2023年07月08日
星くずの片隅で 原題:窄路微塵 英題:The Narrow Road
監督:ラム・サム(林森)(『少年たちの時代革命』共同監督)
脚本:フィアン・チョン(鍾柱鋒)
音楽:ウォン・ヒンヤン(黃衍仁)
出演:ルイス・チョン(張繼聰)、アンジェラ・ユン(袁澧林) (『宵闇真珠』)、パトラ・アウ(區嘉雯)、トン・オンナー(董安娜)
2020年、コロナ禍でシャッターが降り静まり返った香港。清掃会社「ピーターパンクリーニング」を営んでいる中年で独身のザク(ルイス・チョン)は、品薄で高騰する洗剤に頭を悩ませながら、消毒作業に追われる日々を送っている。時折、リウマチを患う母(パトラ・アウ)の様子を見に行くが、悪態をつき口は達者だ。
人手が必要になりアルバイト募集のチラシを貼りだしたところ、派手な格好の若い女性キャンディ(アンジェラ・ユン)がやってくる。未経験の上に、幼い娘ジュー(トン・オンナー)を一人で育てているという。ザクは、家賃滞納で追い出されたキャンディ母娘に、寝場所を提供する。そんなキャンディだったが、慣れない清掃の仕事を頑張ってこなし始める。だが、ある日キャンディがジューのために子供用のマスクを客の家から盗んでしまい、ザクは大事な顧客を失ってしまう。ザクはキャンディを解雇するが、幼い娘を抱えるキャンディを見かねて再雇用する。心を入れ替え仕事に打ち込んでいくキャンディに、ザクは心惹かれていく。そんな折、ザクの母が急死してしまう。葬儀中は休業するというザクに、任せてほしいとキャンディは葬儀にザクを送り出す。娘を連れ、ひとりで仕事に張り切るキャンディ。しかしジューがうっかりこぼしてしまった洗剤をきっかけに、会社は窮地に追いやられることになる・・・
コロナ禍ならではの物語と思ったら、脚本の構想は2018年に始めたものとのこと。当初から主人公の仕事は現代社会に欠かせない清掃業に設定していたそうです。コロナが蔓延し、清掃の仕事はなくてはならない大事な仕事でありながら、さらに嫌がられ、担い手が不足するようになったのではないでしょうか。感染の危険があっても、請け負うしかない人たちの悲哀を思いました。ただただ感謝です。
人と人が接するのも難しいコロナ禍の中で、行き場のない若い母娘を気遣うザクの優しさにほろりとさせられました。コロナ禍の世界の各地で、こうした人と人との心の触れ合いがあったに違いないとも思わせてくれました。(咲)
香港に最後に行ったのはいつだったろう。2017年かな。もう5年も行っていない。2020年にはコロナで行けなくなってしまった。それに中国の締め付けで香港の自由はどうなっていくのか、そんな香港で暮らす庶民の物語。林森監督の前作『少年たちの時代革命』は、民主化運動の中でもがく若者、市民たちのことを画いた作品だったが、この作品もまた、香港の街の片隅で生きている庶民の物語。自身、ただでさえ苦しい清掃業の中、仕事をなくし、幼い娘を抱えた若い女性をやとうことになったザク。問題が次から次へと出てくるが、突き放さずに見守る。いかにも香港らしい人情物語だけど、こういう時期に、この映画が日本で公開されることが嬉しい。もう少ししたら、また香港に行って、この映画に出てくるような街角を訪ねてみたい(暁)。
第18回大阪アジアン映画祭コンペティション部門出品作品
2022年/香港/カラー/DCP/5.1ch/115分
配給:Cinema Drifters、大福、ポレポレ東中野
公式サイト:https://hoshi-kata.com/
★2023年7月14日(金)より TOHO シネマズ シャンテ、 ポレポレ東中野他全国順次公開
2023年06月08日
リファッション~アップサイクルでよみがえる服たち~ 原題:reFashioned
監督:ジョアンナ・バウワーズ
プロデューサー:ケイト・フレミング・デイヴィス
音楽:ホー・リン・タン
出演:エドウィン・ケー、サラ・ガーナー、エリック・スウィントン、ヴァネッサ・チョン、ロナ・チャオ、エリック・バン
世界有数の人口密集都市・香港。膨大な廃棄物の埋め立て地で毎年地形図が変わるほど。もう埋め立てるには限界に達している。そんな香港で、廃棄衣料から新たな服を作り出す技術、高級子供服の古着販売や、ペットボトルのリサイクルなど、持続可能な社会を作ろうとする3人の香港の人びとの挑戦を記録したドキュメンタリー。
「香港繊維アパレル研究所(HKRITA)」CEOエドウィン・ケー
香港政府のイノベーション技術委員会から資金提供を受け、理工大学が組織する研究所。
香港の繊維メーカーNOVETEXと共に廃棄衣料からテクノロジーにより水と薬品を使用せず糸にし、新たな服にアップサイクルする画期的な新技術を開発。
ファッションバイヤーのサラ・ガーナー。高級子供服の古着を販売するオンライン・プラット・フォーム「Retykle」を創業。
香港で分別廃棄されていないペットボトルのリサイクルに挑戦するエリック・スウィントン。ごみ回収業の高齢者に公正な賃金を支払い、ペットボトルを回収して織物などにアップサイクルすることで、香港のプラごみ問題と社会問題を同時に解決することを模索。
香港ではペットボトルを糸に変えることができないことに気づき、ペットボトルを輸入してくれる国を見つけるためにアジア中を必死に探す。
本作を通じて、香港ならではの事情を知ることができました。
1960年代、政情不安から、上海から縫製工場の経営者たちが台湾経由香港へ。エドウィン・ケー氏も上海から来た家系。当時30社以上あった縫製工場は、すべて上海出身者の経営。今は本土のほうがコストが安いため、ほとんどが閉鎖したと語っていました。
サラ・ガーナーは、成長の早い子供がすぐに同じ服を着られなくなるという母親としての経験から起業。ところが、中華圏では伝統的に古着は好まれないことを知ります。「Retykle」で働く香港人の女性が、「中国人は、前の持ち主の不運を引き継ぎたくないから」と理由を明かしてくれます。新世代はエコ意識が強く、偏見もなくなってきているとのこと。
成長の止まった私たち大人は、使い捨てにするファストファッションでなく、多少高くても良質の衣服を大切に何年も着たいものだと思いました。
そして、ペットボトル。便利ですが、回収するにも莫大な費用がかかることに驚かされます。日本では少なくとも回収ボックスや地域での回収システムは整備されていますが、香港では高齢者の廃品回収を営む人たちに委ねられているとのこと。さらに香港ではリサイクルできないので、運搬費をかけて外国に持っていかなければならないことに驚きました。
持ってこられた国にも処理しなければいけないペットボトルがあるはず。世界中の膨大なペットボトルの量を思うと、便利だけど作られるべきでなかったと!
なお、本作はジョアンナ・バウワーズ監督はじめ、撮影クルーのほとんどが女性。
作り手の環境問題への意識の高さを感じさせてくれる作品です。(咲)
2021年/香港/84分/英語・北京語・広東語
配給・宣伝:アップリンク
©CHEEKY MONKEY PRODUCTIONS ASIA LTD 2021
公式サイト:https://www.uplink.co.jp/refashioned/
エシカル・ライフ・シネマ特集『ミート・ザ・フューチャー~培養肉で変わる未来の食卓~』『リファッション~アップサイクルでよみがえる服たち~』
★2023年6月9日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、アップリンク吉祥寺で公開
2023年06月07日
エシカル・ライフ・シネマ特集『ミート・ザ・フューチャー~培養肉で変わる未来の食卓~』『リファッション~アップサイクルでよみがえる服たち~』
エシカル・ライフ・シネマ特集
食糧危機や増え続ける廃棄物など、私たち人類を取り巻く様々な問題。
「持続可能な社会にテクノロジーが変える」をテーマに、2作品を上映する特集です。
いずれも女性監督による作品。
配給・宣伝:アップリンク
★2023年6月9日(金)より恵比寿ガーデンシネマ、アップリンク吉祥寺にて公開
『ミート・ザ・フューチャー〜培養肉で変わる未来の食卓〜』 原題:Meat the Future
監督:リズ・マーシャル
動物の細胞から肉を育てる培養肉を開発した元心臓専門医でインド出身のウマ・ヴァレティ博士を中心に、食糧危機や環境問題を考えるドキュメンタリー。
2020年/カナダ/84分/英語・ヒンディー語
公式サイト:https://www.uplink.co.jp/mtf/
シネジャ作品紹介
『リファッション~アップサイクルでよみがえる服たち~』 原題:reFashioned
監督:ジョアンナ・バウワーズ
世界有数の人口密集都市・香港。膨大な廃棄物の埋め立て地で毎年地形図が変わるほど。
そんな香港で、高級子供服の古着販売や、ペットボトルのリサイクルなど、持続可能な社会を作ろうとする3人の香港の人びとの挑戦を記録したドキュメンタリー。
2021年/香港/84分/英語・北京語・広東語
公式サイト:https://www.uplink.co.jp/refashioned/
シネジャ作品紹介
食糧危機や増え続ける廃棄物など、私たち人類を取り巻く様々な問題。
「持続可能な社会にテクノロジーが変える」をテーマに、2作品を上映する特集です。
いずれも女性監督による作品。
配給・宣伝:アップリンク
★2023年6月9日(金)より恵比寿ガーデンシネマ、アップリンク吉祥寺にて公開
『ミート・ザ・フューチャー〜培養肉で変わる未来の食卓〜』 原題:Meat the Future
監督:リズ・マーシャル
動物の細胞から肉を育てる培養肉を開発した元心臓専門医でインド出身のウマ・ヴァレティ博士を中心に、食糧危機や環境問題を考えるドキュメンタリー。
2020年/カナダ/84分/英語・ヒンディー語
公式サイト:https://www.uplink.co.jp/mtf/
シネジャ作品紹介
『リファッション~アップサイクルでよみがえる服たち~』 原題:reFashioned
監督:ジョアンナ・バウワーズ
世界有数の人口密集都市・香港。膨大な廃棄物の埋め立て地で毎年地形図が変わるほど。
そんな香港で、高級子供服の古着販売や、ペットボトルのリサイクルなど、持続可能な社会を作ろうとする3人の香港の人びとの挑戦を記録したドキュメンタリー。
2021年/香港/84分/英語・北京語・広東語
公式サイト:https://www.uplink.co.jp/refashioned/
シネジャ作品紹介
2023年05月14日
私のプリンス・エドワード(原題:金都/英題:My Prince Edward)
監督・脚本:ノリス・ウォン
出演:ステフィー・タン(フォン)、ジュー・パクホン(エドワード)、バウ・ヘイジェン、ジン・カイジエ、イーマン・ラム、カーキ・サム
香港のプリンス・エドワード地区の金都商場(ゴールデンプラザ)では、結婚衣装をはじめ結婚に関するものが格安で揃えられる。このモール内のウェディングショップで働くフォンは、写真館のオーナーのエドワードと同棲中。結婚を口にするエドワードだったが、フォンには彼に話していない秘密があった。10年も前に中国大陸の男性と偽装結婚をしていて、その後の離婚手続きが済んでいないことがわかったのだった。フォンは、周りに祝福されてエドワードのプロポーズを受けざるを得ず、離婚の手続きと結婚の準備を同時に進める羽目になってしまった。
「新世代香港映画特集2023」の1本。『縁路はるばる』と共にアラサー女性の結婚にまつわるお話。アメリカでグリーン・カードを手に入れるための苦労やドタバタを描いたアメリカ映画は観たことがありますが、香港映画では初めて見た気がします。それにしても友人と一緒にお金のために偽装結婚して、10年も?相手の居場所が不明だったということもあるけれど、これまで困ることはなかったのかしらん。
あっさり「夫」に再会してから、いつチェックの厳しいエドワードにばれるか観ていてヒヤヒヤしました。フォンを「ベイビー」と呼ぶ彼は、愛情深そうに見えますが、自分の囲いの中から女性が出るのを嫌うタイプです。甘えたい女性にはいいかもしれませんが、過ぎれば「うざい」。母親も息子にべったりで、結婚したらもっと不自由になりそうなフォン。さて、どうします?
2人の結婚観のちがいだけでなく、ビザや移民に憧れる大陸の男性の心情も見せています。『縁路はるばる』主人公のカーキ・サムが写真館の従業員としてこちらにも出演していました。
ノリス・ウォン監督の初長編作品。2020年の香港電影金像奨で新鋭監督賞、音楽賞を受賞しました。(白)
プリンス・エドワードって、どこ?と思ったら、漢字で書けば「太子」。尖沙咀から、彌敦道(ネーザンロード)をまっすぐ行ったどん詰まりが太子で、ちょっと手前の左手のビルのショーウィンドウにウェディングドレスが並んでいたのを思い出しました。そこが、この映画の舞台の金都商場。
プリンス・エドワードの地名は、アメリカ女性ウォリス・シンプソンと結婚するために王位を放棄したエドワード8世にちなんだもの。そこを舞台に繰り広げられる本作、人は、愛のためなら何を諦めることができるか? 逆に、愛していても、これは譲れない・・・ そんなことを考えさせられる物語です。
フォンは、偽装結婚した大陸の夫との離婚手続きをするために、福建省の省都・福州に赴くのですが、ここでの言葉は広東語でも普通話でもない福建語。いろいろな言葉が飛び交います。大陸の夫は、香港のIDが欲しくてフォンと結婚したので、IDが取れれば即、離婚すると応じてくれますが、なかなかスムーズにはいきません。そんな折、大陸の夫の彼女が妊娠したことがわかり、未婚のまま産んだ子は無戸籍になってしまいます。こちらも、さて、どうする?です。
「結婚せずに済む女性は、デキる女とレズビアンだけだと思う?」というフォンの言葉も気になりました。ノリス・ウォン監督は、「結婚は幸せをもたらすか?」を、女性ならではの視線で本作を描いています。もちろん、答えはそれぞれ! 正解はありません。(咲)
2019年/香港/カラー/シネスコ/93分/5.1ch/映倫G
配給:活弁シネマ倶楽部
c2019 MY PRINCE EDWARD PRODUCTION LIMITED. All Rights Reserved.
https://enro.myprince.lespros.co.jp/#modal
★2023年5月19日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
縁路はるばる(原題:緣路山旮旯 英題:Far Far Away)
監督・脚本:アモス・ウィー
出演:出演:カーキ・サム(ハウ)、クリスタル・チョン(ファファ)、シシリア・ソー(エイリー)、レイチェル・リョン(ミーナ)、ハンナ・チャン(リサ)、ジェニファー・ユー(メラニー)
アプリの開発をしているハウは、同僚だった彼女と1ヶ月で別れてしまったが、その原因がわからずにいる。見た目は平凡で、自分から誘えない内気な性格のため、友人たちに世話を焼かれている始末。次々と5人の女性に出会ったが、なぜかみんな町中から離れた辺鄙なところに住んでいた。気のいいハウは、彼女たちを遠い家まで送っていく。
林立する高層ビルのイメージが強い香港ですが、交通機関を乗り継いだ先には驚くほどの自然の風景が広がっています。香港国際空港や香港ディズニーランドがあるのは、ランタオ島。ほかに大小260余りの島があります。
この映画の中に登場する女性たちは、家賃の高い都会から離れて郊外へ移ったり、親と同居だったりと理由はさまざま。ほんとうに端っこばかりに住んでいて、行ったことのない地名ばかりでした。あ、映画の舞台になったところも出てきましたので、香港映画を観続けてきた人は耳に止まるはず。ハウが開発したアプリがいちいち到着時間や、近辺の情報などを告げてくれるのがおかしいです。
ハウや彼女たちはアラサーで、仕事や結婚や人生を考える年頃。ハウが学生時代から憧れていたマドンナもいて、眼鏡で気の弱そうなところが「のび太君」に似ているハウが思いを告げられるのか、先が気になりますよ~。タイトルは「えんろ」と読み、もちろん「遠路はるばる」のもじりで、ハウと彼女たちの縁を結ぶ道筋でもあるわけです。ハウを演じたカーキ・サムは10代でドキュメンタリーを監督し、話題となった人だとか。俳優もすれば脚本も書き、プロデューサーもと多才です。(白)
2022年3月の第17回大阪アジアン映画祭の特集企画《Special Focus on Hong Kong 2022》で、『僻地へと向かう』のタイトルで海外初上映され、その後、東京外国語大学TUFS Cinemaで『縁路はるばる』のタイトルで、2023年1月9日に上映されました。2か月以上前の10月19日頃に告知され、250人の定員に申し込みが殺到し、一旦、募集フォームがクローズに。その後、500席フルに入れることにして再募集。なんとか申し込みできて、観ることができました。上映後には、東京外国語大学 倉田明子准教授の司会進行で、小栗宏太さん(東京外国語大学博士後期課程)が「香港ローカル映画の現在」のテーマで解説。香港では、2022年8月に公開され、本格的な映画俳優が出ていないにもかかわらず、異例の大ヒット。香港のローカルの要素が満載で、デートカルチャーを扱っていること、社会の変動を比喩的に描いていることなどが香港の人たちの心を掴んだのだろうとのこと。
アプリで目的地を入れて検索するときに、「鉄道を除外」するのは、デモの時、鉄道会社が警察に協力した節があることが背景にあるのではと。暗いニュースが多い香港で、あえて明るく描きながらも現実離れしないことにも気を使った内容。検閲が厳しく、制約のある中で、香港のローカル文化へのオマージュを込めて作られ、挿入歌の歌詞も物語とリンクしていることに言及されました。
この後、台北にいるアモス・ウィー監督とリモートで繋ぎ、リム・カーワイ氏との対談が行われました。原題『緣路山旮旯』は、広東語にこだわったタイトルで、日本にない漢字を使っていますが、台湾の人には読めるとのこと。最後に出てくる長州島は、監督自身が住んでいて、都会に行くのが大変だと実感している場所。
会場から、女性たちのキャラクターについて質問があり、すべてモデルになる知り合いがいて、その人たちのキャラを混ぜて作り上げているそうです。最初、7人の女性たちを考えていたけれど、7か所の僻地は多すぎると5か所にしたとのこと。
熱気溢れた会場で観た本作、モテそうにないハウが次々に美女と交際。送っていく先が、どの彼女の住む場所も僻地で、香港の郊外も大好きな私には、懐かしい場所もたくさん出てきて嬉しい1作でした。
最初の会社の同僚エイリーの家は、沙頭角という中国との国境近くの「辺境禁区」なので、さすがに行ったことはありませんが、そのすぐ近くの粉嶺(ファンリン)や、二人目の29歳のファファの住む夕日で有名な下白泥のすぐそばの流浮山(ラウファンサン)には、初めて香港に行った1979年に、当時勤めていた会社の香港支社の支社長に車で連れていってもらいました。国境の向こうに見える深圳には、まだ何もなかった時代です。
3番目のミーナの住むランタオ島の大澳は、水路沿いに家のあるひなびた町。ランタオ島に空港が出来て、今は船に乗らなくても行けるようになりましたが、それでも大澳は辺鄙な場所。ウォン・カーウァイ監督の『いますぐ抱きしめたい』(1988年)に出てきて、これは行ってみたい!と、まだ空港が出来る前に船とバスを乗り継いで行ったことがあります。その後、オダギリー・ジョー主演の『宵闇真珠』(2017年、監督:ジェニー・シュン クリストファー・ドイル)は全編大澳で撮影されています。
ハウが茶果嶺の祖父母のところで過ごした高校時代、皆のマドンナだったリサが住む梅子林(ライチラム)は、競馬場のある沙田からそれほど遠くないのに、山を越えていかなくてはならないところ。
そして、5人目のメラニーが住むのは、長州島からさらに船で行かなくてはならない橙碧邨(チャンビッチュン)というところ。1980年代に西洋人の金持ちがたくさん住んでいて、香港島の中環(セントラル)から直通フェリーがあったのに、それがなくなって、皆引っ越してしまってさびれた場所。地名は忘れていましたが、そういう場所があったのを聞いたことがありました。饅頭祭で有名な長州島には、一度だけ行ったことがありますが、小さな島でのどかなところでした。
かつて、香港の人たちと宴会をした時に、昼間、元朗近くの屏山に行ってきたと言ったら、「そんな遠く行ったことがない」と皆に言われたのを思い出しました。私にしてみれば、香港の中心部からバスや軽便鉄道で1時間もあれば行けるので、遠いと思えないのですが、やはり僻地のイメージなのですね。
この映画に出てきた場所も、どこも2時間以内で行けるところ。香港は、交通機関もいろいろあって面白いし、客家の囲い家の名残や、自然豊かな場所もあって、ほんとにワンダーランド。久しぶりに香港に行きたくなりました。(咲)
2021年/香港/カラー/シネスコ/96分/5.1ch/映倫G
配給:活弁シネマ倶楽部
c 2021 DOT 2 DOT CREATION LIMITED. All Rights Reserved.
https://enro.myprince.lespros.co.jp/#modal
★2023年5月19日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー