2024年01月21日

すべて、至るところにある  英題:Everything,Everywhere

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(C)cinemadrifters

監督・プロデューサー・脚本・編集:リム・カーワイ
撮影:ヴラダン・イリチュコヴィッチ 
録音・サウンドデザイン:ボリス・スーラン 
音楽:石川潤
宣伝デザイン:阿部宏史
出演:アデラ・ソー(蘇嘉慧)、尚玄、イン・ジアン(蔣瑩)

マカオ出身のエヴァは、かつて旅先のバルカン半島で、映画監督のジェイと出会った。その後、パンデミックと戦争が世界を襲う。バルカンの友から便りを貰ったエヴァは、再びバルカンを訪れる。「ジェイがあなたに残した」とハードディスクとUSBを渡される。姿を消したジェイを探すエヴァ。ジェイがエヴァを出演させて撮った映画が『いつか、どこかで』というタイトルで完成していたことを知る。セルビア、北マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナでジェイを探すうちに、エヴァはジェイの過去と秘密を知ることになる・・・

マレーシア出身のリム・カーワイ監督によるバルカン半島映画第3作目。1作目の『どこでもない、ここしかない』に出てきた浮気者のトルコ人フェデルがジェイの友人として出てきたり、アデラ・ソーが主演した2作目の映画『いつか、どこかで』が、ジェイがエヴァを主役に撮影した映画として登場したりしますが、1作目と2作目を観ていなくても、本作だけでも完結した映画として楽しめます。

『どこでもない、ここしかない』『いつか、どこかで』については、こちらで!
リム・カーワイ監督のバルカン半島映画3作目公開を前に2作品を観ました (咲)

チラシ画像の、エヴァとジェイの背景にあるのは、旧ユーゴスラビアの巨大建造物(スポメニック)。私は、1987年5月、まだユーゴスラビアだった時にベオグラードからドブロブニクに飛び、そこからアドリア海沿いにイタリアに抜ける旅をしたことがあります。絵のように美しい町がずっと続いているのですが、時折、似つかわしくない近代的な建造物が表れてびっくりしたのを思い出します。社会主義時代の遺物。
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(C)cinemadrifters
映画の最後にボスニア・ヘルツェゴビナのモスタルの町の石橋が出てきます。オスマン帝国支配下だった1566年に完成したアーチ型の美しい石橋ですが、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の折、1993年11月にクロアチア軍によって破壊されてしまいました。実は、1987年にユーゴを旅した折、モスタルの石橋を観に行きたかったのですが、ドブロブニクから一日がかりになる為、ドブロブニク観光を優先して石橋を諦めたのです。いつかまた来られると思って。その後、川底から破壊された橋の残材を拾い集め、地元の石灰岩で補完して、創建当時の技法で再建されましたが、やはり別物。紛争を思い起こすシンボルでなく、民族融和の象徴となってほしいと願います。
映画の中で、ボスニアの男性が「僕たちは皆、ニックネームで呼び合う。本名を知らない。民族や宗教をお互い知らない」と語っている場面がありました。「ボスニアは特別な場所。混血が多い」と語る男性も。モスタルも、紛争が勃発する前は、ボスニア人、クロアチア人、セルビア人などが共生する町だったのです。戦争がいかに愚かなものか、ぜひ本作を観て感じてほしいと思います。(咲)



2023年/日本/カラー/DCP/5.1ch/88分
配給:Cinema Drifters 宣伝:大福
公式サイト:https://balkantrilogy.wixsite.com/etew
★2024年1月27日(土)よりイメージフォーラム他全国順次公開


posted by sakiko at 00:36| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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