監督:レイフ・ファインズ
脚本:デヴィッド・ヘアー
撮影:マイク・エリー
音楽:イラン・エシュケリ
出演:オレグ・イヴェンコ、アデル・エグザルホプロス、セルゲイ・ポルーニン、ラファエル・ペルソナ、ルイス・ホフマン、チュルパン・ハマートヴァ、レイフ・ファインズ
1961年。ルドルフ・ヌレエフ(オレグ・イヴェンコ)はキーロフ・バレエ(現マリインスキーバレエ)の一員として、パリ公演のために生まれて初めて祖国ソ連を出た。傲慢・我儘・反逆児と評される一方で、踊りへの情熱は誰よりも強いルドルフは、異国で得られるものすべてを吸収しようとするが、その行動はKGBに監視され、政府の圧力は強まるばかりだった。 6月16日、次の公演地へ向かおうとするルドルフは、突然帰国を命じられる。それは、収容所に連行され、踊りを続けることすらままならない未来を暗示していた。団員たちが旅立ち、KGBと共に空港に残されたルドルフが、不安と恐怖に襲われる中くだした決断とは一。
バレエの歴史を変えたと言われるロシア人バレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフが若くしてフランスに亡命した実話に基づく。
ヌレエフを演じる主演のオレグ・イヴェンコの眼光の鋭さが印象に残る。演技の経験がない、現役のプロバレリーナだというから驚きだ。バレエに対する情熱を一心に注いで踊る姿に見惚れてしまう。しかも超絶イケメン! さらにパリでヌレエフのルームメイトだったユーリ・ソロビヨフをセルゲイ・ポルーニンが演じている。これはもう眼福としかいいようがない。
美しいものを堪能する前半は過去を振り返るシーンもあってゆったりと進むが、後半の亡命シーンはまるでサスペンスのように緊張する。冒頭のシーンからヌレエフが亡命をしたことが分かっているにもかかわらず、失敗するのではないかとハラハラして見入ってしまう。監督の演出のうまさが際立つ。
ところで、ヌレエフはなぜ亡命をしたのか。冒頭、KGBから取り調べを受けた恩師が「彼はただ踊りたかったから西側に渡ったのだ」と答えていた。それを聞いたときには「踊るだけなら亡命しなくてもできるのでは?」と思ったが、より高みを目指すには自由が必要なのだ。作品を見て、その答えに納得した。(堀)
ヌレエフの人物評をみると、同じように反逆児と称されたセルゲイ・ポルーニンのほうがふさわしいような気がしましたが、現役のプリンシパル、オレグ・イヴェンコの目力も半端じゃありませんでした。バレエの場面をたっぷり楽しめるのはもちろん、社交界の花形クララの協力のもと、空港での緊迫したやりとりが出色です。アデル・エグザルホプロスがこんなに大人の女性を演じていたのに驚きました。『アデル、ブルーは熱い色』(2014)では、パスタソースで口の周りを汚していた少女だったのに。
昨年の東京国際映画祭にレイフ・ファインズ監督が招かれましたが、資金調達のためにと口説き落とされて自らもA.I.プーシキン役で出演しています。若いヌレエフを公私ともに支える教師で、慈愛に満ちた表情と悲しげな視線が残ります。ハリー・ポッターシリーズでは「名前の言えないあの人」をずっと務めて、目が怖かったんですけど。(白)
プロデューサーのガブリエル・タナさんと、レイフ・ファインズ監督
2018年10月27日、東京国際映画祭での記者会見には、さすがに大勢の記者が駆け付けました。
ヌレエフの複雑な内面を表わすことのできる人物を探すのが大変だったそうで、レイフ・ファインズは「監督として、演技のできる俳優を選んでバレエを習わせることにためらいがあったので、演技のできるダンサーを探しました」と語りました。そうして、選ばれたのが、現役ダンサーのオレグ・イベンコ。
レイフ・ファインズ自身は、監督に徹したかったそうですが、プロデューサーのタナさんから、「商業的価値を高めるため、ぜひ出演してほしいとお願いしました」と、資金集めのため、心苦しい依頼だったと明かしました。大のファンというほどでない私でも、やっぱりレイフご本人の姿をスクリーンで観れたのは嬉しかったので、ファンはなおさらでしょう!(咲)
2018年/イギリス=ロシア=フランス/ロシア語・英語・フランス語/127分/ビスタ/カラー・モノクロ/5.1ch
配給:キノフィルムズ/木下グループ
© 2019 British Broadcasting Corporation and Magnolia Mae Films
公式サイト:http://white-crow.jp/
★2019年5月10日(金) TOHOシネマズ シャンテ、シネクイント、新宿武蔵野館ほか全国 公開