2025年10月22日
大地に詩を書くように 原題:땅에 쓰는 시(地に書く詩) 英題:Poetry on Land
監督:チョン・ダウン
出演:チョン・ヨンソン
韓国的な景観の未来を描き続ける造景家チョン・ヨンソン。
彼女の仕事は、単なる緑化にとどまらず、その土地の歴史、記憶、そして生態系と丁寧に向き合いながら、未来へと繋ぐ場をつくる作業である。
1970年代から現在に至るまで韓国各地の空間に“韓国的な美”を息づかせてきた彼女と共に四季を過ごしながら、彼女がどのように「人間」「空間」「自然」の関係を見つめているのか、その哲学に迫り、人類がより深く考えるべき「自然と人間の調和」について紐解いていくーー
2023年に造景界の最高栄誉賞と呼ばれる国際造園家連盟(IFLA)「ジェフリー・ジェリコ賞」を受賞したチョン・ヨンソン(1941年生まれ 84歳)は「こどもたちに病んだ地球を残してはいけない。何よりも草や土 一株の花や木 そして鳥や蝶 全ての自然を慈しむそんな精神をはぐくむことーそれが私の願いです」と挨拶の言葉を述べました。未来を見据えながら地球環境を美しく健康に守り育てていくのが造景家の仕事ですとも語っています。
チョン・ヨンソンさんの手がけた都心の中のオアシス「仙遊島公園」、韓国初の生態系公園「汝矣島セッカン生態系公園」、過去と現在をつなぐ「京春線・線路跡の林道」、そして、ソウルにある「峨山(アサン)病院」を四季の移ろいとともに紹介します。健脚な彼女はスタスタ、トットトットと軽快に歩き回り、自宅の周りの草花に声をかけながら手入れをしています。祖父の果樹園で子どものころから自然に親しみ、見る目も育っていたようです。詩人になるかと思われるほど文才があったそうですが、造園の道に進みました。
庭園を造るにとどまらず、その土地の特質、自生する植物、遠景や未来まで考慮に入れて「造景」していきます。人の手で大きく変化させるのではなく、そこの自然の良さを生かし、洪水など災害も予測しながら防護の方法も考えます。でもそれがあからさまではありません。ターシャ・チューダーさんを思い出しますが、ヨンソンさんの目は家族だけではなくもっと大きなもの、自分の住む国や地球の未来まで見ていました。
戦争で命や暮らしを脅かしている人がこんな目を持ったなら、争いは減るでしょうに。そもそも争いは起こしません。冒頭の映像に乗せていたナバホ族(アメリカ南西部の先住民)の歌をご紹介します。
撮影のクレジットが読めませんが、映像が素敵で旅した気分になります。(白)
正面の美とともに私は歩く
背後の美とともに私は歩く
頭上の美とともに私は歩く
足元の美とともに私は歩く
美の足跡を追って私は歩く
美しさとともに永遠に囲まれる
老いに至っても私は歩く
美の道をさまよいながら
私は生き生きと歩むだろう
美の道をさまよいながら
再び生きるだろう
私はそこを歩く
私の詩は
美の中を歩んでいくだろう
(ナバホ族の歌)
ヨンソンさんの口癖は、「道理に従う」「気楽でいる」だそうです。自然を最大限に生かした造園。境界を不透明にして、人工的なものでなく、自然と繋がったもの。目指したのは韓国らしさのある景観でした。建物と自然が一体となるような造園。一方、病院では、患者や医師・看護士たちが病院の見えないところで自然に包まれた環境で泣けるようにとの配慮も。
韓国原産の草花で溢れるやさしい景観。その美しさを保つには手入れも大変そうです。ヨンソンさんご自身は、毎朝3時間、自宅の庭の草を抜きながら草花に語り掛けています。草ぼうぼうの我が家の庭を眺めながら、ヨンソンさんを見習わなければと! (咲)
「造景家」という言葉を初めて聞いた。「造園家」と、どう違うのだろうと思い、調べてみたが、韓国では「造景家」というのだそう。空間、自然、人間をつなぐのが仕事と彼女は語る。単なる緑化ではなく、歴史や生態系にも向き合い、元の景色を生かしつつ「自然と人間の調和」、そして未来へつなぐという、彼女の思いのつまった仕事を見せてくれた。これを観て、日本の景色のことを考えた。人工的な造園、自然と調和した景色。日本にも様々な景色があると思いながら、この映画を観た。
この映画を観ながら思い出したのは「六花の森」のこと。山岳画家・坂本直行さんが六花亭の包装紙に描いた北海道の山野草は、きっと日本中の人が知っていると思うけど、その山野草を実際に見ることができる庭園が北海道中札内村にある。この園内を歩きまわった時は何も造景のことは考えなかったけど、この映画を観て、ここの造景を考えた人は、きっとチョン・ヨンソンさんと同じ思いを持った人が作ったんだろうなと思った。皆さんもぜひ行ってみて(暁)。
六花亭の包装紙に描かれた山野草の森「六花の森」
2024年/韓国/カラー/113分/ドキュメンタリー
配給:スモモ
(C)2024 GIRAFFE PICTURES
https://www.sumomo-inc.com/poetryonland
★2025年10月25日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください


