監督・撮影:トウィンクル・ンアン(顔志昇)
1997年7月1日、香港はイギリスから中国に返還された。その後50年間(2047年まで)は「一国二制度」のもと、香港市民の自由は保護されるはずだった。しかし、じわじわと中国の姿勢は変わり、2019年6月「逃亡犯条例」改正をきっかけに、民主化を求める香港市民の抗議活動が始まる。
2019年天安門事件の追悼集会の日、トウィンクル・ンアン監督は初めてビデオカメラを手にする。以来、香港の自由と民主主義を守ろうと行動する最前線の若者たち、デモ隊を応援する人々、それぞれの物語を挟みながら貴重な記録を残した。ンアン監督はイギリスに亡命し、映像を編集して作品は完成した。
返還前から香港へ何度も出かけて街歩きや映画、コンサートを楽しんできました。中国返還の日はテレビのニュース映像を見つめ、以来どんな風に変わるのかと期待と不安がありました。その後のニュースやドキュメンタリーで観る香港の現状に胸が痛みました。
この映像は催涙弾を浴びるほど近距離から撮影されています。初めはドキュメンタリーを作るつもりでカメラを構えたのではありませんが、撮り続けるうちに残して知らせなくてはと思われた監督の覚悟が伝わってきます。自分のふるさとが変容し、住みづらくなっていくのは辛い。デモに参加した自分の子供のような年代の若者が警官たちに暴力をふるわれ、「あんたたちも香港人でしょ」と大人が猛烈に抗議しています。声をあげ、身体をはった香港の人々の姿に、沖縄の基地前で機動隊に排除されていく人たちが重なります。
観ていて泣けてきました。日本のデモや抗議運動に向ける取り締まりが厳しくなってきた感じがするこのごろ、決して他人事ではありません。世界中でさまざまな形での闘いがあります。渦中にある人たちのことばで共通しているのは、「関心を持って。忘れないで」ということ。
ンアン監督
「アップリンク吉祥寺」での劇場試写後にロンドンのンアン監督が画面に登場しました。京都のアップリンクとも繋がって、観客とのQ&Aが行われました。通訳さんの声が聞き取れなくて、書き起こしができていません。本編の冒頭にも監督の挨拶映像がありますので、遅刻しないようにかけつけてください。ンアン監督の最初の挨拶は「この映画に関心を持って見に来てくださってありがとうございます」。(白)
香港の民主化運動で、道路での座り込みが起こったのは2014年9月~12月、この3ヶ月に及ぶ道路占拠行動は、「香港特別区行政長官選挙に親中派のみが立候補できる」という「選挙制度」の通達が2014年8月に中国共産党から出され、これに反発する人たちが行動を起こしたのです。これは単に選挙の問題だけでなく、香港人としてのアイデンティティを取り戻す闘いでもありました。この時、香港の人たちがこんなに長期間道路を占拠する行動に出たことに驚きました。これが雨傘運動の始まりでした。
この時、デモに参加する人たちの数が、あんなに膨れ上がるとは、まったく予想していませんでした。大体、香港の人たちというのはビジネス、お金をメインに考える人が多くて、こういう政治的なことにはあまり関心を持たないというのが、それまで一般的でした。でも2014年の雨傘運動で変わりました。
2019年の「逃亡犯条例」改正案は、香港を中国の権威主義的支配下に置き、香港人の自由を制約するものと、この時にも香港の人々はこの逃亡犯条例改正案に反対して立ち上がり大規模デモが起きました。
いくつかの民主化運動関連のドキュメンタリーやドラマが作られましたが、今では香港で観ることができなくなっているようです。下記に、日本で公開された香港の民主化運動関係の映画を紹介していますが、その作者は皆さん、「このことを自分は撮っておかなくてはいけない。それは未来のために歴史的事実を残すということです」と語っています。
そして、この『香港、裏切られた約束』のトウィンクル・ンアン(顔志昇)監督も、その思いで撮影していました。今は英国に逃れ、難民の形になっているようです。いつの日か本国でも上映される日が来ることを願っています(暁)。
アップリック吉祥寺のロビー
2022年/香港/カラー/116分
配給:アップリンク
c 2024 Dawn Workshop Ltd
https://www.uplink.co.jp/liberate_hong_kong/
★2024年8月30日(金)よりアップリンク吉祥寺、アップリンク京都にて公開中
返還後の香港関連作品、監督インタビュー記事はこちらです。
●作品紹介
『乱世備忘 僕らの雨傘運動』
(原題:乱世備忘)2018年公開
http://cinemajournal-review.seesaa.net/article/460532836.html
『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』2021年公開
(原題:Denise Ho: Becoming the Song)
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/481745772.html
『時代革命』2022年公開
(原題:時代革命 /英語題:Revolution of Our Times)
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/490705719.html
『Blue Island 憂鬱之島』2022年公開
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/489656264.html
『少年たちの時代革命』2022年公開
(原題:少年/英語題:May You Stay Forever Young)
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/494357506.html
『理大囲城』2022年公開
(原題:理大圍城/英語題:Inside the Red Brick Wall)
http://cinejour2019ikoufilm.seesaa.net/article/494714604.html
●監督インタビュー
▼『革命まで』2015年
郭達俊(クォック・タッチュン)監督&江瓊珠(コン・キンチュー)監督インタビュー
山形国際ドキュメンタリー映画祭2015にて
http://www.cinemajournal.net/special/2016/kakumeimade/index.html
▼『乱世備忘 僕らの雨傘運動』 2017年10月11日
陳梓桓(チャン・ジーウン)監督インタビュー
山形国際ドキュメンタリー映画祭2017にて
http://www.cinemajournal.net/special/2017/yellowing/index.html
▼陳梓桓(チャン・ジーウン)監督インタビュー(公開時) 2018年07月22日
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/460641864.html
▼『時代革命』 キウィ・チョウ監督インタビュー2022年7月22日
http://cineja-film-report.seesaa.net/article/490683730.html
2022年/香港/カラー/116分
配給:アップリンク
(C)2024 Dawn Workshop Ltd
https://www.uplink.co.jp/liberate_hong_kong/
★2024年8月30日(金)よりアップリンク吉祥寺、アップリンク京都にて公開中