2020年07月10日

追龍(原題:追龍 Chasing the Dragon)

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監督:バリー・ウォン、ジェイソン・クワン
出演:ドニー・イェン(ホー)、アンディ・ラウ(ロック)、フィリップ・キョン、ウィルフレッド・ラウ、ケント・チェン

1960年、中国の潮州から仲間たちと香港に仕事探しにきたホーは、日当目当てでヤクザ同士の抗争に参加して逮捕されてしまった。差別意識の強い英国人上司とそりの合わない警察官のロックはホーたちを助け、ホーはその恩義を胸に刻む。ホーは裏社会で、ロックは警察でのし上がり、ここぞというときには互いに助け合いながら権力と金を手にしていく。

実在の二人をモデルにしたクライムストーリー。W主演のアンディ・ラウがドニーより2歳年長で、香港のテレビ局の俳優養成所の先輩でもあります。トップスター二人のこれが初共演。ケネス・ツァンやケント・チェンの共演、もう見ることのできない九龍城砦のセットが素晴らしく、香港映画ファンには嬉しい限り。ぜひ大画面で堪能してください。アンディ・ラウは『リー・ロック伝 大いなる野望』(91)では30そこそこで(若くて美形!)同じロックを演じています。見比べるのも良し。
ドニー・イェンは『ワンス・アポン・ア・タイム 天地大乱』(92)で黄飛鴻(ウォン・フェイフォン)の敵役で、ジェット・リーよりも目を引き「誰!?」と以後作品を追いかけたのでした。この作品の腕っぷし強く仲間思い、義理人情に厚いホーは、ドニー本人に近いのではないかと想像しています。
歌に映画にとトップを走り続けてきたアンディ、アクションだけでなく演技にもさらに磨きがかかってきたドニー、俺様キャラ二人かとの心配は無用。二人とも良い年を重ねてきました。(白)


市民の安全を守るためには警察内でのし上がって権力を持つしかない。ロックの考え方はどこかで聞いたことがあると思ったら、「踊る大捜査線」で柳葉敏郎が演じた室井慎次。テレビシリーズ当時は警視庁刑事部捜査第一課強行犯捜査担当管理官でしたが、その後、紆余曲折はあったものの、『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』では警察庁長官官房審議官兼警察庁長官官房組織改革審議委員長に就任して、警察組織の抜本的改革に踏み出すこととなりました。
が、ロックは裏社会でのし上がったホーと手を組み、私利私欲にまみれてしまいます。どこで道を違えたのでしょうか。ホーとともに海の向こうを見たときの青空はいつの間にか消えていました。それとももともと目指すものが違っていた? 
アンディ・ラウに見とれているとラストは「よかった~」と思えるのですが、一般市民の感覚としては、それでよかったんだろうかと、何とも言えないざらざら感が残ります。(堀)


冒頭、頭上を飛行機が飛んでいきます。九龍城砦のすぐそばに啓徳空港のあった時代。空港ビルから眺めた九龍城砦の異様な姿を思い出します。無法地帯といわれ、足を踏み入れるのをためらっているうちに壊されてしまいました。在りし日の姿を写真展で見たことがありますが、本作で生々しく悪の巣窟を再現していて、こんなだったのかなぁ~と想像をめぐらしました。
九龍側から眺めた香港島には、まだ高層ビルも林立してなくて、のどかな風情。
警察が黒社会と結託して、担当地区を決めて甘い汁を吸っているのですが、九龍側に住む警察幹部のトン・ガン(ケント・トン)が尖沙咀と同じ位、香港島の湾仔にうまみがあると聞いて、食指を伸ばそうとします。ガンと対立するリー・ロック(アンディ・ラウ)が、すかさず「船酔いするぞ」とからかいます。まだ海底トンネルが出来てなくて船で行き来していた時代。
また、英国人があらゆる面で香港人の上に立っていたことが、競馬場の場面からも見て取れました。ジョッキークラブのメンバーでないと入れない上層部のテラスですら、英国人と香港人は柵で区切られていました。
英国から中国に返還され、一国二制度という形での独立を得たはずの香港ですが、香港人による自治とは程遠い現実。警察が市民にこん棒を振っているのも60年代と変わらないですね。(咲)


2017年9月中旬 『追龍』香港公開直前の銅鑼湾時代広場の看板(撮影:宮崎暁美)
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2017年/中国、香港/カラー/シネスコ/128分
配給:インターフィルム
(C)2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved
https://www.tsuiryu.com/
★2020年7月24日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー



posted by shiraishi at 10:54| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年06月21日

凱里ブルース 原題:路边野餐

6/6(土)~シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
劇場情報
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© Blackfin(Beijing)Culture & MediaCo.,Ltd - Heaven Pictures(Beijing)The Movie Co., - LtdEdward DING - BI Gan / ReallyLikeFilms

監督・脚本:畢贛(ビー・ガン)
撮影:ワン・ティアンシン
録音:リアン・カイ
美術:ズー・ユン
編集:クィン・ヤナン
音楽:リン・チャン
出演:チェン・ヨンゾン/ヅァオ・ダクィン/ルオ・フェイヤン/シエ・リクサン/ルナ・クオックほか

公式HP

2015年/110分/中国
配給:リアリーライクフィルムズ+ドリームキッド

今年2月に日本公開された『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』(2018)。そのビー・ガン監督のデビュー作が、この『凱里ブルース』である。日本ではこの作品は2015年に開催された中国インディペンデント映画祭で上映されたが、『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』の公開を経て、このデビュー作も公開されることになった。

監督の故郷である貴州省東部の凱里(かいり)を舞台に、幻想的に描いた作品。
亜熱帯の霧と湿気に包まれた凱里市の小さな診療所に身を置いて、老齢の女医とともに仕事をしているチェン。幽霊のように暮らすチェンだが、彼が刑期を終えてこの地に帰還したときには、彼の帰りを待っていたはずの妻はすでに亡く、亡き母のイメージとともにチェンの心に影を落としている。さらに可愛がっていた甥も弟の策略でどこかへと連れ去られてしまった。チェンは甥を連れ戻す為に、そして女医のかつての恋人に想い出の品を届ける為に旅に出る。
彼が辿り着いたのは時間の流れが他とは違う、過去の記憶と現実と夢が混在する不思議なところだった。
『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』でも描かれた、主人公の魂の彷徨ともいうような独自のスタイルが、すでにこの作品でも描かれ、ノーカットのロングショットは、ここでも40分間にわたって展開されていて、監督独自のスタイルがこの作品ですでに描かれている。『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』は、このデビュー作をバージョンアップさせたともいえるだろう。

私がこの『凱里ブルース』を初めて観たのは、2015年の中国インディペンデント映画祭でのこと。なんだかウォン・カーワイ的世界観のある作品だなと思った記憶がある。夢とも現実ともわからない世界を彷徨するという浮遊感。失った者に対する時を超えた交流ともいえるような独自のスタイル。バイクや車や船を乗り継ぎ、たどり着いた場所は洞窟だったり、トンネルだったり。そして鏡や時計、扇風機、風車がモチーフで描かれる。いなくなったものたちと共有した場所や時間をイメージしたものなのか。観るものの想像力を試しているような作品。私の中では山道をバイクで行くシーンが脳裏に残っている(暁)。
posted by akemi at 11:55| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月29日

在りし日の歌 原題:地久天長

2020年4月3日 角川シネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマほか全国順次公開
劇場情報
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(C)Dongchun Films Production

監督・製作・ 脚本:ワン・シャオシュアイ(王小帥)
脚本:アー・メイ
撮影:キム・ヒョンソク
音楽:ドン・インダー
キャスト
リウ・ヤオジュン:ワン・ジンチュン
ワン・リーユン:ヨン・メイ
リー・ハイイエン:アイ・リーヤー
シェン・モーリー:チー・シー
リウ・シン:ワン・ユエン
シェン・ハオ:ドゥー・ジャン
シェン・インミン:シュー・チョン
ガオ・メイユー:リー・ジンジン
チャン・シンジエン:チャオ・イエングオジャン

中国近代史の中、変貌し続ける社会の片隅
喜びも悲しみも分かち合い、時を重ねる夫婦の30年の物語

国有企業の工場に勤めるヤオジュンとリーユン夫婦は、ひとり息子のシンシンと中国の地方都市で幸せに暮らしていた。同じ工場の同僚であるインミンとハイイエン夫婦にも同じ年の同じ日に生まれた息子ハオがいて、二家族はお互いそれぞれの子の義理の父母としての契りを交わし、息子たちは兄弟のようにして育った。リーユンは第二子を妊娠するが「一人っ子政策」に反すると非難され堕胎させられてしまった。さらにリーユンはその手術時の事故で二度と妊娠できない身体になった。しかしヤオジュン、リーユン夫婦はシンシンを水難事故で亡くしてしまう。悲しみに暮れる二人は住み慣れた故郷を捨て、親しい友人たちとも距離を置き、誰も自分たちのことを知らない町へと移り住む。
改革開放後、一人っ子政策に縛られた1980年代、めざましい経済成長の1990年代、激動の2000年代、そして2010年代と、喜びと悲しみ、出会いと別れを繰り返しながら、共に生きていく夫婦の姿を映し出す。大きく変貌する社会の片隅で懸命に生きる人びとの姿を、優しい眼差しで静かに描き出した。
監督は『ルアンの歌』『北京の自転車』『我らが愛にゆれる時』で知られる中国第6世代のワン・シャオシュアイ(王小帥)。本作で3度目になるベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞。
夫ヤオジュンを演じるのは『オルドス警察日記』(13)で第26回東京国際映画祭最優秀男優賞を受賞したワン・ジンチュン(王景春)。『薄氷の殺人』にも出演している。妻リーユンを演じたのは、『黒衣の刺客』『海洋天堂』のヨン・メイ(詠梅)。二人はこの作品で第69回ベルリン国際映画祭で最優秀男優賞と最優秀女優賞をダブル受賞した。また撮影を『冬の小鳥』『ポエトリー アグネスの詩』などで知られるキム・ヒョンソクが手がけている。
事故で亡くなった最愛の息子シンだが、養子に迎えたシンを演じたのはワン・ユエン(王源)。彼のバックボーンは描かれていないけど、彼もまた「一人っ子政策」の影響を受けたひとりでしょう。両親への感謝の想いとは裏腹に思春期を迎え反抗する16歳の複雑で繊細な心のゆらぎを見事に演じきった。その養子のシンを演じたワン・ユエンは、2013年に中国初の少年アイドルグループ「TFBOYS」でデビューしている。

『在りし日の歌』 メイキング映像 
https://youtu.be/cgUm5PWfyJ0

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「TFBOYS」のメンバーと知られるワン・ユエン
(C)Dongchun Films Production

息子を亡くした大きな喪失感の中で生きている夫婦のさりげない日常を切り取りながら、大激動の中国近代史が描かれる。そして、壮大な中国の風景。川の情景と生活。生活の大きな変貌、街の変化までが描かれるが、人々の思いというのは、どこの国も同じなんだなあと思わせてくれる(暁)。

長い時間をかけて積み重ねてきた幸せが一瞬で壊れることがある。しかし、夫婦、家族で支え合えば、またきっと積み重ねていける。中国の歴史的変化を背景に見せながらも、核に描いたことはいつの時代も変わらない。私もこんな風な夫婦でありたいと思う。(堀)

公式サイト
2019年製作/185分/G/中国
配給:ビターズ・エンド
posted by akemi at 20:09| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月17日

ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ 原題:地球最后的夜晩 英題:LONG DAY'S JOURNEY INTO NIGHT

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監督・脚本:ビー・ガン
美術:ウー・チアン
撮影:ヤオ・ハンイ、ドン・ジンソン、ダーヴィッド・シザレ
音楽:リン・チャン、ポイント・スー
出演:タン・ウェイ 、ホアン・ジエ、シルヴィア・チャン、チェン・ヨンゾン、ルオ・フェイヤン

ルオ・ホンウ(ホアン・ジエ)は、父の死をきっかけに、何年もの間離れていた故郷の凱里に帰省する。久々に戻ったふるさとは、彼に他界した幼なじみを思い出させ、同時に長い間心に残っていたある女性の面影を浮かび上がらせる。彼女は、香港の有名女優であるワン・ チーウェンと同じ名前だと彼に告げた。

ビー・ガン29歳、監督2作目にしてウォン・カーウァイを想起させる驚異のビジュアルセンスを日本の観客へ差し出した。現代中国映画界の懐は深い…と痛感させる作品だ。
終盤、主人公が示す、ある誘いにより観客は3D眼鏡をかける。すると、60分間ワンカット長回しの魂の彷徨を、主人公と共に体感する!映像と音楽に酔う目眩く幻想体感である。このような独自性と新感覚アイデアに満ちた若手監督の作品と邂逅するのは久々であり、興奮勝つ陶然とした思いを味わった。

若手監督に実験的アートの場を与える中国映画界の未来は明るいと感じさせる。本国のアート系映画としては、ジャ・ジャンクー監督の『帰れない二人』の興行収入10億円を超え、1日で41億円を記録した、という。海外での評価も高く、19年公開の中国映画としては異例のロングランヒットとなっているのも納得だ。

あらすじを追うよりも、テイストやニュアンスを楽しむ作風のため、現実と過去の記憶、幻想が複雑に交錯する世界観は、観る人によっては入り込みにくいかもしれない。が、ゴダール作品と同様に、監督の脳内を覗き込めると思えば、これほど楽しい体験はないはずだ。

個人的には、、『ラスト、コーション』のタン・ウェイとの再会が嬉しかった。タン・ウェイが発散するアンニュイな雰囲気、諦念、暗い官能は作品世界を象徴している。やはり、タン・ウェイには『ブラックハット』といったハリウッド娯楽作よりも本作のような作家性の濃い監督とのコラボレーションが似合う気がする。

デビュー作で示した故郷・凱里の街空間の豊かなイメージが、本作でも展開される。その構築性は、時として『ブレードランナー』を思わせる趣向を凝らしたライティング映像に。絶妙のタイミングで挿入される音楽にと反映され、ビー・ガンの洗練的手腕は疑いようがない。監督と共に辿るミステリアスな138分の旅をお薦めしたい。(幸)


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シネ・リーブル梅田にて


畢贛(ビー・ガン)監督の長編デビュー作である『凱里ブルース』を観たのは2015年の中国インディペンデント映画祭。この『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』に至る原点のような作品でした。監督の故郷、貴州省凱里へと山道をバイクが上がっていくシーンを覚えている。凱里という街はけっこう雨が降る湿っぽい街のようです。なんか暗い街というイメージ。あるいは時代の変化に取り残された街のようにも思える。
この新作『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』も、やはり凱里を舞台にした138分の作品。前作で試みた浮遊感あふれる実験的手法は、冒険心いっぱいだったけど、新作はさらに後半60分にわたるワンカットの長回し映像や3Dを加えてパワーアップ。

父の葬儀のために12年ぶり帰郷したルオは、脳裏に浮かんだ過去の記憶を蘇らせ、現実とも夢ともつかない迷宮を彷徨う。別れた恋人なのか、忘れられない女性なのか、そんな女性の姿を追い求めネオンに彩られた街を歩き、死んだ親友の思い出、やくざとの抗争の記憶も蘇りさまよい歩く。
3D作品を上映中の映画館にルオはふらりと入った後は3D映像に。街中なのか山中なのか、はたまた夢なのか現実なのか、物語の中にいろいろな要素を盛り込み、観客を映画に引き込んでゆく。どういう展開になるのかわからず不思議な世界がひろがる。
出演は『長恨歌』のホアン・ジエ、『ラスト、コーション/色・戒』のタン・ウェイ、『妻の愛、娘の時』の監督シルヴィ ア・チャンなど、豪華キャスト。

昨年(2019年)東京フィルメックスで上映されたが監督の来日はなく、上映後はプロデューサーのシャン・ゾーロンがQ&Aに登場。3Dシーンの撮影については「3D用のカメラでの長回し撮影は大変だと思ったので通常の2Dカメラで撮って、後から変換しました。長回しの部分は監督の譲れない部分でした。時期的には2回に分けて撮影しましたが、何テイク撮っても失敗。その後出演者のスケジュールも確保できなかったので、今年(2019)の春に全員を集めて5日間かけて準備をし、2日間で撮影に成功しました」と語った。

フィルメックスで上映されたバージョンと日本公開バージョンは違い、中島みゆきさんの「アザミ嬢のララバイ」のオリジナルが途中2回短く流れ(携帯の着信音とラジオから)、エンディングではみゆきさん本人が歌う「アザミ嬢のララバイ」がずっと流れたので、「この曲は中国語でもカバーされているのに、なぜ中島みゆきさん本人のオリジナルを使ったのでしょう」と質問してみた。そうしたら「監督が脚本を書きながら繰り返し聴いていた曲だったので、この曲を使おうと私がヤマハミュージックに許可を取りました。ヤマハも格安にしてくれて契約を取ったのに監督は最終的に使用しないと判断をしてカンヌの上映では別の楽曲を使いました。予算が大幅に超過する中、苦労して楽曲使用料を支払ったので説得し、今回また使ったのです」と答えた。そういう事情があったんだと、みゆきファンの私はすごくウキウキしてその日家路についたのでした。「アザミ嬢のララバイ」のイメージでこの映画ができたのかとも思ったけど、もしかしたら、外国語の曲だから聴いていたのかもとも思った。私も原稿を書くときは言葉が耳に入ってくる日本語の曲ではなく、言葉を聞き取れない中国語とか英語の曲をかけていることがある。そのほうが原稿に集中できる。日本公開バージョンでは「アザミ嬢のララバイ」が最後に使われず、中国語の曲でちょっと残念だったけど、中国語の曲も悪くはなかった。原題は「地球最後的夜晩」。このタイトルのほうがイメージがわく。時代に取り残された街や人々の思いがつまっている感じ(暁)。

製作/中国・フランス合作/2018/ 138分/G
配給・提供:リアリーライクフィルムズ、miramiru
提供:ドリームキッド、basil
(C) 2018 Dangmai Films Co., LTD, Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD - Wild Bunch / ReallyLikeFilms
公式サイト: https://www.reallylikefilms.com/longdays
★2月28日より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほかにて全国公開★
posted by yukie at 11:03| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月23日

『巡礼の約束』 原題 阿拉姜色 英語題:Ala Changso

2020年2月8日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー 劇場情報

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©GARUDA FILM
 
監督:ソンタルジャ
製作:ヨンジョンジャ
脚本:タシダワ ソンタルジャ
撮影:ワン・ウェイホア
美術:ツェラントンドゥプ 、タクツェトンドゥプ
編集:ツェランワンシュク、サンダクジャプ
音楽:ヤン・ヨン
キャスト
ロルジェ:ヨンジョンジャ
ウォマ:ニマソンソン
ノルウ:スィチョクジャ
ダンダル:ジンパ

2018年 中国映画 109分 シネマスコープ 5.1chサラウンド
字幕:松尾みゆき 字幕監修:三宅伸一郎 配給:ムヴィオラ 
『巡礼の約束』公式サイト 

妻から夫へ、父から息子へ。
受け渡され、継がれていく巡礼の旅


チベット人として日本で初めて劇場公開された『草原の河』のソンタルジャ監督。厳しい自然の中で牧畜を営む家族たちを娘の目を通して描いた。『巡礼の約束』では、ラサへの巡礼の旅に出た妻と、血の繋がらない夫と息子の絆を描いた。

チベット山麓の村で夫のロルジェ、夫の父と暮らす妻ウォマ。ある日、病院から帰ってきたウォマは、ロルジェに「五体投地でラサへ巡礼に行く」と伝えた。突然の話にロルシェは反対するが、ウォマの決意は変わらない。ロルジェは妻のラサ巡礼を受け入れる。介護が必要な父親がいるので、村の人に妻の付き添いを頼むが、やはり妻のことが心配で、父を村の人に託し、妻の後を追う夫。さらにウォマが実家に置いてきた前夫との息子ノルウも母ロルジェを追ってやってきて合流する。母が自分を置いて嫁いでいってしまったため、自分は捨てられたと思い、心を閉ざしているノルウ。ウォマは自分が重い病気にかかっていることを知り、前夫との約束を果たそうと巡礼に出たのだが、何ヶ月か、この巡礼の旅を続けるうちにとうとう思いを果たせず亡くなってしまう。母を追ってきたノルウは、母のその思いを引き継ごうと、ロルジェに一緒に行きたいと告げる。お互いの誤解から、最初はぎこちない関係の二人だが、ウォマの思いを叶えたいと血のつながらぬ父と息子は旅を続けた。チベット高原の圧倒的な風景の中でラサへの巡礼の旅を続け、約束を果たそうとするそれぞれの想いを描く。ふたりはある日、母を亡くした一頭の仔ロバと出会い、ともに聖地ラサへと巡礼の道を歩きつづける。この仔ロバの名演も忘れがたい。悲しみ、後悔、嫉妬、わだかまり、それらを超えようとする夫と妻、息子の姿を通して、死者とともに生きるチベットの祈りの心が伝わってくる。
夫役はチベット高原の東にあるギャロン出身の国際的歌手ヨンジョンジャ。孔雀の舞で有名な舞踏家ヤン・リーピンの舞台「クラナゾ蔵謎」のプロデューサーでもある。これは日本でも公演があった。民族衣装が美しい妻役は人気女優のニマソンソン。多くの候補者の中から「目力」で選ばれた息子役はスィチョクジャ。

ラサへ五体投地で巡礼する映画としては、『ラサへの歩き方 〜祈りの2400km』(2017)が記憶に新しい。それにしても五体投地しながら何ヶ月も、時には1年以上もかけてラサを目指す旅を続けるチベットの人たちの行動には頭が下がる。この作品では、自分の病気を知った妻が、亡くなった前夫との約束だったラサへ命をかけて巡礼に出る。彼女には実家に置いてきてしまった息子ノルウがいる。その事情については描かれていないが、母に捨てられたと思いノルウは悲しい思いで生きていた。ノルウも母を追ったが、母と合流できても、自分が母と暮らせなかったのはロルジェが子供を連れてくることを嫌ったからだと思い、ロルジェとしっくりいかない。でも母の思いをかなえたいと思い巡礼を続ける。この二人の和解物語とも言える。圧倒的なチベットの自然の前に人間はちっぽけだけど、こういう中で気持ちが癒されていくのかもしれない。
中国映画祭「電影2019」では『アラ・チャンソ』というタイトルで上映された(暁)。
 

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中国映画祭「電影2019」でのソンタルジャ 監督 撮影 宮崎暁美


全身を地面に付けながら、何ヶ月もかけて聖地ラサへ向かう五体投地。この作品で初めて知った。何と過酷な巡礼なのだろう。よほどの信仰心がないとできないに違いない。
理由を告げずに、その巡礼に出掛けた妻。同行する夫と前夫との息子。見知らぬ人の温情が彼らを支えた。その温かさは見ている者の心も温かくする。
妻を襲う病魔と明らかになる巡礼理由。男と少年は女に代わってラサを目指し、本当の親子のように距離を縮めていく。巡礼を経て結ばれていった2人の絆に今後の希望を感じた。(堀)

 
30年程前にラサを訪れたことがある。ロルジェたちはチベット高原の東端ギャロンから何日も何日もかけて、やっと憧れのラサの町に到達するが、私はそのギャロンに程近い四川省の成都から飛行機で飛んだからご利益は彼らの千分の1もないだろう。ラサのジョカン寺で、大勢のチベットの人たちが五体投地している姿を見ながら、真似てみたが、2回が精一杯。床拭き掃除の要領ね・・・などと思ったがとんでもない。全身を地面に打ちつけ、尺取虫のように進む五体投地での巡礼は、まさに命がけ。それでも前夫との約束を果たしたいと巡礼に出るウォマ。チベットの人は、信仰心が厚いだけでなく、約束は必ず守る人たちだと教えられた。

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ジンバさん (撮影:景山咲子)

巡礼途中で困っている人を無償で助けるのもまたチベット人の心。ウォマが倒れた時に助けたダンダル一家の主を演じたジンバさんは、2019年の東京フィルメックスで最優秀作品賞に輝いたペマツェテン監督の『気球』で主演を務めていて、来日された。ペマツェテン監督の前作『轢き殺された羊』に続いての主演。『巡礼の約束』では、脇にまわって、さりげなく人助けする男を演じている。
ちなみにダンダル家はチベット自治区に近い地で暮らしていてチベット語を話していて、ロルジェたちの話すギャロン語とは違うそうだ。同じチベット文化圏で、チベット語からの借用語も多いギャロン語だが、映画を注意して観ていると、言葉が違うこともわかって興味深い。(咲)





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