2022年07月08日

戦争と女の顔(原題:Dylda)

 
戦争と女の顔.jpg

監督・脚本:カンテミール・バラーゴフ
共同脚本:アレクサンドル・チェレホフ
原案:『戦争は女の顔をしていない』スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ, 三浦みどり 訳(岩波現代文庫)
音楽:エフゲニー・ガルペリン
撮影:クセニア・セレダ
出演:ヴィクトリア・ミロシニチェンコ、ヴァシリサ・ペレリギナ、アンドレイ・ヴァイコフ、イーゴリ・シローコフ

1945年、終戦直後のレニングラード。第二次世界大戦の独ソ戦により、街は荒廃し、建物は取り壊され、市民は心身ともにボロボロになっていた。史上最悪の包囲戦が終わったものの、残された残骸の中で生と死の戦いは続いていた。多くの傷病軍人が収容された病院で働く看護師のイーヤ(ヴィクトリア・ミロシニチェンコ)は、PTSDを抱えながら働き、パーシュカという子供を育てていた。しかし、後遺症の発作のせいでその子供を失ってしまった。そこに子供の本当の母であり、戦友のマーシャ(ヴァシリサ・ペレリギナ)が戦地から帰還する。彼女もまた後遺症や戦傷を抱えながらも、二人の若き女性イーヤとマーシャは、廃墟の中で自分たちの生活を再建するための闘いに意味と希望を見いだすが...。

30歳を過ぎたばかりのカンテミール・バラーゴフ監督がノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチのデビュー作『戦争は女の顔をしていない』を原案に、戦後の女性の運命をテーマに脚本を書いた。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でプレミア上映され、国際映画批評家連盟賞と監督賞をダブル受賞したほか、50を超える世界各国の多くの映画祭で上映、30を超える映画賞を受賞している。バラク・オバマ元米大統領が年間ベストに選出したことでも話題になった。日本では『戦争は女の顔をしていない』が書籍だけでなく、コミックとしても販売されている。
主人公であるイーヤとマーシャはスナイパーとして従軍していたとのこと。「現代ならともかく、第二次世界大戦で女性がスナイパー?」と思うかもしれない。調べたところ、ソ連では第二次世界大戦時に多くの女性兵士が男性同様に前線で戦っており、リュドミラ・パヴリチェンコは309人を狙撃したと記録に残っている。女性のスナイパーは決してフィクションではない。
イーヤとマーシャは2人とも戦争による後遺症を抱えており、イーヤが看護師として働く病院には多くの傷病軍人が収容されている。戦争は勝っても負けても心や体に大きな傷を残すのだ。しかもマーシャは戦後になっても戦場に行っていない同胞の女性から侮蔑的な扱いを受けた。マーシャの心の痛みはいかばかりか。反戦を訴える監督の強い意志が全編から伝わってきた。(堀)


冒頭、何を思い出すのか、茫然と立ち尽くす背の高い女性イーヤ。傷病軍人が多く入院する病院で看護師として働くイーヤは、彼女自身、戦場を経験していて、その記憶に苛まされているのです。幼い男の子パーシュカを一人で育てているイーヤに、院長は「死者が出たので、その分の食糧を坊やのために」と配慮してくれます。
やがて戦地からマーシャという女性が帰還して、彼女がパーシュカの生みの母で、なぜイーヤが代わりに育てていたのかを観ている者は知ることになります。
我が子が亡くなったことを知ったマーシャが、心を癒すためにどうしても子どもが欲しいと画策するのですが、これがもう凄い展開。(ぜひ劇場でご確認ください。)

英題『Beanpole』は、「のっぽさん」という意味。背の高いイーヤは、親友マーシャからも傷病兵たちからも、のっぽさんと親しまれています。病院の台所で働く年配の男性から、「イーヤはギリシャ語でスミレという意味だよ」と聞かされます。まさにスミレのように純粋なイーヤ。ナンパされ、相手の男の腕をへし折るほど純なのです。親友マーシャのことが大好きで、マーシャにつきまとうウブな男サーシャが疎ましくて追い払おうとします。
戦地で壮絶な経験をしたイーヤとマーシャが深い絆で結ばれ、なんとか生き抜こうとする姿が描かれているのですが、一方で、戦地から生還したものの、首から下が不随になってしまい、家族の重荷になるから死にたいという男性の姿も本作では描かれています。1945年を舞台にした物語ですが、今も世界各地で戦争の犠牲になる人が後を絶ちません。民間人だけでなく、お国のためにと否応なく戦地に行かされる兵士も犠牲者であることを、本作はずっしりと伝えてくれます。皆が平穏に暮らせる世界はいつ実現するのでしょう・・・ (咲)


ロシア/ロシア語/2019年/137分/DCP/カラー/字幕翻訳:田沼令子/ロシア語監修:福田和代/PG12
配給:アットエンタテインメント
(C) Non-Stop Production, LLC, 2019
公式サイト:https://dyldajp.com/
★2022年7月15日(金)、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ピカデリーほか、全国順次ロードショー

posted by ほりきみき at 23:42| Comment(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください