2024年10月13日

グレース   原題:Блажь Blazh

grace.jpg

監督・脚本:イリヤ・ポヴォロツキー 
撮影:ニコライ・ゼルドビッチ 
音楽:ザーカス・テプラ 
出演:マリア・ルキャノヴァ、ゲラ・チタヴァ、エルダル・サフィカノフ、クセニャ・クテポワ

ロシアの西端コーカサスから白海へ 
思春期の少女と父の移動映画館の赤いバンの旅路


岩山に流れる小川のほとり。10代半ばの少女が下着の汚れを落としている。彼女が戻った先には古びた赤いキャンピングカー。中から出てきた見知らぬ女に「血が出たの」というと、女は少女に生理用品を渡して去っていく。続いて出てきた父親に、少女は嫌悪の一瞥をくれながら、「海に行きたい」と呟く。
荒涼とした大地を赤いバンを走らせ、道中の村で野外上映をしたり、トラック運転手に海賊版DVDを売ったりして、寡黙な父と娘の旅は続く。緑豊かな山間の道から、乾いた土漠、
大きなモールのある街。海賊版用にDVD300枚を仕入れ、ようやく人の集まりそうな村で野外上映会。大勢がスクリーンを見つめる中、ビールを買いに来た青年は映画には目もくれない。乗っている立派なバイクは父親が日本から盗んできたという。
さらに赤いバンはツンドラ地帯を走り、ついに海沿いのさびれた町に着く。壊れそうな大邸宅に泊めてもらう。ここの主である気象観測所で働く女性は暖かいスープでもてなしてくれるが、少女は父親がまた女性と関係を結ぶのではと落ち着かない。そこへ、野外上映会で出会ったバイクの青年が現れる・・・

父親も少女も多くを語らなくて、時折発する言葉から、どこを走っているのかや、母親が不在の理由を知ることになります。二人の名前すらわからないのですが、荒涼としたロシアの辺境の地を行く物語は、不思議な余韻を残してくれました。
冒頭の緑豊かな山間の地は、「バルカル語」を話していることから、ジョージアに隣接するカバルダ・バルカル共和国と推察。
カラチャイ・バルカル語はチュルク諸語のうち北西語群に属し、主にコーカサス地方で話されるほか、トルコ共和国の一部地域でも話されている言語。話者の大部分がイスラム教徒とありました。
アディゲ語という言葉も出てきて、北コーカサスで話されている言語。
エリスタという大きな町が出てきて、カスピ海の北西にあるカルムイク共和国の首都だと知りました。
ロシアの西南端のコーカサスの山間の村から、北極圏の白海沿岸部にある廃れた港町まで、二ヶ月間にわたる順撮りとのこと。ロシアの辺境の地に、様々な言語や文化を持つ人々が暮らしていることを垣間見ることができました。なにより、娘を演じたマリア・ルキャノヴァの少女から女へと成長していく様は、演技とは思えないものでした。(咲)


2023年・第76回カンヌ国際映画祭の監督週間に選出され、同年のカンヌ国際映画祭で上映された唯一のロシア映画
ストックホルム国際映画祭 2023 最優秀撮影賞
Auteur Film Festival 2023 最優秀監督賞

2023年 ⁄ ロシア ⁄ ロシア語、ジョージア語、バルカル語 ⁄ 119分 ⁄ カラー ⁄ ヨーロピアンビスタ
日本語字幕:後藤美奈  
配給:TWENTY FIRST CITY 配給協力:クレプスキュール フィルム
公式サイト:https://grace.twentyfirstcity.com/
★2024年10月19日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開




posted by sakiko at 12:42| Comment(0) | ロシア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください