2021年08月14日

恋の病 潔癖なふたりのビフォーアフター(原題:怪胎)

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監督・脚本:リャオ・ミンイー
出演:リン・ボーホン(ボーチン)、ニッキー・シエ(ジン)

重度の潔癖症のボーチンは、家中を隅々まで綺麗にし、何度も手を洗う。そのため汚れがいっぱいの外に出るときは完全防塵スタイル、マスクと手袋も欠かせない。社会生活が送れないので、在宅でできる仕事についている。同じような完全武装の女性ジンを電車で見つけて、思わず後をついていくと、彼女も同じくらいの潔癖症でさらに万引きがやめられない窃盗症まであった。一生ひとりぼっちで生きると思っていた2人の運命的な出会いを果たし、ジンはボーチンの家に引っ越してくる。このままずっと2人で暮らしていこうと誓ったのだが、ある日突然ボーチンの症状が消えてしまう。

「スタートレック」のスポックみたいな髪型のボーチン。この外形だけでなんだかこだわりの強そうな人、という感じがします。万引きを繰り返してもなんだか愛らしいジン、潔癖すぎる異色な2人の恋愛ストーリーです。
リャオ・ミンイー監督の初長編監督作、全篇iPhoneで撮影されています。メインテーマは「愛の約束と固執」、愛は時とともに最初の高揚感は薄れ、日常に変っていくのを世の恋人たち、夫婦はよ~く理解しているはずです。けれどもジンとボーチン、稀少な2人が結びついたのだから、それを認めたくありません。あの手この手で元に戻し、自分の元に留め置こうとします。それが両方の視点で描かれています。
中身は結構切実なのですが、画面は明るい色彩でポップ、ちょっと絵本を見ているようにファンタジックに描かれています。2人は結局どうなるの?と気になった方はぜひ完全武装で、いえ、コロナ対策をしたうえでぜひ劇場でご覧ください。(白)


2020年/台湾/100分/G
配給:エスピーオー、フィルモット
(C)2020 牽猴子整合行銷股イ分有限公司 滿滿額娯楽股イ分有限公司 台湾大哥大股イ分有限公司
http://filmott.com/koiyama/
★2021年8月20日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 13:51| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年07月31日

日常対話 原題:日常對話 Small Talk

2021年7月31日(土)ポレポレ東中野にてロードショー 、 全国順次公開
劇場情報 
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(c) Hui-Chen Huang All Rights Reserved.

監督・撮影:黃惠偵(ホアン・フイチェン)
製作総指揮:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)
プロデューサー:李嘉雯(リー・ジアウェン)
撮影指導:林鼎傑(リン・ディンジエ)
編集:林婉玉(リン・ワンユィ)
編集顧問:雷震卿(レイ・チェンチン)
音楽:林強(リン・チャン)、許志遠(ポイント・シュー)

カメラの前なら「言える」「聞ける」こともある
台湾発 娘がカメラを手に母の本音に迫る


「母(アヌ)は私(ホアン・(ホアン・フイチェン)と孫の食事を作ってから出かけ、帰るのは夜。夕飯は済ませて帰ってくる。同居しているのに何十年も他人同士のように暮らす母と私。「母の作る料理以外に、私たちには何の接点もない」と語るフイチェン監督。娘が誕生したことをきっかけに、監督はある日、勇気を出して母との対話を決意し、母親と向き合う様子を自らビデオカメラをまわし、同性愛者である母の思いを記録するすることにした。母のほか、親族、恋人、仲間などへのインタビューを通じ、アヌの思い、苦悩を浮き彫りにしてゆく。フイチェン監督も自身の過去と向き合い、子供の頃話せなかったある秘密を母に告げる。

2019年、アジアで初めて同性婚が合法化された台湾。だが1950年代、台湾中部の農村に生まれた母アヌがすごしてきたのは、「家」制度が支配し、父親(男)を中心にした保守的な村社会だった。先祖代々の墓に母や祖母(女)の名前は刻まれない。アヌは同性愛を自覚していたが、あの時代、日本と同じようにそういうことは理解されず、また結婚こそが女性の幸せとして、「女が一人で生きていく」ということは考えられない社会にいた。叔父や叔母など親族、故郷の人々はアヌが「同性が好きな人」ということは知らなかったとカメラの前では言う。だが、実際は知っていたのかもしれない。フイチェン監督の前では「知っていた」とは言えなかったのかも。
アヌは見合い結婚し、娘が二人生まれたが、夫は日雇い労働で稼いだ金を酒と賭博に使い果たしたあげく、アヌに暴力を振う。夫が家庭にお金を入れないので、アヌは「道士」として葬送の中で死者をあの世に送り届ける葬式陣頭「牽亡歌陣」の仕事をしていた。夫はアヌが葬式陣頭で稼いだお金さえ奪い、母娘はその日の食べるものさえ得ることができなくなった。暴力を振るう夫から身を守るため、アヌはフイチェンが10歳の頃、妹を連れて3人で家を出た。離婚もせず着の身着のままで家を出て、夫にみつからないように隠れて暮らしていたため、姉妹二人は学校にも行くことができなかった。
弔い業に対する世間の差別的な目。「女性が好きな人」として奔放に振る舞うアヌへの偏見。さらに娘よりも恋人を優先するアヌに、フイチェンは次第に不信感を募らせ、母娘関係はいつしか他人同士のように冷え切ってしまった。母が悪いわけではないのに、多くを語りたがらない母に不信感を募らせていく娘の心情が語られるが、カメラが進むうち、母アヌの苦悩がだんだんに明らかになってゆく。
フイチェンが20歳の時、仕事をしていた「牽亡歌陣」にドキュメンタリーの撮影隊がやってきて、ドキュメンタリー映画に興味を持ち、社区大学(コミュニティカレッジ)で映画を学びながら、消えゆく葬送文化とともに、同性を愛する母のありのままの姿を映像に収め始めたという。
監督がカメラを回す背後には、貧困、虐待、毒親、暴力の連鎖、マイノリティへの偏見等の問題が映し出される。民主化後、急速な経済発展を遂げる台湾社会に潜む問題として映し出されてはいるけど、それらは日本にとっても、決して他国の話ではない(暁)。


口をへの字に曲げ、「話さない方がいいこともある」「子どもに話すことじゃない」と、なかなか口を開かない母。そんなアヌが少しずつ胸の内を語る。暴力を振るう夫のことは「切り刻んで、ひき肉にしてやる!」というほど憎んでいる。10人以上はいたという母の彼女たち。そんな彼女たちの一人から、「とても優しいの。特にベッドの中では」という言葉も出てくる。暴力的な夫への反動か。ある彼女からは、「夫と寝たのは一度きり。娘二人は養女と言っていた」と聞かされる。
見合い結婚するしかなかった時代。針を戻せたら結婚しないという母。
「二人の娘を産んだことを後悔しているの?」との問いへの答えは、ぜひ劇場で!

本作では、母と娘の対話の背景に、台湾土着の葬送文化<牽亡歌陣>、亀甲型の墓(沖縄でも見られる形)での墓参り、街角にしつらえた舞台で行われている伝統劇など、台湾ならではの文化も映し出されていて興味深い。(咲)


『日常対話』公式HP 
2016年製作/88分/台湾
配給:台湾映画同好会

*イベント情報 [ポレポレ東中野]

7月31日(土)
①12:10の回上映後 初日舞台挨拶+Q&A
登壇者:ホアン・フイチェン監督 ※台湾からのオンライン登壇

②16:10の回上映後トークショー
登壇者:北丸雄二(ジャーナリスト、コラムニスト)

8月1日(日)
①12:10の回上映後トークショー
登壇者:牧村朝子(タレント、文筆家)※オンライン登壇に変更となります

②16:10の回上映後トークショー
登壇者:鈴木賢(明治大学法学部教授)

8月6日(金)16:10の回上映後トークショー
登壇者:宇田川しい(ライター、編集者、ゲイ・アクティビスト)

8月7日(土)18:10の回上映後トークショー
登壇者:ティーヌ(読書サロン)

8月8日(日)18:10の回上映後トークショー
登壇者:栖来ひかり(文筆家、道草者)※台湾からのオンライン登壇

8月9日(月祝)18:10の回上映後Q&A
登壇者:ホアン・フイチェン監督 ※台湾からのオンライン登壇

8月10日(火)18:10の回上映後トークショー
登壇者:松尾亜紀子(エトセトラブックス代表)

8月11日(水)18:10の回上映後トークショー
登壇者:山縣真矢(編集者/「結婚の自由をすべての人に」訴訟原告
/NPO法人東京レインボープライド顧問)&
小島あつ子(『日常対話』配給、『筆録 日常対話』翻訳者)

*参照 
『出櫃(カミングアウト) 中国 LGBT の叫び』 房満満監督インタビュー
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/479677060.html
中国のLGBTに関するドキュメンタリー作品。こちらでは、子供が親に「同性愛であること」をカミングアウトする様子が描かれる。こちらも「カメラの前だから言えた」と語っている。
posted by akemi at 11:57| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年07月25日

返校 言葉が消えた日 原題:返校

2021年7月30日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
劇場情報

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(C)1 Production Film Co. ALL RIGHTS RESERVED.


台湾戒厳令下の時代を描いたミステリー

監督・脚本: 徐漢強(ジョン・スー) 
製作:李烈(リー・リエ) 、李耀華(アイリーン・リー)

出演:
ファン・レイシン役:王淨(ワン・ジン)
ウェイ・ジョンティン役:曾敬驊(ツォン・ジンファ)
チャン・ミンホイ役:傅孟柏(フー・モンボー)
イン・ツイハン役:蔡思韵(チョイ・シーワン)
ホアン・ウェンション役:李冠毅 リー・グァンイー
ヨウ・ションジエ役:潘親御(パン・チンユー)
バイ教官役:朱宏章(チュウ・ホンジャン)

台湾で2017年に発売され大ヒットしたホラー・ゲーム「返校」を実写映画化したもの。台湾では1947年に「二・二八事件」が起き戒厳令が敷かれ、蒋介石率いる国民党が反体制派に対して政治的弾圧を行った。そして1987年に解除されるまでの40年間戒厳令下だった。国民に相互監視と密告が強制され、多くの人々が投獄、処刑された。この時代は「白色テロ時代」と呼ばれ、『悲情城市』(侯孝賢/ホウ・シャオシェン監督・1989年)や、『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(楊德昌/エドワード・ヤン監督1991年)、『GF*BF(原題:女朋友。男朋友 GF*BF)』(楊雅喆/ヤン・ヤーチェ監督2012年)などでも描かれているが、今作でジョン・スー監督は、台湾人が忘れてはならないこの負の歴史を背景にしたダーク・ミステリーを作り上げた。

1962年、国民党の独裁政権下の台湾。翠華高校に通う女子高生のファン・レイシンは放課後の教室で寝込んでしまい、目を覚ますと学校には誰もいなくなっていた。誰もいない校内を彷徨うファンは男子学生ウェイ・ジョンティンと会い、協力して学校からの脱出を試みるがどこからも外に出ることができない。ジョンティンは、政府から禁じられた本を読む読書会メンバーで秘かにファンを慕っていた。彷徨う二人は悪夢のような恐怖と闘うなか、学内で起こった政府による暴力的な迫害事件と、原因を作った密告者の哀しい真相に近づいていった。
この作品は2019年度台湾映画No.1大ヒットを記録。第56回台湾金馬奨で12部門ノミネートされ、最優秀新人監督賞を含む最多5部門受賞を獲得した。

『返校 言葉が消えた日』の話を聞いた時、ゲームが元で、ホラー作品というので、ゲームに興味がなく、ホラー映画が好きでない私は、別に観なくてもいいかなと思ったのだけど、「二・二八事件」事件を背景にした話と聞き、それは観ておかなくてはと出かけた。「二・二八事件」や「戒厳令下」を物語の背景や時代の背景に描いた映画は何本も観てきたけど、ホラーやミステリー仕立てで描いた作品というのは観たことがなかった。ホラーと聞いただけで、ただでさえ恐ろしいのに、「相互監視と密告が強制された時代」というのまで加わって、よけい恐ろしかった。ストレートな物語で観たかったけど、こういうのでないと観ないという人もいるとしたら、こういう形で歴史的な出来事を描いていくのも必要なことなのかもしれないと思った。なんせ台湾では大ヒットしたとのことなので。ま、私はホラーだけだったら観なかったけど、こういう歴史的事実は繰り返し、何かの形で伝えていかなくては忘れ去られてしまう。日本にもそういう出来事がたくさんある。戦争の悲惨さ、原爆の恐ろしさ、環境破壊や公害のことなど、これからもいろいろな形で、若い人たちに繰り返し伝えて行ってほしい。日本でも、戦前、戦中の言論弾圧があり、人々を戦争に駆り立ててしまったことがあったわけだから、ぜひそういう映画もできてほしい(暁)。


『返校 言葉が消えた日』公式」HP
2019年/台湾/カラー/103分/シネスコ/5.1ch/
字幕翻訳:岡田 美希 配給:ツイン    
宣伝プロデュース:ブレイントラスト
posted by akemi at 20:21| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年07月17日

親愛なる君へ(原題:親愛的房客 )

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© 2020 FiLMOSA Production All rights

監督・脚本:チェン・ヨウチェ
監修:ヤン・ヤーチェ
出演:モー・ズーイー(リン・ジエンイー)、チェン・シューファン(チョウ・シウユー)、バイ・ルンイン(ワン・ヨウユー)、ヤオ・チュエンヤオ(ワン・リーウェイ)、ジェイ・シー(ワン・リーガン)、シエ・チョンシュアン(検察官)、ウー・ポンフォン(警察官)、シェン・ウェイニエン(警察官)、ワン・カーユエン (ネット市民)

ピアノ講師をしているジエンイーは、間借りしている家の老婦・シウユーの介護と、その孫のヨウユーの面倒をひとりで見ている。血のつながりもないけれども、今は亡き同性パートナー、リーウェイの家族だからだ。彼の家に住み、彼の家族を愛することが何より重要なことだった。
しかしある日、痛みに苦しんでいたシウユーが亡くなってしまう。その死因を巡り、ジエンイーは不審の目で見られ警察沙汰になってしまうが、弁解もせず罪を受け入れようとする。それは愛する“家族”を守りたい一心から出たことだった。

シウユーは糖尿病らしく、脚や目に重い症状が出てきます。入院も手術も拒否して、何度も痛みを訴えます。これは在宅で看病する人にも辛い状況です。指先まで優しいジエンイーに「よく頑張っているね」と褒めてあげたいくらいです。母親が亡くなって、リーウェイの弟が戻ってきます。それまで実の息子でありながら、母の世話もせずジエンイーまかせだったのに、母親の財産の行き先を聞いて態度が変わります。ああ、やれやれ。控え目で辛抱強く、リーウェイを心から大切に想っているジエンイーをモー・ズーイーが静かに演じて、切なさが増します。ネットでジエンイーと知り合う男を演じたワン・カーユエンも印象に残りました。
ジエンイーはゲイであることで、常に理不尽な目に遭います。同性でも異性でも、相手を大切に想う気持ちは変わらないでしょうに。検察官がジエンイーに「なぜそこまで他人の世話をするのか」と尋ねたときに、「自分が女性だったら、そう聞くでしょうか?」と逆に質問します。相手は黙ります。
でも、今や女性だからといって夫亡き後、義父母を看取るとは限りませんよ。実の子だってそう、と自分の終活を思わず考えました。性別に関わらず、血のつながりがなくとも「家族になれる」というお話が最近多いです。家族にもいろんな形があっていい、ゆるやかなつながりで心地よく生きられればいいですよね。(白)


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© 2020 FiLMOSA Production All rights

映画が始まって程なく、背景に低い山に囲まれた港! あ、基隆!と、もう感無量でした。基隆は、私の母が7歳から終戦の年までの10年間を過ごした町。『親愛なる君へ』でジエンイーが間借りしている家は、少し高台に建っていて、時折映し出される港の風情がとてもいいです。
亡くなったパートナーの幼い息子と老いた母親を甲斐甲斐しく世話をするジエンイーの姿が切ないです。“国民のおばあちゃん”と呼ばれる名女優チェン・シューファン(陳淑芳)さん演じるシウユーが「痛い痛い」と苦しむのをなんとかしてあげたいと思うジエンイーや孫。自宅での介護の大変さも胸に迫ります。折に触れて基隆の港が背景に出てきた本作、シウユーの苦しむ姿が10年前に癌に苦しみながら亡くなった母に重なりました。(咲)
★スタッフ日記に、思いをたっぷり書きました。
『親愛なる君へ』 基隆で育った母の最期を想う(咲)

莫子儀(モー・ズーイー)には、『台北に舞う雪~Snowfall in Taipei』( 霍建起監督)が東京国際映画祭で上映された時(2009年)にインタビューしたことがある(シネマジャーナル本誌78号に掲載。HPにも掲載)。その頃はインディペンデントの作品に出ていて、この作品が初めての商業作品出演だった。その話し方から感じたのは、穏やかだけど、芯のある役者というイメージだった。それ以来、ずっと彼の出演作品を気にかけていた。その時からもう11年にもなる。激しさはないけど、穏やかで芯のある役者というイメージは今回の作品でもそう感じられた。

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2009年東京国際映画祭『台北に舞う雪~』舞台挨拶時の莫子儀(撮影 宮崎暁美)

去年夏頃、莫子儀のインタビュー記事が載っているシネマジャーナル78号(2010年春号)を購入したいという日本滞在中の台湾の方から連絡があり、何冊か購入していただいた。それで久しぶりに彼のことを思いだし、どうしているのかなと思っていたら、その方から11月にメールが来て、「莫子儀が『親愛的房客』で主演男優賞を獲得した」と連絡があり、「この作品、日本で公開されますかね?」と質問もされ、私は「来年あたり公開されるかもしれませんね」と答えたものの、情報はない状態だった。そうこうしているうちに6月頃、この映画の日本公開の情報を知った。

この作品を観て、ジエンイーは間借り人だけど、亡くなってしまった恋人の母親シウユーと子供ヨウユーを見捨てるわけにはいかなかったんだろうなと思い、彼と一緒に登った思い出の山など、情緒的な話の展開に引き寄せられた。そして、ジエンイーが逮捕された時に離れたくなかったヨウユーの行動を見て、血の繋がりを越えた家族の絆を感じた。
また、彼らが住んでいる家(マンション?)のベランダから見えた港の景色を見て驚いた。基隆だ! 基隆には3回行ったことがあり、去年2月にも行ったばかり。新コロナの影響が出始めたころで、行くのをさんざん迷ったけど、もう20年近く前から行ってみたかった十分(シーフェン)の天燈祭り(ランタン祭り)にやっと行けるというチャンスを逃したくなかったので出かけた。天燈上げの前に近くの基隆に行ったのだけど、その時は侯孝賢監督の『ミレニアル・マンボ』の冒頭に出てきた基隆の歩道橋が取り壊されてしまうというのでそれを探しに行った。橋をみつけた後、食堂に入ったけど、その食堂の後方あたりにあるビルのどこかが、この家族が住んでいるという設定の場所だろうと、この作品を観て思った。基隆湾の光景が懐かしかった。
天燈上げに興味を持ったきっかけは『シーディンの夏(石碇的夏天)』で、この作品で初めて天燈上げを観た。その後いろいろな作品で「天燈」が上がるシーンを観て、ますます興味を持った。そしていつかこの十分の「天燈祭り」に行ってみたいと思うようになった。去年、十分に行った時、道路標識で「石碇方向」というのを見て、石碇はこの十分の近くなんだと思った。この『親愛なる君へ』の作品紹介を書くにあたっていろいろ調べるうち、鄭有傑(チェン・ヨウチエ)監督のフィルモグラフィの中に『シーディンの夏』をみつけ、『シーディンの夏』は鄭有傑監督の作品だったんだと改めて思い縁を感じた。「基隆」しかり、「石碇」しかり、鄭有傑監督は、侯孝賢監督同様この台湾北部の地域が好きなのかもしれない。  
* 侯孝賢監督『悲情城市』は基隆、九份が舞台。『恋々風塵』は十分が舞台。
* 台湾ロケ地めぐり 平渓線沿線『台北に舞う雪』公開記念

台湾金馬奨では、老母を演じた81歳の陳淑芳(チェン・シューファン)がこの作品で助演女優賞を獲得したが、彼女は『孤味(弱くて強い女たち)』では主演女優賞を受賞し、金馬奨史上初めて、主演女優賞と助演女優賞ダブル受賞を果たした。『弱くて強い女たち』は、去年(2020)の東京国際映画祭で上映されたけど、この作品も日本公開されますように(暁)。


◆ジエンイーが恋人や、恋人の子供ヨウユーと登った山は
合歓山(ハーファンシャン Héhuān Shān)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%88%E6%AD%93%E5%B1%B1

◆終盤の圏谷の光景は雪山(シュエシャン) 台湾で2番目に高い山 
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%AA%E5%B1%B1_(%E5%8F%B0%E6%B9%BE)

2020年/台湾/カラー/シネスコ106分/R18+
原題:親愛的房客 Dear Tenant
配給:エスピーオー、フィルモット
(C)2020 FiLMOSA Production All rights
http://filmott.com/shin-ai/
★2021年7月23日(金・祝)シネマート新宿・心斎橋ほか全国順次公開

*シネマジャーナルHP 特別記事
『台北に舞う雪~Snowfall in Taipei』莫子儀(モー・ズーイー)インタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2010/taipei-snow2/index.html
posted by shiraishi at 00:24| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年06月20日

1秒先の彼女(原題:消失的情人節 My Missing Valentine)

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監督・脚本:チェン・ユーシュン『熱帯魚』『ラブ・ゴーゴー』
エグゼクティブ・プロデューサー:イエ・ルーフェン、リー・リエ
出演:リー・ペイユー(ヤン・シャオチー)、リウ・グァンティン(ウー・グアタイ)、ヘイ・ジャアジャア(ペイ・ウェン)、ダンカン・チョウ(リウ・ウェンセン)

郵便局で働くシャオチーは、仕事も恋も冴えない日々を送っていた。子どものころから何をするのにも人よりワンテンポ早い。写真撮影では必ず目をつむっているし、映画では人より早く笑ってしまい、冷たい視線をあびている。彼女は街で出会ったハンサムなダンス講師ウェンセンと、恋が成就するかもしれない“七夕バレンタイン”にデートの約束をした。準備万端整えて眠りについたシャオチー、しかし目を覚ますと、既にバレンタインの翌日になっていた。大切な一日はどこへ消えてしまったの?

楽しみにしていたデートの日(の記憶)がまるまる消えてしまったシャオチー、それなのに日焼けをしているってどういうこと? カメラに残っていた画像から、出かけた場所を探し出します。記憶に全くないんだけれど、そこに写っているのはまぎれもなく自分なんだもの!! 
「!」と「?」がいっぱいのこのストーリー、シャオチーと原因を作った「彼」グアタイ、それぞれの視線で同じ時を観られるので「こんなところに伏線が!」と気づきがあって面白さ倍増です。初めからもう一度観たくなってしまうラブストーリーでした。二人のキャラがよく描けていて、一歩間違えば「イタイ」人になってしまうところを、可愛さを感じられるところで止めています。
自分を振り返ればせっかちなくせに(いや、だから)抜けていて、やっぱり目をつぶった写真が何枚もありました。今やカメラの性能がよくなってシャッター速度も自在なので、失敗は少ないはず。(白)


少女の頃から、何をしても皆より1秒早かったシャオチー。同級生だったグアタイは、逆にトロい少年でした。大人になっても、グアタイは女性に対しても奥手。ダンス講師ウェンセンがぐいぐいシャオチーにアプローチしているのを後ろで黙ってみている姿を、映画を観ているこちらはいらつきながらも、うぶで可愛いな~と思ってしまいます。
『熱帯魚』(95)『ラブ ゴーゴー』(97)と、初期作品から奇想天外な作風で楽しませてくれたチェン・ユーシュン監督には、『祝宴!シェフ』公開の折にインタビューの機会をいただきました。
http://www.cinemajournal.net/special/2014/shukuen/index.html
その時の記事の最後に「トニー・ヤンとキミ・シアさんという美男美女を起用されましたが、二人共、2枚目半のキャラクターにされたところに、監督らしさを感じました」と書いていました。まさに、今回も同じ! 
郵便局でシャオチーの隣に座っている超モテの可愛い女子を演じているヘイ・ジャアジャアは“美しすぎる囲碁棋士”として有名だそうで、リー・ペイユー演じるシャオチーは、男に縁のなさそうなブスにさえ見えてしまいます。グアタイに海に連れていかれた時のシャオチーの笑顔のなんと素敵なこと! グアタイを演じたリウ・グァンティンも、ほんとはイケメンなのに、のろくてヘタレな青年に見えます。チェン・ユーシュン監督のマジックですね。(咲)

陳玉勲(チェン・ユィシュン)監督が映画界に帰ってきた!
『熱帯魚』(95)、『ラブ ゴーゴー』(97)のあと映画の世界を離れ、以来16年ぶりに撮ったのが『祝宴!シェフ』(13)。その間、CMやミュージックビデオの世界で活動していたらしい。長編映画復帰3作目が、この『1秒先の彼女』。陳玉勲監督の作品が大好きだった私は、映画の世界にいつ戻ってくるのだろう。日本公開されるのだろうと心待ちにしていた。そして、この『1秒先の彼女』が公開される。
以前の作品にもあったユーモア感、ポップなのにノスタルジー感のある不思議な世界。不器用に生きている人にやさしくて観終わった後に心をほんわかさせる映画スタイルは健在だった。思いもよらない展開や、クスッと笑えるシーンの数々。世の中のペースに合わずに生きる人への温かいまなざし。ちょっとずれて生きている人へのエールが嬉しい。
シャオチーが消えた「1日」を探し、訪れたのは美しい海辺の町。見覚えあるような海岸線。公式HPによると『熱帯魚』(95)の舞台になった嘉義県・東石村とのことだけど、『熱帯魚』の撮影が行われたのは、近隣の台南市・大甲というところらしい。今年1月に日本公開された『越年 Lovers』(郭珍弟/グオ・チェンディ監督)の3話目に出てきた彰化という場所もこんな景色だった。地図で調べたら「東石村」「大甲」「彰化」は台中の南部にある場所だった。きっと同じような海岸線の景色が見えるような場所なのでしょう。
下調べをしないまま観たけど、観終わった後、友人から「周群達(ダンカン・チョウ)が出ていたね。久しぶりに観た」と言われ、「え!、どこに?」と思ったら、あのキザなダンス教師役だった。『僕の恋、彼の秘密』(04)、『靴に恋する人魚』(05)では可愛い青年という感じだったのに、ずいぶんと変わってしまっていてわからなかった。李霈瑜(リー・ペイユー)も劉冠廷(リウ・グァンティン)も、他の作品で観た記憶はあるのだけど、どの作品だったのかわからない。出演作をみてみたけど観たことない作品ばかり。劉冠廷に関してはフィルメックスで観た『無聲(むせい)』(20)だったのかも。
陳玉勲監督には、『熱帯魚』、『ラブ ゴーゴー』でインタビューしています。
興味ある方はアクセスしてみてください(暁)。
『熱帯魚』http://cineja-film-report.seesaa.net/article/468743078.html
『ラブ ゴーゴー』http://cineja-film-report.seesaa.net/article/468765261.html

第 57 回台湾アカデミー賞(金馬奨)最多 5 部門受賞
(作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、視覚効果賞)
第 25 回釜山国際映画祭 オープンシネマ部門 正式出品

2020年/台湾/カラー/シネスコ/119分/中国語
配給:ビターズ・エンド
(C)MandarinVision Co, Ltd
https://bitters.co.jp/ichi-kano/
★2021年6月25日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
posted by shiraishi at 19:44| Comment(0) | 台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする