2023年11月04日

さよなら ほやマン

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監督・脚本:庄司輝秋
撮影:辻智彦
音楽:大友良英
出演:アフロ(阿部アキラ)、呉城久美(高橋美晴)、黒崎煌代(阿部シゲル)松金よね子(春子)、津田寛治(タツオ)

アキラとシゲルは島でほぞぼそとほや漁をしながら兄弟二人で暮らしている。両親は大震災の津波にさらわれて帰ってこなかった。叔父や近所に住む人たちのおかげでなんとか暮らしているが、借金も膨らみ、いまや大ピンチだ。行方不明のままの人たちを思うと、アキラは海から獲ったものを今も食べることができない。
島へ見も知らない訳アリ女性がやってきた。兄弟も読んでいる漫画家の高橋美晴だった。「この家売って」と現金を見せて兄弟にもちかける。両親の家を売ることはできないとアキラはつっぱねるが、なんだかんだと理由をつけて美晴は二人の家に住むことになった。

庄司輝秋監督の前作『んで、全部、海さ流した。』(2013)は、韓英恵さんを主演に震災後の石巻を描いた作品で、拝見していました。残された元ヤン少女と小学生の男の子のちょっと切ない交流を描いた短編です。今度の作品は長編で、同じく監督のふるさと石巻で全編撮影、3週間の合宿生活で作り上げました。
主演のアフロさんは人気バンドのボーカルとか、映画初出演ですが監督に「歌と同じに自分をぶつけて」と言われたそうです。バンドやインタビュー動画をいくつか見ましたが、アキラにもアフロさんの人柄そのままが出ているような感じでした。
黒崎煌代(こうだい)さんは昨年芸能事務所のオーディションに合格、これが映画初出演、さらにこの秋からのNHKの朝ドラ「ブギウギ」でヒロイン鈴子の弟六郎役を射止め、毎朝日本中で観られています。どちらもマイペースで気のいい弟役です。
この二人の暮らしに乱入してくる青い髪の漫画家を、呉城久美さん。京大法学部卒なのに法曹界には進まず、劇団に入って親を泣かせたという方。どこまでも強気な美晴は兄弟の後押し役、二人の再生に大きな力を与えます。さらにベテランの松金よね子さん津田寛治さんが、このあったかい物語を支えました。
石巻の人はあんな風にほやを食べるんでしょうか?私はもっと北の島で育ったけれど、薄切りにしていました。(白)


石巻の海と養殖場。ほやという海産物を伏線に、二人の兄弟の進む道と、後押しする形になった漫画家美晴、そして二人を見守る叔父や近所のおばちゃんなどを通して、東日本大地震からの復興の形を描いた。ほやを養殖するアキラと海に行けない弟のシゲル。東日本大震災の時、海に出たまま行方不明の両親のことを思って海産物を食べることができない二人の家はカップラーメンでいっぱい。でも美晴がほやを食べるのを見て、兄弟もほやを食べ始める。そして、借金まみれの生活から脱するべく奮闘するアキラ。あるきかっけで、少しは解決に近づいたと思ったが、一難去ってまた一難。なかなかスムーズにはいかない。

実は「ほや」というタイトルに惹かれてこの作品を観た。「ほや」は突起のある風船のような変な形をした海産物だけど、魚屋でみかけてもずっと食べる気はしなかった。でも7,8年前に初めて食べ、あの癖のある独特な味にひかれハマってしまい、以後、スーパーの魚売り場に行くといつも探している。そしてみつけると、可能な限りゲットしている。
この作品でほやという生き物のことを知るることができた。ほやって貝ではなく軟体動物とは思っていたけど、どんな生態なのかは知らなかった。卵で生まれ、ちいさい頃は魚のような恰好で海の中を泳ぎまわっていると知った時にはびっくり。そして住処をみつけると落ち着き、背骨と脳みそがなくなって、突起のある不思議な形になっていくのだという。それにしても脳みそがなくなるってどういうことなんだろうとは思う。でも監督はその生態を知った時、“俺はいま、ほやになりかけているのかもしれない”と思ったのだそう。「『んで、全部、海さ流した。』(13)を撮った後、なかなか次の脚本が書けず、パッとしない自分に諦めを感じていたんですね。ほやの生態と諦めた人間の生き方がギュッと結びついたとき、これなら書けるかもしれない」と思い、この作品になったという。
本作が長編デビューの庄司輝秋監督。「ふるさとを育み、そして奪った美しい宮城の海に、この映画を思いっきりぶつけたい」と故郷・石巻への熱い想いで宮城県石巻市網地島オールロケ撮影。
ほやが牡蠣のように需要が増えると、復興にも勢いがつくのだろうけど、厳しいかな。以前に比べて、東京のスーパーなどでも見かけるようになったけど、牡蠣のような普及は難しそう。やはり味に癖があって、好き嫌いが分かれるかも(暁)。


2023年/日本/カラー/シネスコ/106分
配給:ロングライド、シグロ
(C)2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE
https://longride.jp/sayonarahoyaman/index.html
★2023年11月3日(金)ロードショー
posted by shiraishi at 00:42| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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