2020年06月06日

マルモイ ことばあつめ(英語題:Malmoe: The Secret Mission)

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監督・脚本:オム・ユナ
撮影:チョ・ヨンファン
出演:ユ・ヘジン(キム・パンス)、ユン・ゲサン(リュ・ジョンファン)、キム・ホンパ、ウ・ヒョン、キム・テフン、キム・ソニョン、ミン・ジヌン

1940年代、日本統治下の京城(ソウル)。日本語を使い、朝鮮名を日本式に変えることを強制されていた時代。民族の言葉を消さないために朝鮮語の辞書を作ろうと奮闘した人たちがいた。ジョンファンは裕福で教養もある朝鮮語学会代表。敬愛する父親が親日に変わったことに忸怩たる思いを抱いている。
息子の学費を捻出するため、高価そうなジョンファンの鞄を盗んだ貧しいパンス。中身は密かに集められた辞書作りのための資料だった。官憲に見つかると没収され関係者は逮捕されてしまう。ジョンファンは必死で取り戻し、編集仲間に話したことからパンスは仲間入りすることになった。辞書作りをしているチョ先生と刑務所で知り合い、顔のきくパンスがなにかと助けたことがあったのだ。読み書きもできなかったパンスは少しずつ文字を覚え、持ち前の明るさと仲間のつながりを駆使して辞書作りに協力していく。
 
光州事件を扱った『タクシー運転手 約束は海を越えて』脚本のオム・ユナの初監督作。今回も史実を元に、熱い血も情もある市井の人たちが活躍します。どの映画にも必ずいた気がするユ・ヘジンが、非識字者のヤクザ者として主演。この作品にユーモアを加え、応援したくなるパンスを体現しました。息子と娘を残して亡くなった妻の分まで子どもを愛し、パンスなりに大切にしています。ジョンファンに軽んじられてもめげずに、地方出身の仲間を集めて次々と方言を披露させる場面、40過ぎて初めて文字を覚えた喜びの表情など面目躍如といったところです。
ユン・ゲサンは1978年生まれ。『僕らのバレエ教室』(04)の少年っぽさが消え、『豊山犬(プンサンケ)』ではすっかり男らしくなって目を見張りましたが、本作ではスーツの似合う知識人役。一作ごとの成長ぶりが嬉しいです。
日本統治下の韓国で母国語と名前を取り上げ、弾圧してきたことを知らない私たちと、繰り返し伝えられた韓国の人たちと齟齬が生まれるのは当然、まず知ることから始めましょう。人の心はそう違うものではありません。違いを並べ立て、憎しみを煽るのは支配したい側の常とう手段です。映画人は観客に届くことを願って想いを込めて映画を作ります。一本の映画、ひとりの俳優に目が留まり、さらに知りたくなったならそれが第一歩。自分で観て、知って、考えて、判断するきっかけとするのにふさわしい作品です。エンタメ作品としても文句なし。(白)


日本統治時代の朝鮮半島では監視と弾圧の中、朝鮮の言葉だけでなく創氏改名による日本化が進められていた。このことを描いた作品としては林權澤(イム・グォンテク)監督の名作『族譜』(1978)が有名。こちらもぜひ観てほしい。朝鮮の人たちのアイデンティティをあらわした映画としてすばらしい映画です。
この作品『マルモイ ことばあつめ』は、辞典を作るのに非識字者が主人公という思いもよらない設定で作られているが、ユ・ヘジンの行動が、笑いと感動で観客の心を動かしてゆく。
私はこの作品を今年(2020年)3月初めの大阪アジアン映画祭の会場で観たけど会場にはけっこう観客がいた。すでにコロナ騒動の渦中でゲストも来日せず、映画を観るだけだったけど、たくさんの人がこの作品を観に来ていた(暁)。


参考 シネマジャーナル 大阪アジアン映画祭レポート
第15回大阪アジアン映画祭(OAFF2020)2
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/474058711.html

2019/韓国/カラー/135分
配給:インターフィルム
(C)2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
https://marumoe.com/
★6月13日(土)新潟 シネ・ウインドにて先行公開、ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 14:45| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年05月31日

未成年(原題:미성년/Another Child) 

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監督:キム・ユンソク
脚本:キム・ユンソク、イ・ボラム
出演:ヨム・ジョンア、キム・ソジン、キム・ヘジュン、パク・セジン、キム・ユンソク

父が不倫していることを知った女子高生のジュリ(キム・ヘジュン)。その相手は、問題児として知られる同級生ユナ(パク・セジン)の母ミヒだという。ジュリはユナに母親の不倫を止めるよう忠告するが、激しい口論の末ユナは母がジュリの父の子を妊娠していることを告げ、ジュリの母にまでその事実を暴露してしまう。思いもかけない告白に戸惑い、また現実から目を背けようとする両親の姿に傷つくジュリ。一方のユナも、娘を顧みず不倫の恋にのめり込んでゆく母の姿を見て深い孤独を感じていた。そんな最中、2つの家族を決定的に揺るがす、ある事件が起こる…。

キム・ユンソクが同名の舞台を原作に思春期の少女たちの物語の脚本を書きあげて、監督デビューしました。親の不倫に傷つく2人の女子高生の感情の機微を浮かび上がらせています。そして、キム・ユンソク自身は覚悟もなく不倫に走って醜態を見せる父親を演じ、男としての情けなさを見事なほどにさらけ出しました。ハ・ジョンウと組んだ『チェイサー』や『哀しき獣』をイメージして見ると、はぐらかされた気持ちになるかもしれませんが、そんな方はぜひ公開中の『暗数殺人』をご覧ください。
キム・ユンソクが演じた不倫夫だけでなく、彼の不倫相手ミヒの元夫も出番は少ないものの、そのだらしなさは記憶に残ります。一方、妻や不倫相手は腹が据わった行動力を見せました。男ってどいつもこいつも…思わず、そんな言葉が口から出てしまうかもしれません。
本作は韓国映画界最高峰の栄誉である青龍映画賞で新人監督賞と新人女優賞の2部門にノミネートされ、キム・ユンソク自身の受賞は残念ながら逃したものの、キム・ヘジュンに新人女優賞をもたらしました。監督としての次回作に期待したくなりますね。(堀)


2019年/韓国/カラー/96分
配給:クロックワークス
© 2019 SHOWBOX AND REDPETER FILM ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:http://klockworx-asia.com/miseinen/
★2020年6月5日(金)シネマート新宿、シネマート心斎橋にて公開

posted by ほりきみき at 12:11| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月04日

暗数殺人 原題:암수살인  英題:Dark Figure of Crime

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監督:キム・テギュン
出演:キム・ユンソク、チュ・ジフン、チン・ソンギュ

釜山。港町のカルグクス(麺料理)店で派手な逮捕劇が繰り広げられる。
「7人だ。俺が殺したのは全部で7人」キム・ヒョンミン刑事(キム・ユンソク)は、恋人を殺害し逮捕されたカン・テオ(チュ・ジフン)から突然の告白を受ける。ヒョンミン刑事は、直感的にテオの言葉を信じ、上層部の反対を押し切り捜査を進め、白骨化した死体を発見する。だが、テオは死体を運んで埋めただけと証言をくつがえす。果たして、テオは殺人を犯していないのか? それとも残る6人の死体は存在するのか? 翻弄されるヒョンミン刑事・・・

暗数とは、実際の数量と統計上あつかわれる数量との差。
カン・テオは、実際、何人の女性を殺したのか?
本作は、韓国を震撼させた連続殺人事件を基に描いたもの。
証言を覆されながら、沈着冷静に真実を追い求める刑事を演じた名優キム・ユンソク。確かな演技に、きっと解決してくれると安心感がある。初監督作品『未成年』が、5月29日(金)よりシネマート新宿とシネマート心斎橋で公開される。
刑事を惑わす奔放なカン・テオを演じたチュ・ジフンは、日本でも人気を博したドラマ「宮(クン) 〜Love in Palace」では皇太子、『キッチン 〜3人のレシピ〜』(09)ではお洒落なお店のシェフと、女性たちを惑わす美男子役だったのが、『アシュラ』(16)では刑事役、『工作 黒金星と呼ばれた男』(18)でも、北朝鮮の安全保衛部のエリート課長と、実直な役をこなしていた。今回は真逆のワルを演じていて、これこそ地かと思わせてくれた。次はどんな役柄で出てくるのか楽しみだ。(咲)


『キッチン〜3人のレシピ〜』チュ・ジフン、ホン・ジヨン監督記者会見 
懐かしい2009年の取材記事です。

2018年/韓国/110分/カラー/ビスタ/5.1ch/字幕翻訳:李英愛
配給:クロックワークス
COPYRIGHT © 2018 SHOWBOX, FILM295 AND BLOSSOM PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.
http://klockworx-asia.com/ansu/
★2020年4月3日(金)シネマート新宿ほか 全国ロードショー

★シネマート新宿は4月8日(水)から休館していましたが、6月1日より再開。『暗数殺人』は6月5日(金)より上映となります。

posted by sakiko at 19:04| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月14日

人間の時間 (原題/Human, Space, Time and Human)

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監督・脚本:キム・ギドク
出演:藤井美菜、チャン・グンソク、アン・ソンギ、イ・ソンジェ、リュ・スンボム、ソン・ギユン、オダギリジョー

休暇へ向かうたくさんの人々を乗せ、退役した軍艦が出航する。 乗客には、クルーズ旅行にきた女性(藤井美菜)と恋人のタカシ(オダギリジョー)、有名な議員(イ・ソンジェ)とその息子(チャン・グンソク)、彼らの警護を申し出るギャング(リュ・スンボム)たち、謎の老人(アン・ソンギ)など、年齢も職業も様々な人間たちがいる。大海原へ出た広々とした船の上で、人々は酒、ドラッグ、セックスなど人間のあらゆる面を見せる。荒れ狂う暴力と欲望の夜の後、誰もが疲れて眠りにつき、船は霧に包まれた未知の空間へと入る――。
翌朝、自分たちがどこにいるのかわからず、そこから出られるのかもわからない状況に唖然とする人々は、生き残りをかけて悲劇的事件を次々に起こしていく。

キム・ギドク監督の作品は観るのに覚悟がいる。今作も「主演が日本人女優で、オダギリジョーが恋人役」と気安く考えて観たら、しっぺ返しに会うだろう。
退役した軍艦でクルーズ旅行に出掛けた人々が軍艦ごと異空間に閉じ込められる。極限状態に陥った人々は理性を失い、生存をかけた戦いは容赦がない。そして、自分もその場にいたら同じことをしてしまうのではないかという恐怖心が暗澹とした気持ちにさせる。
そんな状況でもキム・ギドク監督は希望を繋ぐ。ラストの軍艦の様子に天空の城ラピュタを思い出したのは私だけだろうか。(堀)


グンちゃん(チャン・グンソク)の熱烈ファンの友人に、『人間の時間』を試写で観たことを話したら、「え~ 日本で公開されるの?」と驚かれました。私は事情をすっかり忘れていたのですが、キム・ギドク監督のセクハラ問題やら、内容の強烈さで物議を醸した作品だったのでした。
アン・ソンギさんの静かな笑みには癒されますが、極限状態にある人間の本性むき出しの姿に目をそむけたくなる場面が多々あって、後味がいいとはいえません。
でも、主演の藤井美菜さんもすごく頑張っているし、その夫役でオダギリジョーも出ているし、なにより韓国の俳優陣アン・ソンギ、イ・ソンジェ、リュ・スンボム、チャン・グンソクと豪華です。勇気のある方は、どうぞ!(咲)



2018年/韓国/カラー/DCP/122分
配給:太秦
(C) 2018 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.
公式サイト:https://ningennojikan.com/
★2020年3月20日(金)より シネマート新宿・シネマート心斎橋ほか全国順次公開
posted by ほりきみき at 18:18| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月07日

ムルゲ 王朝の怪物  原題:물괴(ムルゲ 物怪)

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監督:ホ・ジョンホ
出演:キム・ミョンミン、チェ・ウシク、イ・ヘリ(Girl’s Day)、イ・ギョンヨン

朝鮮・中宗22年(1527年)―
国に疫病が蔓延する中、宮廷の背後にそびえる仁王山(イナンサン)に“物怪”(ムルゲ)が現れるという噂が流れる。
ムルゲと遭遇した人間は逃げおおせても疫病にかかり悲惨な死を迎えるという。
民衆が恐怖と混乱に陥る中、それに乗じて11代中宗王の失権を目論む陰謀が密かに計画される。
陰謀の匂いを感じた王は、民衆の不安と朝廷の危機を一掃するため、かつて政争により朝廷から追放された朝鮮国最強の武人・ユン・ギョム(キム・ミョンミン)を呼び戻す。
ユン・ギョムは、長年の同僚であったソン・ハンとずば抜けた弓矢の腕前と医術の知識を持つ愛娘ミョン(イ・ヘリ)、そしてミョンに恋心を抱く優秀なホ宣伝官(チェ・ウシク)、彼らと共に力を失いつつある王と疫病に苦しむ民衆を救うため、物怪(ムルゲ)の棲む仁王山へと向かうのだが。。。

「朝鮮王朝実録」の「中宗の治世中に”物怪”ムルゲ(ムルは”物”、ゲは”奇怪な”という意味)と呼ばれる不可解な存在(あるいは事件)のせいで、宮殿中がパニックに陥り、王が居城からの退去を余儀なくされた」という一節をきっかけにホ・ジョンホ監督が想像を巡らせて作り上げた物語である。
怪物が出ているポスタービジュアルにファンタジー系かと思いきや、監督は宮殿を襲った何らかの惨事か、疫病や自然災害をムルゲに例えた可能性を考えた上で、ムルゲをリアルな生き物として存在させ、政治的な駆け引きに端を発したサスペンス作品に仕上げた。そこに父と娘の思いをも絡ませ、ヒューマンドラマの一面も見せる。
娘に恋心を抱く若者に『パラサイト 半地下の家族』で長男を演じたチェ・ウシク。こんなにイケメンだったとは!(堀)


ホ・ジョンホ監督が、「朝鮮王朝実録」の中からさらに注目したのが、本作の11代中宗王の先王である10代燕山君(ヨンサングン)が宮中に作った調隼坊(ジョジュンバン)という薄暗い一室のこと。燕山君は珍獣を好み、収集した珍獣の檻を調隼坊に置いていたらしい。
監督は、珍獣の交配種として調隼坊で生まれたのが物怪ではないかと想像した次第。映画では、調隼坊も再現。そこに潜んでいた物怪が景福宮を暴れまわる姿がリアルに描かれている。
物怪退治のために、10年ぶりに中宗から呼び戻された元王直属軍隊の長官ユン・ギョムは、まさに正義の人。冒頭、疫病が蔓延する中、庶民を苦しめる悪徳グループに立ち向かう姿も凛々しい。演じたキム・ミョンミンが、2018年度KBS演技大賞を受賞した時の出演ドラマ「私たちが出会った奇跡」をちょうど見終えたばかり。同姓同名のハンサムなエリート銀行マンと醜男だけど心優しい料理人が、交通事故を機に中身が入れ替わるという物語。横暴だった銀行マンが、温厚な男に変貌する様が実に上手い。本作でも物怪に果敢に立ち向かう一方で、娘や庶民に温かく接する男を体現していて素敵だ。(咲)


2018年/韓国映画/105分/カラー/5.1ch/ビスタ 
配給:インターフィルム
©2018 CINEGURU KIDARIENT & TAEWON ENTERTAINMENT.All Rights Reserved. 
公式サイト:https://muruge.com/
★2020年3月13日(金)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー




posted by ほりきみき at 14:22| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする