2020年02月15日

山中静夫氏の尊厳死

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監督・脚本:村橋明郎
原作:南木佳士
撮影:高間賢治
音楽:加藤武雄
出演:中村梅雀、津田寛治、田中美里、高畑淳子、浅田美代子、石丸謙二郎

自宅がある静岡の病院からの紹介で、信州の病院にやって来て、「私は肺癌なのです」と語る山中静夫(中村梅雀)。
紹介されてきた資料によれば、山中は腰の骨と肝臓に転移のある肺癌で、明らかに末期の状態だった。医師である今井(津田寛治)付き添う家族の負担を考え、今井は山中に今まで通り静岡の病院での治療を勧めた。「どうせ死ぬんだったら生まれ育った信州の山を見ながら楽に死にたい。生まれた村でやっておきたいことがあるのです」。それが余命を宣告された山中の最期の願いだった。
今井は山中を受け入れ、決して無理はせず、夕食までには必ず戻るという条件付きで外出許可を出す。
そんな中、長年呼吸器内科を担当し、多くの死んでいく人間を診すぎたために、今井はうつ病になってしまう。それでも山中の希望を叶えようと立ち向かうのだった。

『しあわせになろうね』『育子からの手紙』などの村橋明郎監督が、現役の医師でもある南木佳士の同名小説を原作にし、脚本を書いてメガホンをとりました。主題歌は癌闘病の経験もある小椋佳の書きおろし。中村梅雀が末期がん患者、津田寛治が見守る医師を演じ、限られた人生をどう生き、どう死ぬかを、未来への希望とともに描いています。
中村さんが演じた山中静夫は入院した病院を抜け出して墓石を建てていました。婿に入った家の墓ではなく、故郷で眠りたいと願ったのです。私の父も婿養子でしたが、「死んだら別に墓を建てくれ」と弟に懇願していたので、山中が父に重なって見えました。
婿に入るということは墓を守ることを期待されていたはずだと非難する人がいるかもしれません。しかし、長い人生ずっとその家に尽くしてきたら、最期くらい好きなようにさせてほしいと願ってもいいんじゃないか。本作の本筋ではありませんが、そんなことを思いました。
2年くらい前に津田さんにインタビューをしました。「次はどんな役を演じますか」とうかがったところ、「主演で医師役です」ときっぱり。恐らく、この作品のことだったのでしょう。やり甲斐のある役とのことで、津田さんの本作に掛ける思いがひしひしと伝わってきました。それ以来、津田さんが医師を演じた作品を見るのを楽しみにしていたのですが、待った甲斐のある作品でした。(堀)


中村梅雀さん撮影に入る前に6kg減量したそうです。肺腺癌は進行が速くて健康体に見えていていいらしいですが、まだまだ血色がよくて、末期癌の患者に見えるのは仕事熱心な医師の津田寛治さんの方でした。もともと細身なのに、次第に鬱状態になってやつれていく役です。医師と患者、二人を気遣うそれぞれの家族のドラマが佐久の風景の中で進んでいきます。
この作品を観ながら、山中静夫さんと同じ肺癌で亡くなった実父を思い出していました。もう30年近く前なので、本人への告知も一般的ではありませんでしたが、こんな風に本人の望むことを優先してやれば良かったと後悔しきりです。残った時間でやりたいことがきっとあったはず。それこそ最後の「思いやり」になります。試写室でも涙ぐんでいる人が多かったようです。お二人の演技に、自分の体験も重なったのかもしれません。
病院は病気を治療するところですが、より良い最期を迎える手助けをするのも加えてもらえないでしょうか?お医者さんも自分が患者になってみて初めて知ることがあった、とよく聞きます。人は皆死んでいきます。自宅にしろ、病院にしろ、最期は「いい人生だった」と息をひきとることができたらいいなぁと思うこのごろ。(白)


2019/日本/カラー/DCP/シネスコ/5.1ch/107分
配給・宣伝:マジックアワー、スーパービジョン
© 2019映画『山中静夫氏の尊厳死』製作委員会
公式サイト:https://songenshi-movie.com/
★2020年2月14日(金)より シネスイッチ銀座ほか 全国順次ロードショー
posted by ほりきみき at 12:37| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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