2022年07月31日
きっと地上には満天の星(原題:Topside)
監督・脚本:セリーヌ・ヘルド&ローガン・ジョージ
出演:ザイラ・ファーマー、セリーヌ・ヘルド、ファットリップ、ジャレッド・アブラハムソンほか
NYの地下鉄のさらに下に広がる暗い迷宮のような空間で、ギリギリの生活を送っているコミュニティがあった。5歳のリトルは、“地上”から帰ってきた母に今日も尋ねる「ねえ、翼は生えた?」リトルの背中を見てニッキーは「もう少しね。翼が生えるまではここが安全。」と答える。リトルは、翼が生えたら地上を飛び回り、絵本で見た“星”を探すのが夢だ。
ある日、不法住居者を排除しようと市の職員たちがやってくる。隠れてやり過ごすことができないと判断したニッキーは、隣人のジョンにも促されリトルを連れて地上へと逃げ出すことを決意する。初めて外の世界を体験するリトル。明るすぎる地下鉄のホーム、階段でひしめき合うたくさんの人、けたたましく鳴るクラクション…。夢に見た地上は、リトルにとって刺激が強すぎる世界だ。しかし役所の人間が立ち去るまで“家”に戻ることはできない。せめて明日の朝までこの地上を逃げ続けなければいけない。
ニッキーは彼女に“商売”をさせてくれるギャングのレスの部屋を訪ねる。ジャンキーたちがうつろな目で場違いな母娘を見つめるその部屋は、やはり二人が安全に過ごせる場所ではなかった。冬の夜のNYへ飛び出すニッキーとリトル。この街に彼らが休める場所などどこにもない。疲れ果てたニッキーが仕方なく“家”へ向かおうと地下鉄に乗ったその時、リトルはホームを飛び回る小鳥の姿に気を取られ、ひとり乗り遅れてしまう。発車してしまった列車の車内でパニックになるニッキー。すぐに引き返すがどこにもリトルの姿はない…。
NYの街で追い詰められていく母娘に、希望の光は降り注ぐのだろうか―。
本作は監督のひとりで脚本を書き、リトルの母親ニッキーを演じたセリーヌ・ヘルドが、子守の仕事をした非営利団体で恒久的な住居を持たない母子と出会ったこと、同時期にジェニファー・トスの著書「モグラびと ニューヨーク地下生活者たち」を読んだことが製作のきっかけとなったという。
シングルマザーのニッキーは住むところがなく、地下鉄の廃トンネルで暮らしている。厳しい生活ながらも育児放棄せず、慈しんで育てていることがリトルの満ち足りた表情から伝わってきた。セリーヌがリトルを演じたザイラ・ファーマーと撮影前に信頼関係を築いていたからできたことだが、ザイラが元々親からしっかり愛されて育ったに違いない。純粋無垢なリトルを見ていると世の中の嫌なことを忘れられる気がしてくる。ニッキーも同じ気持ちだったのだろう。
しかし、親は愛を与えればいいというものではない。リトルが簡単な計算もできないことが明らかになる。本来、子どもが育つべき環境にいれば、足し算、引き算、割り算などは友だちとの遊びを通じて、感覚として身についていくものなのだ。自分にとって不本意でも、子どもの健やかな成長のために家族や公的機関を頼ることは必要。
ニッキーは自力で何とかしようと奮闘するものの、リトルを見失うというトラブルを経験して、自分が本当は何をすべきかに気付いていく。その決断はニッキーにとって今は辛いかもしれない。しかし、リトルの将来を考えたら、「間違っていなかった」と思える日がくるだろう。(堀)
2020年製作/90分/G/アメリカ
配給:フルモテルモ、オープンセサミ
© 2020 Topside Productions, LLC.All Rights Reserved.
公式サイト:https://littles-wings.com/
★2022年8月5日(金)からシネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
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