監督・撮影・編集・製作:⼟井敏邦
整⾳:藤⼝諒太
⾳楽:李政美(歌・作曲)、武藤類⼦(作詞)
浪江町津島は福島県の東部、阿武隈⼭系の⼭々に囲まれた⼈⼝約1400⼈の平穏な⼭村でした。福島第⼀原発から北⻄に30キロ離れているにもかかわらず、2011年3⽉ 11⽇の事故直後に⼤量の放射性物質が降り注ぎ、「帰還困難区域」に指定されたまま、現在も多くの住⺠が帰れずにいます。故郷を離れ10年以上を経た今も、⼈々の⼼の中には津島での⽇々があります。貧しかった開拓時代の記憶、地域コミュニティと共にあった暮らし、綿々と受け継がれてきた伝統⽂化、今は亡き家族との思い出…。 津島の歴史と、そこで⽣きてきた⼈々の記憶と感情を映像化したのは、『福島は語る』(2018 年)の⼟井敏邦監督。裁判記録「ふるさとを返せ!津島原発訴訟 原告意⾒陳述集」に記された住⺠たちの⾔葉に衝撃を受けた⼟井監督は、「この声を映像で記録したい」と原告32名の元を訪ね歩き、10ヶ⽉にわたるインタビューを敢⾏。その中には、避難先で起こった⼦どもたちへの差別といじめについての証⾔もありました。総勢18名による、全9章、3時間を超える圧巻の語りの数々。
第一章“記録”今野義人
第二章“開拓”関場健治/三瓶宝次/志田昭治/馬場績
第三章“共同体” 石井ひろみ/今野千代/須藤カノ
第四章“伝統文化”今野秀則
第五章“家族喪失”三瓶春江/武藤晴男/佐々木やす子
第六章“子どもの傷”柴田明美・明範/須藤カノ・隼人・玲
第七章“棄民”今野秀則/末永一郎
第八章“故郷”馬場績
最終章“帰郷”紺野宏
■⼟井監督のコメント 「津島の記録映画を作りたい」と私を駆り⽴てたのは、⼀冊の裁判記録だった。そこには、32⼈の原告たちが裁 判所で陳述した、家族の歴史、原発事故による家族と⼈の⼼の破壊、失った故郷への深い想いが切々と綴られていた。「あの原発事故は住⺠の⼈⽣をこれほどまでに破壊していたのか」と、私は強い衝撃を受けた。「この陳述集の声を映像で記録したい」 それが映画「津島」制作の原点である。 2021年春から、私は陳述集に登場する原告たちを訪ね歩き始めた。横浜から福島まで⾞で往復し⾞中泊を繰り 返す、ほぼ10カ⽉がかりのインタビューの旅だった。 “津島”は、⼈⼝約 1400 ⼈の問題に終わらない。「多数派の幸福、安全、快適さのために少数派を犠牲にする」在り⽅への、津島住⺠の“異議申し⽴て”であり“抵抗”だともいえる。そういう意味で、“津島の存在と闘い”は⼩さな⼀地域の問題ではなく、⽇本と世界に通底する“普遍的なテーマ”を私たちに問いかけていると私は思う。 「『フクシマは終わったこと、なかったこと』にされてたまるか!」。 映画の中で涙ながらに語る証⾔者たちの声の後ろに、そんな悲痛な叫び声を私は聞いてしまうのである。
⼟井監督は、1985年よりパレスチナ・イスラエルの現地取材を重ね、1993年からは映像取材も開始し、NHKや民放で多くのドキュメンタリー番組を発表しています。2009年4月に、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成させています。理不尽に故郷を追われたパレスチナの人たちの姿に、放射能という見えないものの為に故郷を追われた福島の人たちの姿が重なったのは、長年、パレスチナの人々を追ってきた古居みずえ監督が飯舘村の母ちゃんたちに思いを寄せるのと同様の気持ちでしょう。
本作の最後に資金協力した個人の方たちのお名前が掲載されていますが、その中には、アラブやイランなど中東研究者のお名前もありました。
地震や津波で家が壊れたわけでなく、見た目は平穏な津島の風景。それなのに、帰宅できないのは納得がいきません。やっと帰宅許可の出た地区も、10年以上、家を空けていたので、すぐに住める状態ではありません。地震は天災だけど、原発事故を想定外と片づけられるのは納得がいきません。
「離婚して子育ては大変だったけど、ここで生きている!という楽しさがあった」
「避難先では誰にも悩みを打ち明けられない」
「農業が好きだった母が、避難先で何もすることがなくなり半年後には認知症になった」
「学校で放射能が移ると、教師にもいじめられた」
「故郷は生きる根源。人生を奪われた」
避難命令が出た時には、よもや故郷・津島に帰れなくなるとは思ってなかった人たちの、無念な思いがずっしり伝わってくる189分。他人事と思わず、いつ自分にも降りかかるかもしれないことと、しっかりと津島の人たちの言葉を噛みしめたいと思いました。(咲)
◆上映日程とトーク予定◆
【東京 K’s cinema】
3/2(土)~ 予定:初日+αで監督トーク
【京都 京都シネマ】
3/8(金)~ 予定:3月10日監督トーク
【大阪 第七藝術劇場】
3/9(土)~ 予定:3月10日監督トーク
【兵庫 元町映画館】
3/9(土)〜 予定:3月11日監督トーク
【愛知 シネマスコーレ】
3/11(月) 予定:3月11日監督トーク
【神奈川 シネマ・ジャック&ベティ】
3/16(土)~ 予定:3月16日+αで監督トーク
【福島 フォーラム福島】
3/22(土)~初日 予定:3月22日監督トーク
【長野 松本CINEMAセレクト】
4/7(日) 予定:監督トーク
山形国際ドキュメンタリー映画祭2023(ともにある Cinema with Us)上映作品
2023年/⽇本/ドキュメンタリー/189分/DCP
配給協⼒・宣伝:リガード
公式サイト:http://doi-toshikuni.net/j/tsushima/
★2024年3⽉2⽇(⼟)よりKʼs cinemaほか全国順次公開
【関連する記事】