2024年04月28日

人間の境界(原題:Zielona Granica)

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監督:アグニエシュカ・ホランド
脚本:マチェイ・ピスク、Gabriela Łazarkiewicz-Sieczko、アグニエシュカ・ホランド
撮影:トマシュ・ナウミュク
音楽:フレデリック・ヴェルシュヴァル
出演:マヤ・オスタシェフスカ(ユリア)、ベヒ・ジャナティ・アタイ(レイラ)、ジャラル・アルタウィル(バシール)、モハマド・アル・ラシ(祖父)、ダリア・ナウス(アミーナ)、トマシュ・ヴウォソク(ヤン)

2021年、幼い子供を含む6人のシリア人家族が、ベラルーシ行きの飛行機に乗り込んだ。祖国から脱出し、ヨーロッパへの亡命を目指す彼らは、ベラルーシ当局の用意するルートでポーランド国境を安全に通過できるという案内を信じ、空港から協力者の車で国境へと向かう。しかし彼らを待ち受けていたものは、高額な金銭の要求と武装した国境警備隊だった…

英語題は「Green Border」。海に囲まれた日本ではピンとこないので、県境を想像しますが、陸続きの隣国との国境は川にそった自然な国境もあれば、定規で線引きしたような人為的な国境もあります。森の中の国境は鉄条網が張られ、ベラルーシ側では無理やり広げて難民を押し込み、ポーランド側は追い立てて戻します。自由になれると思ったのもつかの間、両国の人間兵器として非人道的に扱われます。祖父と孫を含む6人家族が強いられる過酷な日々は観るにたえないほどでした。実際に難民であったり、活動家の経験のある俳優たちを起用しているからか、ドキュメンタリーかと思うほどリアルなシーンが続きました。モノクロであるのがさらに拍車をかけます。
シリア人難民をモノ扱いする国境警察の要人、現場で働く若い警察官、その家族、と視点を変えての心情もつまびらかにしています。抗えない命令に心を病む人、救っても救っても救いきれず落ち込みながらも、また手を差し伸べに向かう活動家たち。
アグニエシュカ・ホランド監督のこれまでの映画も「真実よりも真実?」と言いたくなる痛切なものでしたが、この作品も例にもれません。監督が身の危険を感じるほど強硬だったというポーランド政府の姿勢。映画人が一丸となって監督の味方をしたというのを心強く思いました。
どんなに歴史を学んでも、人間は同じように欲に駆られ、獣になり(獣に悪いわ)、同じことを繰り返します。それでも、心が痛むうちは希望もあると思いたいです。(白)


「船じゃないから楽。溺れ死ぬ心配もない」というシリア人の家族。ベラルーシに向かうシリア人一家も、隣の席のアフガニスタン女性レイラも、飛行機に乗れる多少の余裕のある人たち。それでも、祖国を離れなければいけないのは余程の理由があってのこと。誰しも命の危険をおかしてまで、逃げたくはないはずです。
シリアの一家は、スウェーデンに既にいる親せきが、道中の手配をしてくれていてスマホは命綱。それなのに子供たちがゲームをして電池切れになってしまい、充電もままならない状態で、ハラハラさせられます。
人権活動家が必死になって難民を助けようとする一方で、ポーランドの国境警察が無慈悲に難民を追い返します。中には、難民を見つけても見逃す警察もいるのですが。
アグニエシュカ・ホランド監督が、本作を撮り終えたあとに、ロシアのウクライナ侵攻が勃発。ポーランドがウクライナの人たちを毎日何十万人単位で受け入れていることに、2021 年の秋、アフガニスタン、シリア、イラク、イエメン、コンゴなどからの難民受け入れを拒否し、ベラルーシに押し返したこととのダブルスタンダードを嘆いています。まさに、肌の色の違いによる差別だと。
英国政府が不法滞在者をルワンダに送ることを決定したというニュースにも驚きました。平穏な暮らしを求めて、命がけで国を逃れてきた人への血も涙もない仕打ち・・・
願わくは、難民にならない平和な世界になってほしいですが、現実は厳しい。せめて、そういう人たちを受け入れてほしいと思うのですが、そんなに難しいことなのでしょうか・・・ (咲)



★2023年ヴェネチア映画祭コンペティション部門審査員特別賞
ロッテルダム国際映画祭観客賞ほか受賞多数

2023年/ポーランド、フランス、チェコ、ベルギー合作/カラー/152分
配給:トランスフォーマー
(C)2023 Metro Lato Sp. z o.o., Blick Productions SAS, Marlene Film Production s.r.o., Beluga Tree SA, Canal+ Polska S.A., dFlights Sp. z o.o., Ceska televize, Mazovia Institute of Culture
https://transformer.co.jp/m/ningennokyoukai/
★2024年5月3日(金・祝)TOHOシネマズ シャンテ ほか全国ロードショー

posted by shiraishi at 15:35| Comment(0) | ポーランド | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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