監督:T・J・ニャーナヴェール
出演:ラジニカーント、アミターブ・バッチャン、ファハド・ファーシル、ラーナー・ダッグバーティ、マンジュ・ワーリヤル、リティカー・シン、ドゥシャーラー・ヴィジャヤン、キショールほか
インド最南端のカンニヤクマリ県で勤務するアディヤン警視(ラジニカーント)。彼は、凶悪犯罪の捜査の場で、抵抗し反撃してくる犯罪者をその場で仕留める「エンカウンター」(*注)をしばしば行い、“ハンター(狩人)”の異名をとる血気盛んな名物警察官。
ある日、小学校の女性教師サランニャ(ドゥシャーラー・ヴィジャヤン)から、学校が麻薬の保管庫として使われているという手紙を受け取る。アディヤンは、「バッテリー」と呼んでいる手下のパトリック(ファハド・ファーシル)を学校に忍びこませ、麻薬密売組織の仕業とつきとめ、首謀者を射殺する。通報したサランニャはチェンナイの学校に栄転となるが、ほどなく学内でレイプされ殺されてしまう。チェンナイ警察の警視ハリーシュ・クマール(キショール)と女性の警視補ルーパー(リティカー・シン)が捜査に当たり、グナー(アサル・コラール)というデジタル機材を学校に納入していてサランニャと接点があった男を犯人と目して逮捕する。ところがグナーが逃亡してしまい、警視総監はアディヤンに協力を求め、エンカウンターの許可も与える。アディヤンは、港で船に潜んでいたグナーを射殺する。ところが、このことに対し、人権擁護派の判事サティヤデーヴ(アミターブ・バッチャン)が、グナーは無実だとして、アディヤンのエンカウンターには人権上問題があると指摘する。再捜査の結果、アディヤンは真犯人の背後にナトラージというオンラインの教育システムを運営している男がいることを突き止める・・・
*注
エンカウンターとは何か。英語のencounterは「遭遇・出会い」を表わす単語だが、インド・パキスタンなど南アジアでのみ特殊な意味で使われている。警察官が凶悪犯などに対して逮捕・起訴・裁判などの手続きをすべてまたは一部省略して射殺することを意味する。日本には決まった訳語がなく、厳密には「警察官による超法規的処刑」とでもいうべきものだが、本作の字幕では簡潔に「特例射殺」とした。
エンカウンターには幾つかのパターンがある。一つめは、いわゆる「手入れ」に近いもので、犯罪者のアジトに突入して一網打尽の逮捕を試み、反撃・逃亡する者を射殺するケース。本作ではアディヤンの初登場シーンがそれにあたる。二つめは、凶悪犯罪の現場で反撃・逃亡する犯人を射殺するケース。本作では船上のシーンがそれにあたる。三つめは、武装解除され手錠をかけられるなどして無抵抗状態の被疑者を射殺し、その場にいた警察官全員で口裏を合わせて正当防衛での射殺ということにしてしまうもので、これをフェイク・エンカウンターという。本作中では、冒頭の手入れで取り逃がしたギャングを仕留めるシーンがそれにあたる。偽装銃撃と訳されることもあるフェイク・エンカウンターは余りにもしばしば起きるため、エンカウンターというだけでこのタイプの射殺を意味するまでになってしまっている。
20世紀後半のムンバイで警察がギャングを急襲することをそう呼んだことから定着したとされるエンカウンターだが、これまでに枚挙に暇がないほどに多発しており、幾度ものエンカウンターで華々しい“成果”をあげた警察官は、エンカウンター・スペシャリストとして英雄視されることが多い。サティヤデーヴが警察大学校で講義する際にスライドに映し出す4人の警察官は、ラジニが演じるアディヤン以外は実在の人物。エンカウンターを行う警察官は、娯楽映画の中ではほとんどの場合、英雄的なキャラクターとして描かれる。(公式サイトより)
冒頭、警察学校で「法による人権の保障」についてレクチャーする判事のサティヤデーヴを演じたアミターブ・バッチャンが、渋くて、貫禄があって、とにかく素敵すぎました。講義の内容もまた、記憶に留めたいものでした。「イギリス人は貿易のためにインドへ来たが、支配して富を略奪した。これは真実だ。それより前、君主制の時代、正義は平等なものではなかった。教育を受けられない者も多かった。(中略) ボンベイで30年判事を務めてきた。金や権威やカーストや宗教という外見に偏見は潜んでいる」
続いて、凶悪犯に対して、逮捕・起訴・裁判などの手続きを省略して、警察官が犯罪現場で射殺する特例射殺「エンカウンター」で英雄視されている4人の警官の写真をあげて、「エンカウンター」の是非を問う姿も実にカッコよかったです。
本作では、犯人と信じ込んで射殺してしまったグナーが、実は犯人ではなかったと知ったアディヤンが自責の念で真犯人追及に奔走するのですが、大スターで、ヒーローのイメージのラジニカーントが違う姿を見せていることが意外でした。
後半、真犯人の背後にオンラインの教育システムを運営するナトラージという男が浮上しますが、この男は、塾などにお金をかけられるお金持ちしか良い大学にいけないことに目を付け、比較的、安い値段のオンラインシステムを低所得者層に売りつけています。インドの教育事情にも踏み込んだ監督。ちょっと盛り込み過ぎな感も! (咲)
2024 年/インド/タミル語/161 分
字幕:大西美保・監修:小尾 淳
配給:SPACEBOX
公式サイト:https://spaceboxjapan.jp/vettaiyan/
★2025年9月5日(金)より全国ロードショー


