2024年05月19日
倭文(しづり) 旅するカジの木
監督:北村皆雄
語り:冨永愛
神話出演:麿赤兒+大駱駝艦、コムアイ
倭文制作:山口源兵衛、石川文江、西川はるえ、妹尾直子
デザイン:杉浦康平、新保韻香
北村皆雄監督が〈衣服〉の始源を求めて遥か海上の道を遡り
台湾・インドネシア・パプアニューギニアへ
日本神話に現れる幻の織物〈倭文(しづり)〉。その白さは光の象徴とされ、邪悪なものを祓い、身体を護る神聖な力を持っていた。
〈倭文〉の力の源はどこにあったのか。
謎を解く鍵は、衣服の始源を担った「カジの木」が握る。中国南部を原産とするその木のルーツを遡り、台湾、インドネシアのスラウェシ島、南太平洋パプアニューギニアへ。さらに日本各地に倭文の痕跡を求めると、古代国家の重要な謎が明らかになっていく。
人が生きていく上で必要な《衣・食・住》。そのうちの《衣》は、木綿(コットン)が普及するまで、衣服は繊維植物から作られていました。今では忘れられてしまった「カジの木」が最良の衣料でした。11cm巾くらいの樹皮を叩いて、50cm巾くらいに伸ばして「布」にするのです。古代の人たちの知恵。
倭文(しづり)は、『日本書紀』や『万葉集』に登場するカジの木の樹皮を糸にして織られた織物。その幻の織物を、現代の織りを担う方たち、山口源兵衛(帯匠)、石川文江(楮布織)、西川はるえ(染織家)、妹尾直子(紙布・樹皮布)が、3年がかりでカジの木の樹皮を使って再現する様を北村皆雄監督が追っています。
本作で何より興味深かったのは、天上界から遣わされた二柱の武神が、地上の邪悪な神、草木、石の類のものをみな平定したのに、星の神だけ征伐できず、その星の神を制圧したのは織物の神〈倭文〉だったという神話。茨木県、栃木県には、星を祭る神社が何百とあるとのこと。織物の神との関係は?と、そそられました。(咲)
冒頭は麿赤兒ひきいる大駱駝艦の幻想的な舞踊劇。星の神よりも織物の神が強いのはなぜ?そんな力を宿すカジの木を探して、身の回りから海を渡りはるか遠くまで辿っていく過程が面白くすっかり見入っていました。技法の差はあれど、手間暇かけてできあがる素朴な織物は本当に神に力を与えそう。
日本の専門職の人たちが精魂こめて作り上げたそれぞれの〈倭文(しづり)〉は今どこに保管されているのでしょう?見てみたいものです。
葉の形がいろいろな「カジの木」、我が家にも生えていました。何という植物か名前も不明でしたが、スペードをつなげたような形の葉(若木の特徴だそうです)をよく覚えています。ガスメーターを隠して邪魔なので、切ってしまいました。糸が作れたとはやってみたかった…いや、手間が掛かりすぎて音を上げるのが落ちです。
帯匠の山口源兵衛さん、お仕事柄かどんなお着物も似合います。独特な押し出しや存在感には圧倒されました。(白)
2024年/119分/日本/カラー/16:9/ステレオ/DCP
制作:三浦庸子/製作・配給:ヴィジュアルフォークロア
公式サイト:http://shizuri-movie.com/
★2024年5⽉25⽇(⼟)より 渋⾕シアター・イメージフォーラムにてロードショー︕ 全国順次公開
映画制作開始60周年 最新作『倭文(しづり) 旅するカジの木』公開記念
北村皆雄監督◉傑作選「聖なる俗 俗なる聖」
1964年の処⼥作から最近作まで6プログラム8作品を特選上映 5月11日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて開催中!
https://shizuri-movie.com/selection/
☆『チロンヌㇷ゚カムイ イオマンテ』(2021年/1986年撮影/105分)
シネジャの作品紹介はこちら
☆『ほかいびと 伊那の井月』(2011年/119分)
シネジャの作品紹介はこちら
☆『津軽じょんがら女考―青森―』(1976年/21分)
北村の企画立案によるテレビシリーズ「日本のおんなたち」の一編。津軽三味線奏者・西川洋子が2体1対の家の守り神「オシラ様」信仰の場所を訪ねる。年に一度、女たちが寺に集まり、携えてきた「オシラ様を遊ばせる」。過酷な労働の続く農家の女性たちが誰はばかることなく休めるひとときであったのだろう。西川洋子の三味線で歌う女性たちが晴れやかだ(白)。
☆『アカマタの歌海南小記序説/西表島・古見』(1973年/1972年撮影/84分)
八重山諸島の西表島・古見の祭に「アカマタ」という仮面仮装の来訪神が登場する。秘儀のため撮影を拒まれ、アカマタの登場しない映画を撮ることになった。撮影した1972年は日本復帰の年。17軒の家を一軒ずつ訪ね、記念写真を撮り、その家族の歴史を聞き取った。はからずも土着の人と外から入って来た人との距離があぶりだされ、赤裸々な内容を含むため長く上映されなかった作品。
語りの鈴木瑞穂さんは、長く名脇役、声優として活動し昨年96歳で逝去。土地の言い回しをちょっと足した50年前の若いお声が残っている(白)。
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