2020年08月30日
行き止まりの世界に生まれて(原題:MINDING THE GAP)
監督・製作・撮影・編集:ビン・リュー
出演:キアー・ジョンソン、ザック・マリガン、ビン・リューほか
「全米で最も惨めな町」イリノイ州ロックフォードに暮らすキアー、ザック、ビンの3人は貧しく暴力的な家庭から逃れるようにスケートボードにのめり込んでいた。スケート仲間は彼らにとっての唯一の居場所で、もう一つの家族だった。そんな彼らも大人になるにつれ、さまざまな現実に直面し段々と道を違えていく。カメラは、明るく見える彼らの暗い過去、葛藤を抱える彼らの思わぬ一面を露わにしていく――。
大統領選挙で注目された”ラストベルト(錆付いた工業地帯)”に住むスケートボーダー3人の日々。この試写の前日に、ジョナ・ヒルの初監督作『mid90s ミッドナインティーズ』を観たばかりでした。あちらは思い出を元にしたロサンゼルスが舞台のフィクション、こちらは仲間の一人ビンが監督になって撮られたドキュメンタリー。それでもスケボー仲間とつるむ彼らはとても似ていました。大きく違うのは今もキアーとザックが貧困と閉塞感の中にあり、それはたぶんラストベルトの多くの住民に共通しているだろうということです。
それでも我が子を見守るザックや、必死で働くキアーの真面目さに希望を感じます。少なくとも彼らは生きていて、生きることを諦めていないから。3人が遮るもののない道路をスケボーで疾走していくシーンが爽快。(白)
仲良くスケボーしながらつるむ3人ですが、キアーはアフリカ系アメリカ人、ザックは白人、カメラを回すビンはアジア系と、肌の色が違います。今でこそ、産業が廃れて”ラストベルト(錆付いた工業地帯)”と呼ばれていますが、20世紀初めから1970年代ごろまでは、「工場ベルト」「鉄鋼ベルト」「産業ベルト」と称され繁栄していた地区。人手不足を補うため、南部からアフリカ系の人たちも多くやってきましたが、南部のような人種差別意識も薄く、皆が中流として友情を育む土壌ができたのだそうです。
10代のビンが、自分たちのスケートを記録する意味で撮り始めたビデオでしたが、やがてカメラはそれぞれの内面にも迫っていきます。12年間にわたる3人の成長の記録ともいえる作品。スケボーは現実逃避だったかもしれないけれど、夢中になれるものがあるって素晴らしい。(咲)
『行き止まりの世界に生まれて』というタイトルにあるように、かつては活気があったけど、今はすっかり産業がさびれ閉塞感のあるロックフォードという街に暮らす少年たち。スケボーを通じて育んだ友情。それを12年に渡って撮り続けたビン・リュー監督。撮り始めた時はそれを映画にするというような目的はなかったのだろうけど、それだからこその少年たちの素顔。撮りためたものを映画にしてみたら、小さな街の少年たちの姿の中に、アメリカが抱えている今日的な問題(地方の不景気、家庭内暴力、崩壊した家庭、貧困、人種問題など)が浮き上がってきた。そんな中で居場所を求めて、もがく少年たち。アメリカの繁栄から取り残されたような地方に住む、同じような家庭の悩みを抱えつつ集う少年たち。そんな中で人種を超えた友情と、小さな居場所をみつけた少年たちの姿に少し希望を感じ、ホロっとする。身近な仲間たちを撮ったドキュメンタリーだけど、アメリカのこの12年をも映し出す(暁)。
舞台となったロックフォードはラストベルトに位置し、産業が斜陽化して寂れた町。住むところ、食べる物もあるけれど、未来に希望が持てない。大人の鬱積した思いが理不尽な家庭内暴力として子どもに向けられている。登場する3人の少年たちは閉塞感が淀む環境から解き放たれようとスケートボードで疾走する。ラストの滑走はカメラを回す監督のビン自身がスケートボードに乗っているのだろう。臨場感あふれ、そのままスクリーンから飛び出してしまいそうだ。
ところで、アメリカの作品にはスケートボードがよく登場する。自己逃避だったり、アイデンティティの発露だったり。スケートボードが象徴することは多分、みんな同じ。では、日本の子どもたちは何でそういうことをしているのだろう? 鬱憤をため込まずに発散できるものがあればいいのだが。。。(堀)
2020年/アメリカ/カラー/93分
配給:ビターズ・エンド
© 2018 Minding the Gap LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:http://www.bitters.co.jp/ikidomari/
★2020年9月4日(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー!
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください