2022年11月13日

擬音 A FOLEY ARTIST 原題 擬音 A FOLEY ARTIST

2022年11月19日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次公開 劇場情報

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©︎Wan-Jo Wang

映画は映像と音が結びついた芸術。
台湾映画界の音響効果技師・胡定一の目を通して描いた中華圏映画の映画史

出演:胡定一(フー・ディンイー)、台湾映画製作者たち
監督:王婉柔(ワン・ワンロー)
製作:リー・ジュンリャン
製作総指揮:チェン・チュアンシン
撮影:カン・チャンリー
サウンドデザイン:ツァオ・ユエンフォン
編集:マオ・シャオイー
日本語字幕:神部明世
2017/台湾/カラー/DCP/5.1ch/100分

映画に命を吹き込む音響効果技師

フォーリーアーティストと呼ばれる音響効果技師。台湾映画界で40年に及び音を作ってきたレジェンド的存在の胡定一の仕事を追いながら、台湾だけでなく、中国、香港の映画界の舞台裏を描き、中華圏の映画史を語っている。この作品は2017年に台湾で公開され、その年の台湾金馬奨で、主役の胡定一が「年度台湾傑出映画製作者賞」を受賞。2017年の東京国際映画祭でも上映された。

雑多なモノ、それこそガラクタのようなものが溢れるスタジオで、映画の登場人物の動きやシーン、雰囲気を追いながら、想像もつかないような道具と技を駆使して、あらゆる音を作り出す職人胡定一。「音の魔術師」の仕事を追う。
本作は、台湾映画界の音響効果技師胡定一の40年に及ぶフォーリー人生を記録したドキュメンタリーであり、彼の仕事を通して見た台湾映画史である。70本を超える胡定一の担当作品の数々が映し出され、王童(ワン・トン)、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)、楊德昌(エドワード・ヤン)など、台湾映画が広く世界に認知された1980年代のニューシネマの登場。それ以前に担当した台湾映画も映し出され貴重な記録である。音響制作の老巨匠たち、さらには台湾映画のサウンドトラックを制作する伝説的な人物たちが映画の音を取り巻く環境の変化、未来のフォーリーの存在についても語る。さらには中国の新しい音響スタジオの様子まで取材し、現在の音響効果事情にも言及。

*フォーリーアーティストとは 公式HPより
足音、ドアの開閉音、物を食べる音、食器の音、暴風、雨、物が壊れる音、刀がぶつかる音、銃撃音、怪獣の鳴き声など、スタジオで映像に合わせて生の音を付けていく職人。大画面の向こう側、観客の目に触れない陰から作品の情感を際立たせる大事な役割を担いながらも、その存在はあまり知られていない。デジタル技術で作られた効果音は豊富にあるが、ひとつひとつの動作や場面に合う音は異なるため、鋭い聴覚と思いもよらないモノを使ってリアルな効果音を生み出す想像力が必要となる。

王婉柔(ワン・ワンロー)監督は自身のデビュー作、洛夫(ルオ・フー)という詩人を記録したドキュメンタリー『無岸之河』を制作した時に、超現実的な詩の世界を現場音だけで表現するには限界があると痛感。本格的に「音」について勉強しようと思ったことが本作品制作のきっかけとなったという。映画界のあらゆる技術的側面がデジタル化される時代が近づく中、この映画でフォーリーが創作であることを表した。

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©︎Wan-Jo Wang


昔、TVの番組で、日本の音響効果の方が出て来て、小石を竹製の行李(こうり)の中で動かし波の音を作ったり、刀でバッサリ切る音をバナナの葉?を振ることで出したりして、意外なもので音を作るのだと知り、映像で使われる音はそんな風にして作るのかと興味を持った。
胡定一さんのスタジオは音の宝箱だった。あるいはガラクタ置き場とも言える(笑)。それらを駆使して、胡さんは音を作る。この作品は、その音を長年作ってきた胡定一さんの仕事ぶりと、周りの映画に関わる方たちに取材したものだったけど、胡さんが関わってきた映画の数々を通して、台湾だけでなく、香港、中国の映画にも言及し、中華圏映画の歴史が伝わってきた。それらの映画の場面写真も多数出てきて、あの映画もこの映画も胡定一さんが音響効果を担っていたんだと知った。この10数年の台湾映画の数々を始め、古くは『村と爆弾』(1987)や『バナナパラダイス』(1989)など、そして香港映画の『インファナル・アフェア』も出てきて、この作品も音響効果は胡定一さんだったんだと知った。ここに出てきた作品の9割以上観ているかも。
映画は監督の名前で語られることが多いけど、監督以外のスタッフの仕事を追う事で、映画の違う面も見えてくる。第23回東京国際映画祭(2010)で上映された『風に吹かれて~キャメラマン李屏賓の肖像』は、侯孝賢監督や行定勲監督、是枝裕和監督の撮影監督を務めた李屏賓(リー・ピンビン)さんのドキュメンタリーだったけど、これも感動的だった。胡定一さんと共に参加した作品もある。この作品群を観て、再度、これらの古い作品を、音響効果や撮影効果などの側面も気にしながら再度観てみたいと思った(暁)。


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©︎Wan-Jo Wang


本作が、『擬音』のタイトルで東京国際映画祭で上映されたのを観て、とても感銘を受けたことを鮮明に覚えていて、2年ほど前のことかと思ったら、2017年の第30回東京国際映画祭のことでした。5年の時を経ましたが、公開されることをほんとうに嬉しく思います。
胡定一さんは、まさに音の魔術師。懐かしい映画の場面が、いくつも映し出され、この音も胡定一さんがこんな風に作り出したものだったのかと驚かされました。映像と共に記憶に残る音・・・ 機械で様々な音が作り出されるようになったとはいえ、手作りの醸し出す音は一味違います。胡定一さんは、この映画が完成した時には、長年在籍していた中影をお辞めになってフリーになっていたとのことですが、今もお元気とのことで安心しました。胡定一さんのこと、そして、フォーリーアーティストのことを本作を通じて、多くの方に知ってほしいと願っています。(咲)


公式サイト:https://foley-artist.jp/
配給・宣伝:太秦
協力:国家文化芸術基金会
後援:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター
特別協力:東京国際映画祭

*シネマジャーナルHP 特別記事 
『擬音 A FOLEY ARTIST』
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 王婉柔(ワン・ワンロー)監督インタビュー


posted by akemi at 20:39| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月02日

アメリカから来た少女   原題:美國女孩 英題:American Girl

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©Splash Pictures Inc., Media Asia Film Production Ltd., JVR Music International Ltd., G.H.Y. Culture & Media (Singapore).


監督・脚本:ロアン・フォンイー(阮鳳儀) 
製作総指揮:トム・リン(『百日告別』『夕霧花園』)
撮影:ヨルゴス・バルサミス
出演:カリーナ・ラム(林嘉欣)、カイザー・チュアン(荘凱勲)、ケイトリン・ファン(方郁婷)、オードリー・リン(林品彤)

2003年の冬。アメリカから台湾に帰郷した13歳の少女と家族の物語

母と妹とロサンゼルスで暮らしていた13歳のファンイー。母が乳がんに罹り、父が一人で暮らしていた台北に戻り、家族4人で暮らすことになった。台北の名門中学校に入るが、校則で長い髪は切らなければならなかった。英語は得意だが、中国語は苦手のファンイーは、皆から陰で「アメリカン・ガール」と呼ばれ、なかなか学校に馴染めない。ある日、教師からスピーチコンテストへの参加を勧められ、母への正直な想いを綴る。ところが、コンテストの前日に妹がSARS感染の疑いで家族全員が隔離されてしまう・・・。

<ロアン・フォンイー監督のコメント>
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©Splash Pictures Inc., Media Asia Film Production Ltd., JVR Music International Ltd., G.H.Y. Culture & Media (Singapore).

 『アメリカから来た少女』は、私の少女時代である2003年の重要なエピソードに基づいた半自伝的な物語です。私が7歳の時、母は私と妹を連れてアメリカに渡りました。父は仕事のために台湾に残りました。私たちがアメリカでの生活を始めてやっと5年が過ぎた頃の2003年、母の乳がんが発覚し、私たちは台湾に戻りました。私は、母親がいなくなることをいつも恐れながら、少女時代を過ごしていました。それなのに、私は、心の底にある母を失うことへの恐怖を10代の怒りの感情で紛らわせ、母が亡くなったときに自分が受けるであろう心の傷が軽くなるようにと、母を自分の最大の敵として位置付けたのです。本作品では、台湾に戻った10代の少女の葛藤の物語として、彼女の家族のポスト・アメリカン・ドリームがどのように崩壊したか、そして彼女らがそれにどう折り合いをつけたのかにも触れています。
『アメリカから来た少女』は、人は成長することでどれほど傷つくのか、家庭というものがいかに移り変わるのか、そして、傷ついた2人の人間が人生の中でいかに互いを傷つけ合い、癒し合うのかを描いています。



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©Splash Pictures Inc., Media Asia Film Production Ltd., JVR Music International Ltd., G.H.Y. Culture & Media (Singapore).


1990年生まれのロアン・フォンイー監督の自身の経験に基づく半自伝的物語。
小学生から中学生にかけてアメリカで過ごし、母国語のはずの中国語よりも英語の方が楽なファンイー。友達とも別れなければならず、台北の家ではネットも繋がらなくて、母が病気にならなければとうらめしいのです。一方で、乳がんで母が死んでしまうかもしれないという恐怖もあります。そんな複雑な少女の思いを、ケイトリン・ファンが見事に演じています。演技経験はなかったものの、バイリンガルの少女を探すオーディションで抜擢され、金馬奨と台北映画祭で最優秀新人賞を受賞しています。
母親役のカリーナ・ラムも、病を抱え、我が子を置いて先立つであろうことへの思いを繊細に演じています。カリーナ・ラムには、『男人四十』が、2002年のアジアフォーカス・福岡映画祭で上映された折にお会いしていますが、可憐な少女という雰囲気でした。その彼女が、お母さん役! (実生活でも、お母さんですね) しっとりとした素敵な大人の女性になりました。
娘たちにアメリカで教育を受けさせるため、一人台北に残ってあくせく働く父親を演じたのは、台湾の映画やドラマで活躍する実力派のカイザー・チュアン。「僕は家族のATMか」と、一家を支える父親の悲哀をたっぷり感じさせてくれました。(咲)


SARSが猛威を振るう2003年、アメリカから台湾に帰国した13歳の少女と家族の物語。母が乳癌にかかり治療のため、台北で一人暮らしている夫の元へ帰国。しかし、幼い頃に渡米した娘のファンイーは中国語も不得意で、台北の暮らしにも馴染めず、親友のいるアメリカに戻りたいと考え不満タラタラ。馬が大好きでアメリカでの生活を謳歌していた娘にとって、母国での生活は異文化との遭遇でストレスだらけ。その怒りを母にぶつける。数年ぶりに再会した父親とも上手くいかず、久しぶりに家族が揃ったのに不満をぶつけ合い傷つけあう。妹は意外と台湾になじんでいたのにSARSにかかってしまう。この家族に次々といろいろな出来事が起こり、家族のストレスもマックスに。
台湾での学校生活は、強圧的な先生も描かれるが、母との確執に対して、弁論大会で自分の気持ちを語るように言ってくれる先生もいて、母との関係を見直してゆく。仕事にかかりきりの父も家族の理解者であろうとする姿が描かれ、この家族の行く末に少し希望が見える。辛い治療に穏やかではいられない母親を演じていたのはカリーナ・ラム。苦悩する母親役を演じていて、少女のようだったカリーナもそういう年齢になってきたかと感慨深い(暁)。


2021年・第58回金馬奨 5部門受賞!
(最優秀新人監督賞、最優秀新人俳優賞、最優秀撮影賞、観客賞、国際批評家連盟賞)
2021年・第34回東京国際映画祭「アジアの未来」部門出品作品

2021年/台湾/北京語・英語/101分/ビスタサイズ(1.85:1)/5.1ch
配給:A PEOPLE CINEMA
公式サイト:https://apeople.world/amerika_shojo/
★2022月10月8日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開




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2022年06月25日

哭悲/SADNESS(英題:The Sadness)

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監督・脚本:ロブ・ジャバズ
撮影:バイ・ジエリー
音楽:TZECHAR
出演:レジーナ・レイ(カイティン)、ベラント・チュウ(ジュンジョー)、ジョニー・ワン(ビジネスマン)、ラン・ウエイホア(ウォン・ジャンリアン)、ラルフ・チウ(リンさん)、アップル・チェン(シェン・リーシン)

謎のウィルスが蔓延している台湾。感染した当初は風邪のような症状だが、そのうち狂犬病のように信じられないほど凶暴になってしまうことがわかった。各地で阿鼻叫喚の地獄が展開し始めていたが、誰も止められず解決策も見つかっていない。カイティンとジュンジョーのカップルはまだ何も知らず幸せに暮らしている。ジュンジョーはカイティンをバイクで駅まで送り届けた後、血に飢えた感染者たちに出逢ってしまう。やっと家に戻ると、隣人もすでに感染していた。必死にカイティンに連絡するが、彼女は地下鉄で隣に座ったビジネスマンから難癖をつけられていた。カイティンは執拗に追ってくる彼から逃げて病院に駆け込むことができたが…。

コロナ禍の中で観ると、怖さが増幅します。感染して死に至るのも怖いですが、この映画では、ウィルスの突然変異種がうまれ、脳に作用して人間の理性が吹き飛び凶暴になる、とのこと。それも意識ははっきりしているのに、自分で制御できず残虐な行為に走ってしまいます。意識下の欲望が出てしまうというおぞましさ。これはいやだ。
初の長編監督作というロブ・ジャバズ監督は、大のホラーファン。これまでに観た作品にオマージュを捧げつつ、観たこともないような作品を作り上げ海外で高評価を受けています。残虐な描写とバケツでぶちまけたような大量の血に、気の弱い方はご注意。そんな中でなんとしても再会したいカイティンとジュンジョー、2人の絆の強さも描かれています。さてその願いは叶うや否や?
実は一番恐ろしいもの、見たくないものは、人の本音・欲望かもと思った作品。以前「他人の心が読める人が、知りたくなくても入ってくる人間の欲望の醜さに発狂してしまう」漫画を見たのを思い出しました。それも怖かった。(白)


2021年/台湾/カラー/108分
配給:クロックワークス
(C)2021 Machi Xcelsior Studios Ltd. All Rights Reserved.
https://klockworx-v.com/sadness/
★2022年7月1日(金)あなたの中の悪意が目覚めるロードショー
posted by shiraishi at 16:59| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年01月08日

無聲 The Silent Forest   原題:無聲  英題:The Silent Forest

【確定】「無聲」ポスタービジュアル_1022修正版.jpg

監督:コー・チェンニエン(柯貞年)
エグゼクティブ・プロデューサー:ユー・ベイファ(於蓓華), チュウ・ヨウニン(瞿友寧)
出演:リウ・ツーチュアン(劉子銓)、チェン・イェンフェイ(陳妍霏)、キム・ヒョンビン(金玄彬)、リウ・グァンティン(劉冠廷) 他

普通学校から台湾南部のろう学校に転校してきたチャン (リウ・ツーチュアン)。折しも、創立記念パーティが開かれていて、愛らしい少女ベイベイ(チェン・イェンフェイ)が積極的に声をかけてくれて打ち解ける。普通学校で肩身の狭い思いをしていたチャンは、心地よい環境に期待を抱く。
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ある日チャンは、ベイベイがスクールバスの中で男子生徒たちから性暴力を受けているのを目撃する。それでも、ベイベイは学校では彼らと何事もなかったように戯れている。先生に言うべきだとベイベイに言っても、「先生に嫌われて普通学校に行かされる。あなたも一緒にいじめてもいいのよ」と言われてしまう。スクールバスに乗ろうとしないチャンに、異変を感じたワン先生が声をかける。チャンは思い切ってバスの中での出来事を打ち明け、彼女を救ってほしいと嘆願する。 ベイベイは、友達を裏切りたくないと頑なに話をしたがらない。これまで何度も訴えたのに、周りの大人たちは何も解決してくれず諦めていたのだ。ワン先生とチャンは、何があっても彼女を守らなければと、校長にベイベイの被害を訴えるが、ことを荒げたくないと取り合ってくれない。過去にも同様の事件があったに違いないとワン先生は、生徒達から聞き取り調査をする。100件以上の性暴力・セクシャルハラスメント被害が明るみになるが、命令をしていた主犯格のユングァン(キム・ヒョンビン)は、見ていて楽しいと加害者であることを認めない。マスコミも学校の実態を取り上げるが、校長は事件の真相を隠蔽する。ユングァンが卒業するまでの辛抱というベイベイ。ワン先生とチャンにはなす術がないのか・・・
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冒頭、転校してきたチャンが、町で老人を殴って捕まります。財布を盗まれたから殴ったと訴えるのですが、手話が通じません。ろう学校のワン先生が通りがかって警官に通訳するのですが、事を大きくしない為に、「彼も反省しているので」と財布を盗まれたことは伝えません。真実や、自分の気持ちをちゃんと伝えられないろうの人たちの悔しさや辛さが、最初からずっしり伝わってきました。そんなワン先生ですが、チャンからベイベイへの生徒たちの性暴力を聞かされて、学校での実態を調べ始めます。性暴力を受けても声を立てて抵抗できないのをいいことに、先生までもが生徒に性暴力を繰り返していたことが明らかにされます。それでも校長は学校経営を優先して公にはしません。その校長はろう学校を経営しながら、手話を使うこともないのです。

本作は、台湾南部のろう学校で実際に起きた、性暴力・セクシャルハラスメント事件を題材にしていますが、メインの出演者たちがとても魅力的で、一気に物語に惹きつけられました。正義感溢れるチャンと愛くるしいベイベイは、まだあまり顔を知られていない新人。存在感たっぷりの性暴力の黒幕ユングァン役は、韓国で子役として活躍してきたキム・ヒョンビン。いずれも健常者ですが、ほんとうにろうあ者のようです。 ろう学校での出来事ですが、監督も述べているように、どこにでも起こり得る物語。声を出せても、その声が届かないことは多々あること。声が出せない人にとっては、さらに届かないことと思いました。(咲)


監督: コー・チェンニエン(柯貞年)
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1982 年生まれの監督・脚本家。世新大学ラジオ・テレビ・映画総合大学院を卒業。学生時代から精力的に短編映画を制作しており、 『無名馬』(2011)が金馬奨の最優秀短編映画賞にノミネートされ、若くして才能を開花。その後、2015 年に短編映画『溺境』が第 57 回金穂奨優等賞を受賞。Netflix で配信中のドラマシリーズ『暗闇は目を閉じて』(2016)で監督を務めた他、リウ・ツーチュアンやリウ・グァンティンも出演したドラマシリーズ『你那邊怎樣,我這邊 OK』(2019)でも監督を務めた。 2020 年に本作で第 57 回金馬奨の新人監督賞とオリジナル脚本賞にノミネートされた。


2020年東京フィルメックス コンペティション部門選出
東京フィルメックス コー・チェンニエン監督とのリモートQ&A動画はこちらで!
*Q&Aでの監督の言葉より*
事件が報道されたとき、台湾の人たちは韓国映画『トガニ(邦題:トガニ 幼き瞳の告発)』を思い起こす人が多かったです。私にとっては、この事件がなぜ起きたかに興味がありました。事件後も被害者も学校に残って加害者と一緒にいることに疑問に思っていました。背後の問題にアプローチしたいと映画にすることにしました。

真実の事件が背景になっているので、いかに加害者や被害者の子どもたちのプライバシーを守るかに注意しました。リサーチの時も撮影の時も、実際の加害者や被害者とは誰とも会いませんでした。事件に関する記事をたくさん読んで脚本を作っていきました。見た目はろうあ学校で起きている話ですが、人のいるところではどこでも起こり得る事件だと思います。

メインの役者は健常者です。あまり演技経験のない新人を選びました。有名な役者に演じてもらうより、顔を知られてない役者の方が感情移入しやすいと思いました。演技指導は3か月くらいかけて行い信頼関係を築きました。エキストラで出演していただく役者にも手話の手ほどきをしました。
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ユン・グアンはキム・ヒョンビンにアテ書きしたわけではありません。適任者がなかなか見つからなかったのですが、ろうあ者なのでセリフが必要ないので、アジアの顔であればいいと範囲を広げました。韓国のドラマが好きなのでキム・ヒョンビンがいいのではと連絡を取ったところ受けてもらえました。現場では、言葉がわからないことから、健常者がいきなりろうあ者の世界に入ったのと同じ状況でした。

この映画はもともと公共放送が制作する予定の作品でした。企画を進めていくうちに映画にして広げたほうがいいとアドバイスを受けました。実際の事件を映画にしたものは台湾では少ないので、とても意義のあることだと応援してもらうことができました。製作費に関しては中くらいのバジェットで、商業エンターテインメントの規模ではありません。

*****
台湾では、教育者や政治家をはじめ多くの観客が事件の深刻さを問題視し、台北の週間興行収入1位を獲得。第57回金馬奨で8部門ノミネート、チェン・イェンフェイの最優秀新人俳優賞など2部門を受賞。2021年度の台北映画祭では最多7部門8ノミネートを記録し、チェン・イェンフェイの最優秀新人俳優賞など3部門の他、観客賞を受賞。

2020年/台湾/台湾語・中国語/5.1ch/104分/DCP
日本語字幕:島根磯美
配給:ライツキューブ
配給協力:渋谷プロダクション
©2020 Taiwan Public Television Service Foundation, Oxygen Film Co., Ltd., The Graduate Co., Ltd. and Man Man Er Co., Ltd. All Rights Reserved.
公式サイト:https://thesilentforest-jp.com/
★2022年1月14日(金)より、シネマート新宿・心斎橋他、全国順次公開




posted by sakiko at 15:13| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月14日

恋の病 潔癖なふたりのビフォーアフター(原題:怪胎)

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監督・脚本:リャオ・ミンイー
出演:リン・ボーホン(ボーチン)、ニッキー・シエ(ジン)

重度の潔癖症のボーチンは、家中を隅々まで綺麗にし、何度も手を洗う。そのため汚れがいっぱいの外に出るときは完全防塵スタイル、マスクと手袋も欠かせない。社会生活が送れないので、在宅でできる仕事についている。同じような完全武装の女性ジンを電車で見つけて、思わず後をついていくと、彼女も同じくらいの潔癖症でさらに万引きがやめられない窃盗症まであった。一生ひとりぼっちで生きると思っていた2人の運命的な出会いを果たし、ジンはボーチンの家に引っ越してくる。このままずっと2人で暮らしていこうと誓ったのだが、ある日突然ボーチンの症状が消えてしまう。

「スタートレック」のスポックみたいな髪型のボーチン。この外形だけでなんだかこだわりの強そうな人、という感じがします。万引きを繰り返してもなんだか愛らしいジン、潔癖すぎる異色な2人の恋愛ストーリーです。
リャオ・ミンイー監督の初長編監督作、全篇iPhoneで撮影されています。メインテーマは「愛の約束と固執」、愛は時とともに最初の高揚感は薄れ、日常に変っていくのを世の恋人たち、夫婦はよ~く理解しているはずです。けれどもジンとボーチン、稀少な2人が結びついたのだから、それを認めたくありません。あの手この手で元に戻し、自分の元に留め置こうとします。それが両方の視点で描かれています。
中身は結構切実なのですが、画面は明るい色彩でポップ、ちょっと絵本を見ているようにファンタジックに描かれています。2人は結局どうなるの?と気になった方はぜひ完全武装で、いえ、コロナ対策をしたうえでぜひ劇場でご覧ください。(白)


2020年/台湾/100分/G
配給:エスピーオー、フィルモット
(C)2020 牽猴子整合行銷股イ分有限公司 滿滿額娯楽股イ分有限公司 台湾大哥大股イ分有限公司
http://filmott.com/koiyama/
★2021年8月20日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 13:51| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする