2019年03月23日
リヴァプール、最後の恋(原題:Film Stars Don't Die in Liverpool)
監督:ポール・マクギガン
脚本:マット・グリーンハルシュ
原作:ピーター・ターナー 「Film Stars Don’t Die in Liverpool」
エンディングソング:エルヴィス・コステロ「You Shouldn’t Look At Me That Way
出演:アネット・ベニング、ジェイミー・ベル、ジュリー・ウォルターズ、ヴァネッサ・レッドグレイヴ
1981年9月29日、ピーター・ターナー(ジェイミー・ベル)の元に、かつての恋人グロリア・グレアム(アネット・ベニング)がイギリスのランカスターのホテルで倒れたという知らせが届く。慌てて駆けつけると、グロリアは治療を拒否し、「リヴァプールに行きたい」と懇願する。ピーターはリヴァプールにある自分の実家でグロリアを療養させることにした。
2人が出会ったのは数年前に遡る。20代のピーターは駆け出しの若手舞台俳優で、50代のグロリアは落ち目の映画スターだった。年齢差があったものの、2人は恋に落ち、ニューヨークで暮らし始めた。しかし、ピーターがイギリスから舞台出演のオファーを諦めようとしたことをきっかけに、2人の関係は終わりを迎えた。
しかし、病に倒れたときにグロリアが頼ったのは家族ではなく、ピーターだった。彼はアメリカの主治医に連絡を取り、病状を確かめ、グロリアの死が近いことを悟る。そして、彼女と楽しく過ごしていた頃を思い出しているうちに、グロリアがリヴァプールに拘り続けた理由に気が付いた。
イギリスの舞台俳優ピーター・ターナーの回顧録を映画化。母子ほど歳が違う(29歳差)、恋の相手は往年の大女優グロリア・グレアム(1923-1981)。1950年代ハリウッドで活躍し、『悪人と美女』(1952)でオスカー助演女優賞に輝いた一方で、4度の結婚歴を持ち、4番目の夫は2番目の夫の息子(義理の息子)という自由奔放な私生活が物議を醸した。すべてが驚きの実話である。
作品ではグロリアの最後の数週間にスポットを当て、そこに2人の出会いや楽しい日々、悲しい別れを挟み込む。アネット・ベニングがペーターに惹かれるグロリアの少女のような可愛らしさと、病に倒れて衰弱していく様を見事なまでに演じ切っている。20年前からグロリアを演じたいと思ってきたそうだ。
ピーターの回顧録なので、基本的にはピーター視点で話が進むが、グロリア視点でもう一度見せる演出がある。より強くグロリアの真意が伝わってきた。だからこそ、ピーターが最後に用意したサプライズが切なく、胸にしみる。(堀)
原題は「映画スターはリヴァプールで死なない(死ななかった)」とでも直訳するのか。単なる”女優”でも”アクトレス”でもない。「銀幕のスター」といった煌びやかさ、ノスタルジーを帯びた言葉を連想させる上手いタイトルだ。
昔のTV名画座(?)で、初めてグロリア・グレアムを観た時の衝撃は忘れない。子ども心にも、あの下がった口角から「なんという魔性系の人だろう!」と目が釘付けになったものだ。白黒映画なのに鮮やかな色彩とフェロモンを感じ取った。以降、ハリウッド黄金時代のクラシック映画を観る度にグロリア・グレアムの姿を探し求め、『素晴らしき哉、人生!』にチョイ役で出ているのを見つけた時には小躍りしたものである。
長じて、敬愛するニコラス・レイ監督と婚姻中、先妻の息子と関係ができて結婚。通算4度の結婚歴を持つと知った時、子どもの頃の感覚は強ち(あながち)間違ったものではなかったと確信した。
そのグロリア・グレアムが、銀幕の第一線を去った後、ステージママだった母親(ヴァネッサ・レッドグレイブが好演)の故郷・英国の舞台へ出ていたことを本作で初めて知ることとなる。扮するアネット・ベニングは冒頭から深い小皺が刻まれ、たるみやシミの出た顔を臆することなく晒す。”老け役NG汚れ役NGスッピンNG”といったCMタレント化している何処かの国の女優とはまるで覚悟が違う本物の女優としての潔さを見せてくれる。
『リトル・ダンサー』、ジェイミー・ベルと聞いて、胸がキュンと締め付けられる人も多いのではないか。日本では未だに熱狂的ファンを持つ『リトル・ダンサー』の少年が、多くの役柄を経て大人になり、グロリアと親子ほども歳の離れた恋人役を演じる。
ジェイミー・ベルは素晴らしい俳優であると同時に不思議な立ち位置にいる人だ。ハリウッドの娯楽大作に出ても少しもメディア擦れした顔にならず新鮮さを保っている。一方、ラース・フォン・トリアといった作家性の強い監督作にも違和感なくはまる名優ぶり。本作では、大ベテランのアネット・ベニングに引けを取らぬ存在感を示す。弾ける若さとしなやかさ、米国進出への憧れ、野心、グロリアへの純粋な愛情、自分と同世代であるグロリアの夫(ニコラス・レイの息子)への同志友愛とでも呼ぶべき複雑な難役を見事に表現している。終盤は父性まで感じさせる名演に泪を禁じ得なかった。
本作は陽光瞬くハリウッドを舞台にした場面もあるが、リヴァプール訛りが濃厚なベルの実家に於ける描写、何時迄も、良い意味で”田舎の少年”的風貌を残すベルの繊細且つ丁寧な演技なくしては成立しなかった恋愛映画の秀作である。(幸)
2019年/アメリカ/カラー/シネマスコープ/105分
配給:キノフィルムズ/木下グループ
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公式サイト:https://liverpool-movie.com/
★2019年3月30日(土)新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA 公開
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