監督:ミミ・レダー
撮影:マイケル・グレイディ
音楽:マイケル・ダナ
主題歌:KESHA「Here Comes The Change」
出演:フェリシティ・ジョーンズ、アーミー・ハマー、キャシー・ベイツ
貧しいユダヤ人家庭に生まれたルース・ギンズバーグ(フェリシティ・ジョーンズ)は、「すべてに疑問を持て」という亡き母の言葉を胸に努力を重ね、名門ハーバード法科大学院に入学する。1956年当時、500人の生徒のうち女性は9人。学生結婚をし、家事も育児も夫のマーティン(アーミー・ハマー)と分担していたが、そのマーティンがガンで倒れる。ルースは家事と育児、自分の学業だけでなく、夫の授業を代わりに受けて夫の闘病を支えた。大変な日々だったが、弱音を吐かずに首席で卒業する。ところが、女を理由に雇ってくれる法律事務所はなかった。やむなく大学教授になったルースは、70年代になってさらに男女平等の講義に力を入れる。それでも弁護士の夢を捨てられないルースに、マーティンがある訴訟の記録を見せた。ルースはその弁護を引き受ける。やがて、その訴訟は歴史を大きく変える裁判になっていった。
作品冒頭、ハーバード法科大学院での講義で教授が「判例は天気では変わらないが、時代では変わる」と学生たちに話す。この作品を一言で表した言葉だろう。ハーバード法科大学院が女性にもやっと門戸が開かられるようになったが、ルースが入学した1956年では1学年500人中、女子はわずか9人。ルースの孫の世代には半分は女子だそうだ。(これはルースのドキュメンタリー映画『RBG(原題)』で孫がルースに語っていた)この時代の変化を大きく牽引したのがルース・ギンズバーグ。彼女の法律家としてのスタートを描いた作品である。
学部長は女子学生だけを招いた歓迎会で、男子の席を奪ってまで入学した理由を問う。そのときの機転が効いた答えにこの先のルースの奮闘ぶりを予感させる。夫がガンを発病したときには、夫の分の講義もすべて出席して、ノートにまとめるなど、普通はとてもできない。しかし、そのがんばりは自分の法律家としての糧にもなったはず。そんなルースも家事は得意ではなかったようだ。少なくとも料理に関しては夫の方が上手だったことが作品からうかがえる。完璧すぎない部分も描くことで、85歳の今なお、米最高裁判所判事として現役で活躍するルースも普通の人だとぐっと身近に感じるだろう。(堀)
学部長は女子学生だけを招いた歓迎会で、男子の席を奪ってまで入学した理由を問う。そのときの機転が効いた答えにこの先のルースの奮闘ぶりを予感させる。夫がガンを発病したときには、夫の分の講義もすべて出席して、ノートにまとめるなど、普通はとてもできない。しかし、そのがんばりは自分の法律家としての糧にもなったはず。そんなルースも家事は得意ではなかったようだ。少なくとも料理に関しては夫の方が上手だったことが作品からうかがえる。完璧すぎない部分も描くことで、85歳の今なお、米最高裁判所判事として現役で活躍するルースも普通の人だとぐっと身近に感じるだろう。(堀)
私は70年代~80年代に日本の女性解放運動に参加していたのですが、ルース・ギンズバーグさんのことは知らず、この作品で初めて知りました。
もっとも、運動に積極的に参加していたわけではなかったというのはありますが。でも、このときに知り合った人たちとは今も交流があります。1975年頃知り合ったので、もう40年以上もたちますが、年に1回くらい会って近況報告をし合います。というような私の背景があり、この作品はその当時のことを思い出させてくれました。男らしく、女らしくの押し付けからの解放は、その当時、目からうろこでした。
またグロリア・スタイナムという名前が出てきてなつかしく思いました。彼女は、あの頃のリブ運動のシンボル的な人でした。たぶん私はルースさんの娘さんと同じくらいの世代ですね。でも「妻が自分の名前でクレジットカードを作れなかった」という宣伝文句にはびっくりしました。1970~80年代にはクレジットカードがあったのかどうかさえも知りませんでした。私がクレジットカードを作ったのは2010年以降でしたから。
あの作品の中で「アメリカの憲法には女性の権利とか自由とかいう言葉自体がなく、女性は忘れられていた存在」というセリフを聞いて、戦後、日本国憲法に「両性の平等」という言葉が入れられた時のいきさつを思い出しました。
アメリカにはない男女平等条項が書かれた憲法24条が日本にはあります。
戦後、日本国憲法が作られた時、この草案を作るのに尽力したベアテ・シロタ・ゴードンさんのことを描いた『ベアテの贈りもの』(2004)というドキュメンタリーの中にそのことが描かれています。長く日本に暮らしていたベアテさんは、日本の女性の置かれた状態をよく知っていて、草案を作るときに「結婚の自由と両性の平等」という言葉を入れようと努力したそうです。
その時(2005年)、シネマジャーナルではベアテさんにインタビューすることができたのですが、彼女は下記のように言っています。
「その時私は、憲法の起草者としてでなく通訳として参加しました。私自身が、日本に住んでいたこともあり翻訳も早く、日本政府側に好印象も受けていたこともあったので、アメリカ側の委員長のケーディス大佐はその場の空気をうまく読み取りました。彼はそれを使って、私が平等条項を書いたとは言わず、日本側にベアテ・シロタさんは女性の権利が通ることを心から望んでいますといって、すんなり通してしまいました。そうして今日に至っています。アメリカの憲法は、女性の権利について明記されていません。それを考えると、女性の権利が明記された素晴らしい憲法ができたと思いました」と語っています。
シネマジャーナルHP 『ベアテの贈りもの』インタビュー
それにも関わらず、日本の女性の男女平等意識は逆行しているようにも感じるこの頃です。夫のため、家族のためと、自分のやりたいことは我慢して控えめに生きている女性を見たり、あるいは発言を聞くたび、「もっと自分のために生きていいんだよ」とハッパをかけたくなる自分がいます(暁)。
ルース・ベイダー・ギンズバーグについての作品が今年2本公開されるのは、女性が発信する「シネマジャーナル」としても興味深い。オスカー長編ドキュメンタリー候補になった『RBG最強の85才』のルース・ベイダー・ギンズバーグ(RBG)その人の現在と、本作のフェリシティ・ジョーンズではルックの違いを感じるかもしれないが、RBGが20代の頃の写真を見ると、全身から漲る力強さ、理性的な眼差しは劇中のフェリシティ・ジョーンズとよく似ている。
その力の込めようは、女流監督として先陣を疾走してきたミミ・レダーとて同じである。これまでの娯楽作とは異なるメリハリのある演出、細かな家族の情愛、’60〜’70年代の米国に於いて顕著だった性差別に纏わる様々な逸話をRBGの体験を通して丁寧な描出が際立つ。
特筆すべきは法律の事務手続きについて難解な用語が続出することを恐れず描いている点だろう。卑近な例で恐縮だが、法律を生業とする者にとっては、煩雑な手続きというのはどうしても避けられない事柄なのだ。省略した娯楽話法で演出することも可能だったはずなのに、観客を置き去りにしない絶妙なバランスを測りながら物語は進捗して行く。
観客の集中が途切れず、鑑賞後感が爽やかなのは、最後に用意されている大きなカタルシスのおかげだろう。その爽快感は一昨年公開された、NASAの宇宙開発を支えた黒人系女性たちにフォーカスした『ドリーム』と共通したものがある。
時代背景も近い2作のもう一つの見どころはファッション!スーツに鎧を纏いながら、フェミニンさを表現したヘアスタイルやメイクにも注目されたい。(幸)
その力の込めようは、女流監督として先陣を疾走してきたミミ・レダーとて同じである。これまでの娯楽作とは異なるメリハリのある演出、細かな家族の情愛、’60〜’70年代の米国に於いて顕著だった性差別に纏わる様々な逸話をRBGの体験を通して丁寧な描出が際立つ。
特筆すべきは法律の事務手続きについて難解な用語が続出することを恐れず描いている点だろう。卑近な例で恐縮だが、法律を生業とする者にとっては、煩雑な手続きというのはどうしても避けられない事柄なのだ。省略した娯楽話法で演出することも可能だったはずなのに、観客を置き去りにしない絶妙なバランスを測りながら物語は進捗して行く。
観客の集中が途切れず、鑑賞後感が爽やかなのは、最後に用意されている大きなカタルシスのおかげだろう。その爽快感は一昨年公開された、NASAの宇宙開発を支えた黒人系女性たちにフォーカスした『ドリーム』と共通したものがある。
時代背景も近い2作のもう一つの見どころはファッション!スーツに鎧を纏いながら、フェミニンさを表現したヘアスタイルやメイクにも注目されたい。(幸)
2018年/アメリカ/カラー/120分
配給:ギャガ
(C) 2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/believe/
★2019年3月22日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー