2023年11月02日

サタデー・フィクション    原題:蘭心大劇院  英題:Saturday Fiction

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(C)YINGFILMS 2019

監督:ロウ・イエ(婁燁)
出演:コン・リー(鞏俐)、マーク・チャオ(趙又廷)、パスカル・グレゴリー、トム・ヴラシア、ホァン・シャンリー(黄湘麗)、中島歩、ワン・チュアンジュン(王傳君)、チャン・ソンウェン(張頌文)/オダギリジョー

1941年、日本軍の占領を免れた上海の英仏租界は、当時「孤島」と称されていた。魔都と呼ばれるこの上海では、日中欧の諜報部員が暗躍し、機密情報の行き交う緊迫したスパイ合戦が繰り広げられていた。
日本が真珠湾攻撃をする7日前の12月1日、魔都上海に、人気女優のユー・ジン(コン・リー)が現れる。新作の舞台「サタデー・フィクション」で主役を演じるためだ。一方、この大女優ユー・ジンには、幼い頃、フランスの諜報部員ヒューバート(パスカル・グレゴリー)に孤児院から救われ、諜報部員として訓練を受けた過去があり、銃器の扱いに長けた「女スパイ」という裏の顔があった。
そして2日後の12月3日、日本から海軍少佐の古谷三郎(オダギリジョー)が海軍特務機関に属する梶原(中島歩)と共に、暗号更新のため上海にやってくる。ヒューバートはユー・ジンに告げる。「古谷の日本で亡くなった妻は君にそっくりだ」と。それは、古谷から太平洋戦争開戦の奇襲情報を得るためにフランス諜報部員が仕掛けた“マジックミラー計画”の始まりだった……。

ロウ・イエ監督の第11作目。
モノクロ映像に、漢字縦書きで時代背景が語られ、ぐっと太平洋戦争開戦前の緊張した1週間にひき込まれます。とはいえ、それは真珠湾攻撃があのような形で行われたという歴史を知っているからこそで、当時の人たちは緊張感の溢れる時代にいながらも、何が起こるかはわからない中で暮らしていたことに思いが至ります。
今も上海に残る当時の建物を使っての撮影は、モノクロ映像であることもあいまって、時代を感じさせてくれます。
字幕を担当された樋口裕子さんによる「映画『サタデー・フィクション』プロダクションノート」に、撮影場所についても詳しく書かれていますので、ぜひお読みください。 
https://note.com/uplink_senden/n/ncb7639771bf6
魔都と呼ばれ、欧米中日各国の諜報部員が暗躍していた上海。愛する人さえ、諜報部員かもしれないという疑心暗鬼。コン・リーが、強い女でなく、愛する人を想うはかなさも感じさせてくれました。登場人物それぞれがたどってきた人生も、時代に翻弄されたもので、なんとも切ない物語です。(咲)


実はスパイ物を扱った映画は好きではなくあまり観たことがない。でも、この作品は婁燁監督の作品なので観てみた。スタイリッシュな作りで、テンポよく物語が進む。しかし物語は複雑。劇内劇という感じで、ユー・ジンは国民的スターという設定。演劇の進行と、暗躍するスパイたちと、戦争が始まる前の緊張感あふれる時代を描き、単なるスパイものではない側面を見せている。
ユー・ジンはヒューバートの養女になり、スパイとなったようだけど、フランスのスパイなのか、あるいは実際は中国側のスパイだったのか疑問が残った。それにしても、あの時代の上海は魔都と呼ばれ、スパイが暗躍したところだったのだろう。ここを舞台にたくさんのスパイ映画が作られている。この映画は真珠湾攻撃前の数日間を描き、戦争が始まる前の緊張感に溢れた作品になっている。しかし、日本軍の真珠湾攻撃の情報が上海にまで伝わっていたとは考えられないけど、映画だからこその大胆な発想と思った(暁)。


☆ロウ・イエ監督 来日記念舞台挨拶
ゲスト(予定):ロウ・イエ監督、マー・インリー(プロデューサー)、オダギリジョー、中島歩

*シネ・リーブル池袋
日時:11月3日(金・祝)9:30の回(上映後)

アップリンク吉祥寺
日時:11月3日(金・祝)13:35の回(上映後)、16:25の回(上映前)

新宿武蔵野館
日時:11月3日(金・祝)19:25の回(上映前)

2019年/中国/中国語・英語・フランス語・日本語/127分/モノクロ/5.1ch/1:1.85
字幕:樋口裕子
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト:https://www.uplink.co.jp/saturdayfiction/
★2023年11月3日(金・祝)よりよりヒーマントラスト有楽町、新宿武蔵野館、シネリーブル・池袋、アップリンク吉祥寺にて全国ロードショー

posted by sakiko at 22:22| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年10月08日

宇宙探索編集部  原題:宇宙探索編輯部 英語題:Journey to the West

2023年10月13日(金)より
新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺他全国順次公開

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人に何を言われようと宇宙人の存在を信じて進み続ける爆笑と奇想天外ロードムービー!

監督・共同脚本:孔大山(コン・ダーシャン)
撮影監督:マティアス・デルヴォー
エグゼクティブ・プロデューサー:
王紅衛(ワン・ホンウェイ)、郭帆(グオ・ファン)
プロデューサー:龔格爾(ゴン・ゴーアル)
主題歌:蘇運瑩(スー・ユンイン)
字幕:磯尚太郎 字幕協力:大阪大学外国語学部 古川裕

出演:楊皓宇(ヤン・ハオユー)、艾麗婭(アイ・リーヤー)、王一通(ワン・イートン)、蒋奇明(ジャン・チーミン)、盛晨晨(ション・チェンチェン)

舞台は中国。主人公は廃刊寸前のUFO雑誌「宇宙探索」の編集長。

30年前の宇宙ブームは去り、かつて人気があったUFO雑誌「宇宙探索」は廃刊の危機に陥り細々と発行を続けている。光熱費の支払いすらおぼつかない。それでも、編集長のタンは地球外生命体の謎を追い続けてきた。
ある日、四川省の鳥焼窩村に空から正体不明の光が降ってきて、宇宙人の仕業と思われる不思議な現象が起きたという情報を掴み、編集部の仲間たちを連れて調査の旅に出る。
一行は鳥焼窩村で奇妙な言動を繰り返す青年スンと出会う。宇宙人からの指示に従いあるミッションを完遂しないといけないというスンに従い、さらに西へと向かう一行。そこで彼らを待ち受けていたのは、予想と人智をはるかに超えた出来事。人から何を言われようと、バカにされようと、夢を信じて進む宇宙探索編集部。その馬鹿馬鹿しくも、奇想天外な行動が爆笑を呼ぶ、宇宙人探しのロードムービー。

監督のコン・ダーシャンは北京電影学院の監督科出身。この作品は卒業制作でありながら、2021年の平遥映画祭の最優秀作品賞、審査員栄誉賞、映画ファン栄誉賞をトリプル受賞。2022年の大阪アジアン映画祭でも上映された。2019年に中国で大ヒットした『流転の地球』のグォ・ファン監督がエグゼクティブ・プロデューサーを務めたことも話題になった。英題の「Journey to the West」は「西遊記」の英題とのこと。

2021年製作/118分/G/中国
配給:ムヴィオラ  
公式サイト:https://moviola.jp/uchutansaku/
posted by akemi at 05:04| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年10月02日

フラッシュオーバー 炎の消防隊   原題:驚天救援 英題:Flashover

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© 2023 ALL RIGHTS RESERVED BY UNIVERSE ENTERTAINMENT LIMITED /ASIA PACIFIC CHINA (BEIJING) FILM CO., LTD.

監督:オキサイド・パン 彭順(『the EYE 【アイ】』『リサイクル—死界—』『ゴースト・ハウス』『バンコック・デンジャラス』『インフェルノ 大火災脱出』『冷血のレクイエム 極限探偵B+』)
出演:ドゥー・ジアン杜江(『フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話』)、ワン・チエンユエン 王千源(『誘拐捜査』)、トン・リーヤー 佟麗婭(『タイガー・マウンテン 雪原の死闘』)、ハン・シュエ 韓雪(「イップ・マン」)、ユー・ハミオン俞灝明(「月に咲く花の如く」)、エルヴィス・ハン 韓東君(『1950 鋼の第7中隊』)、ワン・ゴー 王戈(『カイジ 動物世界』)

江東省灌城市で、マグニチュード3.1の地震が発生。トンネル付近で危険物を積んだタンクローリーが衝突事故を起こすが、ジャオ消防署長らの活躍で事態は収束する。後日、天宜化学工場で化学物質が爆発。周囲の工業団地へも引火し、一帯の住居や公共施設を巻き込んだ前代未聞の大規模爆発事故となる。ジャオや通信員のハンらが現場に急行するが、建物は崩壊し要救助者は多数、まさに阿鼻叫喚の様相を呈していた。ジャオの婚約者ジャンは、半壊した学校に子供たちと閉じ込められ、煙が充満する中、なんとか屋上に避難するが、そこには想像を絶する惨状が広がっていた・・・

「フラッシュオーバー」とは、局所的な火災が短時間にして全域に拡大する現象の総称。
本作は、架空の灌城市を舞台に、消防署のジャオ署長のもと、消防署員たちが日々厳しい訓練を重ね、大事故に立ち向かう姿を描いたもの。
殉職する署員もいて、ジャオ署長の婚約者ジャンは、結婚をためらい転職してほしいとまで言います。誰かが担わなければいけない大事な仕事。命がけで日々挑んでくださっている方たちがいることを忘れてはならないと思いました。
それにしても、最近の中国映画は潤沢な製作費を使った大掛かりな作品が多いですね。昨年6月に日本で公開された『クラウディ・マウンテン』を思い出しました。次々に災難に襲われるのも同様でした。家族のことも描いて、涙を誘うのも! 中国で大ヒットする条件なのでしょうか・・・ (咲)


2023年/中国/中国語/115分/シネスコ/5.1ch
字幕:神部明世
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:https://flashover-movie.com/
★2023年10月6日(金)より、シネマート新宿・シネマート心斎橋ほか全国ロードショー



posted by sakiko at 21:28| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年09月18日

草原に抱かれて 原題「臍帯(Qi dai)」(へその緒の意)英題:Cord of Life

9月23日(土)より新宿K's cinemaにてロードショー、全国順次公開
他の上映情報
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広大な内モンゴルの草原を認知症の母と旅するミュージシャンの息子

監督・脚本:喬思雪(チャオ・スーシュエ)
エグゼクティブ・プロデューサー:曹郁(ツァオ・ユー)/姚晨(ヤオ・チェン)
撮影監督:曹郁(ツァオ・ユー) 
編集:チャン・イーファン 音響:フー・カン
美術:ジャオ・ズーラン メイクアップ&衣装:リー・ジョウ 
音楽:ウルナ/イデル/ウヌル
出演:母役:バドマ アルス役:イデル

内モンゴルの都会に暮らす電子ミュージシャンのアルス。馬頭琴でラップを歌う。ある日、ライブの最中に兄の家で暮らす母から電話が来た。ライブのあとで返信したが反応がない。心配になったアルスは兄夫婦の元を訪ねる。アルツハイマーを患う母は、集合住宅の狭い部屋に閉じ込められていた。アルスのことも認識できない。母は「家に帰りたい」という。
見かねたアルスは母を引き取り、母が望む故郷に連れ帰り、昔、家族で住んでいた家でふたり暮らしを始める。湖のほとりのとても景色の良いところで、母の心は癒されると思っていたけど、ここでも母は「家に帰りたい」と言い、次第に母の病状は悪化、徘徊を繰り返すようになってしまう。ついにアルスは母が遠くに行かないよう、しかたなく長い紐で母と自分の体を結ぶ。あたかもふたりが「へその緒」で繋がったかのようになった。原題の「臍帯」はへその緒の意味。
まるで少女に戻ったかのようになっていく母。ふたりは母の<思い出の木>を探す旅に出る。壮大な草原で伝統的なゲルでの移動の生活のなか、母は徐々に解放されていく。しかし、母の最期の時が近づいてくる。

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昨年(2022)の東京国際映画祭で観た作品の中で、一番印象に残った作品。内モンゴルでの高齢者事情にびっくりした。日本と同じように都会と地方ではやはり事情は違う。息子役を演じたイデルは実際にもミュージシャンで、この映画の音楽も担当している。馬頭琴でラップをやっていたのが面白かった。母の<思い出の木>を探す広大な草原を巡るロードムービーでもある。
内モンゴル出身でフランスで映画を学んだ女性監督チャオ・スーシュエのデビュー作。「母親役以外はすべて、内モンゴルの現地で普段生活されている方たちが出てくれたので、そこで非常にリアルな内モンゴルでの生活というのを、うまく描くことができたと思います」と語っていた。(暁)


「家に帰りたい」という母を連れて、草原で暮らした家に行くも、そこも母の帰りたかった家ではなくて、伝統的な組み立て式の「ゲル」こそが母にとっては帰りたかった家。モンゴルの人たちにとっては、それこそが家なのですね。
馬頭琴などの伝統楽器に合わせて、伝統的な衣装で楽しそうに皆で踊る場面に、後世にも民族の文化を大事に伝えてほしいと思いました。(咲)



公式HP http://www.pan-dora.co.jp/sougen/
2022年|中国|モンゴル語|96分|カラー 
配給:パンドラ

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チャオ・スーシュエ監督、リウ・フイプロデューサー
去年(2022)の東京国際映画祭での『へその緒(臍帯)』上映後のトーク
posted by akemi at 02:06| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年03月16日

郊外の鳥たち  原題:郊区的鸟 英題:SUBURBAN BIRDS

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監督・脚本:チウ・ション(仇晟)
音楽:シアオ・ホー(小河) 
撮影: シュー・ランジュン(徐燃俊)
編集:ジン・ディー(金鏑)、リアオ・チンスン(廖慶松)
美術監督:ユー・ズーヤン(於子洋)
録音: ロウ・クン(娄堃) 
音響デザイナー:トゥー・ドゥーチー(杜篤之) 
音響編集: ウー・シューヤオ(呉書瑶)
出演:メイソン・リー(李淳)、ホアン・ルー(黄璐)、ゴン・ズーハン(龔子涵)他

都市の郊外で測量をする男たち。この辺りでは地盤沈下が進み、高層ビルが傾きはじめ、その傾斜度も測っている。測量チームの青年ハオは、廃校になった小学校に忍び込む。机の引き出しの中から、自分と同じ名前の男の子の日記を見つける。そこには、開発が進む郊外の町での、少年らしい冒険の日々が綴られていた。一方、測量チームの男たちが昼寝をしている間に、少年たちが測量の双眼鏡を持ち出す。
地盤沈下で傾き、退去命令の出た高層アパートの一室では、いなくなった保護犬を待つ女性。電気も切られ、ろうそくをつけている・・・

ガーンガーンと工事の音が鳴る中で進む物語。
現代と過去、そしてもしかしたら未来が行き来する不思議な体験。
地盤が沈下し、ビルが傾いた場所は、今の杭州の郊外。杭州は、かつて南宋王朝の都で、南宋の皇帝が街を出る時の道は、運気の通り道。そんな場所が舞台。むやみに開発して、運気に見放されたのか?
タイトルの「郊外の鳥」に絡む場面がいくつか出てきます。
廃校で読んだ少年の日記には、森で拾った鳥の卵を大事に持ち帰った話。
ホテルの一室で、男性が女性に「小さい時、よく森で鳥の巣をつついた。全身青い鳥だった」と語る場面。これが日記を書いた少年が大人になった姿でしょうか・・・  女性が、「全身青い鳥なんていないわ」と言うのですが、どうやら「郊外の鳥」は青い鳥。
森を行く青年二人の会話の中には、「この辺りで“全身青い郊外の鳥”を見たと信用できる刑事が言っていた」とありました。青い鳥というと、チルチルミチルの幸せの青い鳥を思い浮かべますが、この青い郊外の鳥は、ちょっと違うようです。
チウ・ション監督が本作に込めた思いについては、公式サイトのインタビューをぜひお読みください。 (咲)


2018年/中国/中国語/114分/|1:1.33/ 5.1ch/DCP・Blu-ray
字幕翻訳 : 奥原智子 
配給:リアリーライクフィルムズ、ムービー・アクト・プロジェクト
公式サイト:https://www.reallylikefilms.com/kogai
★2023年3月18日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開


posted by sakiko at 01:05| Comment(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする