(C)HYPE FILM - KINOPRIME - LOGICAL PICTURES – CHARADES PRODUCTIONS – BORD CADRE FILMS – ARTE FRANCE CINEMA
監督・脚本:キリル・セレブレンニコフ(『LETO -レト-』『インフル病みのペトロフ家』)
出演:アリョーナ・ミハイロワ、オーディン・ランド・ビロン、フィリップ・アヴデエフ、ユリア・アウグ
旋律から戦慄へ
天才作曲家チャイコフスキーを盲目的に愛した“世紀の悪妻”アントニーナ
その知られざる実像に迫る
ロシアの天才作曲家、ピョートル・チャイコフスキー。かねてから同性愛者だという噂が絶えなかった彼は、恋文で熱烈求愛する地方貴族の娘アントニーナと、世間体から結婚する。しかし女性への愛情を抱いたことがないチャイコフスキーの結婚生活はすぐに破綻し、夫から拒絶されるアントニーナは、孤独な日々の中で狂気の淵へと堕ちていく…。
チャイコフスキーというと、「白鳥の湖」や「くるみ割り人形」の旋律がすぐに思い浮かびますが、彼の妻がどんな人だったのか、はたまた彼が同性愛者だったことなど、彼の私生活については全く知らなかったので、驚きの一作でした。
同性愛者であることは、当時の帝政ロシアではタブー。そんな中で、チャイコフスキーがカモフラージュのために、執拗に言い寄る女性と結婚した気持ちはわかりますが、ほとんど一緒に暮らさなかったというのは、あまりにアントニーナに気の毒。歴史上まれに見る悪妻という汚名まで着せられているとは!
女性の権利が著しく制限されていた19世紀後半の帝政ロシア。旅券は、夫のものとして名前が付されただけ。参政権もありませんでした。夫に見向きもされなかったアントニーナの暮らしぶりはどうだったのか、心が痛みます。
『LETO -レト-』『インフル病みのペトロフ家』で、キリル・セレブレンニコフ監督の鬼才ぶりは存分に味わっていましたが、本作も監督が二人の数少ない手紙や手記などを丁寧に検証し、大胆な解釈を織り交ぜて描いたもの。特に、偉大なロシアの作曲家のイメージを守るために、チャイコフスキーの手紙や日記はソ連時代、当局によって厳密に保管され検閲されたとのこと。ロシアになってからも、高貴なイメージは守り継がれていますが、他の国では、限定的ながらチャイコフスキーは同性愛者の作曲家ということが浸透しているのだとか。曲が素晴らしければ、どんな人物が作ったのかは、どうでもいいことだと思うのですが、そんな人物の妻が精神に異常をきたすほどだったことは憂うばかりです。(咲)
2022年/ロシア、フランス、スイス/ロシア語、フランス語/143分/カラー/2.39:1/5.1ch
字幕:加藤富美
配給:ミモザフィルムズ
公式サイト:https://mimosafilms.com/tchaikovsky/
★2024年9月6日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開