2019年09月21日
ホテル・ムンバイ(原題:HOTEL MUMBAI)
監督:アンソニー・マラス
出演:デヴ・パテル、アーミー・ハマー、ナザニン・ボニアディ、アヌパム・カー、ジェイソン・アイザックス
インドの巨大都市ムンバイに、臨月の妻と幼い娘と暮らす青年アルジュン(デヴ・パテル)は、街の象徴でもある五つ星ホテルの従業員であることに誇りを感じていた。この日も、いつも通りのホテルの光景だったが、武装したテロリスト集団がホテルを占拠し、“楽園”は一瞬にして崩壊する。500人以上の宿泊客と従業員を、無慈悲な銃弾が襲う中、テロ殲滅部隊が到着するまでに数日かかるという絶望的な報せが届く。アルジュンら従業員は、「ここが私の家です」とホテルに残り、宿泊客を救う道を選ぶ。一方、赤ん坊を部屋に取り残されたアメリカ人建築家デヴィッド(アーミー・ハマー)は、ある命がけの決断をする。
本作は2008年にムンバイで起きた無差別同時多発テロをアンソニー・マラス監督が1年に及ぶ綿密な取材を基に、ホテルの従業員、宿泊客、テロリストの視点で描いた。
目の前に大きく広がるスクリーンでテロリストたちが容赦なく人々を殺戮していく。逃げまどう宿泊客の不安と恐怖がダイレクトに伝わってきた。テロの恐ろしさを実感に近い感覚で経験した気がする。作品を見終わったとき、疲労感しかなかった。
しかし、実行犯に対して、なぜか批判的な気持ちにはなれなかった。彼らもまた、安全な場所から携帯電話1つで指示を出すリーダーたちに利用された被害者であった側面も描いていたからである。
そんな悲劇的状況下で、ホテルの従業員たちは逃げ出さずに宿泊客を守った。500人以上の人々がテロに巻き込まれたが、亡くなったのは32人で、その半数は宿泊客を守るために残った従業員だったという。彼らのホテルマンとしての矜持に、武力ではなく思いやる心で国や民族を超えた平和をもたらすことができるという希望がまだあると感じた。
疲れることを覚悟した上で、ぜひご覧いただきたい。(堀)
2008年11月26日夜にインド・ムンバイで高級ホテル、駅、レストランなどが襲撃された同時多発テロ。本作の前に、フランス映画『パレス・ダウン』(ニコラ・サーダ監督)でも、父親の転勤でインドにやってきた少女がタージマハル・ホテルの部屋で留守番をしている時にテロに遭遇するという形で取り上げられていた。『パレス・ダウン』は、2016年のフランス映画祭で上映され、その後「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2016」で限定公開されている。その折に、大学の後輩男性から、テロの起こるほんの1時間程前までタージマハル・ホテルで打ち合わせをしていたと聞かされた。まさに私たちはどこでテロに遭うかわからない時代に生きているのだと思う。
本作で私が注目したのは、イラン生まれで、英国で育ち、今はアメリカを中心に活躍する女優ナザニン・ボニアディ。大富豪カシャーニー家のお嬢様ザーラ役で、アーミー・ハマー演じるアメリカ人建築家デヴィッドと出来ちゃった結婚し、赤ちゃんとベビーシッターを伴ってタージマハル・ホテルに超VIP待遇で迎えられる。
カシャーニーというイラン系の名前からして、パールシー(7世紀、イランにイスラームが侵攻した折に、イランからインドに逃れたゾロアスター教徒)の子孫かなと想像。ある場面でそうでないことが判明。無垢な若者たちが宗教の名のもとに洗脳され、テロの片棒を担いでいるのがわかる重要な場面でもあるので、お見逃しなく!
なお、タージマハルホテルの創業者ジャムシェトジー・タタもパールシーで、タタ財閥はインド最大の財閥である。
また、主人公のホテル従業員アルジュンは、シク教徒という設定。髭とターバン姿が不安という宿泊客のイギリスの老婦人に、「シク教徒にとってパグリーと呼ぶターバンは、一族の名誉を守る高潔なものだけれど、お客様が怖いならはずします」と語る場面がある。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロの後、アメリカ国内でターバン姿のシク教徒がイスラーム教徒と間違えられ嫌がらせを受けたことにも思いが至った。(咲)
2018年/オーストラリア、アメリカ、インド合作/英語/123分/カラー/シネスコ
配給:ギャガ
© 2018 HOTEL MUMBAI PTY LTD, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM CORPORATION, ADELAIDE FILM FESTIVAL AND SCREENWEST INC
公式サイト:https://gaga.ne.jp/hotelmumbai/
★2019年9月27日(金)TOHOシネマズ 日比谷 他 全国ロードショー
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