2019年05月25日

長いお別れ 

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監督:中野量太 
脚本:中野量太 大野敏哉 
原作:中島京子『長いお別れ』(文春文庫刊)
主題歌:優河「めぐる」
出演:蒼井優、竹内結子、松原智恵子、山﨑努、北村有起哉、中村倫也、杉田雷麟、蒲田優惟人

父・昇平(山﨑努)の70歳の誕生日。母・曜子(松原智恵子)から連絡があり、近くに住む次女・芙美(蒼井優)だけでなく、夫のアメリカ赴任に同行していた長女・麻里(竹内結子)も久しぶりに帰省する。そこで母から告げられたのは、厳格な父が認知症になったという事実だった。それぞれの人生の岐路に立たされている姉妹は、思いもよらない出来事の連続に驚きながらも、変わらない父の愛情に気付く。ゆっくり記憶を失っていく父との7年間の末に、家族が選んだ新しい未来とは。

少しずつ進行していく父・昇平の認知症。その変化があまりにも自然で、作品を見ているときには気が付かないのだが、見終わってから振り返ると、その変貌ぶりに驚く。昇平を演じた山崎努はオファーされる前に原作を読み、「映画化されるとしたら、昇平役は自分のところにオファーが来るのではないか」と予感していたという。
変わっていくのは父だけではない。介護をする家族もまた変わっていく。父に似て杓子定規で頑固なところのあった次女・芙美が自分の満足感に合わせるのではなく、相手の気持ちを考えた対応ができるようになる。また、夫婦関係に悩んでいた長女は、父が認知症になっても変わらぬ愛情を注ぎ続ける母の姿を見て、自らも夫と向き合う。
認知症の家族と暮らすことはけっして簡単なことではない。作品で描かれる生活がきれいごと過ぎるように見える人もいるだろう。しかし、大変だからこそ、些細なことに幸せを感じられるのかもしれない。目の前にいる妻のことが分からなくても、愛は残っていることを象徴するシーンには思わず涙がこぼれた。あ~結婚っていいかも!!
孫役の杉田雷麟は『そらのレストラン』では純朴な少年で逃げたブタを追いかけていたが、『半世界』では稲垣吾郎の息子役でちょっぴり反抗期を迎えていた。そして、本作では髪を金髪にして、母親に対してゴリゴリに反抗中。でも、内心は家族のことを思いやる。役と共に成長しているのを感じた。
そして、何と言っても松原智恵子! いくつになってもこのチャーミングさを保っているのは奇跡としか言いようがない!!(堀)


認知症予備軍の「団塊の世代」が高齢者になった。普段お家にいる方々が一斉に外出されるのが選挙のとき。手に入れた選挙権はちゃんと行使する真面目な世代なのだ。心身が衰えていくのに気が付くのはまず自分自身、できていたことができなくなってくる。こんなはずじゃなかった、と自分の老いを自覚するのは辛い。敬愛していた親の老いに気づく子どもたちもなかなか納得できない。
介護はその家の人間関係や病状によってみな違う。自分も体験して言えるのは、介護する人、される人が幸せであることが一番。「この人のせいで」と思い始めたら不幸が増幅して、連鎖していってしまう。たくさんの手を借りることで、それはかなり改善される。おみこしの担ぎ手は多いほうがいいのだ。与えるばかりでなく、与えられたことも同じくらい多かったと終わってみればよくわかる。
この映画では負の側面は描かれない。家族が父のことを一番に思いやっているからだ。そんな理想的な家族ばかりではないけれど、辛いときに辛い話が観たいだろうか。こういう風にもなれるのだ、と思えるのがいい。(白)


2019年/日本/カラー/127分
配給:アスミック・エース
©2019『長いお別れ』製作委員会 ©中島京子/文藝春秋
公式サイト:http://nagaiowakare.asmik-ace.co.jp/
★2019年5月31日(金)ロードショー
posted by ほりきみき at 01:58| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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