監督:松本准平
脚本:横幕智裕
音楽:小瀬村晶
出演:小雪、田中偉登、吉沢悠、吉田美佳子、山崎竜太郎、札内幸太、井上肇、朝倉あき / リリー・フランキー
協力:福島令子、福島智
エンディング曲:辻井伸行「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 作品13 《悲愴》 II. ADAGIO CANTABILE」
教師の夫、三人の息子とともに関西の町で暮らす令子。末っ子の智は幼少時に視力を失いながらも、家族の愛に包まれて天真爛漫に育つ。やがて令子の心配をよそに東京の盲学校で高校生活を謳歌。だが18歳のときに聴力も失う・・・。暗闇と無音の宇宙空間に放り出されたような孤独にある息子に立ち上がるきっかけを与えたのは、令子が彼との日常から見出した、“指点字”という新たなコミュニケーションの“手段”だった。勇気をもって困難を乗り越えていく母子の行く手には、希望に満ちた未来が広がっていく・・・。
視力と聴力を次々と失いながらも、世界ではじめて盲ろう者の大学教授となった、東京大学先端科学技術研究センターバリアフリー分野教授・福島智さんと母・令子の実話にもとづく物語。
まだ2歳になっていないであろう頃に検査で入院したとき「明日は検査がありますから、飲食は夜9時までです」と看護師に冷たく言われるシーンからもう涙が止まらない。「そんなに幼い子に検査のために飲食禁止なんて理解できないのがわからないのかしら」と思っていたら、案の定、暗い病室に泣き声が響く。その後も「なぜ、この子ばかりにこんな悲しいことが続くの」と思わずにはいられないことばかりが続き、母親が自分のせいだと自らを責める。そんな母親を小雪が熱演。「あなたのせいじゃない」とそばに行って励ましたくなってしまう。
母親が智に付きっ切りになる一方で、父親は仕事の後で家事と兄たちの世話に奮闘するものの、次第に不満が溜まっていく。それを妻にぶつけてしまう辺りはまるで母親に甘える子どものよう。そんな父親は吉沢悠の得意とする役どころかもしれない。
前半に智が、後半に母親が命について語るナレーションが入る。
「命は自分だけでは完結できないように作られているらしい。花もめしべとおしべが揃っているだけでは不十分で、虫や風が訪れて仲立ちする。命はその中に欠如を抱き、それを他者から満たしてもらうのだ」
なんていい言葉なのだろう。(堀)
福島智さんのことは、ドキュメンタリーで知って、こんな方が実在するんだと驚愕しました。後で著作を読んだら視覚と聴覚あわせて障害のある方は全国に何万人もいらっしゃるのだとか。程度の差はそれぞれ違って、どちらかの機能が少しでも残っていればそれが頼りになります。どちらも完全になくなったとき、ただ一人宇宙に放り出されたようだったというのに何とも言えない気持ちになりました。
指点字を思いついたお母さん、[しさくはきみのためにある]と手のひらに書いてくれた友人、力をくれたたくさんの人々との繋がり、そして数多の本があって良かった。あきらめず生きて来られたのは言葉があったからと福島さん。(堀)さんがあげたのは吉野弘さん[生命は]という詩の一節です。ぜひ全文をお読みください。
(白)
福島智さんのことを、本作を観るまで存じ上げてなくて、事前に何も調べずに「関西」はどこにお住まいだったのだろうと観始めたら、言葉が懐かしい私の生まれ故郷・神戸のものでした。まさしく福島智さん、神戸出身の方でした。
東京の盲学校で智とお母さんが話しているのを聞いていた同級生の山本君が、「まるでボケと突っ込みの漫才みたいですね」と声をかけます。まさに、関西なら、それが日常会話。もっともお母さまは関西の生まれではないのですが。 私の神戸の同級生でも、頭のいい人ほど、ボケと突っ込みが上手だったのを思い出します。智が、お母さんに宛てた点字の手紙の中で、「お母ちゃんは点字が下手くそなので細心の注意でお願いします」と書いているのですが、これも、神戸流に捉えれば、ユーモアのある軽い冗談。
それにしても、目が見えない上に、耳も聴こえなくなったのに、人生を諦めずに前向きに楽しんでいらして、素晴らしい方ですね。支えたお母さまにも感服です。(咲)
福島智さんの子供の頃にことがわかり、こういう経過で盲聾になっていってしまったんだと知りました。そして、お母さんの献身的な支えが大きかったんだなと思い、また、お父さんやお兄ちゃんたちの葛藤も描かれていたなとは思ったのですが、お父さんの態度に、「食器ぐらい洗え!」とか、「お父さんだって点字できるように勉強したら?」と、時々イラっとしながら観ていました(笑)。子供たちでなく、お父さんもお母さんに甘えたかったんだなというか、家事はお母さんにやってもらって当然という思いがあったということを表していたのかなとも思いました。でも、お父さんが「まだ目が見えるうちに、いろいろ学ばせなくては」というところから変わって行きましたね。最後の、お父さんの点字「先駆者になれ」というシーンで、お父さんを見直しました(笑)。
大学以降から大学教授になっていったところもぜひ観てみたいと思いました。続編を求む(暁)。
★福島智さんの故郷・神戸での舞台挨拶にお母さまの福島令子さんも登壇!
シネ・リーブル神戸11/12(土)12:00上映回 (上映後登壇)※日本語字幕付き上映
※ご登壇(予定):小雪さん、田中偉登さん、福島智さん(東京大学教授)、福島令子さん、結城崇史プロデューサー
その他の劇場での舞台挨拶情報は、こちらで!
2022年/日本/カラー/ビスタ/5.1Ch/130分
配給:ギャガ
©THRONE / KARAVAN Pictures
公式サイト:https://gaga.ne.jp/sakurairo/
★2022年11月4日(金)シネスイッチ銀座、ユーロスペース、新宿ピカデリー他全国順次ロードショー
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