2025年05月04日

新世紀ロマンティクス  原題:风流一代   英題:Caught by the Tides  

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監督:ジャ・ジャンクー
脚本:ジャ・ジャンクー、ワン・ジアファン
撮影:ユー・リクウァイ、エリック・ゴーティエ
音楽:リン・チャン
出演:チャオ・タオ、リー・チュウビン
パン・ジアンリン、ラン・チョウ、チョウ・ヨウ、レン・クー、マオ・タオ

21世紀を迎えて希望に湧いた日々から、20年を追った物語。

2001年
中国北部の街、大同(ダートン)。チャオはキャンペーンガールやモデルをしている。恋人は彼女のマネージャーを務めるビン。
新たな世紀を迎え、中国のWTO加盟や北京オリンピック開催が決定するなど、漠然とした未来への期待で中国は盛り上がっているが、大同の炭鉱産業は傾き、失職者だらけだ。ある日、ビンは一旗揚げるために大同を去る。「落ち着いたら連絡する」SMSだけ残して消えるビン。

2006年
チャオはビンを探して、約1,500km、15時間をかけて、三峡ダム建設により水底に沈む運命にある、2000年の歴史を持つ古都、長江・奉節(フォンジエ)を訪れる。
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雄大な長江の景色の中、移住する人、建物を解体する人々でごった返す街。電話もメッセージも繋がらず、チャオは地方テレビの尋ね人コーナーでビンの行方を捜し、なんとかふたりは再会する。ビンはダム建設に関わり、別の女の影が見えていた。
「私たち……もう終わったの」
宙に浮いていた想いにチャオは別れを告げる。

2022年
コロナ禍、身体を壊したようで杖をつき、足を引きながら歩くビンはマカオに隣接する経済特区、珠海(チューハイ)を訪れ、奉節で不動産や建築業で知り合ったパンを訪ねるが、彼らはSNSインフルエンサーのマネージメント業をしていた。すっかり仕事も様変わりしていた。居場所を見つけられないビン。
潮の流れはふたりを大同に連れ戻す。チャオは大同のスーパーのレジ係をしていた。そこへ客として訪れたビンはチャオと偶然に再会する。


ジャ・ジャンクー監督の長年のミューズであり妻であるチャオ・タオ演じる一人の女性の人生の約20年間を、彼女の元を去った一人の男性との関係を軸に描いた作品。
新世紀を迎えた2001年。国際女性デーで女性たちが交代しながら楽しそうに歌う姿が印象的。
5年後、そして、16年後へと時代が移ろい、長江の三峡、南端の珠海、中国の東北部や南西部へとチャオ・タオたちを追って移動し、2022年、再び大同に。コロナによるロックダウン中の町は、まるで死んだよう。冒頭の朗らかな女性たちはどこに行ったのか・・・ ロボットと向き合うチャオ・タオ。近未来風に見えるけれど、果たしてどうなのか? 踊る人々の姿が、ちょっと空しい・・・ (咲)


2024年 /中国/中国語/1:1.85/111分/G
配給:ビターズ・エンド
公式サイト: https://www.bitters.co.jp/romantics/
★2025年5月9日(金)より、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館ほか全国順次公開!


◆東京フィルメックス◆
2024年11月、第25回東京フィルメックスのオープニング作品として、開会式に引き続いて上映され、上映後には、ジャ・ジャンクー監督による質疑応答が行われました。

11月23日(土) 上映後Q&A
登壇:ジャ・ジャンクー監督

ジャ・ジャンクー: こんばんは。ジャ・ジャンクーです。(ここまで日本語で)

神谷:第1章、第2章、第3章という作りにしたのは?

ジャ・ジャンクー:タイトルは、最初、2001年に撮った時には、『デジタルカメラを持つ人』でした。新しい世紀を迎えたときに、人々が可能性を感じていて、皆が歌って踊って元気な時期でした。オリンピックの開催が決まったり、エネルギーを感じた時代です。色っぽい時代だなと思いました。当初は、2~3年撮ったら終わると思っていたら、終わらなくて、ほかの作品を撮って、思い出したら撮ってました。2015~16年頃には忘れてました。そこへコロナがやってきました。一つの時代が終わるような気がしました。フライトもなくなるし、国境も閉ざされる。北京にいて思ったのは、閉じこもっていた時にも、AIや生体に関する進化が早かった。コロナが終わったら、新しい時代が来ると思って、この映画を完成させなければいけないと思いました。20年が過ぎて、今の状態があるのだろうかと。2022年に脚本を書きました。コロナで撮影は出来なかったのですが。

神谷:音楽がふんだんに使われていました。

ジャ・ジャンクー:19曲使ってます。本来の中国の人はシャイなのに、あの時代は陽気に歌ってました。2000年を迎えた時代は狂乱状態でした。
全体的に考えて撮ったのではなく、その時、その時に歌っていたものを撮っていた中から選んでいます。その他は、監督として自分の意に合うもの、好きな曲を選びました。
セリフは、編集して繋いでみたら面白くないなと気づいて、男女の愛情を描くのに20年も必要かなと。はたと気づいたのは、前の作品は再現したもの。今回は、そこで起こったもの、偶然出会ったものを撮ってきたということでした。その時代の様子をヒロインと一緒に見ていく感じです。
編集しているときに、男女の話をいれたあとに抜いてみたら、ヒロインがあまりしゃべらない方が、敏感にその時代を感じることができると気が付きました。
結果として仕上がりがセリフを取ったことによって、世界が広がりました。彼女が沈黙したことで、いろいろなことに出会える。ひとことでは言えないものが感じられます。

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★会場から
― チャン・タオさんがロボットと向き合っている図を見て、2022年の中国は監督にとって近未来的に思われているのでしょうか?
ジャ・ジャンクー:今の中国は、AIやロボットなどが発展しているけれど、近未来というより「今」を撮っています。
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時間が来てしまって、会場から拍手を贈ったのですが、最後に一言とジャ・ジャンクー。
話されている最中に大きな笑いが起こって、会場の半分くらいは中国語のわかる方だったようでした。通訳の方が、「サングラスをかけていますが、目を悪くしているためで、ウォン・カーウァイじゃないです」と訳され、やっと笑えました。(景山咲子)

posted by sakiko at 20:22| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

来し方 行く末 原題:不虚此行 英題:All Ears

4月25日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国ロードショー 劇場情報

©Beijing Benchmark Pictures Co.,Ltd

夢破れた脚本家がたどり着いたのは、他者の弔辞を綴る仕事だった。人々の人生の欠片を拾い集め、言葉に託す日々の中で、ふと自分を見つめなおす瞬間が訪れる。

監督・脚本:劉伽茵(リウ・ジアイン)
エグゼクティブプロデューサー:曹保平(ツァオ・バオピン)
出演:胡歌(フー・ゴ―)、呉磊(ウー・レイ)、斎溪(チー・シー)、娜仁花(ナー・レンホア)、甘昀宸(ガン・ユンチェン)

―あなたのさよなら、代筆します―

弔辞作家というユニークな職業を軸に、弔辞作成の過程で人々の人生模様や死生観が織り込まれたヒューマンドラマ。

ウェン・シャンは大学院まで進学したが、脚本家として商業デビューが叶わず、不思議な同居人シャオインと暮らしながら、葬儀場で弔辞の代筆業をしながら生計を立てている。彼の丁寧な取材による弔辞は好評だったが、中年に差し掛かる年齢になり、このままで良いのか自問自答する。
弔辞は、父親との交流が少なかった男性、仲間の突然死に戸惑う経営者、余命宣告を受けて自身の弔辞を依頼する女性、ネットで知り合った顔も知らない声優仲間を探す女性など、様々な境遇の依頼主たちと出会い交流する中で、止まっていた時間がゆっくりと動きだす。

主演は、時代劇で活躍し、近年では『チィファの手紙』(18/岩井俊二)や『鵞鳥湖の夜』(19/ディアオ・イーナン)で芸域を広げた人気俳優のフー・ゴー。同居人のシャオイン役は、『西湖畔に生きる』(23)で話題になり、本作がフー・ゴーと三度目の共演となるウー・レイ。
監督は、卒業制作『牛皮』(05)英題:『Oxhide』で、第55回ベルリン国際映画祭でカリガリ映画賞と国際映画批評家連盟賞を受賞したリウ・ジアイン。北京電影学院を卒業し、現在は脚本制作の准教授を務めている。中国のインディペンデント映画界で独自の映画スタイルとテーマ性で知られている。この作品は、監督が長年の思索を重ねて熟成させた14年ぶりの待望の新作。
2023年第25回上海映画祭で最優秀監督賞と最優秀男優賞(フー・ゴー)を受賞。第36回東京国際映画祭では『耳をかたむけて』のタイトルで上映された。


公式HPはこちら 
2023年製作 中国
配給:ミモザフィルムズ
posted by akemi at 20:09| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年03月27日

ナタ 魔童の大暴れ(原題:ナタ之魔童鬧海 / 英題:Ne Zha 2)

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監督:ジャオズ
プロデュース&製作:可可豆動画 彩条屋影業
出演(声の出演):リュ―・イェンティン【呂艶ティン】 、ジョンセンセフ【ジョン森瑟夫】、ハンモー【瀚墨】 、チェン・ハオ【陳浩】 、リューチー【緑綺】 、チャン・ジャーミン【張珈銘】 、ヤン・ウェイ【楊衛】 、 ワン・デーシュン【王徳順】 ほか

ナタは李夫妻の元に生まれた。成長すれば仙人となるはずであったが、何者かの陰謀で魔王となる宿命を持たされていた。幼いころから妖力が強かったため、ほかの子どもと遊ぶことができなかった。誤解されつまはじきになり、孤独なナタに両親は愛情を注ぎ続けて育てた。
少年のナタは東海竜王の息子である敖丙(ゴウヘイ)と出会い、互角の力を持つ彼とかけがえのない友達となった。しかし大きな闘いに巻き込まれて対立し、肉体が消えて魂だけが残った。ナタの師である太乙真人(タイイツシンジン)はナタとゴウヘイの身体を再生するために奔走。2人は自分たちに課せられた試練を乗り越えていく。

2019年の3DCGアニメーション『ナタ~魔童降臨~』の続編。前作も中国のアニメーション作品で上位の集客数を記録しましたが、本作は2025年の春節に上映され、それを上回る大ヒット。新記録を作りました。映画館数が増えていること老若男女問わず観客を集めたことも大きいですが、目が肥えてきた中国のアニメファンたちの期待を上回るできばえだったのが、一番の理由でしょう。
中国の古典に馴染みがないと、たくさんの登場人物を把握するのが難しいですが、前作よりも奥行も緻密さも向上している背景、多くの登場人物を描き分ける丁寧さに、日々進化しているのを感じました。クリエイターの方々はこれで良いと満足ぜず、「もっともっと」と自分自身でハードルをあげて、良い作品を生みだすんですね。くれぐれも過労になりませんように。
ナタは子供の頃から疎外感を感じていたせいか、「どうせ誰もわかってくれない」感いっぱい。常人にはない力があるために、そればかりが目立って内にある無邪気さや寂しさ、優しさに気づく人はまれです。暴れん坊で怒りっぽくキレやすいのが、見た目に出てしまっている男の子です。仙界も美しいばかりでなく、いろいろな策略や悪意が縦横に張られています。そんな中でナタが敖丙と共に宿命に抗い、自分の未来を切り開いでいくのを手に汗にぎって見守ってください。笑いどころもちゃんとあり、竜王たちが美男美女なのも眼福。超イケメンな敖丙の父を見逃さないでね。(白)


2025年/中国/カラー/シネスコ/144分
配給:面白映画
公式HP:nezha2.jp  
公式X:@nezha2_JP
★2025年4月4日(金)より日本語字幕版全国公開

posted by shiraishi at 13:04| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月09日

FPU ~若き勇者たち~ 原題:維和防暴隊 英題:Formed Police Unit

2025年1月10日~ TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
劇場情報

© 2024 Zhongzhong (Huoerguosi) Films Co., Ltd. & Wanda Pictures (Huoerguosi) Co., Ltd. All Rights Reserved

監督:李達超(リー・タッチウ)
製作総指揮:劉偉強(アンドリュー・ラウ)
撮影:ファン・ユェンマン(H.K.S.C.)
美術:チュン・イーフン
アクション指導:シャ・シアロン、チェン・ジュンジー、フー・シャオガン
出演
分隊長 ユー・ウェイトン役 黄景瑜(ホアン・ジンユー)
狙撃手 ヤン・ジェン役 王一博(ワン・イーボー)
通訳/連絡係 ディン・フイ役 鐘楚曦(チョン・チューシー)
小隊長 ジョウ・ジアシュエン 欧豪(オウ・ハオ)
国連警察 作戦部長 ファビオ・トーマス:トーマス・フィケ

命を懸けて挑む、中国の国際平和維持警察隊FPUを描く

反政府武装集団と政府軍の武力紛争が続くアフリカの国へ、国連の要請を受けた中国の国連平和維持警察隊「FPU」(Formed Police Unit)が派遣された。チームワークを重んじる分隊長ユー(ホアン・ジンユー)や、正義感が強い狙撃手ヤン(ワン・イーボー)らは、一触即発で武力衝突が起こりうる最も危険なエリアで勤務することになる。内戦状態が続く中、大量虐殺、テロ攻撃、暗殺、暴動、人質事件などが頻発するこの地で、幾度となく命の危機に直面する彼らだったが、命がけの任務に邁進する。しかし、ユーとヤンの間には、ヤンの父を巡って因縁があり、ユーに対して不信感を持っていた。
そんな中、拘束されていた、大量虐殺を指揮していた人物が裁判にかけられることになり、証言者たちを出廷させるため、「FPU」のメンバーは彼らを守りながら裁判所に向かうが…。台風が接近する中、その証言者たちを奪取しようとする者たちが襲ってくる。暴風雨の中、死闘が続くが、なんとかそこを脱することができた。しかし、通訳だったディン・フイ隊員が命を落としてしまう。そんな彼らの活動を描く中国製ミリタリーアクション。

中国の若手俳優ホアン・ジンユー&ワン・イーボーが夢の競演!

モデル出身で、高校生の青春BLドラマ「ハイロイン」の主役で鮮烈デビューしたホアン・ジンユーがリーダー役を好演。『オペレーション:レッド・シー』からさらに進化したミリタリーアクションを演じ、若手トップ俳優の実力を発揮
中韓ボーイズグループUNIQのダンサー&ラッパーとしてデビューし、TV時代劇ドラマ「陳情令」でブレイクし、2024年には3本の主演映画『無名』『ボーン・トゥ・フライ』『熱烈』が日本で立て続けに公開されたワン・イーボーが、人命救助に情熱を燃やす青年を熱演。複雑な役どころを繊細に演じ、ハイスペックな身体能力を披露し、過酷なアクションをこなしている。『インファナル・アフェア』シリーズのアンドリュー・ラウ監督が製作総指揮に名を連ね、武術監督出身のリー・タッチウが監督を務めた。


公式HP https://hark3.com/FPU/
2024年製作/101分/PG12/中国
配給:ハーク
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2024年12月22日

夏が来て、冬が往く  原題:夏來冬往 英題:Hope for A New Life

『夏が来て、冬が往く』ポスタービジュアル_R_R.jpg
©MICRO ENTERTAINMENT TIMES FILM CO. LTD.


2024年12月27日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
劇場情報

夏が来て冬が来る。冬が去るとやがてまた夏が来る
親が子を育て、暮らしを営む。
その子が新たに生まれた子を育て、世代が移っていく。
それはまるで四季のよう


彭偉(ポン・ウェイ)監督、
撮影:孟德静(モン・ダージン)
美術:谢首洁(シェ・ショウジェ)
編集:李德华(リー・ダーホア)
制作:牧義寛
音楽:西村大介、黒田征一
効果・整音:丹雄二
CG:石川浩作
編集:宮澤誠一、飯田一史

出演
三女 林佳妮(リン・チアニー)役:雪雯 シュエ・ウェン
長女 鄭文鳳(チョン・ウェンフォン)役:曽韵蓁 ゼン・ユンジェン
次女 張曉莉(チャン・シャオリー)役:陈昊明 チェン・ハオミン
生母 藩三喜(パン・サンシー)役:王亜軍 ワン・ヤージュン
チアニーの養父 林小宝(リン・シャオバオ)役:楊涵斌ヤン・ハンビン 
チアニーの恋人 姚志遠(ヤオ・ジーユェン)役:孫序博 スン・シューボー
長男(弟)鄭文龍(チョン・ウェンロン)役:王馳 ワン・チー

中国の美しい海辺の町が舞台。家の都合で養子に出された三女佳妮(チアニー)。深圳(シンセン)に住む佳妮だが、実父が死去と連絡があり自分が養子だったと知る。葬式に出席のため、生家がある青島(チンタオ)に向かった佳妮だが、佳妮には二人の姉と長男である弟がいることわかった。しかも弟はとても自分に対して排他的。実家に入れず、家族でないから出ていけという。自分を手放した母にも納得がいかない。そんな佳妮が青島で過ごした3日間の心の軌跡と家族愛を描いた物語。家父長制による男尊女卑の考え。一人っ子政策のもと、女の子は養子に出されてしまった。この地方に伝わるという伝統文化や、女性であるための理不尽な扱い、男女差別の実態が浮かび上がる。家とは、家族とは、男女のあり方とは?を問いかける。中国の新鋭、彭偉(ポン・ウェイ)監督の長編デビュー作。

深圳の貿易会社で働く林佳妮(リン・チアニー)は、恋人姚志遠(ヤオ・ジーユェン)からプロポーズされたが結婚に踏み切れずにいた。理由は、自分たちの持ち家がないこと。中国では昔からそう言われてきて、家がなければ結婚できないと考えていた佳妮は、価値観の違う恋人からのプロポーズに応えられずにいた。
そんな時、生き別れになっていた実父が亡くなったとの知らせを受け、葬儀に参列するため生家を訪ねた佳妮は、自分には他に2人の姉と弟がいて、長女と長男は実家、次女と自分が養女に出されていたことを知った。海を望む青島近くののどかな村で家族の温もりを味わいながら、母や姉たちのこれまでの暮らしと、さまざまな思いを知っていく。しかし、母が佳妮たちを捜した裏には別の理由があったことを知り愕然とする。
結婚しない選択をする女性が増え、少子高齢化をたどっている中国。失業率の上昇などの将来への不安の他に、1980年頃から導入された「一人っ子政策」(2015年に撤廃された)で女性より男性の数が多いという背景もある。男尊女卑の考え方が根強い地方では女児の誕生は歓迎されず、養女に出されるケースも多かった。
長編映画が初となる彭偉(ポン・ウェイ)監督は、これまであまり取り上げられることのなかった、このような中国社会のひずみにスポットを当てた。中国で実際にあった家族のエピソード数件を盛り込み、多くの女性たちが経験しているのに、あまり表に出てこなかった心の傷に寄り添う。中国で映像制作の仕事に従事し、日本大学芸術学部映画学科で学んだ経歴を持つ彭監督。この作品は、撮影や脚本制作は中国で、仕上げ作業は日本で行い、中日共同作品として完成された。

監督 彭 偉(ポン・ウェイ)フィルモグラフィ 公式HPより
1984年7月19日生まれ、中国 黒竜江省出身。
(黒竜江省は、中国最大の食糧産地、平原は景色が美しく、
ロシアに隣接しており、最低温度は零下50度を記録したことがある。
日本大学芸術学部映画学科卒。中国にて映像制作に携わる。
06年、短編映画『10元の偽札』が第7回北京大学映画祭に入選。
18年、短編映画『雪の味』が日本大学芸術学部湯川制賞を受賞。
22年に撮影した本作が長編初監督となる。
東京国際映画祭2023「東京・中国映画週間」新鋭監督賞受賞。

「中国では昔から家がなければ結婚できないと言われてきた」と、ここでは言っているけど、そうだったの?と思った。私がこれまで300本以上観て来た中国映画ではそういう話は出てきたことがなかったように思う。社会主義になった中国では、ほとんど職場と結びついた社宅のような住宅が多かったし、「結婚するには持ち家が必要」という価値観に出会ってこなかった。古い田舎町ならともかく、深圳という近代的な街に住んでいて、そういう考え方がある?と、佳妮の価値観に疑問が残った。それとも、少し豊かになった現代中国で、そういう価値観が出てきているのか。
また、生家があるという青島での、あまりに理不尽な男尊女卑の考え方にも疑問が残った。こちらも、海外からの交流もある現代的な街だし、いくら山の上にある村とはいえ、見下ろせば青島の町や港が見渡せるような場所で、こんなことってあり?と思った。社会主義になり「男と女が天下を支える」と、女性の地位も上がり、共産党の女性幹部や政府高官、職場の女性幹部もいる中国。そうはいっても、地方の田舎町や農村では、昔からの男女差別、家父長制は、今でも残っているとは思うけど、こんなに都会に近い場所でも、家父長制、家制度、男尊女卑が残っているのだろうか。場所の設定が違うのではないかという思いが残った。どこまでも男が大事、家が大事。中国の女たちも耐えてきたんだということが描かれる(暁)。


公式サイト https://natsugakite-fuyugayuku.com
(2023年/中国/カラー/98分/ビスタ/5.1ch)
日本語字幕:樋口裕子(日本シネアーツ)
英語字幕:平田早苗 (スプラウト)
協力:日本大学芸術学部映画学科 北海道映画舎
配給:アークエンタテインメント
配給協力:クロスメディア
posted by akemi at 20:07| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする