2021年06月10日

47歳 人生のステータス(原題:BRADʼS STATUS)

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監督・脚本:マイク・ホワイト
出演:ベン・スティラー、オースティン・エイブラムス、ジェナ・フィッシャー、マイケル・シーン ほか

ブラッド(ベン・スティラー)は⾳楽の才能がある息⼦のトロイ(オースティン・エイブラムス)の大学受験準備のために息子と2人でボストンに行き、⼤学を巡ることに。妻のメラニー(ジェナ・フィッシャー)は仕事で行けなかったのだ。トロイを案内しながら、ブラッドの頭に浮かぶのは⼤学時代の4⼈の親友たちと⾃分の⼈⽣の⽐較ばかり。というのも、ニック(マイク・ホワイト)はハリウッドの⼤物、ジェイソン(ルーク・ウィルソン)はヘッジファンドの創設者、ビリー(ジェマイン・クレメント)はハイテク企業の起業家、そして、クレイグ(マイケル・シーン)は政界の情報通でベストセラー作家と華々しいキャリアを築いているからだった。 ブラッドは、彼らの裕福で魅⼒的な⽣活を想像し、居⼼地の良い中流家庭が⾃分の⾏き着く最⾼のものなのかと思いを巡らせる。しかし、旧友たちと再び連絡を取るようになり、次第にブラッドはある疑問を抱き始める。⾃分は本当に負け組なのか、それとも、友⼈たちの輝かしい姿の裏には本質的な⽋陥があるのか。
 

47歳といえば大学を卒業して25年。仕事の成果や評価が定まってくるころ。息子の大学見学に付き添い、母校のあるボストンを訪れた主人公は同級生たちの華やかな成功に負け感を覚える。プライベートジェットを所有する会社社長やテレビでもてはやされる政治評論家、会社を売り払って悠々自適の生活を送る者というセレブな友人を持つ人はそうそういないけれど、同級生と比べてしまうのは誰にでもあることなのでは。私たちレベルでは、もっと些細な違いが大きな違いに思えてしまう。
人は自分の幸せには鈍感になりがち。主人公には同級生たちにはない幸せを持っていた。それに気がつけるかどうかが人間の器の本当の大きさなのではないかと作品から伝わってくる。(堀)


夫婦仲良く、賢い自慢の息子がいて、何を贅沢なと思いつつ観ていました。親友と比べて遜色なかった自分なのに、こんなはずじゃなかった、と不満ばかり。あるものよりないものを数える人なんですね。それまで病気もせず、ひどい目にも遭うことなく生きてこられてラッキーと思え>ブラッドへ。まあ、この年頃が人生の中で一番不幸だと思う時期なんだそうですが。更年期と重なりますね。
最後まで観ていただければ、いいところへ着地しますので安心して。
この映画を観て思い出したのが、26歳で亡くなった石川啄木の短歌です。
「友がみなわれよりえらく見ゆる日よ 花を買ひ来て 妻としたしむ」(最初の歌集「一握の砂」所収。3行に分かち書き)
早く結婚して両親と妻子を養い、汲々としていた中で詠まれたようです。47歳のブラッドの半分、23,4歳ごろに発表されています。人生が短かった時代の人は早熟ですねぇ。(白)


2017年/102分 / 5.1ch/カラー/2:1/アメリカ
配給:STAR CHANNEL MOVIES
© 2017 Amazon Content Services LLC and Kimmel Distribution LLC
公式サイト:https://www.star-ch.jp/starchannel-movies/detail_047.php
★2021年6月11日(金)AM0:00配信開始
posted by ほりきみき at 01:26| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年06月06日

ブラックバード 家族が家族であるうちに(原題:BLACKBIRD)

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監督:ロジャー・ミッシェル
原作・脚本:クリスチャン・トープ
撮影:マイク・エリー
出演:スーザン・サランドン(リリー)、ケイト・ウィンスレット(ジェニファー)、ミア・ワシコウスカ(アナ)、リンゼイ・ダンカン(リズ)、サム・ニール(ポール)、レイン・ウィルソン(マイケル)、ベックス・テイラー=クラウス(クリス)、アンソン・ブーン(ジョナサン)

医師のポールと妻のリリーの家に娘たちがやってくる。長女のジェニファーは夫のマイケル、息子のジョナサンと、次女のアナはパートナーのクリスを連れて両親の住む海辺の家を訪ねる。リリーは難病と長く戦ってきたが、病状が進み安楽死をしたいと家族に告げたのだった。
ジェニファーは母の選択を尊重するつもりだったが、母に会うとまた心が揺れる。アナは母にはもっと生きていてほしい、と泣き出す。孫のジョナサンはここに来て初めて知ってショックを受けている。
家族だけで最後の日々を過ごすはずなのに、母リリーの親友リズもいる。彼女はいつも家族同様だったけれども、ジェニファーはなぜか受け入れられない。

「トーキョーノーザンライツフェスティバル2016」で上映されたデンマーク映画『サイレント・ハート』(2014)を、リメイクしたもの。そちらは残念ながら未見。脚本のクリスチャン・トープがこちらでも担当しました。
安楽死を決意したリリーは、自ら最後の晩餐を計画・早いクリスマスプレゼントを用意します。盛装して現れるリリーが輝いてとても綺麗です。しかし娘たちの心中は穏やかでなく、姉妹は一騒動あったばかり。
強くて美しい母・スーザン・サランドンとしっかり者でまじめな長女・ケイト・ウィンスレットは共にオスカーを受賞(親子ほどの年齢差)したベテラン女優、ごく普通の主婦を演じても貫禄がにじみ出ます。ミア・ワシコウスカ演じるアナの逡巡もまた身につまされます。
夫のポールがわりあい落ち着いているのは医師だからかと思っていたら、だんだん明らかになる真実。私はちょっと納得いかず「う~む」でした。孫のジョナサンが率直で可愛いです。彼がいてくれてなごみました。

安楽死については、自分や家族だったら、と考えると簡単に答えが出ません。上映中の日本映画『いのちの停車場』にも安楽死を望む老親が登場しました。治療法もなく、激しい痛みに苛まれている人を前にしたら、楽にしてやりたいと思ってしまうでしょう。
医師など他人による「積極的安楽死」が認められている国が7カ国(アメリカは州によっては認可されています)。中でもスイスが1942年から認可されているというのには驚きでした。スペインとニュージーランドが今年中に合法化されるようです。日本もいつかは合法化されるのでしょうか?「ブラックバード」とは カラスではなく、”クロウタドリ” という真っ黒な羽根のツグミ科の鳥。なぜこのタイトルなのかしら?(白)


尊厳死について扱った作品ですが、尊厳死を選ぶまでの葛藤ではなく、すでに決定事項とした上で、最後の3日間を家族で過ごしたいという主人公のために娘家族や親友が集まる話です。
医者の夫は主人公からきつい言葉を投げつけられても丸ごと受け止め、妻の生活を支えています。尊厳死についてもおそらくいろいろ話し合った上で妻の意思を尊重し受け入れたのであろうことが伝わってきます。
そこに集まる長女家族と次女カップル、親友。長女の一人息子は受け止めきれず戸惑い、次女は思いとどまらせようとする。それぞれの気持ちが丁寧に描かれているのでみなに共感してしまう。
命は誰のものなのか。いえ、命は誰かのものというものなのか。
後半にある事実が判明し、それまでは主人公の気持ちを受け入れていた長女が気持ちを翻す。「母はある人物の思惑で間違った判断をさせられたのではないか?」
クライマックスの修羅場はベテラン女優たちの熱演が光る。主人公は最終的に何を選び、家族はどう受け止めたのか。理解できる人とできない人がいるかもしれませんが、それも含めてさまざまな思いがあって正解はないことを改めて考えさせられます。(堀)


2019年/アメリカ・イギリス合作/カラー/シネスコ/110分
配給:プレシディオ、彩プロ
(C)2019 BLACK BIRD PRODUCTIONS, INC ALL RIGHTS RESERVED
https://blackbird.ayapro.ne.jp/
★2021年6月11日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 14:50| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年06月04日

カムバック・トゥ・ハリウッド!!(原題:The Comeback Trail)

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監督・脚本:ジョージ・ギャロ
オリジナル脚本:ハリー・ハーウィッツ
脚本:ジョージ・ギャロ ジョシュ・ポスナー
撮影:ルーカス・ビエラン
美術:スティーブン・J・ラインウィーバー
衣装:メリッサ・バーガス
編集:ジョン・M・ビターレ
音楽:アルド・シュラク
出演:ロバート・デ・ニーロ、トミー・リー・ジョーンズ、モーガン・フリーマン、ザック・ブラフ、エミール・ハーシュ

舞台は1970年代のハリウッド。B級映画プロデューサーのマックス(ロバート・デ・ニーロ)はギャングのレジー(モーガン・フリーマン)から資金の提供を受けて映画を撮るが失敗し、借金が返せずピンチに陥る。そんなときに弟子だった映画プロデューサーが映画撮影中に主演俳優が事故死し、保険金を手に入れたことを知る。マックスは早速ボツにしていた脚本を引っ張り出し、老人ホームから往年のスター、デューク(トミー・リー・ジョーンズ)を担ぎ出して西部劇の撮影を開始する。ただし本当の目的は撮影中にデュークに死んでもらい、保険金を手に入れること。自殺を考えていたはずのデュークは思いの外しぶとくて、撮影は順調に進んでしまう。

ロバート・デ・ニーロが『グランパ・ウォーズ おじいちゃんと僕の宣戦布告』に続いて普通じゃない高齢者をコミカルに演じています。酸いも甘いも噛み分けたロバート・デ・ニーロだからこその役どころ。これからはこの路線でいくのかもしれません。
モーガン・フリーマンが演じるギャングはかなりの映画オタク。セリフの1つ1つに映画ネタが散りばめられています。しかし、映画ネタだとわからなくても楽しめますから安心してください。
トミー・リー・ジョーンズはデュークという名の往年の映画スターを演じていますが、飄々としていながらも時々ふっとカッコいいところを見せる。枯れ専女子にはたまらないのでは。ちなみにデュークはジョン・ウェインの愛称。もともとはジョン・ウェインの愛犬の名前だったそうですが、いつも連れていたのでそう呼ばれるようになったとか。
3人のレジェンド名優が活き活きとそれぞれの役どころを演じています。映画を撮るって夢とロマンがあふれているのでしょうね。
監督と脚本を務めたのは、『ミッドナイト・ラン』の脚本で知られるジョージ・ギャロです。若い頃にハリー・ハーウィッツ監督の自主制作映画『The Comeback Trail』という未完成の映画のラフカットを観て頭から離れなくなり、権利を持つ人を探し続けてきたところ、『ミッドナイト・ラン』の上映会でハリー・ハーウィッツ監督の未亡人と出会ったのです。意気投合した2人はこの映画についてパートナーとなることで同意。企画が動き出したそう。人生、どこで何があるかわかりません。(堀)


2020年/104分/G/アメリカ
配給:アルバトロス・フィルム
©2020 The Comeback Trail, LLC All rights Reserved
公式サイト:https://comeback-hollywood.com/
★2021年6月4日(金)公開
posted by ほりきみき at 00:00| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年05月30日

戦火のランナー  原題:Runner

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監督・プロデューサー:ビル・ギャラガー
撮影:ニッキー・ブラムリー、ピーター・グメ、ジェイコブ・ベンジャミン・アテニー
脚本・編集:ビル・ギャラガー、エリック・ダニエル・メッツガー
音楽:エドゥアルド・アラム
製作総指揮:ジェイ・ナライン、リンジー・ナライン
出演:グオル・マディング・マケア(グオル・マリアル)、ラスティ・コフリン、コーリー・イーメルス、ブラッド・プア他

初めて走ったマラソンで、2012年のロンドンオリンピックに難民選手団として出場を果たしたグオル・マリアル選手の感涙のドキュメンタリー。

1984年、スーダン南部で生まれたグオル・マリアル。スーダンとして、1956年にイギリスとエジプトの統治下から独立するものの、アラブ系住民の多い北部と、アフリカ系住民の多い南部の間で内戦が勃発。途中、停戦したこともあるが、内戦は2005年まで40年近くも続いた。子どもはさらわれ、家は燃やされ、どこもが戦場。両親は8歳のグオル・マリアルの命を守るため、彼を一人で逃がす苦渋の決断をする。逃げたものの武装勢力に捕まってしまったグオルは、夜明け前に走って逃げることに成功する。その後4年間、スーダン南部を放浪し、ようやく難民キャンプに保護される。2001年、16歳の時に幸運にもアメリカへ難民として移民する。ニューハンプシャー州の高校に入学し陸上部に入った彼は、走ると他を圧倒。初めて走ったマラソンで2012年ロンドン五輪出場資格を得る。しかし、彼の故郷が南スーダンとして建国されたのはロンドン五輪開催の一年前。国内オリンピック委員会がなく、代表する国がなかった。出場が危ぶまれたが奇跡が起こる。国際オリンピック委員会(IOC)が“国のない男”といわれた彼の個人参加選手としての出場を認めたのだ。そして彼は、祖国南スーダンの人々の期待を背負い走り、完走する・・・

内戦の中、身を守るために走り続けたグオルが、独立したばかりの祖国の人たちの思いを背負ってマラソン選手として活躍する姿に胸が熱くなりました。なにより涙なしに観られなかったのは、20 年ぶりに故国を訪れ、両親との再会を果たした場面。両親と別れたのは、8歳の時。自分だとわかってくれるだろうかとの不安も、泣きじゃくるお母さんや、踊り狂うお父さんの姿をみて吹っ飛びます。ご両親も、こんな日が来るとは思いもよらなかったことでしょう。
本作を観て思い出したのが、『行け、生きろ、生まれ変われ』のタイトルで、第13回フランス映画祭横浜2005で上映された後、『約束の旅路』の邦題で2007年3月10日から一般公開された映画。
1984年、スーダンの難民キャンプにいるエチオピアのユダヤ人を、 イスラエルとアメリカの援助で秘密裏にイスラエルに移民させた「モーゼ計画」。難民キャンプで、あるキリスト教徒の母親が我が子だけでも助けたいと、 9歳の息子にシュロモというユダヤ名を教え込み、 ユダヤ女性に託してイスラエルに逃れさせた物語。
親は、永久に会えなくても、我が子の幸せを願って別れを決断できるものなのだとつくづく思いました。(咲)


戦火を逃れ、難民になり、内戦の続く故国スーダンを飛び出しアメリカに渡ったグオル。そこで走る力を認められオリンピック選手にまで上り詰められたということ自体が感激の真実だけど、2011年新しく「南スーダン」として独立した故国の期待を背負いオリンピックで走ることができたということ。こんな話を若い人たちは知ってほしい。両親とは会えたのだろうかと途中で心配しながら観ていたが、最後に再開シーンがあって、「両親は生きていたんだ」とほっとし、また涙。でも彼以外の兄弟姉妹は亡くなってしまっていたということを知り、厳しい内戦下を生き抜いて選手になったグオルに改めてよかったねと思った。
そして南スーダンの選手たちといえば、今、群馬県前橋市でもう2年も練習を続けている陸上の選手たちがいる。南スーダンでは練習ができなかったが、日本の支援者たちがクラウドファンディングで基金を募り、練習を続けている。このコロナ禍でオリンピックが延期になってしまったけど、延長して練習を続けているという。何度かTVでその姿を見たことはあったが、あまり深く考えていなかった。でもこのドキュメンタリーを観て、彼らがそういう走れる環境を手に入れて走れるよう支援している人たちが日本にもいることに、日本人も捨てたもんじゃないと感動した。そして、南スーダンは今も危機的な状態に置かれています。支援などに興味がある方は、ネットで探してみてください(暁)。

*朝日新聞デジタル記事
コロナ禍も走り続ける 南スーダン選手 異国で支えられ
写真・文 福留庸友 2020年6月24日 17時00分
https://www.asahi.com/articles/ASN6R5V37N6LUQIP03F.html?iref=pc_rellink_01

◆公開に先立ち、主人公のグオル・マリアル選手、そしてビル・ギャラガー監督
から届いたビデオメッセージを、ぜひご覧ください。

https://unitedpeople.jp/runner/archives/15755


*「南スーダン」についての解説*
グオル・マリアル選手の故郷が、「南スーダン」として、2011年にスーダンから独立するまでの過程、そして独立後も紛争の絶えない南スーダンの状況について、公式サイトに掲載されている本作アンバサダーの友成晋也氏(元JICA南スーダン事務所長、一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構代表理事)による解説文を是非お読みください。
https://unitedpeople.jp/runner/exp

◆友成晋也さんによるアフタートーク
日時:6月5日(土)、6月6日(日)13:00-上映後 約20分間を予定

2020年/アメリカ/英語/88分/カラー/16:9
配給:ユナイテッドピープル 宣伝:スリーピン
公式サイト:https://unitedpeople.jp/runner
©Bill Gallagher
★2021年6月5日(土)シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー



posted by sakiko at 16:28| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング 原題:Denise Ho: Becoming the Song

2021年6月5日よりシアター・イメージフォーラムにて公開 公開劇場情報 

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©Aquarian Works, LLC 

監督・脚本・プロデューサー:スー・ウィリアムズ 
制作総指揮:ヘレン・シウ 
共同制作:ジュディス・ヴェッキオーネ
編集:エマ・モリス 
撮影:ジェリー・リシウス 
字幕:西村美須寿 字幕監修:Miss D 
出演:デニス・ホー(何韻詩)、アンソニー・ウォン(黄耀明)、アニタ・ムイ(梅艷芳)

香港に自由を
デニス・ホー。熱狂と再生のドキュメンタリー


2014年に香港で起こった「雨傘運動」。警官隊の催涙弾に対抗して雨傘を持った若者たちが街を占拠したこの運動に、一人の香港歌手の姿があった。彼女の名前はデニス・ホー(何韻詩)。同性愛を公表する香港のスター歌手である彼女は、この雨傘運動でキャリアの岐路に立たされていた。彼女は、中心街を占拠した学生たちを支持したことで逮捕され、中国のブラックリストに入ってしまう。
ジョニー・トー(杜琪峯)監督の『奪命金』(2011)に出演し、俳優としても活躍する香港の歌手デニス・ホーを追ったドキュメンタリー。パワフルなコンサート映像や、雨傘運動に対する支援など、デニスの様々な活動を追っている。
デニス・ホーは1977年香港生まれのシンガーソングライター。11才で家族とカナダへ移住。9才の時にコンサートで見たアニタ・ムイ(梅艷芳)に憧れ、1996年香港の歌唱コンテストに出場し歌手の道へ。アニタ・ムイの弟子に。2001年にデビュー。音楽賞を総ナメにして以後香港ポッブスの中核を担う歌手として音楽活動を続ける中、女優としても活躍。
2014年、香港の民主的な選挙を求めて3ヶ月に及ぶ道路占拠に至った「雨傘運動」。警官隊の催涙弾に対抗して雨傘を持った若者たちが街を占拠したこの運動にデニスも参加。香港の女性歌手で初めて同性愛であることも公表していた彼女は、この雨傘運動でキャリアの岐路に立たされた。学生たちを支持し運動に参加したことで逮捕され、中国のブラックリストに。スポンサーが離れていき、演唱會を開催することが出来なくなった彼女は、キャリアを再構築しようと第二の故郷モントリオールへと向かった。カナダやアメリカでもライブを行い支持者を募り歌手活動を続ける。
 2019年には逃亡犯条例改正に反対するデモが起き、彼女は再び運動に参加。数百万のデモ参加者が街頭に繰り出した時、彼女も催涙ガスと放水砲が飛び交う通りに立ちデモ参加者を守ろうと警官隊と対峙。国連やアメリカ議会でも香港の危機的状況について訴え、自由と民主主義を守ろうとする人々の姿を世界に発信した。

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 ©Aquarian Works, LLC 

これから見えるのは香港ポップス界のスターであるデニスが香港のアイデンティティと自由を守るために声を上げる民主活動家へと変貌していく姿。香港の闘いはまだ終わっていない!
 1994年頃から中華圏(香港、台湾、中国、シンガポールなど)の音楽にハマってしまい、それから約20年。中華圏音楽のCDを買い、今や400枚位ある。でもアニタやデニスは2枚くらいしか持っていない。それでもアニタの歌や映画はけっこうビデオで観てきた。でもデニスのことは、映画は『奪命金』しか知らなかった。彼女が活躍し始めた10年位前からHMVとか行かなくなってしまったから。今、日本で彼女のCDを買うことができるなら買って聞いてみたい。
『奪命金』でデニスは漁夫の利を得る銀行員だか金融機関に勤める事務員の役を演じていた。そういえば、2012年の香港電影金像奨の取材で香港に行ったなと思い、その時『奪命金』は助演女優賞・蘇杏璇(ソー・ハンシュン)と助演男優賞・盧海鵬(ロー・ホイパン)を受賞していたと思い出し、もしかしてその時デニスも授賞式の会場に来ていたらレッドカーペットでの写真があるかもしれないと、その時の写真を調べてみたけど、彼女はどうも授賞式には来ていなかったよう。写真はなかった。アニタ・ムイのラストコンサート?には、デニス以外のアニタの弟子的な存在のグラスホッパーやアンディ・ホイの姿もチラッと写っていて懐かしかった。みんな元気だろうか。
この映画のデニス・ホーの姿を通して、香港の人々の声が世界に伝わるといいのだけど。そして香港でも公開できる日が来てほしい(暁)。


香港の自由と民主主義のために果敢に闘うデニス・ホーという歌手がいることを、この映画を観るまで知りませんでした。
アニタ・ムイに憧れて歌手になり、弟子入りも果たしたデニス・ホー。
アニタ・ムイが亡くなる前年の2002年の初冬だったと記憶しているのですが、闘病中のアニタを囲んで、アニタと親しい歌手たちが出演するコンサートが香港コンベンションセンターで開かれました。もしかしたら、レスリー・チャンも出るかもと、レスリーのファン仲間6人で香港に飛びました。予想に反して、レスリーは最後まで出てこなくてがっかりだったのですが、アンディ・ラウやジャッキー・チュン等々、アニタと親しい香港のトップスターたちが一堂に会して、痩せ細ったアニタを疲れさせないようにと気遣うアットホームなコンサートでした。このコンサートに、デニス・ホーも出演していたのかもしれません。その後、アニタの追随はやめ、自分らしいスタイルで活動しているデニス・ホー。彼女の願いが叶って、香港にかつてのような自由な世界が戻ることを祈るばかりです。かなり絶望的なのが悲しい・・・ (咲)


協力:TOKYO FILMeX、市山尚三 資料監修:江口洋子 
【2020/アメリカ/ドキュメンタリー/DCP/83分】
『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』公式HP
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左から黄耀明と何韻詩 ©Aquarian Works,LLC


*シネマジャーナルHP 「雨傘運動」に関する、他の作品の監督インタビュー記事
『革命まで』2015年 香港
郭達俊(クォック・タッチュン)監督&江瓊珠(コン・キンチュー)監督インタビュー
山形国際ドキュメンタリー映画祭 2015にて
http://www.cinemajournal.net/special/2016/kakumeimade/index.html

『乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動』
英題 Yellowing   香港/2016年/128分カラー/広東語
山形国際ドキュメンタリー映画祭2017 アジア千波万波 小川紳介賞受賞
山形国際ドキュメンタリー映画祭 2017にて
http://www.cinemajournal.net/special/2017/yellowing/index.html

『乱世備忘 僕らの雨傘運動』
陳梓桓(チャン・ジーウン)監督インタビュー(日本公開時)
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/460641864.html

posted by akemi at 08:32| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする