2023年10月08日

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監督・脚本:石井裕也
原作:辺見庸「月」角川文庫
企画・プロデューサー:河村光庸
撮影:鎌苅洋一
音楽:岩代太郎
出演:宮沢りえ(堂島洋子)、磯村勇斗(さとくん)、オダギリジョー(昌平)、二階堂ふみ(陽子)

堂島洋子は有名だったこともあるが、今は書けなくなって久しい作家。それでも夫の昌平が「師匠」と呼ぶのは変わらない。
洋子は生活費のため、森の奥にある重度障がい者施設で働くことになった。何くれとなく世話をやいてくれる同僚の陽子は作家志望、さとくんは絵の好きな青年で、紙芝居を作っては患者たちに見せている。
施設には「きーちゃん」と呼ばれる女性患者は、どんな刺激にもなんの反応もない。暗い部屋で一人ただ寝かされていた。生年月日が自分と同じことに気づいた洋子は、彼女が気になって親身に世話をする。施設では仕事に慣れ、飽いてしまった職員が患者へ暴力をふるったり、ひどい扱いをしたりするのを目にした。上司に相談するも対処してくれない。そんな状況をさとくんだけが真剣に怒っている。

重度障がい者施設の患者というと、あの衝撃だった2016年の事件を思い出します。原作者の辺見庸氏は事件後「書かねばならなかった」小説として完成させました。映画となった本作は施設内部だけでなく、施設に関わっていく洋子を外に配して、観客により近しいものにしています。登場人物の抱えてきたものが次第に明らかになるにつれ、観客は誰かに共感していきます。
洋子がさとくんに詰問される場面は、私たちが問われているようで絶句してしまいました。森の奥にある施設は孤立し、外の人間は関わらずに暮らしています。そこにあってもないと同じ。「見ぬこと(もの)清し」でいいの? ナチスの浄化思想をひどい、おかしいということはできても、じゃあ自分に優性思想がないとはいいきれません。みんなどこか不足したり、過ぎていたりして、それが当たり前なのに。
石井監督の脚本や演出によくこたえた俳優陣に拍手。昨年の撮影直前に亡くなられた河村光庸プロデューサーは、どんな感想を持たれたでしょう。(白)


2023年/日本/カラー/シネスコ/144分
配給:スターサンズ
(C)2023「月」製作委員会
https://www.tsuki-cinema.com/
★2023年10月13日(金)ロードショーたれ
posted by shiraishi at 14:32| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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