2022年11月06日

あちらにいる鬼

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監督:廣木隆一
脚本:荒井晴彦
原作:井上荒野「あちらにいる鬼」(朝日文庫)
出演:寺島しのぶ 豊川悦司/広末涼子

「髪を洗ってやるよ」。
それは、男と女でいられる最後の夜のことだった。
1966年、講演旅行をきっかけに出会った長内みはると白木篤郎は、それぞれに妻子やパートナーがありながら男女の仲となる。もうすぐ第二子が誕生するという時にもみはるの元へ通う篤郎だが、自宅では幼い娘を可愛がり、妻・笙子の手料理を絶賛する。奔放で嘘つきな篤郎にのめり込むみはる、全てを承知しながらも心乱すことのない笙子。緊張をはらむ共犯とも連帯ともいうべき 3 人の関係性が生まれる中、みはるが突然、篤郎に告げた。「わたし、出家しようと思うの」。

2021年11月9日、満99歳で波乱の生涯を閉じた作家・僧侶の瀬戸内寂聴。人生を楽しむことに長け、歯に衣着せぬ発言に多くの女性が心酔してきた。そんな寂聴もかつては奔放な恋愛に生きていた。
本作は寂聴に出家を決意させることとなったある恋愛をモデルにした書かれた小説が原作である。しかもその原作を書いたのが寂聴の不倫相手の娘だという。“書く”ということの業を感じずにはいられない。
しかし、作品を見るとどろどろした感じはない。むしろ主人公と不倫相手の妻の2人の女性は清々しささえある。主人公・みはる、のちの寂光に寺島しのぶ、白木の妻・笙子を広末涼子が演じているからだろうか。そして、2人の間にいる白木篤郎に豊川悦司。嘘ばかりつき、クズな男だが豊川悦司が演じることで、色気の中に無邪気さが垣間見え、許せてしまうから不思議だ。3人の奇妙なトライアングルを濃密な人間ドラマとして紡いだ荒井晴彦の脚本と廣木隆一監督の演出の手腕によるところも大きいだろう。
2022年5月に公開された『瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと』と併せてみることで、瀬戸内寂聴の嫋やかさがより理解できるのではないだろうか。(堀)


自由奔放に生き、不倫関係を断つために出家して瀬戸内晴美から瀬戸内寂聴となった頃、散々、テレビや週刊誌で取り沙汰されていて、彼女の生き様が否が応でも耳に入ってきたものです。それを不倫相手の小説家の娘さんである井上荒野が小説にしたということに驚かされます。広末涼子演じた白木の妻・笙子は、自身の母。不倫相手に凛として接する姿が潔いのですが、それが娘から見た母なのでしょう。そして、井上荒野が瀬戸内寂聴と長い間交流があったということにも、面白い縁を感じます。
寂聴さんは、映画をとても楽しみにされていたそうですが、残念ながら完成を待たずに旅立たれました。ご覧になったら、どんな感想を発したでしょう。(咲)



2022年/139分/R15+/日本
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022 「あちらにいる鬼」製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/achira-oni/
★2022年11月11日(土)ロードショー
posted by ほりきみき at 15:08| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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