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監督:アンドレアス・ドレーゼン(『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』)
脚本:ライラ・シュティーラー
出演:メルテム・カプタン、アレクサンダー・シェア、チャーリー・ヒューブナー、ナズミ・キリク
2001年9月11日、アメリカ同時多発テロ。そのひと月後、ドイツのブレーメンに暮らすトルコ移民のクルナス一家の母ラビエのもとに、19歳の長男ムラートからパキスタンに行くと電話が入る。トルコから妻を呼び寄せる前にイスラム教の信仰を確かにしたいからだという。その後、ムラートはパキスタンでタリバンとの関係を疑われて拘束され、キューバのグアンタナモ湾にある米軍の収容所に移送されたことが判明する。ラビエは息子を救うため奔走するが、赤十字もアムネスティも行政も動いてくれない。藁にもすがる思いで、電話帳で見つけた人権派弁護士ベルンハルトの元を訪れる。弁護士から、ブッシュ大統領はグアンタナモ収容者の権利を認めないので、ホワイトハウスで請願書を手渡ししてマスコミにアピールしようと勧められる。人権団体の支援を受けて、ラビエは弁護士と共にワシントンに飛ぶ・・・
アンドレアス・ドレーゼン監督が、プロデューサーからムラート・クルナスの著書「Five Years of My Life: An Innocent Man in Guantanamo」(私の5年間/グアンタナモに収容された無実の男/2007年出版)を渡されたのが、本作の始まりでした。ムラートが主人公の物語を想定して、ブレーメンでムラートと会った折に、監督は母ラビエとベルンハルト弁護士と食事を共にする機会があり、この二人を主人公にした映画にしようというアイディアが浮かんだそうです。
★公式サイトの監督インタビューをぜひお読みください。
映画のエンドロールに、実物のラビエとベルンハルト弁護士の写真が出てきますが、演じた二人がそっくりです。ラビエは天真爛漫で、ユーモアがあって、それでいて、息子のためならばどんな遠くにでも行くという勇気を持った女性。人権派弁護士のベルンハルトはお金も受け取らず、親身になって動く人物。
それでもムラートが釈放されてドイツに戻ってくるまでに、1786日もの歳月が流れました。政治的理由で解放が遅れた証拠を後に調査委員会が見つけていますが、ムラートの名誉回復も、その後の保障も得られませんでした。
同時多発テロ後、ブッシュ大統領の「テロとの戦い」で、世界中で誤認逮捕が行われたことは、ほんとうに憂うべきことでした。
『モーリタニアン 黒塗りの記録』(21)は、不当に逮捕されグアンタナモに14年2か月も収監されたモーリタニア人のモハメドゥ・ウルド・スラヒの手記に基づく映画でした。司法手続きなしに厳しい尋問や拷問が行われたことが描かれていました。
グアンタナモ収容所には、少なくとも 15 人の子どもを含む約 780 人が各地から連行され収監されました。世界各地の彼らの家族が、本作のラビエと同じ思いで解放を待ちわびたと思うと胸が痛みます。
本作では、ドイツに移民したトルコ人の家族のことも垣間見ることができ、興味深かったです。ラビエは、息子が収監されたと聞いて、「ドイツの国籍を取れと言ったのに・・・」とつぶやいています。一方、トルコ政府は、兵役に行ってないからと対応が冷たいです。
ラビエの家での会話は、トルコ語がまじるドイツ語。おそらく、子どもたちは学校でドイツ語を学んでいるのでドイツ語の方が楽なのでしょう。ドイツに馴染もうとしているラビエですが、作る料理は故郷トルコのもの。美味しそうな料理やケーキを作りながら、遠く離れたところに収監されている息子に食べさせてあげたいというラビエの思いが切なかったです。(咲)
ベルリン国際映画祭 銀熊賞(主演俳優賞 / 脚本賞) 2冠
ドイツ映画賞 作品賞〈銀賞〉 主演女優賞 助演男優賞受賞
ドイツ映画祭 HORIZONTE 2023上映タイトル 『クルナス母さんVS.アメリカ大統領』
2022年/ドイツ・フランス/ドイツ語、トルコ語、英語/119分/カラー/2.39:1/5.1ch
字幕翻訳:吉川美奈子
配給:ザジフィルムズ
後援:ゲーテ・インスティトゥート東京
公式サイト:https://www.zaziefilms.com/kurnaz/
★2024年5月3日(金・祝)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー