2025年11月02日

旅人の必需品  英題:A Traveler’s Needs 

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ホン・サンス監督デビュー30周年記念「月刊ホン・サンス」 第一弾

監督・脚本・製作・撮影・編集・音楽:ホン・サンス
出演:イザベル・ユペール、イ・ヘヨン、クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、ハ・ソングク、キム・スンユン

フランスからソウルにやってきたイリス(イザベル・ユペール)。フランス語の個人レッスンで生活費を稼ごうと、レッスンを始めた。まだ生徒は二人だけ。
 ひとり目の生徒は、ピアノを弾くのが好きな若い女性ソン(キ ム・スンユン)。彼女のピアノの演奏を聴いて、「演奏しているとき、何を感じた?」 と尋ね、彼女が英語で答えた言葉をフランス語に訳したメモを彼女に渡す。「これを何度も口にしてね」と。
 レッスンを終え、食堂でマッコリとビビンパを満喫したイリスは、ふたり目の生徒、ウォンジュ(イ・ ヘヨン)の家へ。ウォンジュは教科書もない風変わりなレッスン方法に、プロの語学教師ではないと不信感を抱いたようだ。イリスは、ウォンジュとパートナーの映画 会社社長(クォン・ヘヒョ)とおしゃべりしながらマッコリを飲み交わす。酔い覚ましに散歩し、若くして日本で獄死した詩人、尹東柱の詩を刻んだ石碑に出会う。この詩について、イリスはウォンジュの個人的な感情を少しずつ聞き出し、フランス語にしてメモを渡す。
 授業が終了すると、イリスは韓国人の青年イングク(ハ・ソ ングク)のアパートへ帰宅。今日一日で稼いだ金をイングクに手渡し、「これもあなたが励ましてくれたおかげ」と感謝する。そこへ突然、母親(チョ・ユニ)が来訪し、イングクは狼狽する。親子の邪魔をしないようイリスは散歩に出るが、目当ての図書館は閉館していた。入口の石碑を眺めていると、近くにいた女性が、それは尹東柱の詩だと教えてくれる。その頃イングクは、母親からなぜ年上のフランス人女性と同居しているのかと問いただされる。公園のベンチで下手くそなリコーダーを吹くイリスと出会い、住む場所のない彼女に同居を提案したのがきっかけだったと語るイングクに、 母は「あの女に騙されている」と怒り嘆く。母との対話をどうにかやり過ごしたイングクは、一服しながら、イリスと出会ったあの日のことを思い出す・・・

ホン・サンスお得意の繰り返し。「どう感じた?」という言葉、マッコリ、そして若くして日本で獄死した詩人・尹東柱。正体不明のフランス女性イリスは、ふわふわと韓国の町を歩きまわり、妖精のようにもみえます。
イザベル・ユペールとのコラボレーションは、韓国の海辺の街を舞台に同じ名前をもつ3人の女性を演じた『3人のアンヌ』(12)、カンヌ国際映画祭のさなか数日間で撮影された『クレアのカメラ』(17)に続いて、3作目。イ・ヘヨン、クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、ハ・ソングクも、ホン・サンス作品でお馴染みの方たち。何か大きな出来事が起こることもなく、マッコリを飲み、他愛のないおしゃべりが続く。これぞホン・サンス!(咲)


第74回ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)受賞

2024年/韓国/韓国語・フランス語・英語/90分/カラー/16:9/ステレオ
配給・宣伝:ミモザフィルムズ
公式サイト:https://mimosafilms.com/gekkan-hongsangsoo/
★2025年11月1日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー


◆別冊ホン・サンス⇒『自由が丘で』(14)11/1(土)~11/7(金)



posted by sakiko at 02:48| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年10月28日

ホン・サンス監督デビュー30周年記念「月刊ホン・サンス」

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1996年の長編デビュー作『豚が井戸に落ちた日』から30年。
謎めいた映画世界に導かれるように、この秋、ホン・サンスの“いま”に出会える企画が始まります。
2025年11月から2026年3月まで、2023年以降につくられた新作5本を5カ月連続で公開する「月刊ホン・サンス」。
さらに、ユーロスペース限定で、新作にリンクしたテーマで過去作を振り返る特集「別冊ホン・サンス」も同時開催されます。
偶然に出会った人々が語らい、道に迷い、酒を飲んではまた語らい合う。果てしないくりかえしのなかから、ふいに見えてくる小さな真実と、美しさに満ちた景色。この独特で不思議な世界は、どんなふうに私たちの生きる日常と重なり合うのか。ミステリアスでユーモアに満ちたホン・サンス映画とともに、世界の新たな見方を発見してください。

公式サイト:https://mimosafilms.com/gekkan-hongsangsoo/
配給・宣伝:ミモザフィルムズ


〖第一弾〗11月1日(土)よりユーロスペース他全国順次公開
『旅人の必需品』
第74回ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)受賞
ソウルを旅する謎めいたフランス人女性イリス。風変わりな方法で韓国人にフランス語を教え、年下のボーイフレンドの家へと帰っていく。一体、彼女は何をしに韓国へやってきたのか。足取りを追ううち、謎に満ちた日常が浮かび上がってくる。
2024年/韓国/韓国語・フランス語・英語/90分/カラー/16:9/ステレオ/英題:A Traveler’s Needs 
出演:イザベル・ユペール、イ・ヘヨン、クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、ハ・ソングク、キム・スンユン
シネジャ作品紹介

★別冊ホン・サンス 『自由が丘で』11/1(土)~11/7(金)

〖第二弾〗12月13日(土)公開
『小川のほとりで』 
第77回ロカルノ国際映画祭最優秀演技賞(キム・ミニ)受賞
演劇祭まであと10日。美大の講師でテキスタイルアーティストのジョニムは、問題を起こしてクビになった若手演出家の代わりに、かつて演劇界で名を馳せた叔父に協力を求める。学生たちとの寸劇づくりは、徐々に熱気を帯びていくがー。
2024年/韓国/韓国語/111分/カラー/16:9/ステレオ/英題:By the Stream 
出演:キム・ミニ、クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、ハ・ソングク 

★別冊ホン・サンス 『逃げた女』12/13(土)~12/19(金)

〖第三弾〗2026年1月10日(土)公開
『水の中で』 
前代未聞の全編ピンボケ作品・第73回ベルリン国際映画祭出品
元俳優のソンモは、自主制作映画を撮るために、夏の済州島にカメラマンの友人と後輩の女優を集める。何を撮るのが決まらぬまま、三人はひたすら島を歩き回るが、岩場でゴミ拾いをしている地元の女性との出会いをきっかけに、撮影が静かに動き始める。
2023年/韓国/韓国語/61分/カラー/ステレオ/16:9/英題:In Water 
出演:シン・ソクホ、ハ・ソングク、キム・スンユン 

★別冊ホン・サンス 『イントロダクション』1/10(土)~1/16(金)

〖第四弾〗2026年2月14日(土)公開
『私たちの一日』 
第76回カンヌ国際映画祭監督週間クロージング作品
靴デザイナーの先輩宅に居候中の元女優のサンウォンと、禁酒・禁煙中の身で隠遁生活静を送る老詩人ウイジュ。そんな二人の元にそれぞれ夢を追う若者が訪れた時、飼い猫が消えてしまう。交わりそうで交わらない、ふたりの一日がゆるやかに並走していく。
2023年/韓国/韓国語/84分/カラー/ステレオ/16:9/英題:In Our Day 
出演:キム・ミニ、キ・ジュボン

★別冊ホン・サンス」『川沿いのホテル』2/14(土)~2/20(金)

〖第五弾〗2026年3月21日(土)公開
『自然は君に何を語るのか』 
第75回ベルリン国際映画祭出品・ホン・サンス監督最新作
若き詩人のドンファは、3年間交際している恋人を家まで送り届けると、玄関先で彼女の父と鉢合わせ、流れで彼女の両親と一日を過ごすことになる。ぎこちない夕食の席、ドンファは緊張から酒が進み、やがて険悪な空気が漂いはじめる。
2025年/韓国/韓国語/108分/カラー/ステレオ/16:9/英題:What Does That Nature Say to You
出演:ハ・ソングク、クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、カン・ソイ、パク・ミソ

★別冊ホン・サンス 『正しい日 間違えた日』 3/21(土)~3/27(金)

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posted by sakiko at 01:04| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年10月22日

大地に詩を書くように  原題:땅에 쓰는 시(地に書く詩) 英題:Poetry on Land

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監督:チョン・ダウン
出演:チョン・ヨンソン

韓国的な景観の未来を描き続ける造景家チョン・ヨンソン。
彼女の仕事は、単なる緑化にとどまらず、その土地の歴史、記憶、そして生態系と丁寧に向き合いながら、未来へと繋ぐ場をつくる作業である。
1970年代から現在に至るまで韓国各地の空間に“韓国的な美”を息づかせてきた彼女と共に四季を過ごしながら、彼女がどのように「人間」「空間」「自然」の関係を見つめているのか、その哲学に迫り、人類がより深く考えるべき「自然と人間の調和」について紐解いていくーー

2023年に造景界の最高栄誉賞と呼ばれる国際造園家連盟(IFLA)「ジェフリー・ジェリコ賞」を受賞したチョン・ヨンソン(1941年生まれ 84歳)は「こどもたちに病んだ地球を残してはいけない。何よりも草や土 一株の花や木 そして鳥や蝶 全ての自然を慈しむそんな精神をはぐくむことーそれが私の願いです」と挨拶の言葉を述べました。未来を見据えながら地球環境を美しく健康に守り育てていくのが造景家の仕事ですとも語っています。
チョン・ヨンソンさんの手がけた都心の中のオアシス「仙遊島公園」、韓国初の生態系公園「汝矣島セッカン生態系公園」、過去と現在をつなぐ「京春線・線路跡の林道」、そして、ソウルにある「峨山(アサン)病院」を四季の移ろいとともに紹介します。健脚な彼女はスタスタ、トットトットと軽快に歩き回り、自宅の周りの草花に声をかけながら手入れをしています。祖父の果樹園で子どものころから自然に親しみ、見る目も育っていたようです。詩人になるかと思われるほど文才があったそうですが、造園の道に進みました。
庭園を造るにとどまらず、その土地の特質、自生する植物、遠景や未来まで考慮に入れて「造景」していきます。人の手で大きく変化させるのではなく、そこの自然の良さを生かし、洪水など災害も予測しながら防護の方法も考えます。でもそれがあからさまではありません。ターシャ・チューダーさんを思い出しますが、ヨンソンさんの目は家族だけではなくもっと大きなもの、自分の住む国や地球の未来まで見ていました。
戦争で命や暮らしを脅かしている人がこんな目を持ったなら、争いは減るでしょうに。そもそも争いは起こしません。冒頭の映像に乗せていたナバホ族(アメリカ南西部の先住民)の歌をご紹介します。
撮影のクレジットが読めませんが、映像が素敵で旅した気分になります。(白)


正面の美とともに私は歩く
背後の美とともに私は歩く
頭上の美とともに私は歩く
足元の美とともに私は歩く
美の足跡を追って私は歩く
美しさとともに永遠に囲まれる
老いに至っても私は歩く
美の道をさまよいながら
私は生き生きと歩むだろう
美の道をさまよいながら
再び生きるだろう
私はそこを歩く
私の詩は
美の中を歩んでいくだろう
(ナバホ族の歌)


ヨンソンさんの口癖は、「道理に従う」「気楽でいる」だそうです。自然を最大限に生かした造園。境界を不透明にして、人工的なものでなく、自然と繋がったもの。目指したのは韓国らしさのある景観でした。建物と自然が一体となるような造園。一方、病院では、患者や医師・看護士たちが病院の見えないところで自然に包まれた環境で泣けるようにとの配慮も。
韓国原産の草花で溢れるやさしい景観。その美しさを保つには手入れも大変そうです。ヨンソンさんご自身は、毎朝3時間、自宅の庭の草を抜きながら草花に語り掛けています。草ぼうぼうの我が家の庭を眺めながら、ヨンソンさんを見習わなければと! (咲)


「造景家」という言葉を初めて聞いた。「造園家」と、どう違うのだろうと思い、調べてみたが、韓国では「造景家」というのだそう。空間、自然、人間をつなぐのが仕事と彼女は語る。単なる緑化ではなく、歴史や生態系にも向き合い、元の景色を生かしつつ「自然と人間の調和」、そして未来へつなぐという、彼女の思いのつまった仕事を見せてくれた。これを観て、日本の景色のことを考えた。人工的な造園、自然と調和した景色。日本にも様々な景色があると思いながら、この映画を観た。
この映画を観ながら思い出したのは「六花の森」のこと。山岳画家・坂本直行さんが六花亭の包装紙に描いた北海道の山野草は、きっと日本中の人が知っていると思うけど、その山野草を実際に見ることができる庭園が北海道中札内村にある。この園内を歩きまわった時は何も造景のことは考えなかったけど、この映画を観て、ここの造景を考えた人は、きっとチョン・ヨンソンさんと同じ思いを持った人が作ったんだろうなと思った。皆さんもぜひ行ってみて(暁)。
六花亭の包装紙に描かれた山野草の森「六花の森」

2024年/韓国/カラー/113分/ドキュメンタリー
配給:スモモ
(C)2024 GIRAFFE PICTURES
https://www.sumomo-inc.com/poetryonland
★2025年10月25日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開

posted by shiraishi at 10:05| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年09月27日

殺人配信(英題:Streaming)

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監督・脚本:チョ・ジャンホ
出演:カン・ハヌル(ウサン)、ハ・ソユン(マチルダ)、カン・ハギョン(イ・ジンソン)、ハ・ヒョンス(KJ5385)

犯罪チャンネルのストリーマー、ウサン。国内登録者数No.1を誇っている。プラットフォーム「WAG」では、1位のみが広告料を独占できる仕組みで水面下の闘いは熾烈だ。ウサンは未解決の犯罪事件を分析し圧倒的な人気だったが、あることでその人気はどん底まで転落した。1位の座を取り戻そうと躍起になる。世間が注目している連続殺人鬼を追跡するリアルタイム配信を開始した。次第に殺人犯に迫っていくが、犯人もその配信を視聴していた。

チョ・ジャンホ監督はミステリー小説家としてデビュー、本作が映画監督デビュー作です。主演のカン・ハヌルは昨年『ラブリセット 30日後、離婚します』で笑わせてくれましたが、今回は犯罪チャンネルの配信者役。名探偵のイメージを作って人気者になったばかりに、その地位を失うまいと必死になります。「一位が広告料を独占、その他はゼロ」というWAGのシステムはひどくえげつないのですが、参加している当事者たちは血眼になっていくばかり。次第に常軌を逸していることに気づきません。
いつも心優しい役が多いカン・ハヌルの演技に驚きつつ、テレビでの事件生中継に見入ってしまったことのある自分を思い出し冷や汗。今やネットがテレビにとって代わっています。ネットが悪意と欲にまみれると暴力そのものになります。要注意!(白)


血眼になって、殺人の実況中継をするウサン役のカン・ハヌル。こんなキャラも演じられるんだと! ドラマ「未生~ミセン~」や、映画『空と風と星の詩人~尹東柱の生涯~』『雨とあなたの物語』などの、物静かな役柄のカン・ハヌルが好きですが、ほんとの彼はどんなキャラ? 
ほとんど出ずっぱりの本作。カン・ハヌルのファン必見です。(咲)



2025年/韓国/カラー/91分
配給:ファインフィルムズ
(C)2025 LOTTE ENTERTAINMENT & VERYGOODSTUDIO All Rights Reserved.
https://streamingjp-movie.com/
★2025年9月26日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

posted by shiraishi at 21:56| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

君の声を聴かせて(英題:Hear Me: Our Summer)

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監督:チョ・ソンホ
音楽:チョ・ヨンウク
出演:ホン・ギョン(ヨンジュン)、ノ・ユンソ(ヨルム)、キム・ミンジュ(ガウル)、チョン・ヨンジュ(チョ・ジェジン)、チョン・ヘヨン(母ミジョン)、ヒョン・ボンシク (父インチョル)

ヨンジュンは大学を卒業したものの、やりたいことが見つからず、両親の弁当屋を手伝っている。配達先で手話を使っているヨルムに出逢い、一目ぼれ。ヨルムの妹ガウルは聴覚障害があるが、水泳のオリンピック代表を目指している。ヨルは妹の夢が叶うように支え、応援を続けていた。ヨンジュンは在学中に学んだ手話で、姉妹とコミニュケーションをとり、次第に親しくなっていく。

2009年の台湾映画『聴説(Hear Me)』(監督・脚本:チェン・フェンフェン)を韓国でリメイクしたラブストーリー。フレッシュな俳優たちが、手話を通じて心を通わせていく若者たちを等身大に演じています。
日本でも最近手話の登場する作品がいくつか出ていますが、共通したところがあります。伝えたい気持ちが強ければ、国や言葉が違っても表現は似てくるのでしょう。細かいニュアンスはやはり学ばないといけませんが。手話も点字ももうひとつの言語なので、義務教育のうちに学ぶ機会があればいいのになあと思います。一過性の興味やブームで終わるのでなく、ね。(白)


2024年/韓国/カラー/109分
配給:日活、KDDI
(C)2024 KC Ventures Co.,Ltd & PLUS M ENTERTAINMENT & MOVIEROCK Inc., All Rights Reserved
https://kiminokoe.jp/
★2025年9月26日(金)全国ロードショー
posted by shiraishi at 14:06| Comment(0) | 韓国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする