2023年08月20日

君は行く先を知らない  原題:Jadde Khaki  英題:HIT THE ROAD 

jaddeh khaki.jpg
(C)JP Film Production, 2021

監督・脚本:パナー・パナヒ   
製作:パナー・パナヒ、ジャファル・パナヒ
出演:モハマド・ハッサン・マージュニ、パンテア・パナヒハ、ヤラン・サルラク、アミン・シミアル

イランの巨匠ジャファル・パナヒの息子パナーの長編デビュー作。
(2021年 東京フィルメックスで『砂利道』のタイトルで上映)

車で旅に出る4人家族と1匹の犬。後部座席で、大はしゃぎする幼い弟。その隣で父親は足を怪我してギブスをして、渋い顔をしている。押し黙って車を運転する兄。助手席で母親は場を明るくしようと、革命前の歌謡曲にあわせて身体を揺らしている。
ウルミエ湖が見えてくる。「昔は泳げたのに、今は砂浴びしかできない」と父。
携帯を持ってくるなと言い聞かせていたのに、弟が隠し持っていたのを母親が岩陰に隠す。
自転車レースの一団が来る。自転車選手に声をかけたら転んでしまって、車に乗せる。
どこか張り詰めたような車の中の雰囲気が少し和らぐ。
自転車選手を下ろし、いよいよ目的地に近づく・・・

「家も車もあの子を送り出すために失った」という言葉などから、両親が長男を密出国させようとしていることがわかります。約束の場所にいくと、羊を選ぶように言われます。白は目立つからダメというので、それを被って山越えするのでしょう。必要なのは羊の皮だけなのに、羊一頭分の値段というのが世知辛いです。ウルミエ湖のそばを通ったので、山越えしてイラクに行くのか、トルコに行くのか・・・
途中で乗せた自転車選手に、母親が胡瓜をどうぞと差し出します。(イランでは胡瓜は果物屋にも売っていてオヤツ感覚)  その彼が複雑な話になった時に、「ペルシア語で説明するのは難しい。トルコ語じゃないと」と語っています。ウルミエ湖のあたりは、トルコ系のアゼリーや、クルドの人たちの多いところ。
葡萄が名産で、紀元前の昔からワインが作られていたところですが、イスラーム政権になってからワイン醸造は禁止されました。加えて、ダム開発などでウルミエ湖が干上がってきていて、農業にも支障をきたしています。

さて、両親は幼い弟に、兄がいなくなることをどう話すか案じていて、「花嫁と駆け落ちしたって言おう」と話しています。
なぜ兄が密出国するのかの理由は、映画を観る私たちにも実は明かされていません。フィルメックスでの上映後にリモートで行われた監督とのQ&Aで、そのワケも明かされました。

東京フィルメックス 『砂利道』(イラン) パナー・パナヒ監督Q&A(咲)

もう別れが近くなった時、父親が国を出る息子に言い聞かせます。「ゴキブリを殺してもトイレに流すのはやめろ。ゴキブリだって、両親が希望を託して外の世界に送りだしたのだから」 こんな風に、自分の思いを語るなんて!

それにしても、幼い弟がうるさいくらいにはしゃぎ過ぎ。こういうキャラクターの子を探してると言ったら、テレビドラマに出ているあの子がいいと教えてくれたのがラヤン・サルアクだそうです。6歳半で、本読みはできないので、母親がセリフを読んで、それを全部覚えて現場に来たとのこと。映画の最後、この幼い弟が歌う場面に、あっと驚かされます。
随所に流れるピアノ曲(バッハ)が切ないです。 全体に音楽が素敵だと思ったら、やはりペイマーン・ヤズダニアンが音楽を担当していました。(咲)


☆トークイベント
8月26日(土)14:50の回上映後

新宿武蔵野館
登壇者
杉森 健一さん(イランの良さを伝える人/PERSIAN TAG 代表)
村山 木乃実さん(宗教学、ペルシア文学研究者)


2021年/イラン/ペルシャ語/1.85:1/5.1ch/カラー/93分   
日本語字幕:大西公子、字幕監修:ショーレ・ゴルパリアン
後援:イラン・イスラム共和国大使館イラン文化センター
提供・配給:フラッグ
宣伝:FINOR
公式サイト:https://www.flag-pictures.co.jp/hittheroad-movie/
★2023年8月25日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開




posted by sakiko at 18:55| Comment(0) | イラン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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