2022年04月29日
不都合な理想の夫婦(原題:The Nest)
監督・脚本:ショーン・ダーキン
出演:ジュード・ロウ、キャリー・クーン
1986年。NYで貿易商を営む英国人のローリーは、米国人の妻アリソンと、息子と娘の四人で幸せに暮らしていた。満ち足りた生活を送っているように思えたが、大金を稼ぐ夢を追って、好景気に沸くロンドンへの移住を妻に提案する。かつての上司が経営する商社に舞い戻ったローリーは、その才能を周囲から評価され、復帰を歓迎される。プライベートではロンドン郊外に豪邸を借り、息子を名門校に編入させ、妻には広大な敷地を用意。それはまるで、アメリカン・ドリームを体現した勝者の凱旋のようだった。しかし、ある日、アリソンは馬小屋の工事が進んでいないことに気付く。業者に問い合わせると、支払いが滞っており、更には驚くべきことに新生活のために用意をしていた貯金が底を突いている事を知ってしまうのだった・・。
虚栄心しかないようなローリー。ロンドンでの仕事ぶりは見ているだけでも痛くなる。NYでは成功したかのように話しているが、それもはったりだったのかもしれない。一緒に働く仲間や仕事相手にとって、ローリーの一方的な会話は苦痛でしかなかっただろう。
では家庭におけるローリーはどうだったのか。ロンドンの郊外に豪邸を借り、息子を名門校に入れ、妻には毛皮を贈る。恐らくNYでも同じようなことをしていたことだろう。アリソンもローリーの野心に夢を掛け、セレブな生活を享受していたに違いない。ただ、NYから馴染みのないロンドンに引っ越してしまったから、大きな出費が重なり、綻びが大きくなった。妻子も初めての土地で馴染み切れない。すべてが裏目に出てしまった。「住むところを与え、暴力もふるわない」といったローリーに対して、「そんな事は父親として最低限やることだ」と答えたタクシーの運転手のカッコよさが心に残る。経済的、精神的安定が家族には必要。そのうえでどれだけ愛情を注げるかを父親は求められるのだ。
一家は崩壊に向かっていくように見える。流れに任せて壊してしまうのは簡単だ。しかしショーン・ダーキン監督は家族の在り方に踏み込んでいく。必死に支えようとした妻ではなく、思いっきり反抗していた娘が鍵になって再生の糸口を見つけていけるのではないかと思わせる物語を紡ぎ、逃げずに向き合うことの大切さを説く。夫婦の在り方は夫婦それぞれ。家族もまた然り。(堀)
野心に燃え、「いい話がある、大金が手に入る」と夢を抱くのはいいけれど、家族やまわりの人も巻き込んで、結局、夢破れて大ぼらで終わってしまう男・・・ こういう人、私の知ってる人にもいたいたと! ジュード・ロウが危うい熱血漢を実に上手く演じている。
『The Nest』という原題が示す通り、ローリーは自分の巣である家族のためを思ってこそ、夢を膨らませるのでしょう。それが空回りしてしまう悲しさ。お金だけが幸せをもたらすのではないことをじんわり感じさせてくれる物語。(咲)
2019年/イギリス/英語/107分/カラー/ビスタ/5.1ch
配給:キノシネマ
©Nest Film Productions Limited/Spectrum Movie Canada Inc. 2019
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/thenest
★2022年4月29日(金)より kino cinéma横浜みなとみらい・立川髙島屋S.C.館・天神 ほか全国順次公開
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください