2024年09月07日
シュリ デジタルリマスター
監督・脚本:カン・ジェギュ
撮影:キム・ソンボク
音楽:
アクション監督:チョン・ドゥホン
出演:ハン・ソッキュ(ユ・ジュンウォン)、ソン・ガンホ(イ・ジャンギル)、キム・ユンジン(イ・ミョンヒョン)、チェ・ミンシク(パク・ムヨン)
1998 年9月のソウル。2002年のサッカーW杯に向け、南北朝鮮統一チームが結成され、その選手選抜を兼ねた南北交流試合が行わるというニュースに沸いていた。要人暗殺事件を捜査中の韓国情報部員、ユ・ジュンウォンと相棒のイ・ジャンギルは、犯人と目される北朝鮮の女性工作員イ・バンヒを追跡している。情報部員であることは恋人のミョンホンにも明かしていない。
国防科学研究所が開発した強力な破壊力を持つ液体爆弾が強奪され、監視カメラの映像から北朝鮮の特殊部隊の仕業とわかる。以前の爆破テロの犯人パク・ムヨンが関与していた。液体爆弾を用いたテロの脅威が迫っている―。
1999年2月13日の韓国の公開から25周年(日本初公開は2000年1月22日)を迎えます。日本でも大ヒットしましたが、その後再度の上映も配信もなされないままでした。カン・ジェギュ監督自身が権利の交渉を重ね、このたび4Kデジタル修復作業を経て美しい映像で待望の再上映です。現在は映画界の重鎮となっている主要キャストたちが30代と若く、しゅっとしてハンサムなソン・ガンホについ顔が緩んでしまいました。これがデビュー作となったキム・ユンジンは20代です。
南北朝鮮問題、祖国への忠誠と個人の想い、南北精鋭の情報部員と特殊部隊の攻防、刻々と迫るテロの脅威など、中身は盛りだくさんなのにぐいぐいと映像に引っ張られていきます。それまで観ていた韓国映画は文芸ものか歴史ものだったので、ハリウッド映画に負けないアクションやストーリー運びのうまさ、俳優の演技にくぎ付けになりました。
すでにトップスターだったハン・ソッキュ、この後次々と出演作がヒットしたチェ・ミンシク、ソン・ガンホの3人が顔をそろえているほか、まだ売れる前のファン・ジョンミンが端役で出演しています。当時は名前も知りませんでしたが、出演作を何本も見ている今、すぐに気づいて「あ!」。セリフもあるので、先に声でわかりました。後のほうですよ。
主役級の俳優がそろったこんな作品、出演料が莫大でもう作られないでしょうね。スマホがない時代の違いだけで、今見ても全く古くありません。(白)
『シュリ』を観たのが、もう四半世紀も前だということに、感慨深いものがあります。とても印象に残っていて、恐らく2~3回観ていて、初めて観たのは、1999年の東京国際映画祭。ハン・ソッキュが『八月のクリスマス』とは違う印象で、まず驚き、相棒もハン・ソッキュ同様、いかにも朝鮮人のお顔だなぁ~と。(それがソン・ガンホだったと認識したのは、『反則王』を観てからでした。) 一番印象に残ったのは、チェ・ミンシク演じる武力で南北統一を成し遂げようとする北のリーダー。「北の民は飢えで苦しみ土まで食べてる」と吐き捨てるように言う姿が強烈でした。もう一人、印象に残ったのが、コネ入社とからかわれながら熱帯魚の世話をしていた若い情報部員。その時には名前も覚えていませんでしたが、パク・ヨンウという俳優さん。でも、その後の作品では目に留まることはありませんでした。(すみません!)
今回、デジタルリマスター版を観るにあたって、あらためて出演者を見てみたら、チェ・ミンシク演じるパク・ムヨン率いる特殊8軍団の中に、イ・ピルモやイ・ジョンヒョクといったその後ドラマでよく観る方も。大好きなイ・ピルモは一瞬しか確認できませんでしたが、イ・ジョンヒョクは冒頭の場面から結構目立ってます。
ファン・ジョンミンが出てくる尋問場面には、チャン・ヒョンソンもいます。
ハン・ソッキュたちの上司である局長を演じているユン・ジュサンも、ドラマでよく見るお顔。この四半世紀、どれだけ韓国ドラマや映画を観てきたことかと!
『シュリ』以降、それまでのプロパガンダと違った南北分断をテーマにした映画が作られるようになったとのこと。それにしても、『シュリ』が作られて四半世紀経っても、南北統一は成されず、夢のまた夢という感じがします。(咲)
1999年/韓国/カラー/125分
配給:ギャガ
(C)Samsung Entertainment
https://gaga.ne.jp/shuri4K/
★2024年9月13日(金)ほか全国ロードショー
2024年08月23日
ボストン1947 原題:1947 보스톤(1947 ボストン) 英題:Road to Boston
(C)2023 LOTTE ENTERTAINMENT & CONTENT ZIO Inc. & B.A. ENTERTAINMENT & BIG PICTURE All Rights Reserved
監督・脚本:カン・ジェギュ
共同脚本:イ・ジョンファ
出演:ハ・ジョンウ、イム・シワン、ペ・ソンウ、キム・サンホ、パク・ウンビン
「私たちが望むのは、祖国の国旗をつけて走ることです」
1936 年、ベルリンオリンピック。マラソン競技に日本代表として日本名で出場したソン・ギジョン(ハ・ジョ ンウ)は、金メダルに輝く。銅メダルを獲得したナム・スンニョン(ペ・ソンウ)と表彰台に上がったソンは、日本国歌が流れる間、月桂樹の鉢植えで胸元の国旗を隠したことが問題視され引退を強いられる。
1945 年、終戦と共に日本から解放されるが、米ソによる軍政が始まる。
1946 年、ソウル。荒れた生活を送っていたソンの前にナムが現れ、一緒にボスト ンマラソンに参加して、「若い子には本名で走らせてやろう」と持ち掛ける。最初は嫌がるソンだったが、 「立ち直るためには走るのが一番じゃないか」と言われて心が動く。
米軍政庁から国際大会の参加歴がないと出場は難しいと言われるが、ツテを頼って、ようやく招請状を手に入れる。「ソン・ギジョン世界制覇 10 周年記念マラソン」で優勝したソ・ユンボク(イム・シワン)を抜擢して、3人はボストンに赴く・・・・
飛行機をいくつも乗り継いでボストンにたどり着いた一行ですが、事務局が用意していたユニフォームは、独立国ではなく難民国としての参加だからと、星条旗のついたものでした。「太極旗をつけて走りたい」と奔走します。
そうして迎えたボストンマラソン本番。手に汗握るレース。上り坂で、どんどん抜いて、昨年の優勝者に迫るユンボクですが、犬が飛び出てきて転倒してしまいます。ゴールまで、7キロ。さて、どうなる・・・と、最後の最後まで、冷や冷やしながら見守りました。
1936年のベルリンオリンピックでのメダルの記録は、日本のままというのは、ソン・ギジョンたちにとって、ほんとに悔しいことでしょう。
「日本の奴らが去ったら、アメリカがのさばってる。いつまでいるんだ」と愚痴る場面がありました。南北分断という問題は解決していませんが、今は立派な独立国になった大韓民国。紆余曲折を経て、今があることをつくづく思いました。
ハ・ジョンウ、イム・シワン、ペ・ソンウの3人が、激動の時代を生きた実在のマラソンランナーを体現している感動作です。アメリカで彼らを迎える在米韓国人を演じたキム・サンホも、いい味出してます。(咲)
2023 年/韓国/108 分/スコープ/5.1ch
日本語字幕:根本理恵
配給:ショウゲート
公式サイト:https://1947boston.jp/
★2024年8月30日(金) より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
2024年08月18日
ソウルの春 原題:서울의 봄ソウルの春 英題:12.12: The Day
監督:キム・ソンス
脚本:ホン・ウォンチャン、イ・ヨンジュン、キム・ソンス
出演:ファン・ジョンミン、チョン・ウソン、イ・ソンミン、パク・ヘジュン、キム・ソンギュン、チョン・マンシク、チョン・ヘイン、イ・ジュニョク
ソウルに銃声が響き渡った日――あの夜の戦いで、本当は何が起きていたのか?
1979年10月26日、独裁者とも言われた大韓民国大統領・朴正煕(パク・チョンヒ)が、自らの側近に暗殺された。国中に衝撃が走るとともに、民主化を期待する国民の声は日に日に高まってゆく。
しかし、暗殺事件の合同捜査本部長に就任したチョン・ドゥグァン保安司令官(ファン・ジョンミン)は、陸軍内の秘密組織“ハナ会”の将校たちを率い、新たな独裁者として君臨すべく、同年12月12日にクーデターを決行する。一方、高潔な軍人として知られる首都警備司令官イ・テシン(チョン・ウソン)は、部下の中にハナ会のメンバーが潜む圧倒的不利な状況の中、自らの軍人としての信念に基づき“反逆者”チョン・ドゥグァンの暴走を食い止めるべく立ち上がる・・・
ファン・ジョンミンが登場したとたん、顔は確かにファン・ジョンミンなのに、頭がよく知る実際のモデルの全斗煥(チョン・ドゥファン)で、まずは大笑い。(すみません!) 全斗煥がその後、大統領になったことを知っているので、この12月12日の夜の出来事の結末は想像がついたのですが、訛りの強い言葉でまくしたてるファン・ジョンミン演じるチョン・ドゥグァンの横暴さに、いやはや権力に固執する男だなぁ~と辟易しました。
実在した秘密組織“ハナ会”は、朴正煕大統領時代に、全斗煥が同期の盧泰愚(本作ではノ・テゴンという役でパク・ヘジュンが演じています)と共に陸士卒業生のうち主として嶺南(慶尚北道と慶尚南道を合わせた地域)出身の優秀な将校を集めて結成した組織。
全斗煥は、慶尚南道陜川出身。ファン・ジョンミンは、慶尚南道昌原出身。方言もおそらく似ているのでしょう。独特の抑揚です。
憎々しく見えるファン・ジョンミン演じるチョン・ドゥグァンと違って、チョン・ウソン演じるイ・テシンは、参謀総長チョン・サンホ(演じるイ・ソンミンが、これまたいいです)から、「君のように無欲な人に首都警備司令官を任せたい」と言われるだけあって、とても誠実で、人を思いやれる人物に見えます。そんな彼も、チョン・ドゥグァンの横暴なふるまいに、思わず「射殺してしまえ!」と命じます。末路は悲しいかな・・・ なのですが。
参謀総長チョン・サンホをすでに拉致したチョン・ドゥグァンが、執拗に大統領に参謀総長逮捕の決済を求めます。 朴正煕が暗殺された後の第10代大統領の崔圭夏(チェ・ギュハ)は、任期が1年と短かったこともあって印象に残っていません。本作では、チョン・ドンファン(「冬のソナタ」のサンヒョクの父役など多くのドラマでお馴染みの方)が、穏やかな大統領を演じています。
さて、その後、権力を確固なものにした全斗煥は、光州での民主化運動を武力で押さえつけます。そして、大統領へと昇り詰めるのですが、自ら起こしたクーデターや光州事件の責任を問われ、大統領を辞めた後に逮捕、無期懲役刑を受けています。そのあとに大統領になった盧泰愚も、同じくクーデターの罪で有罪判決を受けています。そのことも知った上で、本作を見ているので、いずれあなたたちも・・・と思うのですが、あそこでなぜ食い止められなかったのかと、韓国国民ならば悔しく思うのではないでしょうか。
あと、チョン・ヘイン演じる特戦司令部 オ・ジノ少領の活躍もお見逃しなく! (咲)
2023年/韓国/韓国語/142分/シネマスコープ/5.1ch
字幕翻訳:福留友子/字幕監修:秋月望
配給:クロックワークス
https://klockworx-asia.com/seoul/
★2024年8月23日(金) 新宿バルト9ほか全国ロードショー
壁越しの彼女 原題:빈틈없는 사이(隙間のない関係) 英題:My Worst Neighbour
監督:イ・ウチョル
出演:イ・ジフン(スンジン)、ハン・スンヨン(ラニ)、コ・ギュピル(ジウ)、キム・ユンソン(ユンソン)、イ・ユジュン(ジェヨン)
スンジンは歌手になる夢のためオーディションを控えている。幼馴染たちと探して見つけた家賃格安の部屋に引っ越してきた。夜になってどこからか聞こえてくる女性の泣き声・・・。強がりながらも怖くてたまらないスンジン。
これは壁が薄くて物音がつつぬけの家のせいで悩んだ隣室のラニが考えた苦肉の策。これまでさまざまな方法で隣人を追い出してきたのだった。しかしスンジンは簡単に追い出されない。奇想天外な騒音バトルの末に、両方が飲める条件を考え出す。音を出すときは4時間ずつ交代制にすることにした。ラニは名前も顔も明かさない。スンジンは壁越しに聞こえる音でラニを想像するのが楽しくなってきた。
スンジン役のイ・ジフンは5月公開の『アンダー・ユア・ベッド』に孤独な男性役で主演していました。ラニ役のスンヨンさんはガールズグループKARAのメンバー。かつての日々も今の女優として活躍する今につながっています。
2人の攻防がちょっと長い気がしましたが、これがあったからこその和解の嬉しさがあるといえば、あるわけです。スンジンの幼馴染たち、ラニの姉や因縁の上司も面白い配役で、別建てのドラマにもできそうです。(白)
ラニはフィギュアのデザイナーで、様々な工具を駆使して、自分の思い描くフィギュアを作り上げるのですが、その腕前はたいしたもの。そして、その工具の大音量でスンジンに対抗するのです。 このフィギュアが、重要な役どころで登場して笑わせてくれます。
壁一つで繋がっている建物なのですが、スンジンが実際に会ってみようと、入口を探すのですが、見つかりません。上空から見た風景が映し出されるのですが、とてもとても行きつけない構造。ほんとに、こんな建物あるのかしら? (咲)
2023年/韓国/カラー/112分
配給:クロックワークス
(C)2023 Galleon Entertainment Co., Ltd All rights reserved
https://klockworx.com/movies/neighbor/
★2024年8月23日(金)ほか全国ロードショー
2024年08月10日
ニューノーマル(原題:英語題:NEW NORMAL)
監督・脚本:チョン・ボムシク
撮影:キム・ヨンミン
音楽:ユンサン
出演:チェ・ジウ(ヒョンジョン)、イ・ユミ(ヒョンス)、チェ・ミンホ(SHINee)(フン)、ピョ・ジフン(Block B)(ギジン)、ハ・ダイン(ヨンジン)、チョン・ドンウォン(スンジン)
マンションで一人住まいのヒョンジュンの部屋に、火災報知器の点検だと男がやってくる。ずかずかと入り込み、なめ回すようにヒョンジュンを見てなかなか帰らない。デートアプリで待ち合わせをしているヒョンス。顔を知らないままやりとりをしていると、現れたのは思いがけない相手だった。
テイストの違う6話からなるオムニバス。韓国ホラーには血みどろのシーンや、いきなりの音や叫び声に驚かされてきましたが、これはありえない非日常ではなく、自分がその中にいても違和感のない日常。だから余計にじんわり怖いです。
オムニバスのトップバッターはなんとお久しぶりのチェ・ジウ。2002年のテレビドラマ「冬のソナタ」にヨン様ことペ・ヨンジュンと主演。日本に韓国ドラマブームを巻き起こしました。あの笑顔や涙目が記憶にある人には、とても意外に見えるかもしれません。
お年寄りに親切な言葉をかけた高校生、マッチングアプリで彼や彼女を探す、縁を信じてみる、隣人にほれ込みすぎてストーカー化、ストレス満タンのコンビニ店員、登場人物が少しずつ関わりあっているのがわかる編集です。音楽がまた絶妙です。
ラストに登場人物が一人で食事をしている「一人飯」シーンがあります。コロナ禍でそうせざるを得なかった日を思い出します。いまやマスクも一人飯も普通になってしまいました。どうかストレスをため過ぎないように。(白)
2023年/日本/カラー/113分
配給:AMGエンタテインメント
(C)2023 UNPA STUDIOS.ALL RIGHTS RESERVED.
https://newnormal-movie.jp/
★2024年8月16日(金)より全国ロードショー