期留学したことがあるのだけど、同室になった人はフランス育ちの中国人だった。彼女も中国人なのに、振る舞い、行動、着ている服などがフランス人ぽかった。
この作品を観て、やはり人は育った国の文化や周りの行動などの影響を受けるのだなと思った。それでも、フレディはパサパサした性格かもしれないと思いつつ、父親と会って自分の韓国人としてのアイデンティティが目覚めたかもと思った。フレディの韓国文化との出会いや戸惑い、父親に会えるまでの心の変化が描かれる(暁)。
第23回東京フィルメックス 審査員特別賞を受賞
2022年/フランス・ドイツ・ベルギー・カンボジア・カタール合作/119分/G
配給:イーニッド・フィルム
(C)AURORA FILMS/VANDERTASTIC/FRAKAS PRODUCRIONS/2022
https://enidfilms.jp/returntoseoul
★2023年8月11日(金)Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下にてロードショー中、ほか全国順次公開