2022年03月19日

ニトラム/NITRAM (原題:NITRAM)

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監督:ジャスティン・カーゼル
出演:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ジュディ・デイヴィス、エッシー・デイヴィス、ショーン・キーナンほか

90年代半ばのオーストラリア、タスマニア島。かつて囚人の流刑地で、観光しか主な産業がない閉塞したコミュニティに母(ジュディ・デイヴィス)と父(アンソニー・ラパリア)と暮らす20代半ばの青年ニトラム(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)。メンタルヘルスの問題を抱え、母親から半ば強制的に抗うつ剤の薬を飲まされていた。
子供の頃から好きだった花火遊びをやめられない彼は、近所からは厄介者扱いされ、同級生からは本名を逆さ読みした蔑称“NITRAM”と呼ばれバカにされている。父がコテージを買ったら牛を飼いたい、ジェイミーのようにサーフィンがやりたい、などさまざまな願望を持っているが、親はコテージを買うことができず、母親はサーフボードを買ってくれない。なにひとつ思い通りいかず、何をしてもうまくいかない日々。
サーフボードを買う資金を貯めるため、芝刈りの訪問営業を始めた彼は、ある日、ヘレン(エッシー・デイヴィス)という女性と運命的に出会い、恋に落ちる。しかし悲劇的な事件をきっかけに、彼の精神は大きく狂い出す……。

1996年4月28日(日)にオーストラリア・タスマニア島のポート・アーサー流刑場跡で起きた無差別銃乱射事件を題材にした作品である。この事件では35人が亡くなり、15人が負傷。銃規制の必要性を全世界に問いかける先駆けとなった。
犯人は当時27歳だったマーティン・ブラインアント。本作は彼の視点で進んでいく。幼いころから危険なことを危険だと認知できず、しかもそれをやりたいという気持ちが抑えられない。そんな彼の気持ちを親ですら理解できず、彼の心は孤独感で覆われてしまう。
しかし、この作品は彼を擁護しているわけではない。やってはいけないことをやってしまった彼の責任は重い。そのうえで暴走しがちな彼を止める手段、親としての責任を必死に果たそうとする父母を支える手立てはなかったのかと社会の在り方を問うている。(堀)


無差別銃乱射事件を題材にした作品ということで、観なくてもいいかなとパスしようと思ったのですが、映画に対する感覚が似ている映画通の知り合いから「この作品は観ておいたほうがいいですよ」と言われ、彼女が言うのならと観てみた。
「銃規制の必要性を全世界に問いかける先駆けになった事件」と映画紹介には書かれているが、この1996年に起きたオーストラリア・タスマニア島での乱射事件のニュースを聞いた覚えがない。日本では大きくは報道されなかったのだろうか。ま、銃撃事件というのが多く、それらの記憶のかなたになってしまったのかもしれないが。
それにしても、こういう銃撃事件はこのオーストラリアの事件より以前からあったような気がしてネットで調べてみた。確かに1966年の「テキサスタワー銃乱射事件」というのはあったけど、その後の事件の記録などは、ネット上にはあまり載っていないのかもしれない。そして、この1996年の事件。その後、世界では銃乱射事件が何度も起こっているように思う。あるいは報道されるようになったというべきか。

そして「ニトラム」という青年が銃乱射事件を起こすまでを描いたこの作品。「ポートアーサー事件はなぜ起こったのか?」というテーマらしいが、あまり説明がなく、観ている間、この青年の行動にイライラした。もう大人なのに大人でない。10代の青年ならともかく、20代の大人なのに仕事にもついていない。芝刈りの仕事をして金を稼ぐというのなら高校生くらいじゃないかと思うんだけど、オーストラリアではそういうこともあるのか。あるいは仕事につけなくて、そういう風にしてバイトをしているのか。20代にもなって親がかり? そしてヘレンとの出会い。私的には恋ではなく、パトロン的な人、スポンサー的な人という感じがした。出会ってすぐ高級車を買ってくれたりと、お金がある人なのでしょうが、彼女自身が孤独を癒してくれる存在として、家出してきた彼の保護者になったということなのかな。
そして、「ニトラム」という人はなんだかわけわからない人物だと思った。20代半ばになっても保護者の庇護のもとにいるし、ヘレンの遺産で暮らしには苦労していない。暮らしは豊かだけど、地域社会の中で孤立していき、それが頂点に達した時、銃撃事件を起こしてしまったのだろうか。
それにしても、危険や迷惑ということに対する一般常識というのがわからない人なのか? 花火の件も、近所が迷惑と言っているのに、毎日続けるとか。親もそれを止められない。母親は医師に相談して抗うつ剤を飲ませていたけど、暴走は止められない。だいたい、こういう行動をするような人を薬で抑制するというは違うのではないだろうかと私は思う。彼自身が自分で、認識できるようにするにはどうしたらよかったのだろうか。結局、それができず、「ニトラム」は地域社会で孤立していったのだろう。アスペルガー症候群の人は自分の行動をうまく制御することができなくて、思いついたことをすぐに行動に移してしまったりするらしいが、そういう病気だったのだろうか。
彼の精神の彷徨の日々を描いた作品なのだろうけど、観ている間じゅう気分は重かった(暁)。


2021年 / オーストラリア / 英語 / 1.55:1 / 112分 /日本語字幕:金関いな
配給:セテラ・インターナショナル
© 2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/nitram/
★2022年3月25日(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国公開

posted by ほりきみき at 14:41| Comment(0) | オーストラリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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