2020年10月18日

キーパー ある兵士の奇跡(英題:The Keeper)

keeper.jpg
 
監督:マルクス・H・ローゼンミュラー 
出演:デヴィッド・クロス、フレイア・メーバー、ジョン・ヘンショウ、デイヴ・ジョーンズ

1945年、ナチスの兵士だったトラウトマンはイギリスの捕虜となる。収容所でサッカーをしていた時、地元チームの監督の目に留まり、ゴールキーパーとしてスカウトされ、名門サッカークラブ「マンチェスター・シティFC」に入団。ユダヤ人が多く住む街で、想像を絶する誹謗中傷を浴びながらも、トラウトマンはゴールを守り抜いた。やがて彼の活躍によって、世界で最も歴史ある大会でチームを優勝へ導き、トラウトマンは国民的英雄となる。だが、彼は誰にも打ち明けられない〈秘密の過去〉を抱えていた。そしてその秘密が、思わぬ運命を引き寄せてしまう。

ナチスの兵士だった主人公がキーパーとしてイギリスの国民的英雄になる。事実は小説より奇なりという言葉を改めて思い出す、実話を基にした作品です。ただ、メインテーマはサッカー選手の人生を描くことではなく、罪と許し、そして和解です。
戦争が終わっても、敵国の人と仲良くするのは感情的に簡単なことではありません。まして、家族や友人を戦争で喪っていたらなおのこと。直接的に関わったわけでなくても、敵国というだけでその人を憎む気持ちが生じてしまいます。一方で、許せるようになるのは個人的な関わりを持つことから始まるのではないでしょうか。トラウトマンに対するマーガレットの気持ちの変化や、その後の彼女の奮闘からそれが伝わってきます。
起きてしまった戦争をなかったことにはできません。しかし、それを認め、受け入れ、許すことで和解することはできるはず。世界の各地で今もなお戦争は続いています。やられたからやり返すのではなく、罪と許し、そして和解の心があれば、トラウトマンがイギリスの人たちに受け入れられたように、世界的な共存は可能なのではないかと思えてきます。
ところで、トラウトマンが捕虜としてイギリスのランカシャー収容所に送り込まれたところから始まりますが、収容所での捕虜の扱いに驚かされました。これまでに見てきた映像作品の印象から、捕虜収容所では人間としての尊厳が大事にされない扱いをされると思っていましたが、この作品に出てきた収容所ではもっと人間らしい生活が営まれていたのです。エピソードにフィクションも含まれているとはいえ、国によってこんなに違うものとは。
また、トラウトマンと地元サッカーチームの監督とのやりとりにくすっと笑ってしまうシーンがたくさんありました。娘がトラウトマンと恋に落ちたときの狼狽ぶりには笑いつつも、娘がいる人は共感を覚えるかもしれません。重厚なテーマを扱いつつ、コミカルなシーンを挟み込むことでエンタメとしても楽しめる作品に仕上がっています。(堀)


これが事実を元にしていると知って、余計に印象深い作品になりました。トラウトマンを演じるデヴィッド・クロスは『愛を読むひと』(08)で年上の人(ケイト・ウィンスレット)に恋した男の子マイケルではありませんか。こんなに大きくなって。
イギリスで捕虜となったナチスの兵士がどれほど憎まれたか、この映画の描写が垣間見せてくれます。国が起こした戦争に駆り出され、国や家族を守ろうと戦ったのはどの国の国民も同じはず。妻の必死の訴えに男たちが口をつぐむ場面に「よく言った!」と拍手したくなりました。トラウトマンの真摯な態度、GK(ゴールキーパー)としての卓抜した技能があってこそですが。
サッカーはどんなに攻撃が上手くても、そのボールをゴール前で止められたら得点できません。スポーツ観戦はほとんどしないのに、唯一熱心に観た2002年のFIFAワールドカップを思い出しました。日本と韓国が合同開催し日本は16強に入って敗退しましたが、ドイツとブラジルが勝ち上がり、ドイツのGKだったオリバー・カーンのにわかファンになったものです。以来GKびいき。
戦後の辛い時期に、鉄壁のGKを得た「マンチェスター・シティFC」とファンがどんなに熱狂したか、想像に難くありません。生活そのものではない娯楽が、人々を癒し元気づけること…この時期に観るとよけいに胸に響きます。(白)


「ドイツ人は友達の命を奪った」というマーガレットに、トラウトは「戦うより君と踊りたかった。でも選べなかった」と答える場面がありました。誰しも、自ら好んで戦争に加担したくないけれど、国家という枠組みの中にいる限り逃れられません。
人は被害にあったことは語るけれど、自分の加害については語れないのが常。ましてや、地獄を味わった人は、それが一生人に言えないまま胸に突き刺さっているのです。日本でも、実戦で地獄を見た人は多くを語りません。戦争においては加害者もまた被害者と言えるでしょう。
トラウトマンは、ユダヤ教のラビが、「直接加担してない人間までも罰すれば、我々も加害者になる」と声明を出してくれて救われます。「許すより憎むほうが簡単」「罪は消えないけれど、許すことはできる」という言葉が心に残りました。
ところで、トラウトマンが近所の子どもたちとサッカーに興じていた頃に、キーパーというポジションを選んだのは、実は自分の意志ではなかったというエピソードが出てきました。戦争に加担したのも自分の意志ではなかったことを考えると、面白い運命です。(咲)



2018年/イギリス・ドイツ/英語・ドイツ語/119分/スコープ/カラー/5.1ch
配給:松竹
ⓒ2018 Lieblingsfilm & Zephyr Films Trautmann
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/keeper/
★2020年10月23日(金)新宿ピカデリーほか全国公開



posted by ほりきみき at 00:03| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください