2024年01月12日

ビヨンド・ユートピア 脱北(原題:Beyond Utopia)

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監督・編集:マドレーヌ・ギャビン
プロデューサー:ジャナ・エデルバウム、レイチェル・コーエン
撮影:キム・ヒョンソク

ロ夫妻と80代の母親、二人の幼い娘が脱北を試みて山の中をさまよっているところを助けれらた。一家の映像は韓国のキム・ソンウン牧師のもとに送られ、先に脱北していた親類と連絡がつく。北朝鮮では脱北した者の家族は監視され、いつ警察に捕まって強制収容所に送られてもおかしくない。厳しい条件下のロ一家を助け出すために、キム牧師は何カ国にも渡る脱出ルートを探る。
一方、一人韓国で暮らしているソヨン・リーは生活のため川を渡ろうとして捕まり2年収監された。家族に会えず仕事もなく、やむを得ず脱北したが10年も顔を見ていない息子チョンをこちらに呼びたい。ブローカーを信じて言われるまま送金したが、脱北直前に裏切ったブローカーの密告で息子は拘束されてしまう。

最初に10代で脱北して中国へ渡ったイ・ヒョンソさん(のちに韓国で結婚、自身の体験をつづったノンフィクションを書きます**)が登場します。初めはこの人の映画を撮ろうとしたギャビン監督ですが、韓国でキム牧師に出会ったことで、映画は別の道をたどり、亡命するロ家族の一部始終を記録することになります。
たった一人が国境を越えるだけでも大きな危険が伴うのを、いくつもの作品で観てきました。お年寄りと幼い子どももいる一家5人全員の亡命の旅は、想像を絶するものでした。キム牧師と隠れ家に落ち着くまで、見ているこちらも心配で息がつまりそうでした。
北朝鮮での生活はどんなものだったか、いろいろな言葉で明かされます。一つの国が収容所みたいなもの、一切の情報は遮断され、国は国民に改変した歴史と都合の良い情報のみを与えます。監視と密告と厳しい処罰、恐怖で人は容易に支配されます。ロ一家のお祖母ちゃんが、それに気づいていくときの表情がなんともいえません。ソヨンと息子のその後が気にかかります。(白)


脱北や、北朝鮮の収容所をテーマにした映画はかなり観ていると思う。それにしてもこの山道を80代の方が歩いて踏破したということに驚いた。そして、救出に向かったキム牧師とよく合流できたと思う。たくさんの人の協力があったからとは思うけど、観ている間ハラハラドキドキだった。4か国、12000キロの行程を経て、この家族はよく無事に韓国にたどり着けたなと思うと同時に、それがドキュメンタリー作品として形になったということにも驚いた。過酷な旅の実態が残せたのは、スマホの普及で素人でも記録を残せたからにほかならない。
北朝鮮がいかに閉鎖国家で、国民は監視され情報が支配されているか、北朝鮮の状況がこれでもかこれでもかと出てきます。確かに北朝鮮の国民はひどい状況の中にいると思います。北朝鮮のプロパガンダ映画のシーンを観ると、この独裁国家の人権はひどいとも思います。でも、この映画はアメリカのプロパガンダ映画のようにも思いました。
この脱北をした家族や、他の脱北をした人たちの話を聞くと、祖国への恐怖や憎しみと共に、郷愁や愛情、祖国にいる家族や友人を思いやる言葉が出てきて、ほっとした(暁)。


2023年サンダンス映画祭「USドキュメンタリー部門」観客賞ほか各地の映画祭での受賞多数。

2023年/アメリカ/カラー/115分
配給:トランスフォーマー
公式サイト:https://transformer.co.jp/m/beyondutopia/
★2024年1月12日(金)TOHOシネマシャンテ、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開
*北朝鮮を知るために監督が手掛かりとした本。
「密閉国家に生きる  私たちが愛して憎んだ北朝鮮」バーバラ・デミック/著 中央公論新社
**「7つの名前を持つ少女」 イ・ヒョンソ/著 大和書房

posted by shiraishi at 23:31| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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