★2024年12月14日より ユーロスペースほか全国順次ロードショー
劇場情報
北海道の荘厳な大地で親から子へアイヌの文化を伝承する
監督・プロデューサー:福永壮志
プロデューサー:エリック・ニアリ
撮影:エリック・シライ
編集:出口景子 川上拓也
音楽:OKI
キャスト
天内重樹、天内愛香、天内基輝、天内芳樹
近年、アイヌを描いた映画がけっこう公開されている。今年(2024)はすでに、『カムイのうた』、『ゴールデンカムイ』、『シサㇺ』と3作品も公開され、『アイヌプリ』で4作目。ウポポイ(民族共生象徴空間)も、アイヌ文化復興・創造の拠点として2020年に開設され、アイヌの歴史や文化への関心が高まっていると言えるかも。
この作品は北海道白糠町で伝統的な鮭漁(マレㇷ゚漁)をはじめとしたアイヌ文化を継承し、日常生活の中で”アイヌプリ(アイヌ式)”を実践する人々を追ったドキュメンタリー。
白糠町に住む天内重樹(シゲ)は、現代人としての日々を過ごしながら、彼のやり方でアイヌプリを実践し、祖先から続く鹿狩りや、鮭を槍のような棒で突くマレㇷ゚漁の技法や文化を息子の基樹に伝えている。先祖と同じように山野からの恵みを食する生活も取り入れながら生活するシゲとその家族の日常を追い、自らのルーツを大事にしながら今を生きる彼らの姿に迫る。
監督は、デビュー作『リベリアの白い血』(15)でリベリアを描き、2作目の『アイヌモシリ』(20)で、阿寒湖のアイヌコタンで暮らす少年の成長を通して現代のアイヌ民族のリアルな姿を描いた福永壮志。「この『アイヌモシリ』の撮影の時にシゲさんと出会い、いつか映像に収めたいと思ったのがこの映画の始まりです。2019年から少しずつ、シゲさんとその家族、友達の日常を撮影させてもらいました」と語っている。『アイヌモシリ』で2020年トライベッカ映画祭インターナショナル・ナラティブ・コンペティション部門の審査員特別賞、『山女』(23)でTAMA映画祭最優秀新進監督賞を受賞。米ドラマ・シリーズ「SHOGUN 将軍」(ディズニープラス)では7話、「Tokyo Vice S2」の5話・6話の監督を務めた。『アイヌプリ』は第37回東京国際映画祭(2024)でも上映された。
アイヌの伝統楽器トンコリ演奏の第一人者OKIが音楽を手がけている。
去年(2023)『チロンヌㇷ゚カムイ イオマンテ(キタキツネの霊送り)』というドキュメンタリー作品を観た。これは、1986年に屈斜路湖を望む美幌峠で、75年ぶりに「チロンヌプカムイ イオマンテ」が行われ、それを記録したもの。狩猟民族であるアイヌ。動物は自らの肉や毛皮を土産にして人間の国へやって来るとされ、キタキツネを我が子のように育てる。そのキタキツネに祈りを捧げ、歌や踊りで喜ばせ、土産を背負わせて神の国へ送る「イオマンテ」を執り行っていた。それに至る作業、道具作りなどが映されていたが、その作業と同じ作業がこの作品の中でも出てきた。例えば、木の枝を削って、木の皮を花のような形にする作業や、踊りのシーンなど、地域は違っても、アイヌに古くから伝わる儀式が、ここでも記録されていた。シゲさんが何かの申請を何か所かに出していたが、それは鮭を採るための許可願いのようなものだった。そして彼はいう。まるで「ひさしを貸して母屋を取られた」ようなものというような表現をしていて、ほんとにそうだなと思いアイヌを抑圧してきた日本の政策を思った。アメリカのインディアンもそうだし、ハワイの原住民もそうだし、そういうことは世界各地の先住民に起こっている(暁)。
大お祖父ちゃんお祖母ちゃんの時代は、アイヌ語はしゃべっちゃいけない、お祖父さんお祖母さんの時代はしゃべれた。お母さんは単語しか知らない。そんなシゲさんは幼児期、イヌだ!とからかわれて、地元・白糠でアイヌの踊りを踊れなくなったという。それが、今では堂々とアイヌ民族であることを誇り、息子の基樹にアイヌプリを伝えています。基樹くんは、アイヌであることをカッコいいと言っていて、なんだか私も嬉しくなります。
鮭を頭を下にして持って、頭をポンと叩いて絶命させるのですが、「ごめんね」という基樹に、「ありがとうだよ」とシゲさん。あらゆるものにカムイ(神)が宿っていて、そのカムイへの感謝という次第。
アイヌは先住民族として認められたものの、奪われた土地については日本の法では言及されていません。「いきなり人の家に入ってきて、今日から俺ん家だけど、隅っこに住んでていいよというようなもんだ。水を使うのもいちいち許可を貰わないといけない」と、アイヌ伝統のマレク漁を毎年許可を取る時に嘆くシゲさん。こんな思いをしてまで伝統を守る人たちがいることに胸が熱くなりました。(咲)
2024年製作/82分/G/日本
配給:ナカチカピクチャーズ
公式サイト:https://ainupuri-movie.jp/
第37回東京国際映画祭 『アイヌプリ』Q&A
福永壮志監督と音楽担当のOKI
https://2024.tiff-jp.net/news/ja/?p=65000
シネマジャーナルでは、初監督作の『リベリアの白い血』で福永壮志監督にインタビューしています。記事はこちら
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