2024年04月21日

悪は存在しない

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© 2023 NEOPA / Fictive

監督・脚本:濱口竜介
音楽:石橋英子
撮影:北川喜雄
美術:布部雅人
出演:大美賀均、西川玲、小坂竜士、渋谷采郁、菊池葉月、三浦博之、鳥井雄人、山村崇子、長尾卓磨、宮田佳典、田村泰二郎

自然豊かな高原に佇む長野県水挽町。巧(大美賀均)は薪を割ったり、せせらぎで水を汲んだりの暮らし。小学生の娘・花(西川玲)を迎えに行く時間をつい忘れて、いつも花はすでに歩いて帰途についたといわれる。林の中で花を見つけ、木の名前や、野生の鹿の水場を教える。自然と共にある暮らし。
そんな町に、東京の芸能事務所がグランピング場を作る計画が持ち上がる。住民を集めての説明会が開かれる。キャンプブームで遠方からの客を期待できるし、地元の方にも愛されるものを目指しているという。だが、地元の者にとっては汚染水や焚火の不始末など不安要素が多く、すぐには賛成できない。巧は、建設予定地が野生の鹿の通り道なのも心配だ・・・

『ドライブ・マイ・カー』(21)で音楽を担当した石橋英子さんから、濱口監督に提案された映像制作の新たな試み。映像に音楽をつけるのでなく、映画と音楽のセッション。
冒頭、美しい林の映像に、心を掻き立てるような音楽。けれども、映画全体に音楽が流れているわけではなく、日々の営みや、説明会の場面はあくまで映像中心。
そして、『ハッピーアワー』(2015年)と同様、出演者の方たちは名前をみても顔の浮かばない方たち。主演の巧を演じた大美賀均さんは、濱口監督作品には『偶然と想像』で初めて制作部の一員として入り、今回も当初スタッフとして参加していたところ、主役に抜擢されたという経緯に驚きます。
芸能事務所の説明会には、エキストラの方たちも参加しているのですが、それぞれの人物背景がしっかり設定されていたとのこと。
グランピング場は、コロナ禍で業績の落ち込んだ芸能事務所が、政府からの補助金を得て計画したもの。説明会に赴く芸能事務所の二人の会話が、人間臭くて面白いものでした。
芸能人のマネージャーとして17年働いてきた男性は、なぜ自分が住民に説明する立場にならなければならないのかと最初は不満たらたら。巧のところで薪割りをさせてもらって、スパッと割れた時の快感から、グランピング場の管理人もいいかなと思い始めます。芸能事務所とは真逆の業種から転職してきた女性も、このままでいいのかとつぶやきます。人生の岐路に立たされた時の思いにも寄り添った物語。
大人たちが、それぞれの立場で自分の思いを吐き出す中で、小学生の花が森の自然や野生の鹿を見つめる目はとてもピュア。写真でしか出てこない母親は亡くなったのか、離別したのか・・・ いろいろ想像を巡らす中、驚きのラストを迎えました。あ~ なんという映画なのでしょう! (咲)


第80回ヴェネチア国際映画祭 銀獅子賞(審査員グランプリ)受賞

2023年/106分/日本
配給:Incline 配給協力:コピアポア・フィルム
公式サイト:https://aku.incline.life/
★2024年4月26日(金).Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シモキタ - エキマエ - シネマ『K2』ほか全国順次公開
posted by sakiko at 20:29| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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