2025年07月06日

黒川の女たち

2025年7月12日(土)からユーロスペース、新宿ピカデリー、池袋シネマ・ロサ、キノシネマ 立川髙島屋S.C.館、MOVIX昭島、CINEMA Chupki TABATAで公開 その他劇場公開情報 
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(c)テレビ朝日

なかったことにはできない
満州にいる時より帰国してからの方が悲しかった


監督:松原文枝
語り:大竹しのぶ
出演 黒川地区の皆さま

今から10年ほど前、敗戦直後の満洲で起きた性暴力の実態を佐藤ハルエ、安江善子が自ら告白した。
80年以上前の戦時下、国策の満蒙開拓により満州に渡った岐阜県白川の黒川開拓団員は650人余。5年満州で生活した。日本の敗戦が色濃くなる中、1945年8月9日ソ連軍が突然満洲に侵攻。守ってくれるはずの関東軍はすでに去り、満蒙開拓団は過酷な状況に。集団自決した開拓団や、避難する途中で亡くなった人も。
敗戦後はソ連兵や、抑圧してきた中国人から襲撃を受け、黒川開拓団は日本に帰るため敵であるソ連軍に助けを求めた。しかしその見返りは女性たちによる接待だった。差し出された女性は15人。数えで18歳以上の未婚女性が犠牲になり性の相手をさせられた。そして4人の乙女たちが亡くなった。
性接待の犠牲を払ったが、敗戦から1年、黒川開拓団の人々は451人が帰国できた。しかし、帰国した女性たちを待っていたのは労いではなく、差別と偏見の目、そして誹謗中傷。同情から口を塞ぐ人々。込み上げる怒りと恐怖を抑え、身をひそめる女性たち。身も心も傷を負った女性たちの声はかき消され、この事実は長年伏せられてきた。二重の苦しみに追い込まれ、故郷を離れ他の土地で酪農を始めたり、東京に行った人も。それぞれ思いを抱えていたが、その思いを口にすることなく、時に、犠牲にあった女性たちのみで集まり、涙をこぼした。
だが、黒川の女性たちは、犠牲の史実を封印させないため「なかったことにはできない」と手を携えた。2013年に満蒙開拓平和記念館で行われた「語り部の会」で、佐藤ハルエさんと安江善子さんが、満州で性暴力にあったことを公の場で語った。彼女たちの勇気ある告白に、今度は、世代を超えて女性たちが連帯した。
安江善子さんが中心になり募金を募り、1982年、黒川の鎮守の森に満州で亡くなった4人の女性を供養するため「乙女の碑」が建てられたが、お地蔵さんが鎮座するだけで説明はなかった。戦後70余年、2018年に、彼女たちの犠牲を史実として残す碑文が「乙女の碑」の脇に建てられ、その歴史が刻まれた。過去に向き合うこと、それは尊厳の回復にもつながった。

27万人も満州に渡った満蒙開拓団。1945年(昭和45年)8月9日にソ連は満州に侵攻したが、開拓団を守るはずの関東軍はすでに撤退していたという。『森川和代が生きた旧「満州」、その時代』という本の中にも「関東軍と共に行動した友人は、すぐに日本に帰っていたということを、後で知った」という文章があったが、関東軍だけでなく一緒に行動した人たちは難なく帰ってきていた。そんなことは知る由もない、ほとんどの満蒙開拓団の人たちの、その後の苦労、困難、災難は、いくつもの映画でも出てきたし、たくさんの本に残されている。この作品では、その困難の最中の、ソ連軍への性接待について描いているが、ドキュメンタリー映画で描かれたのは初めてのことだったのではないだろうか。性接待だけでなく、ソ連兵によるレイプの数々は、いろいろな話や映画、本で知っている。舞鶴の「引揚記念館」の展示の中にも、そういう展示や検疫所とともに堕胎の場所もあったことが示されていた。
世界のあちこちで戦争がおき、きな臭い世の中になっているので、また、世界大戦が始まってしまうのではないかという心配も出てきている。若者の中に寛容の心が少なくなっているように感じる。外国人に対して排他的な言動をよく聞く。2度と黒川の女性たちのようなことが起こらないよう、また、生存者が残り少なくなっているので、当時の話の伝承をしていくことが大事ですね(暁)。


開拓団の文集に、手記を寄稿した女性が、勇気をもって性接待についても記述したのに、肝心の部分をばっさり削除して掲載されたという話が出てきました。編集にあたった男性は、「性接待にかかわったことを隠して結婚している人たちのことを思うと公表しないほうがいいと思った」と弁明しています。確かにそれも一理ありますが、若い女性たちを性接待に差し出した男たちの後ろめたさも感じます。
性接待をさせられた過去を明かした女性の方の長男が、「戦時中のことを反省しないまま終わっているのが日本。黒川開拓団はその縮図」と語っていたのが印象に残りました。 開拓団を見捨てた関東軍だけでなく、日本軍の功罪はあちこちから聞こえてくるのに、その実態はきちんと明かされていません。もし私たちが戦争に巻き込まれても、国が守ってくれるなどということは考えないほうがいいと思ってしまいます。
災害は忘れたころにやってくる… 戦争もまた然り。 経験者の思いを語り継ぎ、二の舞を踏まないようにしたいものです。(咲)



『黒川の女たち』公式サイト 
製作:テレビ朝日
配給:太秦
2025/日本/99分/ドキュメンタリー

シネマジャーナル 松原文枝監督インタビュー記事はこちら
posted by akemi at 20:56| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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