映画館の手書き大型看板から「グッチ」の巨大アートウォール、
ロックバンド「コールドプレイ」の宣伝壁画まで手がける
台湾最後の“国宝級絵師”
企画/制作/監督:今関あきよし
出演:顔振発(イェン・ヂェンファ)、三留まゆみ、柏豪
撮影:三本木久城
録音・音楽:種子田博邦
制作:太田則子 / 杉山亮一
編集:鈴木理 編集助手:三宅優里奈
台湾地図挿絵・題字:ヤマサキタツヤ
協力︓全美戯院 / ⽇本台灣新聞社 / 台湾師範⼤学 / Chingwen Hsueh / 国⽴⾳楽⼤学/ ⼭本周史
台湾、台南の映画館で上映される作品の絵看板を50年以上描き続け、本年(2024)の台北映画祭(台北電影節 / Taipei Film Festival)で貢献賞を受賞した顔振発(イェン・ヂェンファ)さんのドキュメンタリー。
台南市下営区に生まれ、幼い頃から絵を描くのが好きだったイェンさん。絵に対する才能を感じた家族が、看板職人陳峰永の弟子に送り出した。1970年代、台湾映画界は盛り上がり、イェンさんは台南の映画館「全美戯院」の看板を1ヶ月に100から200枚もの手描き映画看板を描き、制作から設置まで一手に引き受けた。しかし長年に渡る看板作りは、視力に大きな負担をかけ、医師が彼の網膜がひどく傷ついていることに気付き、右目はほぼ見えない状態になった。でも、イェンさんは今も描き続けている。彼の⽣涯に渡る制作と、奇跡を⽣み出す「仕事」に迫る貴重な記録。
インタビュアー&ナビゲーターとして本映画に登場するのは、数々の映画作のイラストを描いて来たイラストレイターで、今関監督とは8mm映画時代からの盟友でもある三留まゆみさん。そして通訳として、台湾の俳優・柏豪も参加している。
監督はウクライナ、ロシア、岩⼿、⿅児島など様々な国・地域を背景に、美しい映像と優しい眼差しでそこに⽣きる⼈々を描き続ける、今関あきよし。『恋恋⾖花』に続き、台湾にスポットを当てた作品を作り上げた。
以下プレス資料・HPより
監督:今関あきよし
高校生の頃から8mm 映画の自主制作を始め、1979 年に制作した『ORANGING’79』がオフシアター・フィルムフェスティバル’79(のちのPFF)で入賞を果たす。その後も自主制作で青春時代を過ごす少女の甘酸っぱさを繊細に描く作品を次々と送り出し、インディーズ界の雄のひとりとして注目を集め、1983 年に『アイコ十六歳』でメジャーデビューを果たす。プロとなってからも少女の心を描いた作品を多数世に送り出している。その他の監督作に『グリーン・レクイエム』(88 年)、『すももももも』(95 年)、『タイム・リープ』(98 年)、『十七歳』(02年)、『カリーナの林檎~チェルノブイリの森~』(11 年)、『クレヴァニ、愛のトンネル』(14 年)、『LIKA/ライカ』(16 年)、『恋恋豆花』(19 年)、『釜石ラーメン物語』(23 年)、『青すぎる、青』(23 年)などがある。
comment
台湾にハマり何度も通ううちに、多くの⼈に台湾の魅⼒を伝えたくて『恋恋⾖花』という台湾の《⾷の魅⼒》にスポットを当てた映画を撮り、今度は⼈間《顔振発》の存在と技を伝えたくてこの映画を作った。そして誰よりも僕⾃⾝が顔(イェン)さんのことを知りたかったし、仲良くなりたかった。⾔い換えると「顔さんの仕事」は僕の今のアイドル映画だったりもする(笑)。
*参照記事 シネマジャーナルHP 特別記事
『恋恋豆花』今関あきよし監督インタビュー
台湾にハマっていった話をしています。
ナビゲーター︓三留まゆみ
映画評論家・イラストレーター・漫画家。
東京都新宿区出身、血液型B 型、和光大学人文学部芸術学科中退。 映画の名場面、みどころをびっしりとイラストで書き込んだ手法の映画紹介で知られる。 得意とするジャンルはSF とホラー。
comment
その映画館=全美戯院は地続きの映画館、すなわち地⾯を歩いてそのまま⼊れるむかしながらの劇場で、道を挟んだ向かいの歩道が顔さんのアトリエだ。私たちはそこで⼀枚の巨⼤な看板絵が出来上がるまでを⾒た。
それはなんて素晴らしい時間だったろう。たくさんの奇跡の瞬間(顔さんの筆はまるで「魔法の杖」だった)を焼きつけた映画『顔(イェン)さんの仕事』はさらなる奇跡を起こした。6⽉末、舞台になった全美戯院でプレミア上映が決まり、顔さんは⾃分の映画の看板絵を描いたのだ。そして、私はこの映画を満員の映画館で顔さんの隣で観た。⼦どもみたいな笑顔でスクリーンを⾒上げる顔さんの横顔を決して忘れないだろう。そう、映画はいつも看板絵と共にあったんだ。
撮影︓三本⽊久城(JSC)
1970 年生まれ 主な撮影作品(一部、兼編集)は、「カリーナの林檎~チェルノブイリの森~」(2004 監督:今関あきよし)、「memo」(2008 監督:佐藤二朗)、「野のなななのか」(2014 監督:大林宣彦)、「花筐/HANAGATAMI」(2017 監督:大林宣彦)、「海辺の映画館 ーキネマの玉手箱」(2020 監督:大林宣彦)、「釜石ラーメン物語」(2022 監督:今関あきよし)、「沖縄狂想曲」(2023 監督:太田隆文)、「青すぎる、青」(2024 監督:今関あきよし)、「しまねこ」(2024 監督:今関あきよし)、「顔さんの仕事」(2024 監督:今関あきよし)など。
全美戯院
1950 年に、当時としては珍しいバロック風建築の映画館「第一全成戯院」として開業。69 年に現在も経営を続ける呉家の所有となり、全面改修の上、館名を「全美戯院」に改める。当初は新作映画を上映していたが、71 年以降、地域の映画館の急増に伴う経営不振から、洋画を中心に、メイン館での上映が終了した作品を安価に上映する、いわゆる二番館に業態転換。
世界的に有名な映画監督李安(アン・リー)が青春時代幾度となく通い、映画に対する夢を育んだ映画館としても知られる。顔さんが描く手書き看板が観光スポットになっている。2024 年の藤井道人監督の映画『青春18×2 君へと続く道』ではロケ地となった。
顔(イェン)さんが、映画の看板を描くところをずっと追った、とても幸せな気分と感動を、そしてなによりも映画愛を伝えてくれる作品だった。映画のイラストで知られる三留まゆみさんをナビゲーターにしたのもとても良かった。下書きを書き、色を付け、どんどん絵がが出来上がってゆく様子が描かれ、その合間に三留さんが絵や映画に対する思いや質問をしてゆく。その看板の絵はペンキで描かれている。そして看板を描いている場所は、映画館と道路を挟んだ向かいの道路脇。実際に設置する場所の大きさやスペースなどを見ながら描ける、これ以上ないロケーション。しかし、外での仕事は台南では、夏は相当暑いに違いない。それを50年以上続けてきたという。冷房がないと仕事ができない私としてはとても考えられない。
イェンさんは絵を描きながら、「看板の絵は明、暗、線の組み合わせ。色を積み重ねて立体感を出す」と語っていたが、『スパイダーマン』の絵の上に、白墨で次に描く『スラムダンク』の下書きをささっと書き、すぐに色塗りを始めていた。
私はまだ台湾は台北近辺しか行ってないけど、このイェンさんの絵を観るために、この台南の「全美戯院」に行ってみたい(暁)。
「満足した作品は?」と問うと、「全部」と答える顔さん。 今は、携帯で簡単に写真に撮って残せるけれど、どんなに気に入った作品も、次の興業の看板を描くために、その絵の上に描いていくので消えてしまいます。
顔さんの実家を訪ねる場面がありました。近くには顔氏家廟があって、そこには一族の人たちにも読めない漢字4文字が正面に掲げられていて、専門家に読み解いてもらったら、「山東省から来た人たち」の意味とのこと。そばには地図もあって、顔家の人たちが山東省から台南まで、どういう経路で来たのかも記されています。
「顔」と大きく書かれた大きな提灯がぶら下がっていて、そこには「四科第一」という文字も。祖先が、顔回(イェン・フェ)という孔子の72人いる弟子のトップで、言語・政治・文学・道徳の全てに優れた人物だと判明したのは、2年前とのこと。今、99代目なのだとか。映画のポスターを見て、さっと大きな看板を描いてしまう才能も、ご先祖さまから連綿と受け継がれた血なのだと思いました。(咲)
公式HP ︓https://mikata-ent.com/movie/1858
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
配給協⼒︓ミカタ・エンタテインメント
製作︓映画「顔さんの仕事」製作委員会
2024/⽇本/カラー/64分/16:9