2024年05月20日
バティモン5 望まれざる者(原題:BÂTIMENT 5)
監督・脚本:ラジ・リ
出演:アンタ・ディアウ(アビー)、アレクシス・マネンティ(ピエール・フォルジュ)、アリストート・ルインドゥラ (ブラズ)、スティーヴ・ティアンチュー(ロジェ・ロシュ)、オレリア・プティ(ナタリー・フォルジュ)、ジャンヌ・バリバール(アニエス・ミアス)
パリの郊外に連なる団地群、そこへ向かってカメラが降りていく。移民が多く住む10階建ての古びたアパートは、エレベーターが故障中、電気もときどき消えてしまう。高層階の一室では葬儀の真っ最中、遺体の入った棺を屈強な男たちが担いで、障害物をよけながら階段を下る。葬送の列では「こんなことろ人間が住むところじゃない」という嘆きの声。
再開発が進むこの地域でアパートを爆破するイベントに市長が出席した。住民たちが見守る中、アパートが崩れ落ちるのと同時に市長も倒れ急逝する。臨時の市長に市議会のトップの打診により、ピエール医師が選ばれた。地域の発展と住民のために働くと明言したピエールだったが。
導入部だけで移民の困難な暮らしが垣間見られますが、理想に燃えていたはずのピエールが市長となって、権力を持ったときから徐々に変わっていくのをうすら寒い思いで見つめました。副市長のロジェは移民の出であるだけ、住民との付き合い方を熟知しています。中古住宅を一軒ずつ買い上げるといいながら、取り壊しの理由が見つかると飛びつき、手っ取り早く追い出しにかかる行政。それがなだれをうって襲い掛かってくるので、住民はなすすべもありません。理不尽このうえなく、上の命令に背けない警察の一部や廃棄物収集の業者も逡巡する様子を見せています。スピーディなドキュメンタリーのようにいくつものドラマが、この映画の最初から最後まで展開していきます。
この迫力に圧倒され続けました。実際にこのバティモン5で育ったラジ・リ監督が、その地区の人々の出演協力を得て完成した作品だからこそです。国や事情は違いますが、警察に排除されるシーンに沖縄の人々を、住み慣れた家を大急ぎで出なければいけないシーンに福島の人々が思い出されました。
印象に残ったシーンがほかにもあります。市議会で臨時市長の認定を受け、フランス国旗と同じ三色のたすき(?)をかける市長。市議会のトップに「代議士は赤が上、市長は青を上にする理由は、代議士が国王ルイ16世の斬首を決めたから、首の近くに赤を持ってくる」と説明を受けました。ベテランの副市長が「市議会には気をつけろってこと」とピエールに助言します。市議を選ぶのは市民です。今回は臨時ですが、本来は市長も市民に選ばれます。選挙のときだけ住民側でも、当選後は権力者になってしまう人ばかりでは、住民は希望が持てません。
怒りをためていくブラズに「怒るだけでなく、声をあげなきゃ」と繰り返し訴え、暴力によらず街を変えようとするアビーの意思に期待します。(白)
2023年/フランス、ベルギー合作/カラー/105分
配給:STAR CHANNEL MOVIES
(C)SRAB FILMS - LYLY FILMS - FRANCE 2 CINEMA - PANACHE PRODUCTIONS - LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE – 2023
https://block5-movie.com/
★2024年5月24日(金)ロードショー
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