2023年12月16日
香港の流れ者たち(原題:濁水漂流 英題:Drifting)
監督・脚本:ジュン・リー(李駿碩)
プロデューサー:マニー・マン
撮影:レオン・ミンカイ
音楽:ウォン・ヒンヤン
出演:フランシス・ン(呉鎮宇)、ツェー・クワンホウ(謝君豪) ロレッタ・リー(李麗珍)
セシリア・チョイ(蔡思韵) 、チュー・パクホン(朱栢康)、 ベイビー・ボウ(寶珮如) 、ウィル・オー
刑務所を出たファイは、もといた街・深水埗(シャムスイポー)へ戻った。ラムじいが出所祝いにくれたクスリでシャバに戻ったのを実感する。ホームレス仲間たちの居場所は高架下。たびたびやってきていた食物環境衛生署が、ある日事前通告なしにファイたちの家財を全てゴミとして処分してしまう。彼らがゴミとみなしたものの中には、身分証明書や家族の思い出の品もあった。
ソーシャルワーカーの若い女性、ホーは新人だからか、熱心にホームレスのサポートをしてくれる。なくなったものは取り戻せないが、賠償と謝罪を求めて裁判をすることになった。ファイに病院に行くよう勧め、ラムじいの家族を探す。
ファイはハーモニカを吹く青年と仲良くなるが、彼は記憶も言葉も忘れていた。名前も思い出せない彼を「モク」と呼ぶことにした。二人は夜中に無人の建築中のビルに上って深水埗の街を見下ろす。ファイはモクに語りかける。
「深水埗は貧乏人が住む町だ。高級マンションを建てて、貧乏人はどこへ行く? 」
久々のフランシス・ン(香港映画ファンはジャンユーと広東語読み)の主演作が公開されます。2016年の東京国際映画祭で『シェッド・スキン・パパ』が上映され、渋谷の会場にW主演のルイス・クー(息子役)と舞台挨拶&トークをしたのを思い出します。フリルのついたシャツでお洒落でした。
この作品で演じるのは、うらぶれたホームレスのファイ、過酷な暮らしからか薬物中毒にもなっています。これまで見たことのないジャンユーにこういう役にもなりきれるんだと、ファンたちは驚くと同時に嬉しいのではないでしょうか。役の幅が拡がれば長く活躍できますから。
香港ノワールと呼ばれた犯罪もの、アクションものが人気だった香港映画界ですが、最近は市井の人々の暮らしを丁寧に描いた作品が目につきます。香港の薬師丸ひろ子と言われていたロレッタ・リーも出演。年齢を重ねても可愛らしいです。(白)
(白)さんが紹介している『シェッド・スキン・パパ』舞台挨拶でのフリルのついたシャツのフラさま。(ジャンユーを私は「さま」を付けてお呼びしています。)
東京国際映画祭 香港の名優フランシス・ンが脱皮して7変化!? 『シェッド・スキン・パパ』にほろり(咲)
深水埗といえば、電気街があって香港の秋葉原ともいわれ、安い洋服屋さんも並ぶいかにもの下町。啓徳空港があった頃は、深水埗の町の上を舐めるようにして飛行機が降りてくるので、よく飛行機のお腹を眺めにいったものです。1990年代、目立つ建物といえば、最上階に屋内ジェットコースター(今は休止)のある西九龍中心(ドラゴン・センター)位だったでしょうか。 フラさま演じるファイの「高級マンションを建てて、貧乏人はどこへ行く? 」の言葉に、変わりゆく深水埗を思いました。
フラさまはじめ、香港のスターたちがホームレスに徹するあまり、「街中の撮影でも彼らに気付く人はほぼいませんでした。そのおかげで撮影はやりやすかったです(笑)。おかげで撮影はトータル22日間で終わりました!彼らの熱演には感謝しかありません。」と、ジュン・リー監督が初日12月16日のオンライントークイベントで語ったそうです。私もその場に出くわしても、きっと気がつかなったと思うほど、皆なりきってました。(咲)
この映画は、実際の事件を元に作られたという。「和解金か?謝罪/尊厳か─!?」という選択をせまられたホームレスの人々。それぞれの思い、こだわり、人間としての尊厳を描いていた。
日本でも香港でも、ホームレス排除が進んでいる。開発という名の貧乏人排除。「貧乏人はどこへ行かされる?」である。深水埗には行ったことがないけど、香港の繁華街、尖沙咀(チムサッチョイ)でも新宿でも、以前に比べたらホームレスの姿を見なくなった。私の印象では1994年に初めて香港に行った時には、尖沙咀の裏街でも空き缶を積んだ大八車のような台車を押している人を見たが、数年後には見かけなくなった。それらの人たちが住むところを得たのならよかったと言えるけど、単に外国人が来るような街から排除されてしまったのか。この映画を観たら、実際のホームレスたちは減ったのではなく、やはり追い出されて「流れ者」として、あちこち散らばっただけなのかもしれないと思った。そして九龍城に住んでいたたくさんの人たちは、どこへ散らばって行ったんだろうと思いを馳せた。
それにしても呉鎮宇(ン・ジャンユー)のいっちゃっている演技すごい! 謝君豪(ツェー・クワンホウ)も、「どこ?」状態だった(笑)。(暁)
2021年/香港/カラー/DCP/112分/日本語字幕:小木曽三希子
配給:cinema drifters
(C)mm2 Studios Hong Kong
https://hknagaremono.wixsite.com/official
★2023年12月16日(土)よりユーロスペースほか全国ロードショー
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