2023年02月26日

エッフェル塔〜創造者の愛〜   原題:EIFFEL

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© 2021 VVZ Production – Pathé Films – Constantin Film Produktion – M6 Films

監督:マルタン・ブルブロン
原案:カロリーヌ・ボングラン
脚本:カロリーヌ・ボングラン、トマ・ビデガン、マルタン・ブルブロン、ナタリー・カルテ、マルタン・ブロスレ
出演:ロマン・デュリス、エマ・マッキー、ピエール・ドゥラドンシャン、アレクサンドル・スタイガー、アルマンド・ブーランジェ、ブルーノ・ラファエリ

花のパリのシンボル、エッフェル塔完成に秘められた壮大な愛の物語

1886年9月、フランス。 3年後に開催される「パリ万国博覧会」のシンボルとなるモニュメントのコンクールを控え、誰が何を作るかの話題で沸いていた。アメリカの自由の女神像制作に協力し、名声を得ていた建築家ギュスターヴ・エッフェル(ロマン・デュリス)は、パーティーの席で大臣から「戦争に敗れた今、自由の女神のようなシンボルが必要だ」とコンクールへの参加を要請されるが、興味がないと答える。その場にいた友人で記者のアントワーヌ・ド・レスタック(ピエール・ドゥラドン シャン)の妻・アドリエンヌ(エマ・マッキー)から、「大臣と同感です。あなたの野心作をぜひ見てみたい」と言われたエッフェルは、突然「ブルジョアも労働者も皆が楽しめる300mの鉄塔を造る」と宣言する。
関心のなかったコンクールへの参加を急に決意したのには、ワケがあった。 今は友人の妻となっているアドリエンヌとは、恋仲だったことがあるのだ。1860年、ボルドーで鉄橋建設の指揮をとるために滞在した折に知り合ったのが、地元有力者の娘であるアドリエンヌだった。労働者階級と上流階級という身分の違いを越えて、結婚も誓い合う仲になったが、結局別れざるをえなかったのだ。コンクールで勝利を得たエッフェルは、かつてのアドリエンヌへの熱い思いを胸に、鉄塔の建設に取りかかる。だが、倒壊を恐れる周辺住民からの苦情や、バチカン教皇から「ノートルダム大聖堂より高いのは侮辱」、芸術家たちからは醜悪だとの抗議文が届き、早くも建設事業は暗礁に乗り上げる・・・

色々な困難を乗り越えながら、パリの街に鉄塔が少しずつ高く伸びていく様を見守りました。今や、パリになくてはならないエッフェル塔ですが、建設当時には、反対もあったことを知りました。
私の都内別宅は、スカイツリーから500mのところにあります。建設前に「近くに放送用の鉄塔が建設されることについて、どう思いますか?」のアンケートが来たのを思い出しました。 忘れたころに、ある日、駅を降りたら、鉄塔が見える高さにまで伸びていて驚き、その日以降、徐々に高くなっていくのを見守ったのでした。

本作は、エッフェル塔の建設を背景にした壮大なラブストーリー。
実は、建築家ギュスターヴ・エッフェルの私生活については、はっきりとした記録はないとのこと。
監督たちが調査して判明したのは下記の史実。
・ボルドーのサン・ジャン橋建設に従事していた当時28歳のエッフェルが、18歳のアドリエンヌと恋に落ち、結婚が発表されたが、アドリエンヌの両親によって取り消された。
・1889年パリ万国博覧会に向けて、エッフェルのエンジニアチームが提案してきた鉄塔プロジェクトを引き受けることをかたくなに拒んだ。それにも関わらず、急に考えを変え、300メートルの鉄塔建設を請け負う。自身の資産を抵当に入れてまで。


映画の冒頭に、「史実をもとに自由に作った」と掲げられています。
ロマン・デュリスが、建築にも恋にも熱い思いをかけたであろうエッフェルを演じて、監督たち製作陣が思い描いた建築家の人生を際立たせています。

フランス映画祭2022 横浜のオープニング作品として『EIFFEL(原題)』のタイトルで上映され、マルタン・ブルブロン監督とロマン・デュリスが来日。 オープニングセレモニーのあと、横浜みなとみらいホールだけでなく、近くのパシフィコ横浜 国際交流ゾーン プラザ広場に設置されたドライブインシアターでも上映され、舞台挨拶が行われました。
フランス映画祭 祝! 30回! 3年ぶりにゲストを迎えた盛大なオープニング
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(左:ロマン・デュリス 右:マルタン・ブルブロン監督 撮影:景山咲子)
「エッフェル塔や世界中の橋を作り、カリスマ的な人物だけど、監督から自由に演じていいよ、人間的な部分も出していいよと言われました」とロマン・デュリスが語ったとおり、自由にギュスターヴ・エッフェルの人物像に迫った作品をどうぞお楽しみください。(咲)



2021 年/フランス・ドイツ・ベルギー/フランス語/108 分/カラー/5.1ch/ドルビーデジタル/シネスコ/R15
字幕翻訳:橋本裕充
提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://eiffel-movie.jp/
★2023 年3 月 3 日(金)新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開



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2023年01月22日

すべてうまくいきますように   原題: Tout s'est bien passé

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(C)020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION – SCOPE PICTURES

監督・脚本:フランソワ・オゾン(『ぼくを葬る』『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』)
出演:ソフィー・マルソー アンドレ・デュソリエ ジェラルディーヌ・ペラス シャーロット・ランプリング ハンナ・シグラ

小説家のエマニュエルは、85歳の父アンドレが脳卒中で倒れたという報せを受け病院に駆けつける。集中治療室からは脱することができたが、身体の自由がきかず、「こんな姿はもう自分じゃない、終わらせてほしい」という。エマニュエルは妹のパスカルに相談し、父の願いを受け入れるしかないと、スイスの尊厳死協会に相談する。段取りや日程も決めるが、間近になって、父は孫ラファエルの演奏会を観てからにしたいと、実行日を延期することになる。生きる気持ちを取り戻したのではと、エマニュエルたちは期待するが、父は皆に自分で終わらせることを楽しそうに告げる・・・・

父は元実業家で、母は彫刻家。裕福な暮らしをしていて、父は美術館の運営にも関わっているらしく、人生を謳歌してきたようです。
葬儀の時には、ユダヤのカディッシュ(祈り)だけ唱えてくれればいいという言葉から、ユダヤだとわかりました。
妹パスカルは、クラシック音楽祭に携わっているのですが、ほんとうは第二次世界大戦における楽器の破壊を研究したかったと語るのを聞いて、尊厳死協会の女性が、ご家族にホロコーストの犠牲者がいらっしゃるのかと聞く場面がありました。父の従妹は強制収容所からの生還者。そして、父は少しドイツ語が話せます。ナチスが台頭した時代、どんなことがあったのでしょう・・・
ジェラールという男性が、父が一人になる時を狙って父に会いにいくのですが、エマニュエルやパスカルはジェラールを要注意人物として認識しています。でも、父は「もう来るなとは言えなかった」と言います。いったいどういう係わりがあった人物なのか謎が残りました。
スイスでは安楽死が認められていますが、それでも尊厳死協会の女性は、私たちは見守るだけ、自分で薬を飲む必要があると言います。
本作を観て、真っ先に思い出したのが『母の身終い』(2012年/フランス 監督:ステファヌ・ブリゼ)なのですが、その映画でも同様でした。
それにしても、スイスでの尊厳死はお金があるから出来ること、貧しい人は死を待つしかないという言葉にドキッとしました。
エマニュエルが時折、少女時代の父とのことを思い出す場面が出てきます。娘としては、父の思いはわかるけれど、やっぱり自死という形で見送るのはつらい・・・ ソフィー・マルソーがそんな娘の思いを体現していて素敵です。(咲)


カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品

2021/フランス・ベルギー/フランス語・ドイツ語・英語/113分/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch
字幕翻訳:松浦美奈
提供:木下グループ 
配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://ewf-movie.jp/
★2月3日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamura ル・シネマほかで全国公開

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2022年12月17日

〈特集上映〉 ピエール・エテックス レトロスペクティブ

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ピエール・エテックスって誰?
長らく観ることの叶わなかった
フレンチコメディの傑作が一挙公開!


公式サイト:http://www.zaziefilms.com/etaix/
配給:ザジフィルムズ 協力:シネマクガフィン
★2022年12月24日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開!


ピエール・エテックス Pierre Étaix
1928年11月23日 フランス中部ロワール県ロアンヌ生まれ
2016年10月14日逝去 享年87歳
映画監督・俳優・道化師・手品師・イラストレーター・作家・音楽家

幼少の頃から、チャールズ・チャップリン、バスター・キートン、ハロルド・ロイド、ローレル&ハーディ、マックス・ランデーの喜劇映画や、ロアンヌにやってきたサーカスに夢中になる。ロム、ダリオ=バリオ、ピポなどのクラウン(道化師)に憧れ、ピアノ、アコーディオン、ヴァイオリン、トランペット、マンドリンなどの楽器を習得し、体操やダンスも習う。16歳の頃から地元のレビューなどで、 パントマイムやイリュージョン、クラウンなどの芸を磨く。また、ステンドグラス作家のテオドール・ジェラール・ハンセンに師事し絵やデザインの素養も身につける。

パリに出て艶笑雑誌「Le Rire」や「Fou-Rire」のイラストレーターとして身を立てる。
1954年、ジャック・タチと運命的に出会い、タチの『ぼくの伯父さん』のための製図家、アシスタントとして雇われる。『ぼくの伯父さんの休暇』と『ぼくの伯父さん』の小説版の執筆を請け負ったジャン=クロード・カリエールと出会い、意気投合し、生涯の友となる。
二人は自主制作で8ミリ映画を作る。プロデューサーのポール・クロードンの目に留まり、エテックス監督、カリエール脚本のコンビで、1961年から7 年の間に、タチの流れを汲む、台詞に頼らない、視覚的・音響的ギャグを駆使した、3本の短編映画『破局』『幸福な結婚記念日』『絶好調』、4本の長編映画『恋する男』『ヨーヨー』『健康でさえあれば』『大恋愛』、計7本の独自のスタイルの喜劇映画を制作した。
★今回の特集で、この長編4作品と短編3作品を一挙公開。『恋する男』を除く 6 作品が、 日本では劇場正式初公開。

その後、エテックスは、サーカスの世界で、名門メドラーノの道化師ニノとのコンビで活躍するようになる。『大恋愛』で共演した、サーカスの名門フラテリーニ一座の血を引く歌手のアニー・フラテリーニと結婚。二人でクラウンのコンビを組むだけでなく、1974年には、国立サーカス学校(後に、アカデミー・フラテリーニと改名)を開校した。
エテックスは映画俳優としても活躍。手先の器用さを買われ、ロベール・ブレッソンの『スリ』やルイ・マルの『パリの大泥棒』ではスリの役。フェデリコ・フェリーニの『道化師』では、妻や、尊敬していたシャルリー・リヴェルらとともに現役のクラウンとして実名で出演。タチやエテックスのファンだったオタール・イオセリアーニの『ここに幸あり』や『皆さま、ごきげんよう』、大島渚の『マックス、モン・アムール』、アキ・カウリスマキの『ル・アーヴルの靴みがき』などの映画にも出演している。

エテックス自身が監督した作品は、フランスの法律上の問題により、シネマテークなどを除いて長く劇場で上映されていなかったが、ジャン=リュック・ゴダール、ジャック・リヴェット、レオス・カラックス、ミシェル・ゴンドリー、デヴィッド・リンチなどの署名活動により、2010年に裁判で勝訴し、すべての権利を取り戻した。エテックス監修のもとデジタル修復を施され、世界各国で再び上映することが可能となり、この10年でエテックスの再評価は格段に進んでいる。


【上映作品】

*長編*
◆『恋する男』 原題:LE SOUPIRANT
※日本初公開時の邦題:『女はコワイです』(1963年東和配給)
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス 
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1962年/フランス/モノクロ/ヨーロッパ・ヴィスタ/ モノラル/ 84分
字幕:井村千瑞
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©1962 - CAPAC
ブルジョワの出自ながら、天文学の研究に没頭して引きこもりの三十男。ある日両親に結婚を命じられ、伴侶となる女性を探しに街に繰り出すが、トホホな出来事の連続。最後に自宅に下宿していたカタコトのフランス語しか話せないスウェーデン人の女性に求婚するという「結婚」をキーワードにした コメディ。
1963年 ルイ・デリュック賞 受賞


◆『ヨーヨー』 原題:YOYO
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス 
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1964年/フランス/モノクロ/ヨーロッパ・ヴィスタ/モノラル/ 98分
字幕:神谷直希
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©1965 - CAPAC
1965年 カンヌ国際映画祭 青少年向最優秀映画賞 受賞
1965年 ヴェネチア国際映画祭 国際カトリック映画事務局賞 受賞

大きな城に暮らす大富豪の男。1929年の世界恐慌で破産し、かつて愛したサーカスの曲馬師の女性と再会し、その間にできていたことを知らなかった息子と三人で、城を捨てどさ回りの旅に出る。それは彼がかつて味わったことのない満ち足りた日々だった。サーカス界で成功をおさめた息子はヨーヨーという人気クラウンになる。第二次世界大戦が終わり、ヨーヨーはかつて父が所有していた城を取り戻そうとする…

額縁の中から、ヨーヨーをしながら出てくる男。虎やライオンの皮が敷かれた大邸宅。数人の執事が食事の世話をしたり、本を読み聞かせたりと贅沢だけど、どこか孤独な感じもします。破産して、サーカスの一団として息子と共に暮らす彼は幸せそう。
エテックスが小さい頃から好きだったサーカスの世界をテーマにした映画。当時のエテックスは父親を亡くしたばかりで、父と息子の絆を描いた作品を作りたいという気持ちもあったそうです。前半、破産するまでは、無声映画時代を思わせる作り。音響はついていますが、セリフは文字で出てきます。後半はトーキー。時代の流れを感じさせてくれます。
圧巻は、ラストに出てくる象。取り戻したお城の披露パーティに現れるのですから、びっくり。(咲)



◆『健康でさえあれば』 原題:TANT QU’ON A LA SANTÉ
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス 
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1965年/フランス/パートカラー/ヨーロッパ・ヴィスタ/モノラル/67分
字幕:横井和子
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©1973 - CAPAC – Les Films de la Colombe
なかなか寝付けない男の一夜を描いた〈不眠症〉、映画館にいたはずが、幕間に流れるCMのおかしな世界へ入り込んでしまう〈シネマトグラフ〉、近代化が進む都市で人々が受ける弊害をシュールに描いた〈健康でさえあれば〉、都会の夫婦・下手くそハンター・偏屈な農夫が織りなす田園バーレスク〈もう森へなんか行かない〉の4編からなるオムニバス・コメディ。1966年にフランスで公開されたが、71年にエテックス自身によって再編集が施され、現バージョンに生まれ変わった。


◆『大恋愛』 原題:LE GRAND AMOUR
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス 
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1968年/フランス/カラー/ヨーロッパ・ヴィスタ/モノラル/ 87分
字幕:寺尾次郎
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©1968 - CAPAC
1969年 フランスシネマ大賞 受賞
1969年 カンヌ国際映画祭 国際カトリック映画事務局賞 受賞

工場を営む実業家の一人娘フロランスと結婚したピエール。義父から仕事を任され、夫婦仲も良好だけど、どこか満たされない退屈な日々。そんなある日、引退するベテラン秘書の後任に若く美しいアニエスが入社してきて、気もそぞろになる。隣で妻が寝ているのに、妄想がエスカレートして、若い彼女と寝ているベッドが、車のように走り出す・・・

冒頭、ロワール川沿いにあるトゥールの街が映し出され、カメラは、ひと際大きい教会の中へ。結婚式が行われようとしていて、新婦フロランスを演じているのは、のちにエテックスの妻となるアニー・フラテリーニ。新婦の顔を見ながら、今、隣にいるのはフロランスでなくてもよかったはず・・・と、過去に付き合った彼女たちのことを思い出すピエール。これはお互いさまかも。
結婚して10年が経ち、町の噂好きの老婦人たちは、女性とすれ違って挨拶しただけのピエールのことを、浮気していると言いふらし、そのことがフロランスの母親の耳にも届きます。当然、娘に告げる母。一度は実家に帰る妻も、戻ってきてくれるのですが、ピエールの若い秘書への妄想はさらに膨らみます。悪友が若い秘書を落とす術をアドバイス。まったく男って! 
いつもカフェで、まだ飲んでない飲み物を、ほかのことに気を取られている老いたギャルソンに持っていかれてしまう老紳士や、噂話をする老婦人たちなど、脇役の人たちもピリリと印象に残りました。(咲)



*短編*
◆『破局』原題:RUPTURE
監督・脚本:ピエール・エテックス、ジャン=クロード・カリエール
1961年/フランス/モノクロ/スタンダード/モノラル/12分
字幕:横井和子
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©1961 – CAPAC
恋人から手紙を受け取った男。中には破かれた自分の写真が同封されていた!こちらも負けじと別れの手紙を書こうと奮闘するが、万年筆、インク、便箋、切手、デスク… なぜか翻弄されてどうしても返事を書くことができない。ジャック・タチの縁で出会ったエテックス×カリエールによる初の短編作。セリフがなく、音を使ったギャグが冴える秀作。


◆『幸福な結婚記念日』 原題:HEUREUX ANNIVERSAIRE
監督・脚本:ピエール・エテックス、ジャン=クロード・カリエール
1961年/フランス/モノクロ/スタンダード/モノラル/13分
字幕:井村千瑞
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©1961 – CAPAC
1963年 アカデミー賞 最優秀短編実写映画賞 受賞
1963年 英国アカデミー賞 最優秀短編映画賞 受賞

テーブルに結婚記念日のディナーのセッティングをする妻。夫はプレゼントを抱えて駐車していた車に乗るが、前の車が邪魔になって出られない。クラクションを鳴らすと理髪中の客が出てきて車を動かしてくれる。今度は花束を買って車に戻ると、タクシーと間違えた老紳士が乗っている。なんとか追い出し、家路を急ぐが、パリの街は大渋滞・・・ 

13分の作品なのに、たっぷり長編を一本観たような充実感! 理髪中の男性や、タクシーになかなか乗れない老紳士など、この短編でも脇の人たちの末路がちゃんと描かれていて笑わせてくれました。やっとの思いで家にたどり着いた夫が目にしたのは・・・?
エテックス×カリエールのエッセンスがびっしり詰まった傑作です。(咲)


◆『絶好調』 原題:EN PLEINE FORM
監督・脚本・主演:ピエール・エテックス 
脚本:ジャン=クロード・カリエール
1965年/フランス/モノクロ/ヨーロッパ・ヴィスタ/モノラル/14分
字幕:横井和子
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©1971 - CAPAC
田舎でソロキャンプをする青年。しかし、警官に管理の行き届いたキャンプ場に行くように言われてしまう。そこは有刺鉄線で囲われた、まるで強制収容所(キャンプ)で…。
当初は『健康でさえあれば』(65)の一部を成していたが、71年の再編集で外された。2010年にデジタル修復された際に、ほかの作品とともに公開され、短編として生まれ変わった。




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2022年11月26日

あのこと  原題:L'evenement  英題:Happening

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© 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS – FRANCE 3 CINÉMA – WILD BUNCH – SRAB FILM

監督:オードレイ・ディヴァン
原作:アニー・エルノー「事件」
出演:アナマリア・ヴァルトロメイ(『ヴィオレッタ』)、サンドリーヌ・ボネール(『仕立て屋の恋』)

1960年代のフランス。アンヌは大学で文学を学び、作家になるのを夢見ている。教授からも詩の解釈が素晴らしいと目をかけてもらっている。そんなある日、なかなか生理が来ないので、医者に行くと妊娠だと告げられる。学位を取るための試験を目前にして、今は産めない。医師からは中絶は違法だから加担できないといわれる。なんとかしなければと、アンヌは解決策を模索するが、ついに12週目を迎える・・・

中絶が違法な時代。医師は中絶に加担したくないどころか、「医師の大半は女性に選択肢はないと考えている。妊娠を受け入れて」と告げるのです。必ずしも快楽の結果だけでない妊娠。いえ、快楽の結果だったとしても、女性に選択肢がないというのは理不尽です。
自分でなんとか処置しようとする姿が痛々しいです。
処置できたとしても、その後、医師に診てもらって診断書に「流産」と書かれれば問題にならないけれど、「中絶」と書かれれば刑務所行きの時代でした。
中絶が違法な中で、少女が奔走する話で思い出すのは、『4ヶ月、3週と2日』『17歳の瞳に映る世界』です。
予期せぬ妊娠で辛い思いをするのは女性だけ。男性は妊娠させないことに、もっと気を使うよう、これらの映画を心して観てほしいと願います。

なお、フランスで中絶が合法化されたのは、1975年。
1974年、ジスカール・デスタン大統領時代に保健相になったユダヤ系の女性政治家、シモーヌ・ヴェイユの奔走によって合法化したもの。カトリック信者の多いフランスで大反対を受けながらの合法化。日本では、1948年に合法化されています。

原作は、2022年ノーベル文学賞を受賞したフランスの作家アニー・エルノーの短編「事件」。
エルノー自身が体験した壮絶な違法中絶をもとに描いた小説を映画化するにあたって、ディヴァン監督は、エルノーと1日一緒に過ごし詳しく話を聞いたとのこと。80歳を超えたエルノーが、まさに中絶を行う瞬間の話を始めた時、目に涙を浮かべていて、今なお癒えていない悲しみを感じたディヴァン監督。「政治的な背景をより正確に理解した上で、女性たちが決意の瞬間に抱いた恐怖に触れることができました」と振り返っています。
本作の原作「事件」は、「嫉妬」(早川書房)に併録されています。
また、アニー・エルノーが自身の年下男性との愛と性の体験を元に綴った原作を映画化した『シンプルな情熱』も記憶に新しいです。
『あのこと』でも、性への欲望を自然なものとして描いていることに注目いただければと思います。(咲)


☆フランス映画祭2022 横浜 オープニングセレモニーに登壇しました!
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オードレイ・ディヴァン 監督

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アナマリア・ヴァルトロメイさん
撮影:景山咲子


第78回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞

2021年/フランス/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/100分
字幕:丸山垂穂
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/anokoto/
★2022年12月2日(金)Bunkamuraル・シネマ他 全国順次ロードショー.

posted by sakiko at 20:18| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月30日

ソウル・オブ・ワイン 原題:L'ame du vin

2022/11/4(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー  劇場情報

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©2019 – SCHUCH Productions – Joparige Films – 127 Wall 

「ソウル・オブ・ワイン」は大地と空と人の出会いから

監督・脚本:マリー=アンジュ・ゴルバネフスキー
撮影:フィリップ・ブレロー
出演者 公式HP

高級ワインの代名詞ともいわれるロマネ=コンティをはじめとする世界最高峰のワインを生み出すワイン愛好家の聖地、フランス・ブルゴーニュ地方。名だたる畑を守る生産者たちの貴重な舞台裏を1年に渡り密着したドキュメンタリー。
農薬や除草剤を使わず、草むしりは手作業。畑を耕すのは馬を使い、自然のままの有機農法やビオディナミ農法でワイン造りをするブルゴーニュの生産者たち。土地の所有者ではなく、次世代へとその遺産を受け継ぐ番人と語る。そして何世紀もの間、ワイン畑を守り、その技と知恵、哲学をつないできた。ワインとテロワール(土壌や生育環境)について語り、最高級のワインが生まれる貴重なプロセスを、丁寧に、冬から春、実が大きくなり、熟れ、収穫を経て、ワインができるまでを四季を通じて映し出す。
詩的で芸術的な映像を観ながら、何世紀も繰り返され、継続されてきたワインができるまでの過程をじっくり眺めると、自然の真理やワイン造りの哲学が伝わってくる。またワイン造りに欠かせないオークの樽作り工程も丁寧に描きだされる。
葡萄生産者から樽職人、ワイン生産者、醸造専門家、ソムリエなど、フランスのワイン界を代表する一流のスペシャリストたちが、その香り高く味わい深い世界の導き手となり、フランスのワイン文化の「真髄」、丹念な仕事を映し出す。

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©2019 – SCHUCH Productions – Joparige Films – 127 Wall
 
1本200万円以上すると言われている高級ワインなんて、私には縁がないし、興味もなかったけど、この作品はそれらの高級ワインの生産地ブルゴーニュを舞台に、葡萄を栽培する人、ワインを造る人、はたまたワイン樽を作る人、そしてソムリエや醸造専門家など、ワインに関わる人たちが出てきて、ワインを語る。ワインはこういう風に作られているのだという作りになっていて、とても興味深い。ワインが好きな人もワインを飲まない人にとっても、このようにしてワインが作られていくという過程が描かれ、とても興味深いドキュメンタリーだと思う。
特に葡萄を作る生産者たちの仕事が最初から最後まで描かれていたのが、とてもうれしかった。馬で畑を耕すところや、剪定、農薬や除草剤に頼らず手による除草、葡萄を手摘みする姿、葡萄の仕分けまでしっかり描かれ、そして樽作りについても最初から最後まで描かれ、樽ってこんな風にできるんだと感心した。また、フランス、ブルゴーニュ地方の四季の葡萄畑の風景と、何世代にも渡ってワイン畑を守り続ける生産者たちの知恵と技、そして畑を継続してゆく姿を通して、ワインと人間の関わり、ワイン造りの原点を幅広く紹介している。この作品で、樽からスポイトのようなものでワインを取り出して試飲する光景を見て、私もこの経験をぜひしてみたいと思った。
最後のほうでパリに店を持つ日本人のソムリエとシェフが1945年のヴィンテージワインを試飲するシーンがでてくるが、「ドキドキするとか、感動しかない」とかいう言葉を繰り返すばかりで、せっかくのワインの味覚を表現する言葉が出てこなかったのが残念だった(暁)。


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©2019 – SCHUCH Productions – Joparige Films – 127 Wall 


公式サイト  http://mimosafilms.com/wine/
2019年/フランス/フランス語/102分/カラー/1.85:1/5.1ch 
字幕:齋藤敦子 字幕監修:情野博之
協賛:株式会社ファインズ 
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本、一般社団法人日本ソムリエ協会 
配給:ミモザフィルムズ

posted by akemi at 20:32| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする