2023年05月14日
縁路はるばる(原題:緣路山旮旯 英題:Far Far Away)
監督・脚本:アモス・ウィー
出演:出演:カーキ・サム(ハウ)、クリスタル・チョン(ファファ)、シシリア・ソー(エイリー)、レイチェル・リョン(ミーナ)、ハンナ・チャン(リサ)、ジェニファー・ユー(メラニー)
アプリの開発をしているハウは、同僚だった彼女と1ヶ月で別れてしまったが、その原因がわからずにいる。見た目は平凡で、自分から誘えない内気な性格のため、友人たちに世話を焼かれている始末。次々と5人の女性に出会ったが、なぜかみんな町中から離れた辺鄙なところに住んでいた。気のいいハウは、彼女たちを遠い家まで送っていく。
林立する高層ビルのイメージが強い香港ですが、交通機関を乗り継いだ先には驚くほどの自然の風景が広がっています。香港国際空港や香港ディズニーランドがあるのは、ランタオ島。ほかに大小260余りの島があります。
この映画の中に登場する女性たちは、家賃の高い都会から離れて郊外へ移ったり、親と同居だったりと理由はさまざま。ほんとうに端っこばかりに住んでいて、行ったことのない地名ばかりでした。あ、映画の舞台になったところも出てきましたので、香港映画を観続けてきた人は耳に止まるはず。ハウが開発したアプリがいちいち到着時間や、近辺の情報などを告げてくれるのがおかしいです。
ハウや彼女たちはアラサーで、仕事や結婚や人生を考える年頃。ハウが学生時代から憧れていたマドンナもいて、眼鏡で気の弱そうなところが「のび太君」に似ているハウが思いを告げられるのか、先が気になりますよ~。タイトルは「えんろ」と読み、もちろん「遠路はるばる」のもじりで、ハウと彼女たちの縁を結ぶ道筋でもあるわけです。ハウを演じたカーキ・サムは10代でドキュメンタリーを監督し、話題となった人だとか。俳優もすれば脚本も書き、プロデューサーもと多才です。(白)
2022年3月の第17回大阪アジアン映画祭の特集企画《Special Focus on Hong Kong 2022》で、『僻地へと向かう』のタイトルで海外初上映され、その後、東京外国語大学TUFS Cinemaで『縁路はるばる』のタイトルで、2023年1月9日に上映されました。2か月以上前の10月19日頃に告知され、250人の定員に申し込みが殺到し、一旦、募集フォームがクローズに。その後、500席フルに入れることにして再募集。なんとか申し込みできて、観ることができました。上映後には、東京外国語大学 倉田明子准教授の司会進行で、小栗宏太さん(東京外国語大学博士後期課程)が「香港ローカル映画の現在」のテーマで解説。香港では、2022年8月に公開され、本格的な映画俳優が出ていないにもかかわらず、異例の大ヒット。香港のローカルの要素が満載で、デートカルチャーを扱っていること、社会の変動を比喩的に描いていることなどが香港の人たちの心を掴んだのだろうとのこと。
アプリで目的地を入れて検索するときに、「鉄道を除外」するのは、デモの時、鉄道会社が警察に協力した節があることが背景にあるのではと。暗いニュースが多い香港で、あえて明るく描きながらも現実離れしないことにも気を使った内容。検閲が厳しく、制約のある中で、香港のローカル文化へのオマージュを込めて作られ、挿入歌の歌詞も物語とリンクしていることに言及されました。
この後、台北にいるアモス・ウィー監督とリモートで繋ぎ、リム・カーワイ氏との対談が行われました。原題『緣路山旮旯』は、広東語にこだわったタイトルで、日本にない漢字を使っていますが、台湾の人には読めるとのこと。最後に出てくる長州島は、監督自身が住んでいて、都会に行くのが大変だと実感している場所。
会場から、女性たちのキャラクターについて質問があり、すべてモデルになる知り合いがいて、その人たちのキャラを混ぜて作り上げているそうです。最初、7人の女性たちを考えていたけれど、7か所の僻地は多すぎると5か所にしたとのこと。
熱気溢れた会場で観た本作、モテそうにないハウが次々に美女と交際。送っていく先が、どの彼女の住む場所も僻地で、香港の郊外も大好きな私には、懐かしい場所もたくさん出てきて嬉しい1作でした。
最初の会社の同僚エイリーの家は、沙頭角という中国との国境近くの「辺境禁区」なので、さすがに行ったことはありませんが、そのすぐ近くの粉嶺(ファンリン)や、二人目の29歳のファファの住む夕日で有名な下白泥のすぐそばの流浮山(ラウファンサン)には、初めて香港に行った1979年に、当時勤めていた会社の香港支社の支社長に車で連れていってもらいました。国境の向こうに見える深圳には、まだ何もなかった時代です。
3番目のミーナの住むランタオ島の大澳は、水路沿いに家のあるひなびた町。ランタオ島に空港が出来て、今は船に乗らなくても行けるようになりましたが、それでも大澳は辺鄙な場所。ウォン・カーウァイ監督の『いますぐ抱きしめたい』(1988年)に出てきて、これは行ってみたい!と、まだ空港が出来る前に船とバスを乗り継いで行ったことがあります。その後、オダギリー・ジョー主演の『宵闇真珠』(2017年、監督:ジェニー・シュン クリストファー・ドイル)は全編大澳で撮影されています。
ハウが茶果嶺の祖父母のところで過ごした高校時代、皆のマドンナだったリサが住む梅子林(ライチラム)は、競馬場のある沙田からそれほど遠くないのに、山を越えていかなくてはならないところ。
そして、5人目のメラニーが住むのは、長州島からさらに船で行かなくてはならない橙碧邨(チャンビッチュン)というところ。1980年代に西洋人の金持ちがたくさん住んでいて、香港島の中環(セントラル)から直通フェリーがあったのに、それがなくなって、皆引っ越してしまってさびれた場所。地名は忘れていましたが、そういう場所があったのを聞いたことがありました。饅頭祭で有名な長州島には、一度だけ行ったことがありますが、小さな島でのどかなところでした。
かつて、香港の人たちと宴会をした時に、昼間、元朗近くの屏山に行ってきたと言ったら、「そんな遠く行ったことがない」と皆に言われたのを思い出しました。私にしてみれば、香港の中心部からバスや軽便鉄道で1時間もあれば行けるので、遠いと思えないのですが、やはり僻地のイメージなのですね。
この映画に出てきた場所も、どこも2時間以内で行けるところ。香港は、交通機関もいろいろあって面白いし、客家の囲い家の名残や、自然豊かな場所もあって、ほんとにワンダーランド。久しぶりに香港に行きたくなりました。(咲)
2021年/香港/カラー/シネスコ/96分/5.1ch/映倫G
配給:活弁シネマ倶楽部
c 2021 DOT 2 DOT CREATION LIMITED. All Rights Reserved.
https://enro.myprince.lespros.co.jp/#modal
★2023年5月19日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
2023年01月04日
カンフースタントマン 龍虎武師 原題:龍虎武師 英題:Kung Fu Stuntmen
監督:ウェイ・ジェンツー(魏君子)
出演:サモ・ハン(洪金寶)、ユエン・ウーピン(袁和平)、ドニー・イェン(甄子丹)、ユン・ワー(元華)、チン・カーロッ(錢嘉樂)、ブルース・リャン(梁小龍)、マース(火星)、ツイ・ハーク(徐克)、アンドリュー・ラウ(劉偉強)、エリック・ツァン(曾志偉)、トン・ワイ(董瑋)、ウー・スーユエン(吳思遠)
*アーカイブ出演:ブルース・リー(李小龍)、ジャッキー・チェン(成龍)、ジェット・リー(李連杰)、ラウ・カーリョン(劉家良)、ラム・チェンイン(林正英)
香港アクション映画の発展に身を捧げてきたスタントマンたちの激闘の歴史に迫ったドキュメンタリー
ブルース・リー、ジャッキー・チェン、ジェット・リー、ドニー・イェン・・・ 世界に名を轟かせる香港のアクションスターたち。香港映画のアクションが、ハリウッドをはじめとする世界中の映画界に大きな影響を与えたのは、彼らスターたちの実力だけでなく、映画の中で、彼らの攻撃を受けて派手に吹っ飛び、時には彼らの華麗かつ危険なアクションの代役を務めたスタントマンたちの存在があったからこそ。
著名な映画評論家でもあるウェイ・ジュンツー監督は、3年の撮影期間をかけて、100人近くの香港アクション関係者を徹底取材。膨大なアーカイブ映像も盛り込み、香港アクション映画の歴史を網羅したドキュメンタリーが出来上がった。
カンフー映画のルーツは、京劇にある。
1930年代、中国の京劇役者の多くが、日本の本土侵略から逃れるために香港に移住した。貧しい家庭の子供たちに京劇を教えるようになり、1960年代には香港に4校の京劇学校ができた。ジョン・ローン、サモ・ハン、ジャッキー・チェン、ユン・ピョウらが学んでいたが、京劇人気は下火になり、活躍の場を映画のスタントに移す。当時、東洋一の巨大スタジオを持つショウ・ブラザーズの製作していた映画のカンフー・シーンは、京劇の流れを汲む舞踏のような戦い方が主流。武術と演技の基礎を叩きこまれた彼らは、多様なアクションを演じる事ができた。
1971年、ゴールデン・ハーベストが製作したブルース・リー主演作『ドラゴン危機一発』が驚異的なヒット。これまでにない実践的なファイトシーンは、カンフー映画に変革をもたらすが、1973年にブルース・リーが亡くなり、カンフー映画の人気は低迷。多くのスタントマンが職を失ってしまう。
それを打破したのは映画監督兼俳優のラウ・カーリョンとサモ・ハン。彼らの活躍で、カンフー映画は活気を取り戻しはじめる。この勢いに乗りプロデューサー兼監督のウー・スーユエンは、武術指導だったユエン・ウーピンを監督に、ブレイク前のジャッキー・チェンを主演に『スネーキーモンキー 蛇拳』(78)と『ドランク・モンキー 酔拳』(78)を製作。この2作の大ヒットにより、アクション・コメディがトレンドとなる。
香港映画界に再びカンフー映画ブームが到来。サモ・ハン、ジャッキー・チェン、ユエン・ウーピン、ラウ・カーリョンたちは自分のスタントチームを作り、次々とアクション映画を製作し、競い合う。スタントマンたちは「決して“ノー”と言わない」常軌を逸した精神で、香港アクション映画の最盛期を支えていった・・・
『男たちの挽歌』で、レスリー・チャンにはまり、1990年代の日本での香港映画絶頂期には、レスリー出演作だけでなく、どんなジャンルの香港映画も観まくっていた私。思えば、その前に、ジャッキー・チェンの『酔拳』や、サモ・ハン・キンポーの『燃えよデブゴン』を観ていたからこそ、レスリーに出会えたのでした。ハリウッドのアクション映画には、興味が持てないのに、なぜか香港のアクション映画にはワクワク。ありえないような場面は、スタントの人たちの死をも恐れない覚悟の賜物だったのですね。
サモ・ハンが体形のために、あまりスタント役をもらえず収入が少なかった時代があったとのこと。だからこそ、監督・主演で活路を得たのですね。エリック・ツァンは、名俳優として認識していましたが、元々はサッカー選手からスタントマンになったと知りました。
それほど多くのカンフー映画は観ていないのですが、どこか懐かしさを感じた92分でした。(咲)
小学生だった息子と一緒にジャッキーやユン・ピョウの映画を劇場で、Mr.BOOやブルース・リーの作品はテレビで観ていました。あのアクションの陰に、有名無名のスタントマンたちの汗と涙と血が流れていました!今では考えられない命がけの危険な現場です。
アクション映画のレジェンドたちの当時の思い出話は、郷愁に満ちていますが、やりがいや誇りがあったとしてもあんまりな職場です。保険も補償もない中挑んでいたシーンを、深く考えずに観ていて「ごめんなさい」、楽しませてもらって「ありがとう」という気分でした。
ひところの隆盛はすっかりなくなったカンフー映画ですが、アクションシーンが不要になったわけではありません。CGの技術が発達したおかげで危険なシーンは回避できても、元の動きは人間のものです。これまでの積み重ねがあってこその「今」だということがよくわかるドキュメンタリーです。懐かしい作品の名シーンやその秘話、背景の香港の街並みが観られるのも嬉しいです。願わくはスタントマンたちが安全であること、苦労や努力に見合う報酬が得られますように。香港電影迷必見!(白)
香港映画好きだけどカンフー映画はあまり観ていない。香港映画を初めて観たのは、1990年日本公開の『風の輝く朝に』(1984)。その後香港映画にはまったけど、主に観ていたのは香港ニューウェーヴ系が多かった。アクション系の香港映画を初めてみたのは『ポリス・ストーリー3』(1992)。それまでジャッキー・チェンの映画も観たことがなかった。しかし、ジャッキーやサモハン、ユンピョウの名前は知っていた。観ていなくても知っていたくらいだから、けっこう巷や、映画雑誌に名前が載っていたのを見ていたのでしょう。『ポリス・ストーリー3』でびっくりしたのは、ミシェール・キング(ミシェール・ヨー)がバイクで列車に飛び移るシーン。これに驚き、この女優さんすごい!と思ったのがきっかけで、香港のアクション映画にも興味を持つようになった。
その後、カンフー映画も観るようになったけど、1990年以前のものはあまり観ていない。そんな私が観てもこの映画はすごい!! 映画のアクションシーンに命をかけたスタントマンたちの、心意気、姿、そのシーンの数々を観ることができる。CG全盛になった今日でも、元の形は彼らの演じたものから来ていると思う。そしてこのアクションシーンの華麗さは、京劇の動きからきていたというのを改めて思った。『七人楽隊』での京劇学校での訓練シーンを思いだし、こういう訓練の結果がスタントマンたちの原点にあるのだろうと思った(暁)。
2021年/香港・中国/広東語・北京語/92分/ビスタ/5.1ch
日本語字幕:城誠子
字幕監修:谷垣健治
特別協力:ジャパン・アクション・ギルド
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:https://kungfu-stuntman.com/
★2023年1月6日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開.
2022年12月11日
『理大囲城』 原題:理大圍城 英題:Inside the Red Brick Wall
2022年12月17日~ポレポレ東中野ほか全国ロードショー 他の上映劇場
映画への検閲、規制が厳しくなり、言論と表現の自由が一段と狭まっている香港での上映禁止作品『少年たちの時代革命』(12/10)『理大囲城』(12/17)が続けて日本公開!!
監督:香港ドキュメンタリー映画工作者
2019年6月からはじまった香港民主化デモだが、香港国家安全維持法施行により封じ込められてしまった。映画への検閲、規制も厳しくなり、香港の言論と表現の自由が一段と狭まり、香港で上映禁止となったが海外映画祭で上映され、大きな話題となっている。
2021年カンヌ国際映画祭、東京フィルメックス2021にてサプライズ上映された『時代革命』(監督:キウィ・チョウ)、山形国際ドキュメンタリー映画祭2021で最高賞となるロバート&フランシス・フラハティ賞を受賞した『理大囲城』(監督:香港ドキュメンタリー映画工作者)、2022年ロッテルダム国際映画祭にて『Blue Island 憂鬱之島』(監督:チャン・ジーウン監督)が上映されるなど、現在の香港を描いた映画が国際的に注目を集めた。
そうした中、フィクション映画では、『少年たちの時代革命』が台湾アカデミー賞を席捲したのを皮切りに、台湾で劇場公開され、同年6月に日本でも2日限定の上映会が催されたのをきっかけに、12月10日からポレポレ東中野で日本公開されている。そして、ポレポレ東中野で連続して12月17日からは、この『理大囲城』が公開される。
2019年の香港民主化デモの中でもスキャンダラスな事件と言われる香港理工大学包囲事件を記録
アジア屈指の名門校・香港理工大学が警察に封鎖され、要塞と化した緊迫の13日間。至近距離のカメラが捉えた、衝撃の籠城戦の記録! 圧倒的な武力を持つ警察に包囲された構内には、中高生を含むデモ参加者と学生が取り残され、逃亡犯条例改正反対デモで最多となる1377名の逮捕者をだした。
警察は兵糧攻めを決行、支援者が救援物資を運ぶことも、記者や救護班が入ることもできなかった。その中で、匿名の監督「香港ドキュメンタリー映画工作者」たちは、デモ参加者として大学構内でカメラをまわし続けた。
武器を持ち戦い続けるか、命がけで脱出するか…
戦場と化した大学構内で究極の選択を迫られていく学生たち!
キャンパスに留まっても圧倒的な武力を持つ警察に潰される恐怖、脱出しても逮捕されるかもしれない恐怖は、デモ参加者の心をかき乱す。四面楚歌のキャンパスの中の人間模様を映し出す。圧倒的な武力で封じ込めようとする警察を前になすすべもないデモ隊の姿は、今、香港が置かれている状況を映し出す。
監督は全員匿名、出演者の顔はモザイク処理し、閉じ込められ追い詰められた学生たちの姿を映し出し、表情は見えなくても、心情は伝わってくる。警棒でたたかれ、催涙弾や水を浴び、粗暴な警官隊に力ずくでねじ伏せられる若者たちの憔悴や不安。どういう方法で突破するか、救援隊を待つのか。退路を絶たれた学生たちが日ごとに憔悴してゆく姿を克明に捉えている。衝撃の籠城戦の記録!
2017年に山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映された『乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動』(2016年、陳梓桓チャン・ジーウン監督)から数年しかたっていないし、2015年製作の『十年』から10年たたずに香港の自治が踏みにじられてしまった。香港はどうなっていくのだろう。監督たちは「これからも撮影を継続しアクションを起こし続ける」と語っているが、その言葉は心強いけど、香港ではデモや、民主化を求める行動自体が制限され、その機会自体がなくなってしまうのではないかと心配。この作品は山形国際ドキュメンタリー映画祭2021でロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)を受賞したが、映画祭の東琢磨審査員長は「最も大事なことは、世界が彼らのことから目を離さずにいることだ」と述べている。山形の受賞記事はこちら。
このドキュメンタリーを観て、1969年の「東大安田講堂攻防戦」を思いだした。1960年代後半、日本ではベトナム反戦・反安保闘争、学園民主化などを求め、大学紛争(大学闘争)が起こった。その中で1969年、東大全共闘や新左翼の学生たちが安田講堂にたてこもった。その時、大学から依頼を受けた警視庁が1969年(昭和44年)1月18日~1月19日に封鎖解除を行った。私は当時高校2年で、飯田橋にある病院に入院していて、窓から東大方向を見ると、報道関係?のヘリコプターが飛び交い、学生たちと警官たちの攻防の喚声や怒号が聞こえ、かなりの緊張感でその状況を見ながら、TVのニュースから流れる報道とのニュアンスの違いを感じていた。この学生たちが、安田講堂を何日くらい占拠していたかは忘れてしまったが、相当長い間占拠していた記憶はある。一番多い時期、東京都内だけで55の大学でバリケード封鎖が行われていたという。その頂点として、この「東大安田講堂攻防戦」があったと思う。今、思えばきっと、この安田講堂にたてこもった学生たちも、この理工大の学生たちのような葛藤もあっただろう。当時はそのようなことは考えたこともなかったけど、このドキュメンタリーを観て、そのことに思いを馳せた。
私は劉徳華(アンディ・ラウ)の紅磡(ホンハム)のコロシアム(香港体育館)でのコンサートに行ったことがあり、その時、理工大横の歩道橋を通って行ったので、理工大を見たことがある。その大学で起こったことなので観ていてとても心が重かった。私が通っていた歩道橋が何度も映し出され、香港コロシアムも映像の中に出てきた。現在、理工大はどのような状況になっているのかとても気になる(暁)。
山形国際ドキュメンタリー映画祭2021の折にオンラインで観て、圧倒された作品。最高賞であるロバート&フランシス・フラハティ賞受賞も納得でした。警察に封鎖され、中高校生も含む若い人たちが、決死の思いで飛び降りたり、下水道を通ったりして、なんとか逃げようとするのですが、そんな彼らさえ、警察が捕まえようとすることに胸が痛みました。
封鎖された理工大にサミュエル・ホイやイーソン・チャンの歌が流れてきたのですが、警察が流したらしく、え?どういうつもり?と思いました。
理工大といえば、(暁)さんと同じく、アンディ・ラウやレスリー・チャンのコンサートが紅館(香港コロシアム)で開かれたときには、必ず目にしていたところ。とはいえ、大学の構内は外からは見えませんでした。2013年のアジアフォーカス福岡国際映画祭で上映され、福岡観客賞を受賞した香港映画『狂舞派』は理工大のキャンパスで撮影した作品で、中はこんな風になっているのかと知ることができたのでした。ヒップホップダンスが大好きなのに足を怪我して踊れなくなった豆腐屋の娘ファーを、理工大の太極拳部の男子が励ますという物語(だったと思います)。 『狂舞派』で観た理工大は、勉学に励みキャンパスライフを楽しむ若者たちが大勢集う場でした。それが本来の大学の姿のはず。大勢の警官に取り囲まれた大学はあまりに悲しい姿でした。 それでも、あの頃には、「声」をあげることができた香港の人たち・・・。今は押し黙っているしかないのは、さらに悲しい。(咲)
『理大囲城』公式サイト
配給:Cinema Drifters・大福
宣伝:大福
2021/香港/カラー/DCP/ステレオ/88分
『理大囲城』
アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭最優秀編集賞
香港映画評論学会最優秀映画賞
台湾国際ドキュメンタリー映画祭オープニング作品
山形国際ドキュメンタリー映画祭大賞
*『少年たちの時代革命』の作品紹介はこちら
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/494357506.html
*参照 シネマジャーナル これまでの香港民主化運動関係の記事
●『時代革命』 キウィ・チョウ監督インタビュー 2022年7月22日
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/490683730.html
●香港返還25年 大雨だった1997年7月1日を思う
http://cinemajournal.seesaa.net/article/489403875.html
特別記事
●『乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動』
陳梓桓(チャン・ジーウン)監督インタビュー
山形国際ドキュメンタリー映画祭2017にて 2017年10月11日
http://www.cinemajournal.net/special/2017/yellowing/index.html
●『乱世備忘 僕らの雨傘運動』
陳梓桓(チャン・ジーウン)監督インタビュー(日本公開時)2018年07月22日
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/460641864.html
●『革命まで』2015年 香港
郭達俊(クォック・タッチュン)監督&江瓊珠(コン・キンチュー)監督インタビュー(山形国際ドキュメンタリー映画祭2015にて)
http://www.cinemajournal.net/special/2016/kakumeimade/index.html
映画への検閲、規制が厳しくなり、言論と表現の自由が一段と狭まっている香港での上映禁止作品『少年たちの時代革命』(12/10)『理大囲城』(12/17)が続けて日本公開!!
監督:香港ドキュメンタリー映画工作者
2019年6月からはじまった香港民主化デモだが、香港国家安全維持法施行により封じ込められてしまった。映画への検閲、規制も厳しくなり、香港の言論と表現の自由が一段と狭まり、香港で上映禁止となったが海外映画祭で上映され、大きな話題となっている。
2021年カンヌ国際映画祭、東京フィルメックス2021にてサプライズ上映された『時代革命』(監督:キウィ・チョウ)、山形国際ドキュメンタリー映画祭2021で最高賞となるロバート&フランシス・フラハティ賞を受賞した『理大囲城』(監督:香港ドキュメンタリー映画工作者)、2022年ロッテルダム国際映画祭にて『Blue Island 憂鬱之島』(監督:チャン・ジーウン監督)が上映されるなど、現在の香港を描いた映画が国際的に注目を集めた。
そうした中、フィクション映画では、『少年たちの時代革命』が台湾アカデミー賞を席捲したのを皮切りに、台湾で劇場公開され、同年6月に日本でも2日限定の上映会が催されたのをきっかけに、12月10日からポレポレ東中野で日本公開されている。そして、ポレポレ東中野で連続して12月17日からは、この『理大囲城』が公開される。
2019年の香港民主化デモの中でもスキャンダラスな事件と言われる香港理工大学包囲事件を記録
アジア屈指の名門校・香港理工大学が警察に封鎖され、要塞と化した緊迫の13日間。至近距離のカメラが捉えた、衝撃の籠城戦の記録! 圧倒的な武力を持つ警察に包囲された構内には、中高生を含むデモ参加者と学生が取り残され、逃亡犯条例改正反対デモで最多となる1377名の逮捕者をだした。
警察は兵糧攻めを決行、支援者が救援物資を運ぶことも、記者や救護班が入ることもできなかった。その中で、匿名の監督「香港ドキュメンタリー映画工作者」たちは、デモ参加者として大学構内でカメラをまわし続けた。
武器を持ち戦い続けるか、命がけで脱出するか…
戦場と化した大学構内で究極の選択を迫られていく学生たち!
キャンパスに留まっても圧倒的な武力を持つ警察に潰される恐怖、脱出しても逮捕されるかもしれない恐怖は、デモ参加者の心をかき乱す。四面楚歌のキャンパスの中の人間模様を映し出す。圧倒的な武力で封じ込めようとする警察を前になすすべもないデモ隊の姿は、今、香港が置かれている状況を映し出す。
監督は全員匿名、出演者の顔はモザイク処理し、閉じ込められ追い詰められた学生たちの姿を映し出し、表情は見えなくても、心情は伝わってくる。警棒でたたかれ、催涙弾や水を浴び、粗暴な警官隊に力ずくでねじ伏せられる若者たちの憔悴や不安。どういう方法で突破するか、救援隊を待つのか。退路を絶たれた学生たちが日ごとに憔悴してゆく姿を克明に捉えている。衝撃の籠城戦の記録!
2017年に山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映された『乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動』(2016年、陳梓桓チャン・ジーウン監督)から数年しかたっていないし、2015年製作の『十年』から10年たたずに香港の自治が踏みにじられてしまった。香港はどうなっていくのだろう。監督たちは「これからも撮影を継続しアクションを起こし続ける」と語っているが、その言葉は心強いけど、香港ではデモや、民主化を求める行動自体が制限され、その機会自体がなくなってしまうのではないかと心配。この作品は山形国際ドキュメンタリー映画祭2021でロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞)を受賞したが、映画祭の東琢磨審査員長は「最も大事なことは、世界が彼らのことから目を離さずにいることだ」と述べている。山形の受賞記事はこちら。
このドキュメンタリーを観て、1969年の「東大安田講堂攻防戦」を思いだした。1960年代後半、日本ではベトナム反戦・反安保闘争、学園民主化などを求め、大学紛争(大学闘争)が起こった。その中で1969年、東大全共闘や新左翼の学生たちが安田講堂にたてこもった。その時、大学から依頼を受けた警視庁が1969年(昭和44年)1月18日~1月19日に封鎖解除を行った。私は当時高校2年で、飯田橋にある病院に入院していて、窓から東大方向を見ると、報道関係?のヘリコプターが飛び交い、学生たちと警官たちの攻防の喚声や怒号が聞こえ、かなりの緊張感でその状況を見ながら、TVのニュースから流れる報道とのニュアンスの違いを感じていた。この学生たちが、安田講堂を何日くらい占拠していたかは忘れてしまったが、相当長い間占拠していた記憶はある。一番多い時期、東京都内だけで55の大学でバリケード封鎖が行われていたという。その頂点として、この「東大安田講堂攻防戦」があったと思う。今、思えばきっと、この安田講堂にたてこもった学生たちも、この理工大の学生たちのような葛藤もあっただろう。当時はそのようなことは考えたこともなかったけど、このドキュメンタリーを観て、そのことに思いを馳せた。
私は劉徳華(アンディ・ラウ)の紅磡(ホンハム)のコロシアム(香港体育館)でのコンサートに行ったことがあり、その時、理工大横の歩道橋を通って行ったので、理工大を見たことがある。その大学で起こったことなので観ていてとても心が重かった。私が通っていた歩道橋が何度も映し出され、香港コロシアムも映像の中に出てきた。現在、理工大はどのような状況になっているのかとても気になる(暁)。
山形国際ドキュメンタリー映画祭2021の折にオンラインで観て、圧倒された作品。最高賞であるロバート&フランシス・フラハティ賞受賞も納得でした。警察に封鎖され、中高校生も含む若い人たちが、決死の思いで飛び降りたり、下水道を通ったりして、なんとか逃げようとするのですが、そんな彼らさえ、警察が捕まえようとすることに胸が痛みました。
封鎖された理工大にサミュエル・ホイやイーソン・チャンの歌が流れてきたのですが、警察が流したらしく、え?どういうつもり?と思いました。
理工大といえば、(暁)さんと同じく、アンディ・ラウやレスリー・チャンのコンサートが紅館(香港コロシアム)で開かれたときには、必ず目にしていたところ。とはいえ、大学の構内は外からは見えませんでした。2013年のアジアフォーカス福岡国際映画祭で上映され、福岡観客賞を受賞した香港映画『狂舞派』は理工大のキャンパスで撮影した作品で、中はこんな風になっているのかと知ることができたのでした。ヒップホップダンスが大好きなのに足を怪我して踊れなくなった豆腐屋の娘ファーを、理工大の太極拳部の男子が励ますという物語(だったと思います)。 『狂舞派』で観た理工大は、勉学に励みキャンパスライフを楽しむ若者たちが大勢集う場でした。それが本来の大学の姿のはず。大勢の警官に取り囲まれた大学はあまりに悲しい姿でした。 それでも、あの頃には、「声」をあげることができた香港の人たち・・・。今は押し黙っているしかないのは、さらに悲しい。(咲)
『理大囲城』公式サイト
配給:Cinema Drifters・大福
宣伝:大福
2021/香港/カラー/DCP/ステレオ/88分
『理大囲城』
アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭最優秀編集賞
香港映画評論学会最優秀映画賞
台湾国際ドキュメンタリー映画祭オープニング作品
山形国際ドキュメンタリー映画祭大賞
*『少年たちの時代革命』の作品紹介はこちら
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/494357506.html
*参照 シネマジャーナル これまでの香港民主化運動関係の記事
●『時代革命』 キウィ・チョウ監督インタビュー 2022年7月22日
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/490683730.html
●香港返還25年 大雨だった1997年7月1日を思う
http://cinemajournal.seesaa.net/article/489403875.html
特別記事
●『乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動』
陳梓桓(チャン・ジーウン)監督インタビュー
山形国際ドキュメンタリー映画祭2017にて 2017年10月11日
http://www.cinemajournal.net/special/2017/yellowing/index.html
●『乱世備忘 僕らの雨傘運動』
陳梓桓(チャン・ジーウン)監督インタビュー(日本公開時)2018年07月22日
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/460641864.html
●『革命まで』2015年 香港
郭達俊(クォック・タッチュン)監督&江瓊珠(コン・キンチュー)監督インタビュー(山形国際ドキュメンタリー映画祭2015にて)
http://www.cinemajournal.net/special/2016/kakumeimade/index.html
2022年12月03日
少年たちの時代革命 原題:少年 英題:May You Stay Forever Young
2022年12月10日ポレポレ東中野ほか全国ロードショー 劇場情報
香港の香港民主化運動の中でもがく若者たちを描いた青春映画
日本でも上映された『理大囲城』『時代革命』と共に、台湾金馬奨を席捲した衝撃作が日本公開
監督:任俠(レックス・レン)、林森(ラム・サム)
撮影:ming 田中十一 陳家信
編集:L2 任侠
音楽:Aki
出演:余子穎(ユー・ジーウィン)、孫君陶(スン・クワントー)、曾睿彤(マヤ・ツァン)
2019年6月9日から始まった香港の民主化デモから3年、2020年7月に「香港国家安全維持法」が施行されてから2年が経とうとしている。中国当局の締め付けが厳しくなり自由が失われつつある香港では、映画への検閲、規制も厳しくなり、香港の言論と表現の自由が一段と狭まっています。そうした状況で、香港では上映禁止となった映画が、海外映画祭で上映され、多くの注目されています。
2021年カンヌ国際映画祭、東京フィルメックス2021にてサプライズ上映された『時代革命』(監督:周冠威)、山形国際ドキュメンタリー映画祭2021で最高賞となるロバート&フランシス・フラハティ賞を受賞した『理大囲城』(監督:香港ドキュメンタリー映画工作者)は、日本でも大きな話題になりました。
台湾金馬奨では、これらの作品と共に、香港の無名の新人監督・任俠と林森製作の本作『少年たちの時代革命』が最優秀新人監督部門、最優秀編集賞部門にノミネートされました。香港民主化デモを描いたドキュメンタリー映画が注目される中、フィクション映画でも香港映画の新たな才能が出現していることは、香港映画界にとって希望となっています。
2019年香港民主化デモを描く劇映画!
2019年、民主化デモで示した民意が香港政府に受け止められないことに、無力感や絶望感を募らせ、抗議の自殺をする若者が相次いだ背景を元に作られた。
民主化運動のデモに参加した少女YYは警察に逮捕され、保釈されたが親友も香港を去ることになり、孤独に苦しみ自殺しようと街を彷徨する。それを知ったデモ参加者の仲間たちがSNSを頼りに彼女を探し出そうと、デモの最中、街中を走りまわり探すがみつけ出せないまま時間が過ぎてゆく。
夜になり、屋上から香港の街を見下ろしている彼女をみつけ、自殺をとどまるよう説得。デモ現場でのゲリラ撮影や、実際のデモ映像を織り交ぜた緊迫感ある映像を織り交ぜ、緊迫感あるストーリーが展開する。
少女YYの絶望する心、仲間を失いたくないデモ参加者たちが民主化運動の中でもがく悲痛な思いが伝わってくる。自由が失われ、絶望と希望の間で彼らは香港を歩き続けた。
最近では民主化運動のドキュメンタリーだけでなく、その中で生き、もがき苦しむ人々にフォーカスしたドラマも作られるようになった香港。この映画の主人公の少女の夢も希望も奪われ、この中で生きていたくないという絶望感は私もわかる。私も1970年頃の学生運動の中で「こんなに頑張って運動しても何も変わらない。それどころか状況は悪くなっている」という絶望感を感じていた。その思いが繰り返されていると感じた。いわば行き止まりの絶望感でもある。そこを乗り越えて、やれるところから変えていってほしいと、昔、同じ絶望感を感じた私は思う。
今年は同じように民主化運動の中に生きる人々を描いた陳梓桓(チャン・ジーウン)監督の『Blue Island 憂鬱之島』も公開されたし、香港民主化運動に関連したドキュメンタリーやドラマが何本も公開され、香港への関心は高まっているけど、これで終わらず、これからも香港の行く方向を見守っていきたい(暁)。
公式HP
2021/香港/カラー/DCP/ステレオ/86分
配給:Cinema Drifters、大福
*参照 シネマジャーナル これまでの香港民主化運動関係の記事
●『時代革命』 キウィ・チョウ監督インタビュー
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/490683730.html
●香港返還25年 大雨だった1997年7月1日を思う
http://cinemajournal.seesaa.net/article/489403875.html
特別記事
●『乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動』
陳梓桓(チャン・ジーウン)監督インタビュー
山形国際ドキュメンタリー映画祭2017にて 2017年10月11日
http://www.cinemajournal.net/special/2017/yellowing/index.html
●『乱世備忘 僕らの雨傘運動』
陳梓桓(チャン・ジーウン)監督インタビュー(日本公開時)2018年07月22日
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/460641864.html
●『革命まで』2015年 香港
郭達俊(クォック・タッチュン)監督&江瓊珠(コン・キンチュー)監督インタビュー(山形国際ドキュメンタリー映画祭2015にて)
http://www.cinemajournal.net/special/2016/kakumeimade/index.html
香港の香港民主化運動の中でもがく若者たちを描いた青春映画
日本でも上映された『理大囲城』『時代革命』と共に、台湾金馬奨を席捲した衝撃作が日本公開
監督:任俠(レックス・レン)、林森(ラム・サム)
撮影:ming 田中十一 陳家信
編集:L2 任侠
音楽:Aki
出演:余子穎(ユー・ジーウィン)、孫君陶(スン・クワントー)、曾睿彤(マヤ・ツァン)
2019年6月9日から始まった香港の民主化デモから3年、2020年7月に「香港国家安全維持法」が施行されてから2年が経とうとしている。中国当局の締め付けが厳しくなり自由が失われつつある香港では、映画への検閲、規制も厳しくなり、香港の言論と表現の自由が一段と狭まっています。そうした状況で、香港では上映禁止となった映画が、海外映画祭で上映され、多くの注目されています。
2021年カンヌ国際映画祭、東京フィルメックス2021にてサプライズ上映された『時代革命』(監督:周冠威)、山形国際ドキュメンタリー映画祭2021で最高賞となるロバート&フランシス・フラハティ賞を受賞した『理大囲城』(監督:香港ドキュメンタリー映画工作者)は、日本でも大きな話題になりました。
台湾金馬奨では、これらの作品と共に、香港の無名の新人監督・任俠と林森製作の本作『少年たちの時代革命』が最優秀新人監督部門、最優秀編集賞部門にノミネートされました。香港民主化デモを描いたドキュメンタリー映画が注目される中、フィクション映画でも香港映画の新たな才能が出現していることは、香港映画界にとって希望となっています。
2019年香港民主化デモを描く劇映画!
2019年、民主化デモで示した民意が香港政府に受け止められないことに、無力感や絶望感を募らせ、抗議の自殺をする若者が相次いだ背景を元に作られた。
民主化運動のデモに参加した少女YYは警察に逮捕され、保釈されたが親友も香港を去ることになり、孤独に苦しみ自殺しようと街を彷徨する。それを知ったデモ参加者の仲間たちがSNSを頼りに彼女を探し出そうと、デモの最中、街中を走りまわり探すがみつけ出せないまま時間が過ぎてゆく。
夜になり、屋上から香港の街を見下ろしている彼女をみつけ、自殺をとどまるよう説得。デモ現場でのゲリラ撮影や、実際のデモ映像を織り交ぜた緊迫感ある映像を織り交ぜ、緊迫感あるストーリーが展開する。
少女YYの絶望する心、仲間を失いたくないデモ参加者たちが民主化運動の中でもがく悲痛な思いが伝わってくる。自由が失われ、絶望と希望の間で彼らは香港を歩き続けた。
最近では民主化運動のドキュメンタリーだけでなく、その中で生き、もがき苦しむ人々にフォーカスしたドラマも作られるようになった香港。この映画の主人公の少女の夢も希望も奪われ、この中で生きていたくないという絶望感は私もわかる。私も1970年頃の学生運動の中で「こんなに頑張って運動しても何も変わらない。それどころか状況は悪くなっている」という絶望感を感じていた。その思いが繰り返されていると感じた。いわば行き止まりの絶望感でもある。そこを乗り越えて、やれるところから変えていってほしいと、昔、同じ絶望感を感じた私は思う。
今年は同じように民主化運動の中に生きる人々を描いた陳梓桓(チャン・ジーウン)監督の『Blue Island 憂鬱之島』も公開されたし、香港民主化運動に関連したドキュメンタリーやドラマが何本も公開され、香港への関心は高まっているけど、これで終わらず、これからも香港の行く方向を見守っていきたい(暁)。
公式HP
2021/香港/カラー/DCP/ステレオ/86分
配給:Cinema Drifters、大福
*参照 シネマジャーナル これまでの香港民主化運動関係の記事
●『時代革命』 キウィ・チョウ監督インタビュー
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/490683730.html
●香港返還25年 大雨だった1997年7月1日を思う
http://cinemajournal.seesaa.net/article/489403875.html
特別記事
●『乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動』
陳梓桓(チャン・ジーウン)監督インタビュー
山形国際ドキュメンタリー映画祭2017にて 2017年10月11日
http://www.cinemajournal.net/special/2017/yellowing/index.html
●『乱世備忘 僕らの雨傘運動』
陳梓桓(チャン・ジーウン)監督インタビュー(日本公開時)2018年07月22日
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/460641864.html
●『革命まで』2015年 香港
郭達俊(クォック・タッチュン)監督&江瓊珠(コン・キンチュー)監督インタビュー(山形国際ドキュメンタリー映画祭2015にて)
http://www.cinemajournal.net/special/2016/kakumeimade/index.html
2022年10月02日
『七人樂隊』(原題:七人樂隊/英題:Septet:The Story of Hong Kong)
10月7日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
劇場情報
香港ニューウェーブを担った監督7人が、50年代から未来まで、香港の各時代の“美しい瞬間”を全編35mmフィルムで撮った7つの物語
監督:洪金寶(サモ・ハン)/許鞍華(アン・ホイ)/譚家明(パトリック・タム)/袁和平(ユエン・ウーピン)/杜琪峯(ジョニー・トー)/林嶺東(リンゴ・ラム)/徐克(ツイ・ハーク)
プロデューサー:杜琪峯/朱淑儀(エレイン・チュー)
出演:洪天明(ティミー・ハン)/呉鎭宇(フランシス・ン)/余香凝(ジェニファー・ユー)/元華(ユン・ワー)/伍詠詩(ン・ウィンシー)/任達華(サイモン・ヤム)/張達明(チョン・タッミン)/林雪(ラム・シュ)
『七人樂隊』はジョニー・トー監督プロデュースで、長らく香港映画界を牽引してきた七人の監督が集結。1950年代から未来まで、10年ごとに年代がを分け担当した短編7本から成るオムニバス映画。それぞれ個性あふれる作品で活躍してきた7人の監督たちが自身の特別なノスタルジーをこめ映像化した物語は、デジタルが主流の現代に、あえて35mmフィルムで撮影を行い、過ぎ去りし“フィルムの時代”への敬意を表している。
第73回カンヌ国際映画祭カンヌセレクション2020で上映された本作は、ジョニー・トー監督プロデュースの元、七人の監督が集い、担当する年代をくじで選び製作された。
貧しかった50年代、必死にカンフーの稽古に励んだ幼い自分と仲間の姿、自伝的エピソードを描したサモ・ハン監督の「稽古」。サモ・ハンの息子洪天明がカンフーの先生役を演じている。
教育に生涯を捧げる校長先生(呉鎭宇)と、家族のような日々を過ごした学校の先生たち。そして女性教師の淡い憧れを描いたアン・ホイ監督の「校長先生」。
移住を控えた恋人たちの別れをスタイリッシュな映像で描いたパトリック・タム監督の「別れの夜」
移住する孫と香港に残るおじいさんの、話がかみ合わないながらも温かな交流を描くユエン・ウーピン監督「回帰」。孫娘を愛する祖父役を元華が演じている。
香港特有の喫茶店“茶餐廳”を舞台に、庶民が株価に右往左往する姿を描くジョニー・トー監督の「ぼろ儲け」。お約束の林雪(林雪)が出演。
イギリスから久しぶりに帰って来た主人公が、香港の変わり様に翻弄されるリンゴ・ラム監督「道に迷う」。任達華が道に迷う。
精神科の治療風景を描き、たたみかける台詞が魅力のツイ・ハ―ク監督「深い会話」、かみ合わない論争を続ける張達明のとぼけた演技。徐克と許鞍華もカメオ出演。
2020年の東京フィルメックスで上映され観客賞を受賞した作品。
杜琪峯監督の呼びかけで集まった、香港映画ニューウエイブ全盛期に登場し活躍した同世代の7人の映画監督たちが、それぞれの持ち味を生かし、1950年代から近未来までの歴史をたどりつつ香港の人々を描いたオムニバス映画。林嶺東監督にとっては本作が遺作になった。こちらの7人の楽隊は、変わりゆく時代に寄り添う香港愛に満ちたSeptet(七重奏)を奏でた。
洪金寶の「練功」は、『七小福』を思わせるカンフー訓練風景を描く。訓練をサボったらみつかってしまい、さらに厳しくしごかれる。子供達のお茶目な姿に思わずにっこり。でもすごいカンフー技を見せてくれた。許鞍華の「校長」はノスタルジック感あふれる、彼女らしい情感にあふれた作品だった。呉鎭宇を校長先生役に持ってくるなんてユニーク。彼のこんな姿、これまで観たことがない! 袁和平の「回帰」は1997年の香港返還前後の話で、香港に残ったカンフー好き爺さんとカナダへ渡った孫娘との交流を描いていたけど、好々爺的な元華の姿が微笑ましかった。杜琪峯の「ぼろ儲け(遍地黄金)」は『奪命金』を彷彿とさせるような一攫千金を狙って金儲けに励む香港人が出てくる。株の売買で、間違って食堂メニューの番号を頼んだら、値上がりするという行き違いの妙が描かれた杜琪峯らしい作品。林嶺東の「道に迷う(迷路)」の最後には「香港より良い所はたくさんあるが、故郷に対する愛は香港にしかない」と出てくる。徐克の「深い会話(深度対話)」は、近未来の精神病院が舞台。医者と患者が入り乱れ、最後はどちらがどちらかわからなくなるような混乱を描いた。これも徐克ならではの作品で、香港映画にハマった人にとっては出演陣の口角泡を飛ばす会話が爆笑もの。しかし、今の香港の状況を考えると、かつての香港を取り戻せないかもしれないと思い、香港の未来を思うと絶望感もある。この『七人楽隊』が、変わりつつある香港へのレクイエムにならないことを祈りたい(暁)。
長年の香港映画ファンにとって、感慨深く、愛おしくてたまらない映画。
7人の監督が、与えられた年代を舞台に描いた物語は、それぞれがその監督らしいテイストで、出演者も違うのに、見終わって、1950年代から近未来に至る香港の市井の人々を描いた一つの絵巻物のように感じました。
香港返還を見据えて国外に移住する人と香港に残る人との別れ、空港が町中の啓徳にあった頃のビルの真上を飛んでいく飛行機、一つのカード(オクトパス)で交通機関だけでなく様々なものが決済できるようになるのを予想する人、中環(セントラル)のスターフェリー乗り場が移動した跡にできた大きな観覧車・・・ ちょっとしたことから感じる、香港の変遷に胸がいっぱいになりました。
そして、フラさま(呉鎭宇=フランシス・ン)が落ち着いた校長先生を演じ、サイモン・ヤム(任達華)が海外から里帰りし、昔馴染みの建物が見つからなくて戸惑う中年男を演じるという、彼らがぎらぎらしていた頃を思うと、時が流れたことをずっしり感じました。
これからの香港がどうなるのだろうとの思いもよぎりますが、香港が香港らしく歩んできた時代を映し出した情感たっぷりの映画に乾杯です。(咲)
公式サイトはこちら
2021年/香港/広東語/111分/ビスタ/5.1ch/
日本語字幕:鈴木真理子
配給:武蔵野エンタテインメント
メイキング動画「和やかな楽章」
アン・ホイ監督 インタビュー映像&メッセージ【You tube】
劇場情報
香港ニューウェーブを担った監督7人が、50年代から未来まで、香港の各時代の“美しい瞬間”を全編35mmフィルムで撮った7つの物語
監督:洪金寶(サモ・ハン)/許鞍華(アン・ホイ)/譚家明(パトリック・タム)/袁和平(ユエン・ウーピン)/杜琪峯(ジョニー・トー)/林嶺東(リンゴ・ラム)/徐克(ツイ・ハーク)
プロデューサー:杜琪峯/朱淑儀(エレイン・チュー)
出演:洪天明(ティミー・ハン)/呉鎭宇(フランシス・ン)/余香凝(ジェニファー・ユー)/元華(ユン・ワー)/伍詠詩(ン・ウィンシー)/任達華(サイモン・ヤム)/張達明(チョン・タッミン)/林雪(ラム・シュ)
『七人樂隊』はジョニー・トー監督プロデュースで、長らく香港映画界を牽引してきた七人の監督が集結。1950年代から未来まで、10年ごとに年代がを分け担当した短編7本から成るオムニバス映画。それぞれ個性あふれる作品で活躍してきた7人の監督たちが自身の特別なノスタルジーをこめ映像化した物語は、デジタルが主流の現代に、あえて35mmフィルムで撮影を行い、過ぎ去りし“フィルムの時代”への敬意を表している。
第73回カンヌ国際映画祭カンヌセレクション2020で上映された本作は、ジョニー・トー監督プロデュースの元、七人の監督が集い、担当する年代をくじで選び製作された。
貧しかった50年代、必死にカンフーの稽古に励んだ幼い自分と仲間の姿、自伝的エピソードを描したサモ・ハン監督の「稽古」。サモ・ハンの息子洪天明がカンフーの先生役を演じている。
教育に生涯を捧げる校長先生(呉鎭宇)と、家族のような日々を過ごした学校の先生たち。そして女性教師の淡い憧れを描いたアン・ホイ監督の「校長先生」。
移住を控えた恋人たちの別れをスタイリッシュな映像で描いたパトリック・タム監督の「別れの夜」
移住する孫と香港に残るおじいさんの、話がかみ合わないながらも温かな交流を描くユエン・ウーピン監督「回帰」。孫娘を愛する祖父役を元華が演じている。
香港特有の喫茶店“茶餐廳”を舞台に、庶民が株価に右往左往する姿を描くジョニー・トー監督の「ぼろ儲け」。お約束の林雪(林雪)が出演。
イギリスから久しぶりに帰って来た主人公が、香港の変わり様に翻弄されるリンゴ・ラム監督「道に迷う」。任達華が道に迷う。
精神科の治療風景を描き、たたみかける台詞が魅力のツイ・ハ―ク監督「深い会話」、かみ合わない論争を続ける張達明のとぼけた演技。徐克と許鞍華もカメオ出演。
2020年の東京フィルメックスで上映され観客賞を受賞した作品。
杜琪峯監督の呼びかけで集まった、香港映画ニューウエイブ全盛期に登場し活躍した同世代の7人の映画監督たちが、それぞれの持ち味を生かし、1950年代から近未来までの歴史をたどりつつ香港の人々を描いたオムニバス映画。林嶺東監督にとっては本作が遺作になった。こちらの7人の楽隊は、変わりゆく時代に寄り添う香港愛に満ちたSeptet(七重奏)を奏でた。
洪金寶の「練功」は、『七小福』を思わせるカンフー訓練風景を描く。訓練をサボったらみつかってしまい、さらに厳しくしごかれる。子供達のお茶目な姿に思わずにっこり。でもすごいカンフー技を見せてくれた。許鞍華の「校長」はノスタルジック感あふれる、彼女らしい情感にあふれた作品だった。呉鎭宇を校長先生役に持ってくるなんてユニーク。彼のこんな姿、これまで観たことがない! 袁和平の「回帰」は1997年の香港返還前後の話で、香港に残ったカンフー好き爺さんとカナダへ渡った孫娘との交流を描いていたけど、好々爺的な元華の姿が微笑ましかった。杜琪峯の「ぼろ儲け(遍地黄金)」は『奪命金』を彷彿とさせるような一攫千金を狙って金儲けに励む香港人が出てくる。株の売買で、間違って食堂メニューの番号を頼んだら、値上がりするという行き違いの妙が描かれた杜琪峯らしい作品。林嶺東の「道に迷う(迷路)」の最後には「香港より良い所はたくさんあるが、故郷に対する愛は香港にしかない」と出てくる。徐克の「深い会話(深度対話)」は、近未来の精神病院が舞台。医者と患者が入り乱れ、最後はどちらがどちらかわからなくなるような混乱を描いた。これも徐克ならではの作品で、香港映画にハマった人にとっては出演陣の口角泡を飛ばす会話が爆笑もの。しかし、今の香港の状況を考えると、かつての香港を取り戻せないかもしれないと思い、香港の未来を思うと絶望感もある。この『七人楽隊』が、変わりつつある香港へのレクイエムにならないことを祈りたい(暁)。
長年の香港映画ファンにとって、感慨深く、愛おしくてたまらない映画。
7人の監督が、与えられた年代を舞台に描いた物語は、それぞれがその監督らしいテイストで、出演者も違うのに、見終わって、1950年代から近未来に至る香港の市井の人々を描いた一つの絵巻物のように感じました。
香港返還を見据えて国外に移住する人と香港に残る人との別れ、空港が町中の啓徳にあった頃のビルの真上を飛んでいく飛行機、一つのカード(オクトパス)で交通機関だけでなく様々なものが決済できるようになるのを予想する人、中環(セントラル)のスターフェリー乗り場が移動した跡にできた大きな観覧車・・・ ちょっとしたことから感じる、香港の変遷に胸がいっぱいになりました。
そして、フラさま(呉鎭宇=フランシス・ン)が落ち着いた校長先生を演じ、サイモン・ヤム(任達華)が海外から里帰りし、昔馴染みの建物が見つからなくて戸惑う中年男を演じるという、彼らがぎらぎらしていた頃を思うと、時が流れたことをずっしり感じました。
これからの香港がどうなるのだろうとの思いもよぎりますが、香港が香港らしく歩んできた時代を映し出した情感たっぷりの映画に乾杯です。(咲)
公式サイトはこちら
2021年/香港/広東語/111分/ビスタ/5.1ch/
日本語字幕:鈴木真理子
配給:武蔵野エンタテインメント
メイキング動画「和やかな楽章」
アン・ホイ監督 インタビュー映像&メッセージ【You tube】