2021年01月23日
天国にちがいない(原題:It Must Be Heaven)
監督・脚本・主演:エリア・スレイマン
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、タリク・コプティ、アリ・スレイマン
スレイマン監督は新作映画の企画を売り込むため、故郷であるイスラエルのナザレからパリ、ニューヨークへと旅に出る。パリではおしゃれな人々やルーブル美術館、ビクトール広場、ノートルダム聖堂などの美しい街並みに見ほれ、ニューヨークでは映画学校やアラブ・フォーラムに登壇者として招かれる。友人である俳優ガエル・ガルシア・ベルナルの紹介で映画会社のプロデューサーと知り合うが、新作映画の企画は断られてしまう。行く先々で故郷とは全く違う世界を目の当たりにするスレイマン監督。そんな中、思いがけず故郷との類似点を発見する。
エリア・スレイマンが10年ぶりに長編映画のメガホンをとり、2019年・第72回カンヌ国際映画祭で特別賞と国際映画批評家連盟賞を受賞した作品。
冒頭、儀式を行おうと聖職者を先頭に人々が聖堂に入ろうとしますが、扉が開かず入れません。怒った聖職者は1人で裏口に回り、中にいた人に聖職者らしからぬ暴言と暴力を振るって無理やり扉を開けさせました。コミカルなシーンなのですが、これってもしかするとイスラエルの建国を揶揄しているのもしれません。
このシーン以降はエリア・スレイマン監督が主人公として登場。自宅のベランダから庭を見下ろすと、知らない男が敷地の中に勝手に入って、庭になっているレモンを取っていました。男は「ベルを鳴らしたけれど気がつかなかったみたいだ」と言い訳。その後もちょくちょく来て、自分が収穫するために庭木の手入れを始めました。ここでもやっぱり国への思いを感じます。
その後、主人公はパリ、ニューヨークへと出掛けます。そこで映し出される光景は日本が“富士山芸者の国”と思われているのと同じくらいイメージ先行な感じ。セリフは極力排除し、全編通じてたった1つ。しかし、説明が一切ない分、自由な発想で作品を解釈ができそうな気がします。(堀)
東京フィルメックスでお馴染みのエリア・スレイマン監督。『天国にちがいない』が、2020年の東京フィルメックスでクロージング作品として上映されたほか、エリア・スレイマン監督特集が組まれ、長編デビュー作『消えゆくものたちの年代記』(1996年)をはじめ3本が上映されました。これまでも、生まれ育ったパレスチナの置かれた状況を独特のユーモアで語ってきたスレイマン監督。本作では、パレスチナをテーマにした新作の資金を得ようとパリやニューヨークに赴きますが、パレスチナの問題など、もはや見向きもされません。フィルメックスでの上映後のリモートQ&Aで、「世界全体がパレスチナ化していることを映画で描いています。主人公は天国を探して移動するのですが、世界中どこにも問題がある」と語っていたのが印象的でした。
リモートQ&A報告(作品内容も詳しく記載しています)
人のいないパリの町を戦車が静かに走行する場面があります。(撮影はコロナ禍の前なのに!) すわ、戒厳令?とドキッとします。
夜中に着いたニューヨークでは、人々が皆、銃を抱えています。
タロット占いで「この先、パレスチナはあるのか?」と尋ねると、「必ずやある。ただし我々が生きているうちじゃない」との答え。
スレイマン監督が生きているうちに故郷ナザレで平穏な日々を暮らせることを願うばかりです。(咲)
フィルメックスで観た。スレイマン監督らしく、ユーモアと皮肉に満ちた展開。最初の舞台はナザレなのでしょうか。レモンが庭にある家と隣の家の人が勝手に入ってきてレモンを獲っているシーンからスレイマン監督自身が出てきたのだけど、最初本人とは気がつかなかった。現地の俳優さんだと思って観ていた。このご老人がパリやニューヨークに行くシーンになって、なんでこのパレスチナの老人がパリやニューヨークに行くのかな?と思い、新作映画の資金援助の話をする壇になって、初めてスレイマン監督自身と気がついた(笑)。ずいぶん年をとってしまったなと思った。以前と全然感じが変わっていた。観ている間中、話が全然見えず、何を言いたい映画なんだろうと思っていた(笑)。でも、映画の資金援助の話になって、この映画の話の流れについて納得した。そしてパレスチナの現状と世界のあり方を思った(暁)。
2019年/フランス、カタール、ドイツ、カナダ、トルコ、パレスチナ / 102分
配給:アルバトロスフィルム/クロックワークス
© 2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION
公式サイト:https://tengoku-chigainai.com/
★2021年1月29日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
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