2020年10月08日
異端の鳥(原題:The Painted Bird )
監督・脚本:ヴァーツラフ・マルホウル
原作:イェジー・コシンスキ「ペインティッド・バード」
出演:ペトル・コラール、ステラン・スカルスガルド、ハーヴェイ・カイテル、ジュリアン・サンズ、バリー・ペッパー、ウド・キアー
東欧のどこか。ホロコーストを逃れて疎開した少年(ペトル・コトラール)は、預かり先である一人暮らしの叔母が病死した上に火事で叔母の家が消失したことで、身寄りをなくし一人で旅に出ることになってしまう。行く先々で彼を異物とみなす周囲の人間たちの酷い仕打ちに遭いながらも、彼はなんとか生き延びようと必死でもがき続ける。
地面に埋められ、頭部だけ出ている少年とカラス。モノクロのビジュアルは一見、不気味ですが、カラスを見据える少年の眼差しに引き込まれます。このシーンも作中にありますが、タイトルにある「鳥」はこのカラスではありません。鳥を飼う男性が小鳥の羽にペンキを塗って群れに放ったエピソードに由来します。原作はポーランドの作家イェジー・コシンスキが1965年に発表した代表作『ペインティッド・バード(初版邦題:異端の鳥)』で、その題名を知ると納得できると思います。
少年はナチスのユダヤ人迫害から逃れるために田舎の親戚に預けられました。しかし親戚が亡くなって居場所を失い、行く当てもなく放浪する先々で差別や迫害、虐待を受けます。ただ、辛い境遇に苦しむのは少年だけではありません。極限における人間の本性が醜いほどむき出しにされ、虫けら同様に扱われる人々が淡々と映し出されます。思わず目を覆いたくなる場面もありました。
時代的背景は第二次世界大戦末期ですが、現在の世界でも同じようなことが繰り広げられています。余裕のなさが人を追い詰めるのでしょう。みなが幸せになるためにはどうしたらいいのか。作品ではラストに少年がある人物の受けた苦しみに気がつき、人間的な心を取り戻します。そこで初めて、音楽が使用されました。周りに目を向ける余裕が生まれれば、希望は見えてくるという監督の思いが伝わってきます。(堀)
映画化を知って原作を先に読んでいました。350pほどの厚い本で、過酷な状況下での人間の本能や浅ましさ、おぞましさがこれでもかとばかりに書かれています。その中に放り出されて、様々な苦難に遭う少年が痛ましく(孫と同い年)、好転してくれと願いなら読み進めました。
映画はモノクロで台詞も少なく、「カラーだと生々しくなる。モノクロで良かった」と思ったものの、冷徹な視線と不条理な出来事が変わるわけではありません。ほんの少し挟まれる暖かなやりとりに救われながらも、ラストまで緊張が途切れませんでした。
鳥飼の男に”色を塗られた鳥=The Painted Bird”が空に放たれるシーンがあります。集まったほかの鳥たちに攻撃され、ボロボロになって落ちてきた鳥を少年が拾い上げます。物語の序盤、これからの艱難辛苦を暗示しているようなシーンでした。2年をかけた順撮りの撮影は、少年の成長をそのままに映し出して、最初の幼い顔立ちが終わりにはすっかり変わっているのが見てとれました。(白)
メディア擦れしていない少年の瞳、彼を襲う凄惨な差別と虐待、暴力… 。が、35mm白黒フィルムが醸す艶やかで端正な映像、シネマスコープの画角から終始、目が釘付けになる169分である。テンポの良いカット編集、小道具、衣装と意匠の質感の高さにより、一瞬たりとも飽きさせない秀作を生み出したチェコ出身のバーツラフ・マルホウル監督に尊敬の念を禁じ得ない。異質のものを排除しようとする人間たちの残虐性は、ナチスの優生政策や第二次世界大戦下の抑圧だけではなく、現代にも通底する普遍性を獲得し得た。安易なカタルシスを呼び起こすような安い音楽を排除した静謐さが、観客を豊かな世界へと導いてくれる。(幸)
2018年/チェコ・スロヴァキア・ウクライナ合作/スラヴィック・エスペラント語、ドイツ語ほか/169分/シネスコ/DCP/モノクロ/5.1ch/
配給:トランスフォーマー
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公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/itannotori/
★2020年10月9日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー
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