2023年11月26日

メンゲレと私   原題:A Boy's Life

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(C)2023 BLACKBOX FILM & MEDIENPRODUKTION GMBH

監督:クリスティアン・クレーネス、フロリアン・ヴァイゲンザマー

『ゲッベルスと私』 (2018年公開)、『ユダヤ人の私』 (2021年公開)に続く「ホロコースト証言シリーズ」3部作の最終作。

リトアニア出身のユダヤ人、ダニエル・ハノッホ(1932年生まれ)。9歳の時、カウナス郊外のゲットーに送られ、その後、12歳でアウシュヴィッツ強制収容所に連行された。多くの子供が到着後にガス室で殺されたが、金髪の美少年だったダニエルは、ヨーゼフ・メンゲレ医師の「選別」により奇跡的に生き延びた。非人道的な人体実験を繰り返したメンゲルは、神のように崇められ、すべての者の生存権は彼の手にあり、“死の天使”の異名を持っていた。だた、ダニエルが見た真の地獄は終戦末期に連合軍の攻勢から逃れるため強制的に連れていかれた「死の行進」であった。暴力、伝染病、カニバリズム・・・少年は人類史の最暗部を目撃する。

取材当時91歳のダニエルが、子供時代に味わった地獄を語る合間に、様々なアーカイブ映像が流れます。ロシアの風刺アニメーション『シネマ・サーカス』、ソ連のプロパガンダ映画『モスクワ攻防戦』、1961年にアイヒマンに見せたアウシュヴィッツ強制収容所でカートので死体やガス室に送られた人々の所持品を運ぶ姿、米兵を洗脳し国民を団結させるための映像等々・・・ 人はいかに映像で騙されてしまうのかを教えられます。起こった事実が後世の人の目に触れるという利点もありますが。
ホロコーストで犠牲となったユダヤ人の子供たちは約150万人。そのうち、アウシュヴィッツ強制収容所に連行されたユダヤ人の子供は推定21万6千人で、45年1月にソ連軍が収容所を解放した際、生存していた子供たちは、わずか451人。
奇跡的に生き延びたダニエルは、1945年5月にアメリカ軍によって解放され、兄のウリとイタリアで再会し、兄弟はその後パレスチナに入国しています。
映画の最後に、ダニエルは、「イスラエルでラヘルと出会い、幸せな家庭を築いた。“素晴らしき甘い人生”だ」と語ります。皮肉にも聞こえますが、生き抜いたお蔭で手に入れた人生には違いありません。
ダニエルの発言の中で気になったことがありました。
リトアニアがソ連に占領されたとき、ソ連の人たちも軍人も優しかったけれど、その後、ドイツに占領された時、町にドイツ人が来る前にリトアニア人がユダヤ人を殺したのだそうです。また、ホロコーストから解放された後に行ったオーストリアでも、オーストリア人はユダヤ人に冷たかったけれど、イタリアでは優しく迎えてくれたという発言がありました。
前作『ユダヤ人の私』の折に、「オーストリアの反ユダヤ主義はドイツ人が持ち込んだものではなく、オーストリアで何世紀にもわたって培われ、カトリック教会がそれを後押しした」と知りました。リトアニアの反ユダヤ主義はどこから生まれたものなのでしょう・・・

ヨーロッパ各地で嫌われ、ホロコーストを生き抜いた人たちが戦後作った国イスラエル。
暮らしていたパレスチナ人を追い出す形で国を作り、さらにまた、ガザ地区に閉じ込めたパレスチナ人を、ハマスがテロリストだからという理由をつけて攻撃する暴挙。
ホロコーストの加害者は別にいるのに、これでは弱い者いじめ。
お互いを認め合って共存できる世界は、どうして実現しないのでしょう・・・(咲)


ユダヤ人の大虐殺を描いた映画はこれまでも数多くあった。それでも、この大虐殺を生き抜いた人たちが生きている間にいろいろな証言を記録しておいてほしい。そして、その体験したことが二度とおこらないように公開していってほしい。ま、過去の過ちを繰り返さないということを学ばない人が多いから、今も戦争が続いているのだろうから、効果のほどはなんともいえないが…。
非人道的な人体実験を繰り返したメンゲレは死の決定権をもっていた。そんな中、ダニエル・ハノッホさんはメンゲレに気にいられ奇跡的に生き延びた。ダニエルさんが語ったリトアニアでの当時の話は貴重である。
彼が語ったことで印象に残っているのは下記の証言。
・「リトアニア人がユダヤ人を殺し、ドイツ人は見ていた」
ナチスがユダヤ人の大虐殺を行ったと言われているが、各国で、その国の人たちがユダヤ人に対しておこなってきたことはあまり問われていない。
・「人間を死に追いやるラインを見ていた」
生き延びた人たちは、こういう立場だった人が多いので、負い目をもっていることが多いのでしょう。
・「番号が私の名前。アイデンティティを無くした」
「番号が私の名前」というのはこれまでも何人もの証言者たちから出ているが、この言葉を聞いていたから、今、日本で進んでいるマイナンバー制度に対して番号で管理される社会への疑問がある。だからマイナンバーカードは作っていない。
・「解放されて食料も探したが、文房具(鉛筆と紙)を探した。」
鉛筆と紙を求めたのは、自分の体験を忘れないうちに記録するためだったのでしょう。ダニエルさん、あちこち連れまわされたのに、その地名などをちゃんと覚えていて証言していたのは、記憶が確かなうちに記録しておいたからかもしれないと思いました(暁)。


2021年/オーストリア/96分/モノクロ
日本語字幕:吉川美奈子
配給:サニーフィルム
後援:オーストリア大使館、オーストリア文化フォーラム東京、イスラエル大使館
公式サイト:https://www.sunny-film.com/shogen-series
★2023年12月3日(日)東京都写真美術館ホール
12月6日(水)大阪・第七芸術劇場、12月9日(土)沖縄・桜坂劇場にて公開



東京都写真美術館ホール
『メンゲレと私』
上映期間:2023年12月3日(日)~12月15日(金)
休映日:2023年12月4日(月)、11日(月)、13日(水)

『ゲッベルスと私』 ※12月9日(土)、10(日)のみ上映 12;30~

『ユダヤ人の私』 ※12月9日(土)、10(日)のみ上映 14:50

・参考資料 シネマジャーナルHP 特別記事
『北のともしび ノイエンガンメ強制収容所とブレンフーザー・ダムの子どもたち』
東志津監督インタビュー
posted by sakiko at 14:19| Comment(0) | オーストリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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