2023年07月21日

『少年』(1983)デジタルリマスター版 日本劇場初公開

『少年』 原題:小畢的故事/英語タイトル:Growing Up
台湾巨匠傑作選2023 にて上映
2023年7月22日(土) ~ 9月8日(金) 新宿K’s cinemaほか順次開催!

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©1983 Central Motion Picture Corporation & Evergreen Film Company / ©2023 Taiwan Film and Audiovisual Institute

2023年の“台湾巨匠傑作選”は、「台湾映画新発見!」というテーマで、台湾ニューシネマのルーツとエンターテインメント映画の系譜を紐解く。その中でも台湾ニューシネマの原点といわれる『少年』は注目作。

『少年』は、朱天文(チュー・ティエンウェン)原作・脚本、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の製作。監督は、侯孝賢監督の盟友であり、撮影で侯孝賢監督を支えた陳坤厚(チェン・クンホウ)。原作は、新聞に掲載された朱天文の短編小説「小畢的故事(シャオビーの物語)」。これはふたりの出会いとなった作品で、これ以降、侯監督全作品の脚本は朱天文が担当することになり、多くの作品を生み出してゆく。
日本での劇場公開は初。

監督・撮影:陳坤厚(チェン・クンホウ)
原作・脚本:朱天文(チュー・ティエンウェン)
脚本:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)、丁亞民(ディン・ヤーミン)、許淑真(シュー・シューチェン)
エグゼクティブプロデューサー:明驥(ミン・チー)
プロデューサー:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)、徐国良(シュー・クオリャン)
編集:廖慶松(リャオ・チンソン)
音楽:李宗盛(ジョナサン・リー)
キャスト
母 シウイン(秀英)… 張純芳(チャン・チュンファン)
父 ビー・ターシュン(畢大順)… 崔福生(ツイ・フーシェン)
アジャ(畢楚嘉=ビー・チュージャ/小畢=シャオビー)… 顔正国(イェン・チェンクオ/幼年)、鄭傳文(ジョン・ジュアンウェン/小学生)、鈕承澤(ニウ・チェンザー/中学生)、庹宗華(トゥオ・ツォンホア/成年)

少年シャオビーの成長を、同級生でもある隣家の少女の目線で描いた作品で、当時の子供たちの姿を活き活きと描いている。『風櫃の少年』『童年往事 時の流れ』に連なる作品。

1960年代の台湾北部の川沿いのまち淡水。未婚の母シウインは、5歳の息子アジャ(小畢=シャオビー)/畢楚嘉(ビー・チュージャ)の将来のため、年の離れた外省人の公務員のビー・ターシュンと見合い結婚する。ターシュンはアジャを温かく見守り、実の息子のように可愛がる。やがてアジャの弟が生まれ、弟が二人に。中学に上がったアジャは悪友たちとともに問題を起こしてばかりの日々に。どんなにひどい悪さをしても、ターシュンはアジャのことをかばってくれたが、ある日、不注意から弟の命を危険にさらし、さらに追い打ちをかけるように喧嘩騒ぎを起こし、とうとうターシュンを怒らせてしまった。シウインにとってターシュンとの結婚は、アジャに良い教育を受けさせるためのものだった。しかし、ターシュンに対してアジャが放った言葉は、結婚当初からの変わることのないターシュンの優しさに恩義を感じていたシウインをひどく傷つけ、やがてシウインは自ら命を絶ってしまう。
最愛の妻を亡くし悲しみに暮れるターシュンは、息子たちを連れて淡水を去った。やがてアジャはターシュンの反対を押し切って空軍学校へ進む。シウインがターシュンに告げたただひとつの結婚の条件は、アジャを大学に進学させることだったので、ターシュンは妻との約束を守りたかったが、アジャにとっては自堕落な自分と決別し人生をやり直すと決めた道だった。
数年後、小学校の同窓会が開かれ、懐かしい顔ぶれのなかに誇らしげに空軍の制服を着たアジャの姿があった。

『少年』は、封切り後瞬く間に大ヒットとなり、さらにこの年の金馬奨では先に紹介した最優秀脚本賞をはじめ、最優秀監督賞、最優秀編集賞を受賞し、台湾ニューシネマの夜明けを代表する記念碑的な作品となった。

陳坤厚(チェン・クンホウ)監督紹介 HPより
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©1983 Central Motion Picture Corporation & Evergreen Film Company / ©2023 Taiwan Film and Audiovisual Institute

1939年台中生まれ。1962年に中央電影公司に入社後、叔父である名カメラマンのライ・チェンイン(賴成英)の助手として撮影を学び、以後、当時健康写実路線映画の代表監督リー・シン(李行)作品の撮影を担当し、1977年には『生きている限り僕は負けない(汪洋中的一條船)』で第15回金馬奨最優秀撮影賞を受賞。同じくリー・シン監督のスタッフだったホウ・シャオシェン(侯孝賢)と1979年より一緒に映画製作を始め、アイドルを起用した青春恋愛映画を立て続けに発表し、大ヒットとなる。その後1982年にホウ・シャオシェン、シュー・シューチェン(許淑真)とともに映画製作会社「萬年青」を設立、気鋭の作家チュー・ティエンウェン(朱天文)の短編小説『小畢的故事』をチェンがメガホンを執り映画化した。大ヒットとなった自身の長編5作目『少年』は第20回金馬奨で最優秀劇映画賞、最優秀監督賞、最優秀脚色賞を受賞し、台湾ニューシネマの幕開けを告げる作品のひとつとなった。その後1983年には『坊やの人形』の撮影を担当し、その後『冬冬の夏休み』までホウ・シャオシェンとの共作が続く。1985年からは独自の道を歩み始め、台湾ニューシネマを代表する監督のひとりとして『最想念的季節』(85)『流浪少年路』(86)『桂花小路(桂花巷)』(87)などを発表。

1983年/94分/台湾/カラー  
★第20回金馬奨最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞受賞

トークショー 
【日時】7/23(日) 10:00の回『少年』上映後
【登壇者】樋口裕子さん(翻訳家)

『台湾巨匠傑作選2023』公式HP https://taiwan-kyosho2023.com/
posted by akemi at 20:51| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

台湾巨匠傑作選2023

~台湾映画新発見!エンターテインメント映画の系譜~

幻の『少年』原題:小畢的故事 日本劇場初公開!
(原作・脚本:朱天文、製作:侯孝賢、監督:陳坤厚)
2023年7月22日(土) ~ 9月8日(金)新宿K’s cinemaほか順次開催
新宿K’s cinemaのスケジュールはこちら

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©2023 Taiwan Film and Audiovisual Institute


2023年の“台湾巨匠傑作選”は「台湾映画新発見!」と題して、台湾ニューシネマのルーツとエンターテインメント映画の系譜を紐解く。
台湾ニューシネマの原点である『少年』、世界のアクション映画に影響を与えた胡金銓(キン・フー)映画、話題の台湾ホラー、ファンの多い台湾青春映画、定評のあるドキュメンタリーを特集。
『少年』は、朱天文(チュー・ティエンウェン)原作・脚本、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の製作。監督は侯孝賢監督の盟友でもあり、青春恋愛映画の撮影を担当した陳坤厚(チェン・クンホウ)。原作は、新聞に掲載された朱天文の短編小説「小畢的故事(シャオビーの物語)」。この作品以降、侯孝賢監督の全作品の脚本は朱天文が担当することになる。ふたりの運命の出会いとなった記念碑的な作品。
*『少年』原題:小畢的故事/英語タイトル:Growing Up
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/500104962.html

ワイヤーアクションを映画に取り入れ、驚異の映像を作り出した胡金銓(キン・フー)監督の『大輪廻』『空山霊雨』も映画祭以外での上映は初。代表作『俠女』『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』『山中傳奇』も同時上映されてキン・フー監督の世界楽しめる。
『アーカイブ・タイム』は、その『空山霊雨』のデジタルリマスター修復版制作の過程を追ったドキュメンタリー映画。キン・フー監督の2作『大輪廻』『空山霊雨』、そして『少年』もデジタルリマスター版が作成されて公開が実現。台湾では台湾ニューシネマ初期作品の多くがデジタル化されている。

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『山中傳奇』[デジタル修復・完全全長版]
© 1979 First Distributors (HK) Ltd. All Rights Reserved. 2016 officially restored by Taiwan Film Institute.


他に「台湾ホラー」と呼ばれる『哭悲 THE SADNESS』『紅い服の少女/第1章・第2章』『返校 言葉が消えた日』。侯孝賢監督の『童年往時 時の流れ』『風櫃の少年』、陳玉勲(チェン・ユィシュン)監督の3部作『熱帯魚』『ラブ ゴーゴー』『1秒先の彼女』、蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督の『青春神話』。そして、私の大好きな『親愛なる君へ』『擬音 A FOLEY ARTIST』も上映される。また、黄インイク監督の西表島に生きた台湾人女性のドキュメンタリー『緑の牢獄』も上映される。

上映全27作品 公式サイト
●台湾ニューシネマはここからはじまった 侯孝賢と脚本家・朱天文の初タッグ作品
少年 ※劇場初公開

●世界が注目するキン・フー(胡金銓)アクション
空山霊雨 ※劇場初公開
大輪廻 ※劇場初公開
残酷ドラゴン 血斗竜門の宿
侠女
山中傳奇

●特別企画--映画「少年」「空山霊雨」と一緒に観て欲しい~映画人たちの仕事
アーカイブ・タイム ※劇場初公開
HHH:侯孝賢
あの頃、この時
擬音 A FOLEY ARTIST

●必見の台湾青春ストーリー
風が踊る
風櫃の少年
童年往事 時の流れ
青春神話
熱帯魚 ※最終上映
ラブ ゴーゴー ※最終上映
運命のマッチアップ
親愛なる君へ
1秒先の彼女
アメリカから来た少女

●話題の台湾ホラー
紅い服の少女 第一章 神隠し 
紅い服の少女 第二章 真実
返校 言葉が消えた日
哭悲 THE SADNESS

●珠玉の台湾ドキュメンタリー
日常対話
私たちの青春、台湾
緑の牢獄

配給:オリオフィルムズ
配給協力:トラヴィス
共催:国家電影及視聴文化中心
宣伝:大福

*参照
シネマジャーナルHP 特別記事

『熱帯魚』陳玉勲監督インタビュー
http://www.cinemajournal.net/bn/40/nettaigyo.html

『ラブ ゴーゴー』陳玉勲監督インタビュー
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/468765261.html

『緑の牢獄』
黄インイク(黃胤毓/ホァン・インユー)監督インタビュー
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/480829168.html

まとめ(暁)
posted by akemi at 11:54| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月13日

擬音 A FOLEY ARTIST 原題 擬音 A FOLEY ARTIST

2022年11月19日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次公開 劇場情報

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©︎Wan-Jo Wang

映画は映像と音が結びついた芸術。
台湾映画界の音響効果技師・胡定一の目を通して描いた中華圏映画の映画史

出演:胡定一(フー・ディンイー)、台湾映画製作者たち
監督:王婉柔(ワン・ワンロー)
製作:リー・ジュンリャン
製作総指揮:チェン・チュアンシン
撮影:カン・チャンリー
サウンドデザイン:ツァオ・ユエンフォン
編集:マオ・シャオイー
日本語字幕:神部明世
2017/台湾/カラー/DCP/5.1ch/100分

映画に命を吹き込む音響効果技師

フォーリーアーティストと呼ばれる音響効果技師。台湾映画界で40年に及び音を作ってきたレジェンド的存在の胡定一の仕事を追いながら、台湾だけでなく、中国、香港の映画界の舞台裏を描き、中華圏の映画史を語っている。この作品は2017年に台湾で公開され、その年の台湾金馬奨で、主役の胡定一が「年度台湾傑出映画製作者賞」を受賞。2017年の東京国際映画祭でも上映された。

雑多なモノ、それこそガラクタのようなものが溢れるスタジオで、映画の登場人物の動きやシーン、雰囲気を追いながら、想像もつかないような道具と技を駆使して、あらゆる音を作り出す職人胡定一。「音の魔術師」の仕事を追う。
本作は、台湾映画界の音響効果技師胡定一の40年に及ぶフォーリー人生を記録したドキュメンタリーであり、彼の仕事を通して見た台湾映画史である。70本を超える胡定一の担当作品の数々が映し出され、王童(ワン・トン)、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)、楊德昌(エドワード・ヤン)など、台湾映画が広く世界に認知された1980年代のニューシネマの登場。それ以前に担当した台湾映画も映し出され貴重な記録である。音響制作の老巨匠たち、さらには台湾映画のサウンドトラックを制作する伝説的な人物たちが映画の音を取り巻く環境の変化、未来のフォーリーの存在についても語る。さらには中国の新しい音響スタジオの様子まで取材し、現在の音響効果事情にも言及。

*フォーリーアーティストとは 公式HPより
足音、ドアの開閉音、物を食べる音、食器の音、暴風、雨、物が壊れる音、刀がぶつかる音、銃撃音、怪獣の鳴き声など、スタジオで映像に合わせて生の音を付けていく職人。大画面の向こう側、観客の目に触れない陰から作品の情感を際立たせる大事な役割を担いながらも、その存在はあまり知られていない。デジタル技術で作られた効果音は豊富にあるが、ひとつひとつの動作や場面に合う音は異なるため、鋭い聴覚と思いもよらないモノを使ってリアルな効果音を生み出す想像力が必要となる。

王婉柔(ワン・ワンロー)監督は自身のデビュー作、洛夫(ルオ・フー)という詩人を記録したドキュメンタリー『無岸之河』を制作した時に、超現実的な詩の世界を現場音だけで表現するには限界があると痛感。本格的に「音」について勉強しようと思ったことが本作品制作のきっかけとなったという。映画界のあらゆる技術的側面がデジタル化される時代が近づく中、この映画でフォーリーが創作であることを表した。

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©︎Wan-Jo Wang


昔、TVの番組で、日本の音響効果の方が出て来て、小石を竹製の行李(こうり)の中で動かし波の音を作ったり、刀でバッサリ切る音をバナナの葉?を振ることで出したりして、意外なもので音を作るのだと知り、映像で使われる音はそんな風にして作るのかと興味を持った。
胡定一さんのスタジオは音の宝箱だった。あるいはガラクタ置き場とも言える(笑)。それらを駆使して、胡さんは音を作る。この作品は、その音を長年作ってきた胡定一さんの仕事ぶりと、周りの映画に関わる方たちに取材したものだったけど、胡さんが関わってきた映画の数々を通して、台湾だけでなく、香港、中国の映画にも言及し、中華圏映画の歴史が伝わってきた。それらの映画の場面写真も多数出てきて、あの映画もこの映画も胡定一さんが音響効果を担っていたんだと知った。この10数年の台湾映画の数々を始め、古くは『村と爆弾』(1987)や『バナナパラダイス』(1989)など、そして香港映画の『インファナル・アフェア』も出てきて、この作品も音響効果は胡定一さんだったんだと知った。ここに出てきた作品の9割以上観ているかも。
映画は監督の名前で語られることが多いけど、監督以外のスタッフの仕事を追う事で、映画の違う面も見えてくる。第23回東京国際映画祭(2010)で上映された『風に吹かれて~キャメラマン李屏賓の肖像』は、侯孝賢監督や行定勲監督、是枝裕和監督の撮影監督を務めた李屏賓(リー・ピンビン)さんのドキュメンタリーだったけど、これも感動的だった。胡定一さんと共に参加した作品もある。この作品群を観て、再度、これらの古い作品を、音響効果や撮影効果などの側面も気にしながら再度観てみたいと思った(暁)。


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©︎Wan-Jo Wang


本作が、『擬音』のタイトルで東京国際映画祭で上映されたのを観て、とても感銘を受けたことを鮮明に覚えていて、2年ほど前のことかと思ったら、2017年の第30回東京国際映画祭のことでした。5年の時を経ましたが、公開されることをほんとうに嬉しく思います。
胡定一さんは、まさに音の魔術師。懐かしい映画の場面が、いくつも映し出され、この音も胡定一さんがこんな風に作り出したものだったのかと驚かされました。映像と共に記憶に残る音・・・ 機械で様々な音が作り出されるようになったとはいえ、手作りの醸し出す音は一味違います。胡定一さんは、この映画が完成した時には、長年在籍していた中影をお辞めになってフリーになっていたとのことですが、今もお元気とのことで安心しました。胡定一さんのこと、そして、フォーリーアーティストのことを本作を通じて、多くの方に知ってほしいと願っています。(咲)


公式サイト:https://foley-artist.jp/
配給・宣伝:太秦
協力:国家文化芸術基金会
後援:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター
特別協力:東京国際映画祭

*シネマジャーナルHP 特別記事 
『擬音 A FOLEY ARTIST』
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 王婉柔(ワン・ワンロー)監督インタビュー


posted by akemi at 20:39| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月02日

アメリカから来た少女   原題:美國女孩 英題:American Girl

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©Splash Pictures Inc., Media Asia Film Production Ltd., JVR Music International Ltd., G.H.Y. Culture & Media (Singapore).


監督・脚本:ロアン・フォンイー(阮鳳儀) 
製作総指揮:トム・リン(『百日告別』『夕霧花園』)
撮影:ヨルゴス・バルサミス
出演:カリーナ・ラム(林嘉欣)、カイザー・チュアン(荘凱勲)、ケイトリン・ファン(方郁婷)、オードリー・リン(林品彤)

2003年の冬。アメリカから台湾に帰郷した13歳の少女と家族の物語

母と妹とロサンゼルスで暮らしていた13歳のファンイー。母が乳がんに罹り、父が一人で暮らしていた台北に戻り、家族4人で暮らすことになった。台北の名門中学校に入るが、校則で長い髪は切らなければならなかった。英語は得意だが、中国語は苦手のファンイーは、皆から陰で「アメリカン・ガール」と呼ばれ、なかなか学校に馴染めない。ある日、教師からスピーチコンテストへの参加を勧められ、母への正直な想いを綴る。ところが、コンテストの前日に妹がSARS感染の疑いで家族全員が隔離されてしまう・・・。

<ロアン・フォンイー監督のコメント>
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©Splash Pictures Inc., Media Asia Film Production Ltd., JVR Music International Ltd., G.H.Y. Culture & Media (Singapore).

 『アメリカから来た少女』は、私の少女時代である2003年の重要なエピソードに基づいた半自伝的な物語です。私が7歳の時、母は私と妹を連れてアメリカに渡りました。父は仕事のために台湾に残りました。私たちがアメリカでの生活を始めてやっと5年が過ぎた頃の2003年、母の乳がんが発覚し、私たちは台湾に戻りました。私は、母親がいなくなることをいつも恐れながら、少女時代を過ごしていました。それなのに、私は、心の底にある母を失うことへの恐怖を10代の怒りの感情で紛らわせ、母が亡くなったときに自分が受けるであろう心の傷が軽くなるようにと、母を自分の最大の敵として位置付けたのです。本作品では、台湾に戻った10代の少女の葛藤の物語として、彼女の家族のポスト・アメリカン・ドリームがどのように崩壊したか、そして彼女らがそれにどう折り合いをつけたのかにも触れています。
『アメリカから来た少女』は、人は成長することでどれほど傷つくのか、家庭というものがいかに移り変わるのか、そして、傷ついた2人の人間が人生の中でいかに互いを傷つけ合い、癒し合うのかを描いています。



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©Splash Pictures Inc., Media Asia Film Production Ltd., JVR Music International Ltd., G.H.Y. Culture & Media (Singapore).


1990年生まれのロアン・フォンイー監督の自身の経験に基づく半自伝的物語。
小学生から中学生にかけてアメリカで過ごし、母国語のはずの中国語よりも英語の方が楽なファンイー。友達とも別れなければならず、台北の家ではネットも繋がらなくて、母が病気にならなければとうらめしいのです。一方で、乳がんで母が死んでしまうかもしれないという恐怖もあります。そんな複雑な少女の思いを、ケイトリン・ファンが見事に演じています。演技経験はなかったものの、バイリンガルの少女を探すオーディションで抜擢され、金馬奨と台北映画祭で最優秀新人賞を受賞しています。
母親役のカリーナ・ラムも、病を抱え、我が子を置いて先立つであろうことへの思いを繊細に演じています。カリーナ・ラムには、『男人四十』が、2002年のアジアフォーカス・福岡映画祭で上映された折にお会いしていますが、可憐な少女という雰囲気でした。その彼女が、お母さん役! (実生活でも、お母さんですね) しっとりとした素敵な大人の女性になりました。
娘たちにアメリカで教育を受けさせるため、一人台北に残ってあくせく働く父親を演じたのは、台湾の映画やドラマで活躍する実力派のカイザー・チュアン。「僕は家族のATMか」と、一家を支える父親の悲哀をたっぷり感じさせてくれました。(咲)


SARSが猛威を振るう2003年、アメリカから台湾に帰国した13歳の少女と家族の物語。母が乳癌にかかり治療のため、台北で一人暮らしている夫の元へ帰国。しかし、幼い頃に渡米した娘のファンイーは中国語も不得意で、台北の暮らしにも馴染めず、親友のいるアメリカに戻りたいと考え不満タラタラ。馬が大好きでアメリカでの生活を謳歌していた娘にとって、母国での生活は異文化との遭遇でストレスだらけ。その怒りを母にぶつける。数年ぶりに再会した父親とも上手くいかず、久しぶりに家族が揃ったのに不満をぶつけ合い傷つけあう。妹は意外と台湾になじんでいたのにSARSにかかってしまう。この家族に次々といろいろな出来事が起こり、家族のストレスもマックスに。
台湾での学校生活は、強圧的な先生も描かれるが、母との確執に対して、弁論大会で自分の気持ちを語るように言ってくれる先生もいて、母との関係を見直してゆく。仕事にかかりきりの父も家族の理解者であろうとする姿が描かれ、この家族の行く末に少し希望が見える。辛い治療に穏やかではいられない母親を演じていたのはカリーナ・ラム。苦悩する母親役を演じていて、少女のようだったカリーナもそういう年齢になってきたかと感慨深い(暁)。


2021年・第58回金馬奨 5部門受賞!
(最優秀新人監督賞、最優秀新人俳優賞、最優秀撮影賞、観客賞、国際批評家連盟賞)
2021年・第34回東京国際映画祭「アジアの未来」部門出品作品

2021年/台湾/北京語・英語/101分/ビスタサイズ(1.85:1)/5.1ch
配給:A PEOPLE CINEMA
公式サイト:https://apeople.world/amerika_shojo/
★2022月10月8日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開




posted by sakiko at 18:02| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月25日

哭悲/SADNESS(英題:The Sadness)

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監督・脚本:ロブ・ジャバズ
撮影:バイ・ジエリー
音楽:TZECHAR
出演:レジーナ・レイ(カイティン)、ベラント・チュウ(ジュンジョー)、ジョニー・ワン(ビジネスマン)、ラン・ウエイホア(ウォン・ジャンリアン)、ラルフ・チウ(リンさん)、アップル・チェン(シェン・リーシン)

謎のウィルスが蔓延している台湾。感染した当初は風邪のような症状だが、そのうち狂犬病のように信じられないほど凶暴になってしまうことがわかった。各地で阿鼻叫喚の地獄が展開し始めていたが、誰も止められず解決策も見つかっていない。カイティンとジュンジョーのカップルはまだ何も知らず幸せに暮らしている。ジュンジョーはカイティンをバイクで駅まで送り届けた後、血に飢えた感染者たちに出逢ってしまう。やっと家に戻ると、隣人もすでに感染していた。必死にカイティンに連絡するが、彼女は地下鉄で隣に座ったビジネスマンから難癖をつけられていた。カイティンは執拗に追ってくる彼から逃げて病院に駆け込むことができたが…。

コロナ禍の中で観ると、怖さが増幅します。感染して死に至るのも怖いですが、この映画では、ウィルスの突然変異種がうまれ、脳に作用して人間の理性が吹き飛び凶暴になる、とのこと。それも意識ははっきりしているのに、自分で制御できず残虐な行為に走ってしまいます。意識下の欲望が出てしまうというおぞましさ。これはいやだ。
初の長編監督作というロブ・ジャバズ監督は、大のホラーファン。これまでに観た作品にオマージュを捧げつつ、観たこともないような作品を作り上げ海外で高評価を受けています。残虐な描写とバケツでぶちまけたような大量の血に、気の弱い方はご注意。そんな中でなんとしても再会したいカイティンとジュンジョー、2人の絆の強さも描かれています。さてその願いは叶うや否や?
実は一番恐ろしいもの、見たくないものは、人の本音・欲望かもと思った作品。以前「他人の心が読める人が、知りたくなくても入ってくる人間の欲望の醜さに発狂してしまう」漫画を見たのを思い出しました。それも怖かった。(白)


2021年/台湾/カラー/108分
配給:クロックワークス
(C)2021 Machi Xcelsior Studios Ltd. All Rights Reserved.
https://klockworx-v.com/sadness/
★2022年7月1日(金)あなたの中の悪意が目覚めるロードショー
posted by shiraishi at 16:59| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする